なぜアメリカ政府機関は閉鎖したのか - 日本でも起こりうるのか?

2018年から2019年の年末年始に注目されたニュースとしてアメリカ政府機関が閉鎖されたというニュースがあります。 理論上は日本でも発生しうる事態です。なぜ、アメリカの政府機関が閉鎖されたのか、日本で発生しうるとしたらどのようなケースなのかについて説明します。

予算が無ければ政府機関は動かない

まず、政府機関の閉鎖が発生する基本的な仕組みについて説明します。

政府が行政活動をするためにはもちろんお金が必要です。お金がなければ公務員に給料を支払うことはできませんし、インフラの維持管理や社会保険料の徴収などもできません。そして、行政活動のためのお金は無条件に使用できるわけではありません。年度が始まる前に、どのような事業にどの位の予算を使うか予算案を決めて、その予算案が一定の手続きで承認された後で予算執行をすることができるのです。

予算案が可決しなければどうなるのか?

ここで問題となるケースが、年度が始まるまでに予算が可決されなかった場合です。

1つの解決策はつなぎ予算だけを可決することです。その年度の予算全てを承認できない場合でも、当面の行政活動に必要な最小限の予算だけを承認すれば行政活動は停止しません。ただし、もちろんずっとつなぎの予算で政府が活動することができませんし、つなぎ予算が可決しなければ予算を使う事はできません。

アメリカでなぜ政府封鎖が発生したのか

では、アメリカの政府予算の決定方法と今回の政府封鎖がなぜ実現したのかについて説明します。

アメリカの政府予算の決定方法

まずは、なぜアメリカの政府予算が承認されなかったのか、アメリカの政府予算の決定方法について説明します。

まず、アメリカの会計年度は毎年10月1日から9月30日までを1年とします。日本は4月1日から会計年度が始まるのでちょうど半年分のずれがあります。

予算案の作成に当たってはまず大統領が議会に予算教書という形で議会に予算の方針を提案します。議会は予算教書を元に予算方針と歳出案を作成し、審議・可決します。議会が可決した予算案は大統領に送られて、大統領が署名すれば予算成立となります。

このときに、大統領は予算案を承認したくなければ拒否権を行使できます。

なぜ今回予算が成立しなかったのか

以上のような予算の審議過程になっていますが、今回問題となっているのが予算教書と実際に議会を通過した予算の違いです。

トランプ大統領はメキシコとの国境の間に壁を建設することを公約に大統領になりました。そして、予算教書にその予算を盛り込みましたが、議会で可決された予算法人、歳出案には壁に関する予算が充分に盛り込まれていなかったため、トランプ大統領は議会の予算案に署名せず、予算不成立となりこのような事態になってしまったのです。

予算不成立がもたらした影響

実はメキシコとの国境の壁の件で予算が成立せずに政府が封鎖したというケースは2018年だけでも3回ありました。2018年度は前年度内に予算が成立せずに2017年1月1日から2018年3月23日にわたって、5回のつなぎ予算が発生し、1月と2月には1回ずつつなぎ予算が失効するタイミングがあったので2回の政府封鎖となりました。また、2018年の年末から2019年の年始に発生した政府封鎖は1か月以上と過去最長の政府封鎖となりました。

2018年度末からの予算失効では政府機関の75%は2019年9月末まで予算が残っているので、影響を受けませんでした。しかし、25%の機関では予算が失効してしまいました。もちろん予算が失効している間は、予算失効ができないので連邦職員に給料は支払われません。その結果、予算が失効した部門で働く職員は無休で働くか、一時休職の扱いになりました。

このように予算が失効してしまった政府機関の中には入国審査や食品医薬品局も含まれていました。もちろん、入国審査局の職員が休むと出入国管理ができずに、治安、ビジネスなどに大きな悪影響が発生することが見込まれるので、このような機関の職員は無休で働くことになりました。

年度前に予算が成立しないアメリカ政府

ちなみに、2018年に発生した年3回の政府封鎖というのは異様な事態ですが、年度が始まる前に予算が成立しないということはアメリカ政府においてよくあることです。1977年以降のアメリカで全ての歳出法(予算に関する法律で12種類存在する)が期限内に成立したのは、1978年、1988年、1994年、1996年の4回だけだと言われており、21世紀に入ってから期限内に予算が成立したことはありません。

予算過程から見るアメリカ政治 ーCR編ー:
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=186

予算が大統領→議会→大統領という順番で成立するので、予算教書の意図がきちんと反映されていない予算案に対して大統領は拒否権を使用するというのは一定の合理性があります。特にアメリカは日本のように議院内閣制ではないので、国民によって大統領が直接選ばれているため(形式上は選挙人を介した間接選挙ですが、事実上は直接選挙と考えて良いでしょう)、国民との間の公約を果たさなければならないと予算に拒否権を発動するのは妥当だと言えます。

