2018年6月に岡山県の西粟倉村という地方自治体が地域創生ICOを実施することを決定しました。特に昨年度から仮想通貨の流行に伴って、ICOというキーワードがメディアでも取り上げられるようになってきました。
しかし、「そもそもICOとは何なのか?」、「地方創生とどのような関係があるのか?」と疑問に思っている人も多いと考えられます。
本記事では西粟倉村の事例をもとに地域創生ICOとは何なのかについて説明します。
そもそもICOとは何なのか
まずはICOとは何かについて説明します。ICOとはInitial Coin Offeringの頭文字をとった言葉で、仮想通貨を新たに発行することを指します。
仮想通貨は誰でも発行できる?
ビットコインやイーサリアムなど代表的なものからマイナーな通貨まで含めると1000種類以上の仮想通貨が世界中には存在していると言われています。
仮想通貨は「通貨」とは呼ばれていますが、国が発行しているわけではありません。また仮想通貨の交換業者になるためには金融庁の認可を受ける必要がありますが、仮想通貨の発行については規制がありません。個人でも企業でも自由にオリジナルの仮想通貨を発行することができます。
オリジナルの仮想通貨を発行するメリット
では、オリジナルの仮想通貨を発行するメリットはあるのでしょうか。一般的に通貨を発行すると通貨発行益が発生すると言われています。仮想通貨も同様で通貨を発行すると通貨発行益が発生します。
仮想通貨はマイニングという仮想通貨を発行する手続きによって増えます。例えば、マイニングに10円かかった仮想通貨が日本に円に換算して1000円で交換されている仮想通貨なら1000-10=990円の利益が発生します。
仮想通貨の価格は発行されている量とその通貨の人気によって決定されます。イメージとしては上場企業の株式に近いでしょう。企業が株式を公開すると、株式市場を通じて色々な人が株を売り買いするので、人気の株は高く売買されます。
仮想通貨を上場企業の株式のように使って資金調達できるのがICOのメリットです。
今までの資金調達とどう違うのか?
では、今までの資金調達とどう違うのでしょうか。基本的に会社も地方自治体も日本円ベースで資金調達を行います。債券を発行したり、銀行から融資を受ける場合も日本円で借りて、日本円で返済します。
一方で仮想通貨の場合はオリジナル通貨の代わりに日本円(ドルやユーロ、他の仮想通貨でもよいですが)と交換します。そして一度交換した通貨を日本円に交換しなおす義務はありません。仮にその仮想通貨の相場が下がったとしても責任をとる必要はありません。
よって、債券を発行したり、銀行から融資を受けると返済のための日本円が調達できなくなって破綻してしまうかもしれませんが、仮想通貨で資金調達している限り、発行しすぎて破綻することはないのです。
なぜ地方がICOに注目を集めているのか
では、なぜ地方がICOに注目を集めているのでしょうか。地方創生とICOの関係について説明します。
地方には財源が無い
地方には財源がありません。ほとんどの地方自治体は、地方自治体の税収だけでは地方自治体を運営できず、国からの地方交付税交付金を財源の足しにして運営されています。
しかし、この状況はいつまでも続くとは限りません。地方創生という名のもとに地方自治体が独立採算で運営できるような体制になる必要があるというのが国の近年のスタンスです。
よって、地方創生のための補助金や助成金が投入されていますが、国の紐付きの財源では使える用途は限られていますし、金額も限られています。
よって、地方創生といえば、コストが低くて、単年度で施策を行うことができて、経済波及効果が高い観光産業を行うということになりますが、本質的に地方創生にとって必要なのは、住民を増やして、その土地の産業を復興させることです。
そのためには、国の紐づけの財源ではなく、自主財源が必要となります。
なぜICOに注目するのか
よって、地方自治体は地方創生のために自主財源が必要ですが、地方債を発行するのにはリスクが高すぎます。ただでさえ、地方交付税交付金などによって自治体運営に足りない財源を補っているのに、更に地方創生のために地方債を発行することは、かえって自治体の財政状況を悪化させかねません。
ここで注目されるのがICOです。先ほど説明した通り、ICOによって仮想通貨を発行して資金調達しても、返済の必要がありませんし、発行元の地方自治体の状態が良くなったり、注目されて仮想通貨の価値が高まれば、通貨の保有者も得します。
しかも、仮想通貨を使って地域内で買い物をすれば優遇を受けられるようにしたり、通貨の保有者向けに地域で優待イベントを開催したりすれば、地域の経済活性化にもつながります。
以上のように、ICOと地方創生は相性が良いので注目を集めています。
岡山県の西粟倉村が日本初の地域創生ICOを発表
よって、地方自治体も地域創生ICOに注目していますが、実際に具体的にICOに向けて動いている自治体はほとんどありません。日本で唯一と言っても良いのが岡山県の西粟倉村です。
