市役所の税務課の仕事は、主に税金の計算と徴収
おもに「課税」と「徴収」に分かれる
市役所の税務の仕事は、「税務課」で行う場合と、政令指定都市など規模の大きな自治体などで、税金に特化した「市税事務所」という施設で業務を行う場合とがあります。
そして、自治体によって若干の違いはありますが、税金を計算する「課税」の部署と、その税金を納めてもらったり未納者に督促する「徴収」の部署に分かれます。
市役所の税務課が扱う税金は「地方税」です
市役所の税務課ではどんな種類の税金を扱うのでしょうか?
まず税金についておさらいをしますが、日本の税金は「国税」と「地方税」に分類されます。
ご存じの方もいるかもしれませんが、例えば、会社勤めなどで得た給与にかけられる税金は「所得税」といって「国税」になります。
これに対し、住民として市町村に所得金額に応じた税金を納めるものを「住民税(市民税)」といい、こちらは「地方税」に分類されます。そしてこれが市役所で扱う税金のメインになります。
同じ理屈で、住んでいる都道府県に納める「住民税(県民税)」もあり、こちらは都道府県の収入になるのですが、この課税業務についても市町村が代わりに行っています。(業務の委託料が都道府県から市町村に支払われています)
その他、地方税として市に納めるものとしては、土地・住宅などの資産にかけられる「固定資産税」、軽自動車の所有者が納める「軽自動車税」(普通自動車の場合は市ではなく県に納めることになっています)、また銭湯に行ったりたばこを買ったときに支払う「入湯税」「市町村たばこ税」などがあります。
入湯税とたばこ税は、消費税のように料金に上乗せされた分を現地で支払い、それを店主(販売事業者)がまとめて市に納めます。(特別徴収という納め方です)
たばこをどの市で買うかが市の税収にもつながるため、以前は「たばこを買うなら〇〇市で!」などとアピールする市町村もありました。
ちなみに、国税には所得税の他に「法人税」「相続税」「贈与税」「消費税」「酒税」などがあります。
国税は、国の「国税庁」の管轄ですが、実際の業務は各地の「税務署」で行われています。毎年2月~3月になると「確定申告はお早めに!」というポスターを目にしたことのある方もいると思います。
会社(法人)にも住民税を払う義務があります
税務課は法人単位の住民税も集める
市役所の税務課では、個々の市民に住民税を納めてもらいますが、会社などが「法人」として納めなければならない「法人住民税」というものもあります。その事務作業をするのも税務課の仕事なのです。
会社はいろいろな税を納めなければならない
そもそも会社(法人)が納めなければならない税にはどんなものがあるのでしょうか?
まず国税である「法人税」があげられます。
次に地方税で、「事業税」、そして会社の所在地の都道府県と市町村にそれぞれ納める「法人住民税」があり、これらは全て会社の儲け(利益)に応じた税額を支払うこととなっています。
また、会社の持つ資産にも固定資産税や自動車税がかけられます。
この会社単位の地方税は個人のものとは少し違うので、法人専門の課税処理を行う事務所を持つ政令指定都市もあります。
それではまず、税務課で勤務する職員の、ある日の仕事内容を見てみましょう。
今回は法人ではなく、市民個人にかかる住民税の業務について解説します。
市役所の税務課職員のある一日をみてみましょう。
市役所の税務課の職員の1日をご紹介します。
▼朝9時~ : 登庁、コンピューターの入力画面に、個人の課税データを入力していく
住民税は、前年の1月~12月までの合計所得金額に対してかけられる税金です。それを翌年の6月から支払います。
ですから仕事の流れとしては、まず前年1月~12月までの所得に関するデータを、翌年1月を迎えると同時に一斉に入力することになり、この1月~6月が繁忙期になります。
個人の所得から課税額を計算して(ほとんどの自治体ではコンピューター画面に入力すれば計算してくれます)、金額が決定すれば、本人あての納税通知書を6月上旬に送ります。
この時期は、限られた期間内にいくつもの事務を同時進行で行うので、なかなか大変です。
