WHO(世界保健機関)とは?なぜアメリカと揉めているの?

新型コロナウイルスの蔓延によって、ニュースでも「WHO」という組織名を耳にする機会が増えました。そして同時に、今アメリカがWHOと揉めていることも、報道されています。

本記事では、「WHO(世界保健機関)」とはどのような組織なのか簡単におさらいしつつ、なぜアメリカと揉めているのかについて、アメリカ在住の日本人ライターに、コラムにしていただきました。


はじめに

世界中で新型コロナウイルス感染拡大が続いている中、2020年4月14日にアメリカのトランプ大統領はWHOへの拠出金を停止することを発表しました。トランプ大統領によるこの発表はアメリカ国内では大きく報道され、世界で最も感染者数が多い国になってしまったアメリカからは歓迎の声が上がっています。

ニュースで頻繁に耳にするWHOはいったい何をしている組織で、なぜアメリカは拠出金を停止することになったのでしょうか?

今回は、現地アメリカから、いまさら聞けないようなWHOに関する基礎知識を始め、なぜアメリカはWHOを目の敵にしているのかや、日本とWHOの関係性、WHOが非難されている理由などについて、掘り下げてレポートします。

公務員にかぎらず、知っておきたい内容です。ぜひご覧ください。

WHO(世界保健機関)とは?

そもそもWHO(世界保健機関)とはいったい何なのでしょうか?組織体系や目的などをご紹介します。

WHO(世界保健機関)の組織について

WHOはWorld Health Organizationの頭文字をとった略称で、日本語では世界保健機関となります。1948年4月7日に国連(国際連合)の専門機関として設立され、現在では194の国が加盟しています。

WHOは簡単に言えば国連の組織のひとつで、世界の健康に関することを取りまとめる組織と考えると良いでしょう。WHOと同じ枠組みの専門機関には「国際通貨基金(IMF)」や「国連教育科学文化機関(UNESCO)」などもあります。

WHO(世界保健機関)の目的や活動内容について

WHOの目的は「全ての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」で、加盟国と連携しながら世界中の人々の健康を守るための活動をしています。具体的には、技術支援、政策的支援、物資援助、伝染病や風土病に対する研究、勧告、協定の制定など多岐に渡ります。また、食品や医療品などに関する国際基準を定めるのもWHOの役割です。

WHOの予算の6割を使うとされる最も重要な目的が「技術支援」です。これには各国に対して専門家の派遣やワークショップの開催、ガイドラインの作成、フェローシップ(共同体)の構築など、健康に関する広範な活動が含まれています。

WHO(世界保健機関)の予算について

WHOの予算は2年制で、通常予算(Regular Budget)と予算外拠出(External-Budgetary Contribution)のふたつで構成されています。

通常予算は加盟国による「義務的分担金」で構成されており、各国の分担金は国民総所得(GNI)などに基づいて算定される国連分担率によって決まります。通常予算は職員の給与や会議の開催、調査、研究、器材の購入などに使われています。


ちなみに、国連分担率は3年ごとに見直され、経済力がある国ほど負担は大きくなる仕組みです。アメリカは22%で最も高く、日本、中国、ドイツ、フランス、イギリスが上位を占めています。

長年にわたって2番目だった日本(8.56%)は、2019-2021年の分担率で中国(12.01%)に抜かれて3番目に陥落しました。このことは言い換えれば日本の経済力が中国に抜かれたという意味です。

予算外拠出(任意拠出金)は、加盟国や世界銀行、他の国際機関からの任意拠出に基づいており、通常予算では賄えない分野(技術支援など)の事業活動に使われています。最も任意拠出金を多く支払っているのはアメリカで、2018年からの2年間で5億5,310万ドル(約594億円)、全体の15%を負担しています。

WHO(世界保健機関)と日本の関係について

日本は1951年5月にWHOに加盟し、今日まで主要加盟国として関わり続けています。日本はWHOに対しておおよそ22億円の拠出金を負担しています。(2019-2021年度)

日本は、各国からの推薦に基づいて選出される34名の執行理事会に度々選出されてきました。執行理事会は、最高意思決定機関であるWHO総会でのトピック選定や、総会の意思決定を実施するまでの段取りを担う重要な役割があります。つまり、日本はWHOに対して資金負担だけでなく、実質的なかかわり合いも深い国だと言えます。

日本は年に1回開催されるWHO総会、WHO西太平洋地域委員会(日本が所属するエリアの会議に相当)、そして年に2回開催されるWHO執行理事会に参加し、様々な活動をしています。

WHO(世界保健機関)の事務局長はテドロス・アダノムってどんな人?

WHOの事務局長はテドロス・アダノム(Tedros Adhanom Ghebreyesus)です。テドロス事務局長はエチオピア人で、マラリアの研究者として活躍した後、エチオピア政府で保健省大臣、外務大臣を務めました。2017年7月から5年の任期でWHOの事務局長を務めています。

テドロス事務局長はエチオピア保健省大臣時代にマラリア、エイズ、母子保健、結核など様々な健康問題の改善に取り組み実績を残しました。なかでも、2005年から2007年にかけてマラリアによる死亡者数を50%も減少させたことや、乳児および幼児の死亡率を30%近く減少させたことは大きな貢献と評価されています。

また、アメリカのクリントン元大統領(クリントン財団)や、ビル・ゲイツ(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)らと協力することで、エチオピア政府と世界有数の健康促進に熱心な人物や団体との間に接点を作ることにも成功しました。

