日本の法律のほとんどは官僚が作っている? 知っておきたい法律の制定過程

日本は三権分立の統治体制になっています。三権分立制度では法律を作るのは立法機関である国会ですが、実務上は国会が主導して法律を作っているわけではありません。

今回は三権分立の理論を踏まえながら、実際には法律はどのような過程を経て制定されるのかについて説明します。

はじめに

日本は三権分立の統治体制になっているということは学生時代に必ず習うことです。

三権分立制度では法律を作るのは立法機関である国会ですが、実務上は国会が主導して法律を作っているわけではありません。法律の制定を主導しているのは官僚なのです。

本記事では、三権分立の理論を踏まえながら、実際には法律はどのような過程を経て制定されるのかについて説明します。

三権分立の理論

まずは法律の制定過程について説明する前に、その前提となる三権分立について復習します。三権分立とは国家権力を3つに分割し、3つの権力が相互監視しあう事によって、権力の濫用を防ごうという国家統治に関する考え方です。

三権とは、「立法」=法律を作る権力、「行政」=法律に基づき国家を運営する権力、「司法」=法律自体や法律の運営が適正に行われているかをチェックする権力のことを指します。そして、立法は国会、行政は政府、司法は裁判所が感覚しています。このうち、立法を司る国会は「国権の最高機関」と呼ばれていて、三権の中でも最も重要だと考えられています。

この国会は国権の最高機関であるということについては、単なる美称であって、実際は国会が最高機関ではないのではないかという議論があります。

すなわち、実際は行政が立法を主導しており、国会が政府を主導していないのではないかということです。これについて少し詳しく説明します。

意外と少ない議員立法によって成立した法律

法律が制定されるためには、最終的には国会の議決が必要になります。このような手続きを考えれば確かに法律は国会によって作られているということはできます。

ただし、国会が法律作りを必ずしも主導しているわけではありません。法案には内閣が提出した法案と国会議員が提出した法案の2つがあります。

国会が法律を作っているし、各議員は選挙のときに公約を掲げて当選しているので、議員から提出された法案がたくさん採用されていると思われるかもしれませんが、実はほとんどの法律は内閣が提出した法案がベースになっています。これを内閣立法と呼びます。

そして、法律の中でも、国会議員が主導して制定された法律は「議員立法」と呼ばれていて、内閣立法と比較するとその数は少なくなっています。

内閣法制局が公開しているデータを元に、過去5年の内閣立法と議員立法の割合についてまとめたのが以下の表です。

過去5年の内閣立法と議員立法の割合

確かに成立した法案の大半は内閣立法です。5年間で成立した法律492件のうち、内閣は388件、議員立法は104件になっています。つまり成立した法律の約80%は内閣立法になっています。

ただし、提出法案数を見るとその数は変わります。5年間で提出された法案役1102件のうち、内閣立法435件、議員立法は667件となり議員立法の方が数は多くなっています。つまり、議員立法の数が少ない背景には、内閣立法と議員立法の成立率の違いがあります。内閣立法は5年間で89.2%が成立しているのに対して、議員立法は15.6%しか成立していません。

また、国会議員が衆議院、参議院を合計すると700人超存在することを考えると、1年間の一人当たりの議員立法提出数は0.2件以下となります。もちろん、連名で提出している法案などもありますが、単純にこのことを喩えると国会議員はその任期中に1件法案を提出できるかできないかということになります。考えようによっては議員立法が5年間で667件しか法案として提出されていないことも少ないと考えられます。

ちなみに、この議員立法が内閣立法と比較して少なくなる傾向は日本だけではありません。アメリカなどの大統領制の国では議員立法が大きくなりますが、イギリスのように議院内閣制を採用している国は日本と同様に議員立法が少なくなる傾向にあります。

議員立法が制定されるのが難しい3つの理由

つまり、国会議員が議員立法の法案を提出することは難しい、仮に提出できてもほとんどの議員立法案は国会審査を通過しないということになります。なぜ、このように議員立法が制定されるのが難しいのか、考えられるいくつかの要因について説明します。

法案提出の要件が厳しい

まず、単純に法案を国会に提出するための要件が厳しいという理由があります。仮に国会議員が自由に国会に法案を提出できるようにすると、自分の選挙区や支援団体に利益誘導するために「おみやげ立法」が濫用される可能性があります。

よって、国会に法案を提出するためには、国会法によって衆議院20名以上、参議院10名以上の賛成が必要で、更に法案が予算を伴うものの場合は、衆議院50名以上、参議院20名以上の賛成が必要だとされています。

2018年8月時点でこの規制を超えて単独で法案を提出できる政党は予算が伴わない法案の場合は、自由民主党、公明党、立憲民主党、国民民主党の4党、予算が伴う法案の場合は自由民主党と立憲民主党だけです。

