2017年1月にトランプ大統領が就任して以降、アメリカ経済は絶好調と言える状態が続いています。トランプ大統領は頻繁に自身のツイッターで好調な株価の動きや、改善される失業率を主張し、好調なアメリカ経済をアピールしています。
今回は、好調なアメリカ経済において、実際にどのような職業や業種が人気で、需要が多いのか、反対にどのような職は減退傾向にあるのか、アメリカで生活をしている記者目線でご紹介します。
キーワードはやはり「IT」のようです。
アメリカで需要上昇中の職業・IT系エンジニア
アメリカはIT業種が売上も求人需要もすべての面で絶好調です。AGFA(Apple, Google, Facebook, Amazon)と呼ばれる4強に加えて、Netflix、Uberなど、10年前まではなかったようなサービスが急激に成長しているのです。
新しいサービスは、サービスに付随して拡張できる「伸びしろ」があるため、様々な技術や専門知識を兼ね合わせて発展し続けるのです。そんな成長に必要なのが「専門知識を持った人材」です。
ITエンジニアがこれに該当しますが、具体的には現在のアメリカでは「ソフトウェアエンジニア」「アプリ開発エンジニア」「UXデザイナー」などの需要が高まっています。
アップルやグーグルが本社機能を置いているカリフォルニア州のサンフランシスコでは、これらのエンジニア達が世界中から集結しています。多くはフリーランス契約ですが、高額な報酬に加え、世界的大企業との取引実績を積めることから、人気も需要も加熱しています。
この加熱ぶりはサンフランシスコの不動産価格や物価上昇にも影響しているほどで、アパートのワンベッドルームの平均家賃が月3,500ドルほどにまで上昇していることは日本でも有名でしょう。
しかし、それでも世界中のエンジニアはサンフランシスコに集まり、仕事を請け負えるほどITエンジニアの需要は多いのです。契約内容にもよりますが、どのエンジニアも年間60,000ドルほどの報酬があり、マネージャークラスになると100,000ドルから120,000ドルの報酬が相場とされています。
日本からも多くのエンジニアがやってきていますが、その多くはアメリカや日系のソフトウェア会社やアプリ制作会社に雇用されているかたちです。完全にフリーランスとして活動するためには、就労ビザを取得する必要があるため現実的には難しいでしょう。
雇用されているうちは報酬や時間の制約がありますが、経験を積んで将来的に独立するための王道と言えるステップです。
アメリカで需要上昇中の職業・AIプログラマー
アメリカで需要率が伸びている職種のひとつがプログラマーです。ここでいうプログラマーとは「AI」に関連するプログラマーを指しています。
日本でも報道されているように、近年世界中でAI技術(Artificial Intelligence)が発達しており、近い将来、労働環境は激変するのではないかと言われています。
その証拠にイギリスのオックスフォード大学のオズボーン准教授(Michael A. Osborne)と野村総合研究所の共同研究では、10年後には日本では49%、アメリカでは47%の仕事がAI機能を持ったロボットなどに仕事を奪われる可能性が指摘されています。
さらに、オバマ前政権もアメリカの雇用環境にAIは大きな影響を与えることを指摘し、少なくとも10から20年後にはいまの10%近くの仕事は消失すると発表しました。同時にアメリカ政府は別の雇用機会を生み出すことも付け加えています。
この流れを受けてアメリカで需要が伸びている職業が「AIのエンジニア」なのです。簡単に言うならば、これからの労働環境は人を管理する人材よりも、AIを管理できる人材が望まれるということです。
日本と比較して、アメリカでは着実にこの流れが進んでおり、それが顕著に現れているのが「銀行」です。アメリカ全土に共通しているわけではありませんが、平日でも中はガラガラ状態です。窓口は複数あるものの、稼動しているのはひとつだけといった感じです。
そもそも現金を使う機会がほとんどない国であることや、オンライン環境が整備されていることも影響していると思いますが、現在ほとんどの業務はコンピューター化されていると銀行員は教えてくれました。
さらに、アメリカの大手銀行でブランチマネージャーをしている友人の話では、自分もいつクビになってもおかしくないほど、労働環境が変わってきていると教えてくれました。とくに受付業、人事部、融資部は、もはや人は必要ないとすら言われているそうです。その背景こそ「AI」なのです。
銀行のなかで失われる仕事がある一方で、代わりになるロボットやシステムを構築するプログラマーやエンジニアの需要は高まっているのです。さらに、将来的にもプログラムの更新やメンテナンスの需要も見込めるため、重要視される職業と言えるでしょう。