一人で複数の所得がある人もいるのですが、それを内緒にしているケースもあるので、個人の所得についてはあらゆる調査を行いコンピューターに入力していきます。
▼10時~:特別徴収の人のリストを入力
1月になると住民税の「特別徴収」の人の「給与支払い報告書」というリストが各会社から一斉に送られてきます。
住民税の集め方には、納税通知書を送り本人に納めてもらう「普通徴収」と、会社が給与から社員の住民税を引いておき、それを本人に代わって市に納める「特別徴収」という方法があります。
特別徴収は、簡単に言うと個人と役所が直接やりとりをせず会社に代理で行ってもらう徴収方法です。
会社から税務課に送られてくる「給与支払い報告書」は、「○○さんに会社が去年支払った給与は△△円です」という内容のデータリストです。
その膨大なリスト内容を税務課は一つ一つ入力していき、それをもとに課税額が確定すると、今度は会社あてに「給与所得にかかる特別徴収税額通知書」という個人あての通知書を送ります。
そこには支払うべき住民税の額が個別に書かれており、会社はこの金額を12等分して本人の6月給与から毎月差し引くしくみになっていて、住民税の徴収業務を会社が代行するという流れになっています。
この、特別徴収対象者の課税作業も繁忙期の大きな業務です。
▼12時~ : 昼休みに入ります。
▼13時~ : 税務署から情報をもらう
先ほど会社勤めの人などは特別徴収で、会社が本人の代わりに住民税を集めて税務課に納めてくれると解説しましたが、税務課が把握できない種類の収入があります。
それは「報酬」といい、たとえばAさんがどこかの講演会に呼ばれて、2時間の講演を行ったとします。
講演を開催した主催者は当然Aさんにお金を払いますが、これを「報酬」といい、主催者はAさんに支払う報酬から先に所得税を引いておき、それをAさんの代わりに税務署に支払います。
そして報酬の場合、主催者は「Aさんに報酬を支払いました」というリストを市の税務課には送ることがなく、所得税を扱う税務署にだけ送ります。
ですので、市の税務課は、Aさんが会社勤め以外にどこかで報酬をもらう仕事をしていても把握できません。そこで税務署に「うちの市の住民で報酬を受け取っている人はいませんか?」という確認作業をするのです。
金額が確認できればAさんの所得としてそれも入力していきます。
▼15時~:住民税申告書の発送の準備
繁忙期真っただ中の2月頃、市民に「住民税申告書」という申告用紙を一斉に送ります。
この用紙で市民に税金の申告をしてもらい、医療費や生命保険で一定以上の額を支払った人は住民税のかかる所得額から控除してもらえたり、また家族を養っている人も「扶養控除」という控除を受けることができます。この申告用紙にそれも記入してもらう流れになっています。
税務課は市民から提出された申告書や会社からの給与支払い報告書などのデータをすべて入力し、個人の課税データを完成させていきます。
この申告用紙が役所から送られてくるとすぐ市民から、用紙の記入方法などについての電話問い合わせが殺到します。
また、申告用紙が届いただけで、納税に対する苦情の電話をかけてくる人もいます。
▼16時~ : 市民からの問い合わせに対応
午後になるとさらに市民から問い合わせの電話や来客が殺到します。
そして市民が納税通知書を受け取る6月以降になると、金額が高くて払えないなどの苦情も多くなり、対応に追われます。苦情に対しては住民税の趣旨を丁寧に説明し、納得してもらえるように努めます。
このように年間を通してかなりの電話対応に追われ、しかも一件あたりの時間が長くなるため、黙々と入力作業を続けられることはまずなく、作業の手を何度も止められることになります。ちょっと忍耐力が必要かもしれません。
▼17時~17時30分:業務終了、帰宅
通常はこの時間帯で業務終了ですが、電話対応に時間を取られて昼間にできなかった作業をする必要があるため、繁忙期である1~6月は残業になることも少なくありません。
所得の額をごまかそうとしてもバレるのはなぜ?