このようなことから考えると、制度上野党が単独で法案を提出するのは難しく、与野党と連携しないと法案の提出すらできない状態にあると言えます。

法案作成に専門的な知識が必要となる

また、法案作成には専門的な知識が必要になります。これは法案が規制したり補助したりしようとしている対象に対して専門的な知識が必要というよりも、法案作成自体に専門的な知識が必要だということです。

法案は霞が関文学とも呼ばれていて、通常の日本語にはない独特のルールによって作成、運用されています。一般的には同じような解釈ができる文言であっても「、」のうち位置で違う意味になったり、「てにをは」を変えるだけで文意が変わったりすることがあります。

このようなルールが複雑なため、弁護士などの法律に専門家であっても読むことはできても書けないというケースが良くあります。

よって、国会議員であったとしても実際に法律を作るためには、ただどのような法律を制定したいかというアイデアだけではなく、そのアイデアを法案化するための知識が必要になります。

よって、自身が官僚出身であったり、元官僚や現役官僚のサポートを受けたりしないと法案を作成すること自体が難しいのです。

議員立法は審議されにくい

更に、議員立法がそもそも審議されにくいという事情もあります。国会が開催されている期間は限られていますし、そこで審議のできる法案の数は限られています。

内閣立法の中には国政に関わる重要度の高い、早く審査するべき法案が多く含まれているのでどうしても内閣立法の審議が優先されます。一方で議員立法は国民生活に密着した法案が多いと言われていて、重要なことは重要ですが、比較的緊急度の低い法案が多いと言われています。

特に国会の審議だけではなく、国会が政局の場に費やされることもあるので、法案審議に十分な時間を割くことができずに、議員立法はそもそも審議されないという状況が発生しがちです。

実際の法律の制定過程

このような環境を考えると、実際に制定される法律には官僚が多分に関わっています。では、実際に法律が制定されるまでのオーソドックスな制定過程について説明します。

法案を作成する

まず、国会で法律を制定するか審議をするためには、その素となる法案を作る必要があります。先ほども説明した通り、法案は独自のルールで記述されているので、国会議員が独自に作ることができず、官僚の力を借りながら作成します。

内閣立法の場合は法案を国会に提出する前に内閣で決議して、議員立法の場合は先ほど説明した数の賛成者を集めます。

法案を審議する

法案は国会の中で検討されますが、その法律について検討するために国会答弁が行われます。この国会答弁の資料は基本的に官僚が作成しています。事前に国会でも質問を聞いて、官僚がその質問に対する回答を用意しているのです。

また、審議はテレビで報道されているような国会議事堂でも行いますが、実は各種専門分野に特化した委員会でも検討されていて、委員会で出た結論を国会議事堂の本会議で審議します。

先ほど説明した通り、多くの議員立法は審議の段階で時間を十分に取れずに見送りになることが多いです。

国会が議決する

法案を審議して十分な時間を費やせば、その法律を制定するか却下するか議決します。法律を制定するためには、衆議院、参議院の両方で可決される必要があります。ただし、参議院で否決になっても衆議院で再度可決すれば法案は法律になります。

法律を公布する

ちなみに法律が衆参両議院で可決されても、すぐに施行されるわけではありません。法律を国民の告知するための公布の手続きが必要です。法律の公布にあたっては、その法律に法律番号を付けて、主任国務大臣と内閣大臣の署名を行った上で、官報に掲載されることによって公布となります。

内閣法制局の役割

このように法案作成にも審議にも官僚が関わっているわけですが、行政機関の中でも特に重要な役割を果たしているのが、「内閣法制局」です。内閣法制局は内閣立法を国会に法案として提出する前に、現行法との兼ね合いで問題が発生しないか、期待している効果が得られるのかなどについて事前審査しています。

先ほど説明したとおり、日本の法律のほとんどは内閣立法なので内閣法制局は非常に多くの法律に関わっていると言えます。

このような性質から内閣法制局のことを指して「法の番人」と俗称されることがあります。もちろん、法の番人は正しくは法律の審査を行う裁判所のことを指しますが、実務上、法案のチェックをしているのが内閣法制局だからです。

まとめ

本記事で法律が制定されるまでの過程について説明しました。理論上は、国会が立法府として法律を制定しますが、国会によって制定される法律のほとんどは、官僚とくに内閣法制局が関わっています。議員が自らの裁量で法案を提出して、実際の法律になるということは実はほとんどありません。

以上のことからもわかるとおり、官僚はただ国会でできた法律を運用するだけではなく、その法律の制定自体に深く関わる重要な組織です。

日本の未来は官僚やそれを目指す人達の双肩にかかっていると言っても過言ではありません。

本記事は、2018年11月13日時点調査または公開された情報です。
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