エチオピア政府での活躍とは対照的に、新型コロナウイルスに対する対応を巡っては、中国を擁護するような発言を繰り返し、感染拡大を抑制出来なかったとされ世界中から批判されました。

なかでも、世界で最も感染者数と死者数が多くなってしまったアメリカからの批判は激しく、トランプ大統領は再三にわたってテドロス事務局長を非難してきました。ネット上ではテドロス事務局長の辞任を求める署名運動も始まり、WHOのトップでありながら新型コロナウイルスの事態を過小評価した責任は重いとされています。

アメリカがWHO(世界保健機関)に対する拠出金を停止した理由

アメリカのトランプ大統領はWHOに対する拠出金を停止すると発表しました。これには「WHOの中国寄りの姿勢」と「アメリカ国内の批判をかわす」ふたつの理由があると考えられています。

トランプ大統領は記者会見で「WHOの中国寄りの姿勢」に言及しています。具体的には、WHOが新型コロナウイルスは人から人への伝染はなく、中国への渡航禁止は必要ないと発表したことです。WHOが当初から楽観的な見方をしていなければ、世界中の感染拡大は防げたという主張です。

また、感染拡大が止まらずにアメリカが世界で最も感染者数と死者数が多い国になってしまったことで、トランプ大統領自身へ責任が及ぶことをかわしたい狙いもあるとされています。

仮に、トランプ大統領の初動ミスという印象が強まれば、11月の大統領選に影響が及ぶことは確実です。そこでトランプ大統領はWHOに対して強気な姿勢を取り、多額な拠出金を停止することを国民にアピールして支持率低下を免れたい訳です。


WHO(世界保健機関)がアメリカなどから批判される理由

アメリカの拠出金停止措置に代表されるように、WHOは新型コロナウイルス問題を巡ってアメリカや台湾から非難されています。

WHO(世界保健機関)の中国への忖度

WHOのテドロス事務局長は、2020年1月にアメリカが中国からの入国を禁止する措置を取ったことに反対しました。トランプ大統領はこのWHOの意見を「中国寄り」と強く非難し、習近平国家主席に対しても同じ旨を伝えたと言われています。

また、WHOの専門家グループを中国に派遣し、中国政府による情報操作を指摘していれば、感染を抑えて犠牲者も非常に少なく済んだとしました。感染拡大が始まった初期段階からWHOが中国寄りの姿勢をとっていたことが批判されているのです。

WHO(世界保健機関)への拠出金の存在

他にも、WHOにとって欠かせない拠出金の存在があります。WHOの拠出金は全体の22%がアメリカ、そして次に多いのが12.01%の中国です。中国は2018年にこれまで2位だった日本を逆転したことからWHOに対しても影響力を強めています。その矢先に起きた新型コロナウイルス問題だったことから、WHOは中国へ忖度したのではないかと批判されているのです。

WHO(世界保健機関)は台湾を冷遇している

極めつけは、テドロス事務局長による台湾に対する発言です。テドロス事務局長は、相次ぐ批判に関して「台湾から来ている」と主張しました。この発言に対して台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は猛抗議し、台湾国内ではクラウドファンディングでニューヨーク・タイムズの紙面を購入して一面広告で抗議しようという運動が始まりました。

台湾は中国からの圧力を受けてWHOに加盟できないでいますが、新型コロナウイルス問題では独自の危機管理体制で感染拡大を抑制することに成功しています。さらに、WHOに対して電文で「中国の武漢で発生した特殊な肺炎に注意すべき」と伝えたにもかかわらず、WHOはこれを放置していたことが判明しています。

台湾の危機管理能力の高さは世界中から評価されているものの、WHOは台湾の受け入れを拒み、ここでも中国寄りの姿勢をとっているのです。ちなみに、アメリカは台湾をオブザーバーとしてWHOに参加させることを支持しています。(2017年からオブザーバーとしても参加出来ていない)

このようにWHOがアメリカや台湾から批判される理由には、WHOの中国寄りの姿勢、拠出金の存在、そして台湾への冷遇措置があります。

WHO(世界保健機関)の反応

WHOはアメリカや台湾からの批判に対して否定的な見方をしています。

トランプ大統領によって、人から人への感染の可能性を無視したことを指摘されたWHOは、同機関の感染症専門家マリア・ファンケルクホーフェ氏を通じて、当初から飛沫感染や接触感染の可能性に重点を置いていたと反論。2020年1月の時点で感染拡大の注意喚起をおこなっていたと強調しました。

そして、テドロス事務局長はアメリカの拠出金停止措置を受けて、これによる影響を調査するとし、加盟国にさらなる資金拠出を求めました。加盟国のひとつであるフランスはアメリカの決定に対して批判的な声明を発表しています。

WHOとしては大口の拠出金を失う訳にはいかないことや、新型コロナウイルス感染拡大の責任を追及されることなどは避けたいところでしょう。トランプ大統領による「政治利用」を懸念する声もあり、しばらくは事態は収拾しそうにありません。

まとめ

本記事では、WHOの組織や目的、日本との関係性、そして新型コロナウイルスで直面している加盟国との軋轢などをご紹介しました。

WHOは新型コロナウイルス問題でかつてないほどに注目を集めており、中国寄りと批判される運営方針や、最大のパートナーであるはずのアメリカとの関係性など課題は山積です。

コロナウイルスが終息した時にWHOのあり方や、存在意義が問われることになりそうです。また、日本の行政府がWHOに対してどのような立場をとるのかも注目しましょう。

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本記事は、2020年4月21日時点調査または公開された情報です。
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