市が怪しいと思った情報を税務署に流しているから
国税である所得税にも、地方税である住民税にも、医療費や生命保険料など一定額以上支払っていた場合などいろいろ出費がかさんだ人に対しては、税金が一部安くなるしくみになっています。
そして家族を養っている人も「扶養控除」を受けることができ、同じく税金が一部安くなります。
たとえばAさんが大学生の息子を養っているとします。そこで、「息子を扶養しています」と申告しますが、現在、扶養扱いにできるのは息子の所得が年間38万円までと決まっています。
その息子が居酒屋でアルバイトをしていて年間30万円の所得があったとします。ここまでならOKなのですが、実は息子はかけもちでコンビニでもバイトをしており、そちらで年間20万円の所得があり、合算すると50万円の所得になります。
これではAさんは息子を扶養に入れることはできません。ところが、バレないと思っているのか、Aさんは市の税務課にも、そして税務署にも「息子を扶養しています」と申告してきました。
しかし、市の税務課にはすぐにバレます。
それは先述したように、市には居酒屋からもコンビニからも息子の給与支払い報告書が送られてきているからです。
市の税務課はその両社(バイト先)のデータを合わせて同一人物か確認し、「この息子は所得金額オーバーで扶養には入れられないので、Aさんは住民税の扶養控除は受けられません」と決定し、すでにAさんが控除を受けた分についてもさかのぼって支払いを求めます。
ところが、税務署は同じように両方のバイト先から息子の給与データが送られてきていても、同一人物かどうかの確認はいちいちしません。ですので税務署に関しては、Aさんが「息子は扶養の条件を満たしている」と偽ってもバレません。
ですが市の税務課が、このように虚偽があった人をすべて税務署に報告するのです。
結果、税務署でもAさんは扶養控除を受けることはできません。すでに受けていたとしても市の税務課からの情報が来た時点で発覚することになります。
この、息子がかけもちでバイトをしていて扶養の対象ではなかったことが発覚する件は毎年数多くあります。
LINEスタンプの収入もバレる?
税務署から市への情報で収入が発覚
最近はLINEのスタンプを作るなどしてかなりの額の副業収入を得ている人もいますが、こちらに関しては市の税務課と所得税の税務署ではどのような扱いをしているのでしょうか?
実はこのような収入は、先ほど業務の流れで解説したように「報酬」という扱いになり、報酬については会社側は税務署には報告しますが、市の税務課には報告しません。
ですので市の税務課単体では、個人がLINEスタンプ作成で得た収入を知ることはできません。
そこで、税務署に対して先述した報酬の手順と同じく、「市民の中で報酬を得ている人はいませんか?」と税務署に確認し情報提供してもらうのです。
ですから税務署との連携で、LINEスタンプの収入も発覚し、発覚した時点で住民税は過去の分も上乗せされて支払うことになります。
国と地方は協力し合うことになっている
このように税務署(国税)と市税務課(地方税)は互いに協力し合って情報提供することとなっており、その根拠となっているものが、昭和29年に自治庁(現在の総務省)から出された「国と地方団体との税務行政運営上の協力について」という通達です。
この通達には、自分のところで把握できない情報は相手方に提供してもらいなさい、ということが書かれており、現在も引き続きこれをもとに互いに協力することとなっています。
ですから税務課の職員になったら、税務署と協力して情報提供し合うことも仕事になります。
怪しい申告内容などについては一年を通して調査していきます。
税務課が担う色々な業務について
市役所の税務課ではそのほかにどのような業務があるのでしょうか。簡単に解説していきます。
固定資産の調査・課税業務
固定資産とは、土地や建物等の資産のことで、これにも税金がかけられます。
これを固定資産税というのですが、市町村の財源のなかでこの固定資産税はかなり主要なものになっています。
例として大阪市の平成29年度の市税(見込み)を参考にすると、市税の総収入見込み額6,518億円のうち、住民税の割合が39.7%で2,588億円、固定資産税が42.6%で2,779億円となっていて、かなりの割合を占めていることがわかります。(それ以外はたばこ税や軽自動車税などです)
固定資産税の納税通知書は、毎年4月に本人に送ることになっています。
この税額を決定するのに、個人の土地や建物の調査に行きその価値を評価します。
評価の仕方ですが、総務大臣が定める「固定資産評価基準」という全国一律の基準があり、それに基づいて行います。
特に建物(納税者の自宅)の調査をする時は、家の中に入って行うので服装や言葉遣いに注意し、相手に不信感を抱かれないように注意しなければなりません。
軽自動車税に関する事務
軽自動車税は、軽自動車・原動機付自転車などの4月1日時点での所有者に支払い義務が生じる税金です。これに関しても4月頃本人あてに納税通知書を送る作業をします。
滞納した人への督促する仕事
税金の納付期限を過ぎてさらに20日経っても税金が納められていない場合、本人に「督促状」を送り納付するように促します。