では、西粟倉村が近年どのようなことをしていたのかについて説明します。
人口減少に悩む人口わずか1500人の村がなぜICOを行うのか
岡山県西粟倉村は岡山県の最北東端、兵庫県、鳥取県との県境にある山間の村です。村の面積の約95%が山林で主要産業は林業です。人口は約1500人、世帯数は約600と日本の自治体の中でも小さな部類に入ります。
もちろんこの位の規模になれば自治体を独立採算で運営をするのが困難となります。よって地方創生のために、起業・移住者を積極的に誘致して、山林の恵みを活かした約20の起業が村で相次いで設立されました。株式会社 西粟倉・森の学校。という会社を設立して村ぐるみで地方創生のプロジェクトに取り組んでいます。その結果、2013年に内閣府の環境モデル都市、2014年に農林水産省からバイオマス産業都市の認定を受けて自然と調和した地域創生に挑戦している村として注目を集めています。
このように地方創生に意欲的な西粟倉村が現在挑戦しているのが地方自治体のICOです。西粟倉村がICOすることによって、投資家から資金を集めて、その資金を村内事業に投資して地方創生を行おうというのが、計画の主旨です。
地方自治体がICOできるのか
ここで問題になるのが「地方自治体はICOできるのか」ということです。
金融主賓規制法などの法規制をクリアできるか、そもそもどのように仮想通貨を発行すれば良いのかなど想定される障害は様々です。そこで、ICOの実施を発表したのは2018年6月ですが、2017年11月より民間企業と共同研究を行っていました。
西粟倉村だけではなく地方創生ICOをサポートするプラットフォームを研究開発している福岡県のchaintope、仮想通貨を活用した国際間取引ツールを研究開発している村式、村内で自治体と共同で地域活性化プロジェクトを行っている、エーゼロの四団体が地方自治体のICOを具体的にどのように行うのか検討していました。
今後2020年までに西粟倉村のICOを実現する計画となっています。
世界の自治体のICOに関する動向
2018年7月現在、ICOを実現した地方自治体はありませんが、実現に向けて世界の色々な自治体が準備を進めています。
例えばアメリカのカリフォルニア州のバークレーでは住宅不足を解消するための廉価住宅の供給プロジェクトに必要な資金をICOによって調達しようと現在準備を進めています。
また韓国のソウルではオリジナルの「S-coin」を発行することを検討しています。
更に国自体がIPOを検討している事例もあります。電子国家で有名なエストニアでは2017年8月にestcoinという仮想通貨の発行する計画を発表しています。
国や地方自治体の事業は一般的に民間企業よりも進行が遅いので実際にオリジナルの仮想通貨が発行されるのはまだ先だと考えられますが、今後ICOした自治体の中で成功事例が現れれば続々とICOに参入する自治体が増えていくでしょう。
自治体にも競争を
良くも悪くも自治体は競争原理が働きにくいと言われています。例えば、町の定食屋なら隣に定食屋ができれば、負けないように値段や料理の品質、積極サービスを磨いてより良いサービスを開発しようとします。しかし、地方自治体は同じ地域内で同じような行政サービスをする競合というのは誕生しえません。
民間が参入しにくいサービスを不採算も覚悟して行うというのが、行政の良いところですが、一方で競争原理がまったく働いていないということにも問題があります。
一時期、地方自治体がふるさと納税をどれだけ集めるか、返済品の豪華さと寄付金額を競っていましたがかえって地方自治体は疲弊してしまいました。全国のトータルの税額が限られているのに、返礼品の過当競争によって限られたパイを奪い合い、かえって苦しむ地方自治体が発生してしまったのです。
ICOは新たな地方自治体の競争軸になりうるものです。ICOで重要なのは地方自治体の価値を高めて、発行した通貨の価値を高めるためです。通貨の価値を高めるためには、移住者を増やしたり、地域内の産業を充実させて自治体の価値を高める必要があります。
今後、ICOにより各地方自治体の仮想通貨の価値が競争の軸になる事が望まれます。
まとめ
本記事では岡山県西粟倉村がICOの実施を発表したニュースをもとに、地方創生とICOの関係について説明してきました。
地方公務員の地域創生は観光産業だけではありません。地域内の移住促進、地域の産業活性化が本質的に重要です。
今後ICOによる地方自治体の資金調達が一般的になれば、上場企業が企業価値を高める経営が重視されているように、地方自治体もその地方の価値を高めるような運営が重要になってくるでしょう。
現在は良くも悪くもどの地方自治体もほぼ横並びで運営されていますが、ICOによる競争が始まると、企業のように競合と差をつけるために独自の戦略を構築する自治体も増えるでしょう。横並びではなく、それぞれの地方自治体が自団体に適した独自の成長戦略を描くことが地方創生に繋がるでしょう。
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