AIプログラマーの平均年収は2014年現在で100,000ドルで、マネジャークラスで120,000ドルが相場とされています。日本にも優秀な人材が多いため、アメリカで働く機会も増えるかもしれません。
アメリカで導入されるAI技術は、いずれ日本でも導入されるでしょうから、流れに乗る良い機会かもしれませんね。
アメリカで需要上昇中の職業・ミリタリー
アメリカでも公務員は安定して人気がある職業のひとつです。とくに「ミリタリー」と呼ばれる軍関係の仕事はいつでも募集されているほどです。皮肉なことに、アメリカは常に軍事行動をしているためミリタリー職の需要は尽きないのです。
さらに、アメリカではミリタリーへの尊敬や優遇は多く、家族がミリタリーであるというだけで周囲からは賞賛され、リタイアまで勤めた場合は、老後の生活にはいっさい困らないとされているほどです。祝日が少ないアメリカですら「退役軍人に感謝する休日」が存在するほど、ミリタリーは特別な存在です。
しかし、一言でミリタリーといってもポジションも給料も千差万別です。陸海空それぞれで役職は異なり、危険任務や特殊能力などによっても異なります。おおまかな階級として、士官と呼ばれる「O(Officer)」、准士官の「W(Warrant)」、下士官や兵を表す「E(Enlisted)」を基準し、それぞれの階級は数字で表されます。
例えば、階級がE3の場合は「上等兵」、W5は「准尉5級(チーフオフィサー)」、O6は「大佐」のように区分けされており、権限だけでなく給料も変わります。2014年に公表された資料によると、E3は月給1,805から2,035ドル、W5は月給7,118から9,315ドル、O6は6,125から10,844ドル程度です。
この給与に加えて「Basic Allowance for Housing」と呼ばれる水道光熱費を含めた住宅手当が毎月1,000ドルほど支給され、物価が高いエリアでは毎月150ドルほどの「Cost of Living Allowance」もあります。他にも配偶者も含めて医療費や歯の治療などの優遇も受けられます。
アメリカでここまでの福利厚生が受けられる職業はミリタリーだけということもあり人気があるのも頷けます。しかし、当然ながら昇進するにはテストにパスすることや、成績優秀でなければならないこともあり、体力だけでなく知力も問われるため、入隊以降も苦労は続くのが現実です。
アメリカは日本と違って、国民健康保険がないため医療費や歯の治療は自己負担です。個人で医療保険に加入する必要がありますが、割高なためミリタリーの福利厚生は大きな魅力と言えるでしょう。
需要も人気もある職種ですが、その背景には医療費なども影響しているのがアメリカらしさと言えるでしょう。
アメリカで需要減少中の職業・新聞記者
需要が多い職業がある反面で需要が減少している職業もあります。アメリカではとくに顕著に現れているのが「新聞記者」とされています。アメリカでは紙媒体の新聞は淘汰されつつあり、日本よりも遥かに電子化が進んでいます。
アメリカの二大新聞とされているニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルは、いずれも電子版の会員数が過去最高の伸び率で、電子版の広告収入も大幅に増加しています。
インターネットが発達した現代において、むかしのような「特ダネ」や「足で稼ぐ記事」というような概念がなくなりつつあり、もはや新聞記者は誰でも出来る時代とされています。
このような背景を受けて、アメリカでは新聞記者という職業は明確に需要が減りつつあるのです。
アメリカで需要減少中の職業・タクシー運転手
アメリカならではの事象で、タクシーの運転手も淘汰されています。その大きな理由こそ「Uber」や「Lyft」などの自動車配車サービスです。これまでのタクシーを利用する場面すべてがUberに切り替わったと言っても過言ではないほど、業界を覆しました。
加えて、タクシードライバーを目指す多くの人は、安い給料でも構わないから働きたいという人たちで競争が激しく、労働賃金は年収20,000ドルほどです。ITの新しいサービスが既存のサービスを一気に飲み込んだ典型的な例と言えるでしょう。
まとめ
アメリカの経済は昇り調子ですが、需要が上昇している職種に共通しているのは「IT」ということです。IT関連の職種は今は好調ですが、需要と供給があとどれくらい維持するかが重要なポイントです。
さらに、好調な経済ではあるものの、安定を望むミリタリーなどの公務員も人気で、アメリカ経済の不安定さや、医療費問題などへの備えを意識している国民も多いことは、アメリカはまだ油断ならぬ状況であることを物語っています。
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