それでも支払わない人には、税務課で本人の銀行口座を調べて預金を差し押さえたり、自宅を差し押さえることもします。
他部署からの問い合わせへの対応業務
税務課は、実はさまざまな仕事をしています。
普段、いろいろなところから問い合わせがあるのもこの部署の特徴です。
たとえば、高校の学年主任の先生から、敷地内に放置されている原付自転車があり、ナンバーから持ち主を知りたいといった問い合わせがあったりします。
原付の所有者データがあるのは税務課ですから、このような問い合わせの電話もよくかかってきます。
また市民の所得状況という大きなデータを持っているのも税務課になるので、たとえば生活保護を受ける人の所得を調べるために福祉職員が問い合わせに来たり、また緊急で建物の持ち主に連絡を取る必要がある場合に、建物の持ち主を調べるため固定資産台帳を閲覧させてほしいと依頼されたりもします。
それだけ税務課というのは「情報」を持っているということなのです。
ですが、簡単に問い合わせに応じるのではなく個人情報の扱いには細心の注意を払わなければなりません。
税務課の職員としてこれだけはおさえておこう
税務課の職員が押さえることその1:市民にわかりやすく説明することが大切
税務課に配属になったら、市民からの税に関する苦情や問い合わせにも対応しなければなりません。
市民から、「住民税って何を根拠に決められてるの?」と苦情まじりに訊ねられることもよくあります。このような根本的な質問に正しく答えることができないと、市民にも不信感を与えてしまいます。
ですから住民税が何に対してどのように課税されているのか、それはどのように決められているのかを最低限知っておくことが重要です。
税務課の職員が押さえることその2:住民税は条例で決められている
それでは実際に住民税はどのように決められているのでしょうか。
まず、「地方税法」という法律に、次のように規定されています。
地方税法
(地方税の賦課徴収に関する規定の形式)
第3条 地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。
※地方団体とは、都道府県や市町村のことを指します。
このように地方税法には「具体的な内容はそれぞれ市の条例で決めなさい」と書かれているのです。ですから具体的な内容については、自分の勤務する市の条例を確認する必要があります。
市民にも「住民税は条例で決められている」と丁寧に説明すれば、納得してもらえるのではないでしょうか。
税務署の職員が押さえることその3:個人情報の取り扱いは慎重に!電話での「なりすまし」に注意!
税務課に配属された場合、上司からも最初に説明があると思いますが、個人情報の保護について最も厳重な部署がこの税務課です。
個人の秘密情報を漏らしてはいけないという地方公務員法の適用に加えて、税務職員は地方税法の規定で情報漏えいに関する罰則がたいへん重くなっています。
もちろん、情報漏洩に気をつけろと言われれば書類やコンピューター画面の情報管理には皆が注意を払うと思いますが、気をつけなければいけないのは電話です。
たとえばこんな場合です。
納税通知書を受け取ったという女性から、税金が高いとまくしたてる電話がかかってきました。
職員は先ほどから苦情の電話を何十件も受けていて、当然「これもよくある苦情の電話だな」と思いました。ところがこの電話、実は本人ではなく、本人(A子さんとします)にストーカーをしている男に頼まれ電話をかけてきた別人の女だったのです。
本当の目的は、A子さんの勤務先がどこなのか聞き出すことです。女は、住民税が高いけど私はそんなに給料をもらっていない、2つの会社で仕事をしているが、一体どっちの会社が私の給料をそんなに高く申告しているのか!などと適当なことをまくしたてて苦情電話を装います。
職員はコンピューターでA子さん本人のデータを見ながら電話対応しているので、画面を見て、「え?2社?1社ですよね?勤務先は○○株式会社1社だけなのでは?」と返答してしまいました。
これでA子さんは、ストーカーに勤務先を突き止められ待ち伏せされることになってしまいました。
このように、思い込みでうっかり情報を漏らしてしまうと、取り返しのつかないことになってしまうのです。
たとえ100件連続で苦情の電話を受け続けていたとしても、常に注意を払い、相手の納税通知書番号を確認したり、こちらから折り返し電話をしますと言い一度切るなど、慎重にしなければなりません。
税務課に配属になったら、個人情報の扱いに関しては細心の注意を払いましょう。
まとめ – 市役所の税務課は大変だけど重要です。
今回は税務課の仕事について解説しました。
税務課で勤めていると市民から煙たがられたり、法律など覚えることが多く大変な部署ではあるのですが、あらゆる法や税務の知識、そしてどんな苦情にも対応できるスキルなど、ここでしか身に付けられないものがたくさんあります。
その経験はどこに行っても必ず役に立ちます。ぜひ税務の仕事に熱意をもって取り組んでみてください。
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