過去にもあった政府封鎖

政府封鎖が発生したのはトランプ政権だけではありません。例えば、トランプ政権の直前のオバマ政権でも政府封鎖は発生しています。

オバマ政権ではいわゆるオバマケアという医療保険制度改革を巡って、共和党と民主党の間の交渉がまとまらず予算が成立しませんでした。その結果2013年10月1日から16日まで16日間、一部の政府機関が封鎖されました。

他にも、1995年から1996年、1990年、1984年、1981年と頻発するわけではありませんが、いくつか政府封鎖は発生しています。

日本でも政府封鎖は起こり得るのか?

日本でも予算案が可決されずに、つなぎの予算案も可決されなければ、政府封鎖が発生する事態も考えられます。では、アメリカのように政府封鎖が発生する可能性があるのかについて検討します。

日本の国家予算の決まり方

まず、アメリカと日本では国家予算の決まり方が異なります。日本では各府省庁が財務省に概算要求を提出して、財務省が原案を取りまとめます。それをベースに内閣案を作成し、国会に提出します。内閣案を衆議院、参議院の順番で審査し、両方の議会で過半数を獲得すれば可決となります。参議院と衆議院で議決が異なる時は、両院協議会で協議して、成案を可決します。両院協議会を開いてもまとまらない場合は、衆議院の決定が国会の決定となります。

以上のようなことから、アメリカとは違い予算のベース案は政府が作成して、その可否判断を国会が行うという手続きとなっています。よって、国会が可決した予算案を内閣が署名せずに否決するということはありません。

予算が成立しないケース

上記のような手続きを考えると日本では政府封鎖が起こりにくいと考えられます。国会の審議を通過すれば、内閣がその予算案を認めるか否かというプロセスは発生しないため、アメリカのように成立した予算を認められないので大統領が拒否権を発動するという事態は発生しえません。

また、アメリカと違い議院内閣制になっているという点も政府封鎖が起こりにくいポイントになっています。アメリカの場合は大統領も議員も国民から選ばれているので、大統領の出身政党と議会で与党が違うということはあり得ます。また、大統領の出身政党と議会の与党が同じでも、大統領を制度的に議会が更迭することはできません。

一方で日本の場合は、衆議院で与党が内閣不信任案を成立させれば、衆議院の総選挙が発生するか否かの違いはあっても最終的に内閣は総辞職するので、国会(特に衆議院)と違う思惑で動く内閣は成立しにくいです。

予算が成立しないケースとしては、与野党の議席数が拮抗して、国会内のパワーバランスで予算が成立しないなどが考えられます。

過去に予算が成立しなかったケース

このように、日本においてはアメリカよりも予算を可決しやすい制度になっていますが、過去に日本で期限内に予算が成立しなかったケースは存在します。

例えば2012年は東日本大震災からの民主党政権の支持率低下で国会が空転して予算成立が遅れそうになり、暫定予算が編成されました。2015年の予算も年末に総選挙を行ったため、予算審議が遅れて暫定予算を編成しました。21世紀に入って暫定予算を編成したのはこの2回だけで、この直前は、大蔵省の汚職事件などで国会審議が停滞した1998年です。

以上のように、まれに期限内に予算が成立せずに暫定予算が編成されることがありますが、日本では政府封鎖まで至ることはありません。

まとめ

アメリカの政府封鎖事件と日本で政府封鎖が起こりうるのかについて説明してきました。議会が予算編成で合意できない、議会が作成した予算案に大統領が拒否権を発動するなどの事態が発生するために、そもそも年度内に予算を編成することが困難な環境があります。

2018年には政府封鎖が3回発生し、3回目は2019年にまたがって1か月以上にわたるなど歴史的に見ても異常な事態ではありますが、政府封鎖自体は過去にも数回発生しています。

一方で日本では政府封鎖は発生しにくいです。内閣が予算案を作成して、国会が予算案を可決しますが、国会が可決した予算を内閣が拒否することはできないので、内閣が予算を拒否するという事態は発生しません。また、議院内閣制を採用しているので、衆議院の与党と内閣総理大臣の出身政党は同じになります。よって内閣が提出した予算案は国会で認められやすい環境がありますし、両者の思想が一致していなければ総選挙や内閣総辞職によって、調整されます。

以上のようなことから、日本では国会審議の空転や総選挙のタイミングによって予算案の国会通過が遅れて、暫定予算が編成されるという事態は発生しうると考えられますが、国会内、国会と内閣の対立により予算案、暫定予算が可決されずに、政府封鎖が発生するという事態は事実上存在しえないと考えられます。

本記事は、2019年5月1日時点調査または公開された情報です。
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