アメリカの性犯罪対策は日本とどう違う?

日本の性犯罪対策は、先進国のなかでも非常に遅れているといわれており、対してアメリカでは、90年代にはすでに性犯罪者に対する厳しい対応が取られてきました。

日本にとって唯一の同盟国で経済でも密接な関係をもつアメリカの「性犯罪対策」に関する情報、公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。

はじめに – 性犯罪対策、日本でも大きく前進

2020年6月10日、日本政府は今後3年間の性犯罪や性暴力対策を強化するための法案をまとめました。

7月には経済財政運営の指針(骨太の方針)に反映させるとみられ、先進国のなかでも異常なまでに遅いと評価され続けてきた日本の性犯罪対策が大きな前進を見せました。

この法案では、幼児期から大学生までの性暴力に関する教育の実施や、性犯罪の有罪確定者に対してGPS装置の装着義務づけなどの内容が含まれています。

実は、アメリカでは性犯罪に対する厳しい取り組みは1994年頃に始まっていることから、性犯罪に対する意識の高さは日本とは比較にならないほどの開きがあります。

今回は、性犯罪対策に関する日本とアメリカの違いや、アメリカではどのような取り組みが実施されているのかなど、アメリカ在住の筆者目線でご紹介します。

アメリカの主な性犯罪対策

はじめに、アメリカではどのような性犯罪対策がとられているのか見てみましょう。

ミーガン法

アメリカの性犯罪対策を理解するうえで必ずと言っていいほど出てくるのが「ミーガン法(Megan’s Law)」です。

ミーガン法とは、1994年にニュージャージー州で成立した性犯罪者情報公開法の俗称のことで、この法律が制定されるきっかけとなった事件の被害者名が「ミーガン・カンカ(Megan Kanka)」だったことから、ミーガン法と呼ばれるようになりました。(当時7歳のミーガンが性犯罪歴がある男に強姦され殺害された)

ミーガン法の内容は州によって差があるものの、性犯罪者が地域社会に復帰したときに(刑期を終えた後も)その人物に関する情報を州政府に登録し、一般公開できる制度です。

具体的には、性犯罪者が居住する近隣住民や学校への告知、顔写真や勤務先、車種などが記載されたビラの掲示、住居に性犯罪歴があることを示す印を掲げる、性犯罪者のリストをインターネット上で閲覧可能になるなど多岐にわたります。

これらの対策に共通することは「性犯罪者をデータベース化し、一般に公開可能にする」ということです。

ミーガン法は性犯罪者の社会的な孤立を生み、社会復帰が妨げられると懸念する声がある一方で、社会的な制裁を加える意味で有効とする声も根強いとされています。

ただし、ミーガン法によってかえって再犯が起きる、あるいは再犯が抑制されるといった事実はないと言われています。

ジェシカ法

ミーガン法に加えて覚えておきたいのが「ジェシカ法(Jessica’s Law)」です。

ミーガン法同様に、この法律が制定されるきっかけとなった事件の被害者名ジェシカマリーランスフォード(Jessica Marie Lunsford)から名付けられました。(2005年、フロリダ州で当時9歳だったジェシカが性犯罪者によって監禁、強姦されて生き埋めで殺害された)

この事件を受け、12歳未満の子どもに対して性犯罪を犯した人物に対し、強制終身刑の懲役や生涯にわたってGPS装置による監視などを課せるようになりました。(42州が州法に制定しているものの、内容は州によって多少異なる)

ジェシカ法では「未成年者に対する性犯罪者に厳しい処罰を与える」ということが決定的になったと言えるでしょう。

ジェシカ法によって、GPSを使った性犯罪者の行動監視が法的に可能になりましたが、一部からは人権侵害にあたるとして否定的な意見も挙っています。

一方で、GPS装置の装着によって性犯罪者が許可されていないエリアに立ち入った際や、外出禁止時間帯に出かけた際に即座に警察が対応できることから、再犯の抑止力は高いと考えられています。

事実、アメリカにならって2008年から性犯罪者や重犯罪者に対するGPS装置の装着を義務づけた韓国では、性犯罪の再犯率が88%減少した結果が出ています。

ミーガン法やジェシカ法に代表されるように、アメリカでは性犯罪者に対する厳しい姿勢が法整備の面でも出来ているということがよく分かります。

▼参考URL:https://mottokorea.com/mottoKoreaW/Special_list.do?bbsBasketType=R&seq=24529

日常生活で感じるアメリカの性犯罪対策

次に、アメリカで実際に生活をしている筆者が、日常生活で経験した性犯罪に対する具体的な取り組みをご紹介します。

キャンパス内の掲示板に貼り出される

アリゾナ州在住の筆者が通う大学では、キャンパス内のいたるところにある掲示板に「学内で性犯罪を犯した人物のリスト」が掲示されています。

A4用紙1枚にひとり分の情報が掲載されており、氏名、顔写真、住所、身長、体重、外見の特徴、人種、車の車種、ライセンスナンバー、頻出する場所、犯罪の内容や日時などが記載されています。

個人的な感想としては、掲示板を初めて見た時には驚きましたが、アメリカで生活していると「これくらいする必要はある」と思うほどに性犯罪が多い、あるいは性犯罪が起きてもおかしくないと思える場面に遭遇します。

とくにパーティーやお酒を飲む機会が多い学生は、いつ性犯罪に巻き込まれても不思議ではありません。

加えて、アメリカにはマリファナをはじめとするドラッグという危険因子もあるため、性犯罪の起こりやすさは日本とは比較にならないでしょう。

学校からのアラート

キャンパス内で性犯罪が発生すると、即座に全学生へ校内警察からアラート(テキストやメールなど)が届くようになっています。

筆者が通う学校では、痴漢行為、露出、誘拐未遂などでアラートが送信されたことがあり、その際も顔写真付きのものでした。(すでに逮捕されている場合は氏名や人種、理由なども公開される)

誘拐事件は緊急速報(アンバーアラート)

アメリカでは性犯罪にもつながりやすい未成年者誘拐事件が発生すると、携帯電話に緊急速報が届くWEA(Wireless Emergency Alerts)というシステムがあります。

全米で3億台ほどあるとされる携帯電話の約97%に自動的に緊急速報(AMBER Alert)が届くようになっており、アリゾナ州では高速道路の電光掲示板などにも犯人の車やライセンスナンバーなどの情報が表示されます。

地元のテレビやラジオでも同時に配信される仕組みで、未成年者誘拐事件の扱いは危険を伴う自然災害と同じ扱いなのです。

頻繁に発生することではありませんが、幼児を含む未成年者誘拐事件に対する初動対応の早さは法整備の賜物と言えるでしょう。

日本の性犯罪に対する取り組み

法整備も含めて性犯罪に対して厳しいアメリカですが、日本はどうなのでしょうか?

性犯罪者処遇プログラム

法務省は2006年から性犯罪者を対象にした再犯防止策の一環として「性犯罪者処遇プログラム」を導入しています。

心理学などの専門知識を使い、性犯罪を再び犯すおそれがある認知の偏りや、自己統制力の不足解消を目的とし、4つのプログラム(コア・導入・指導強化・家族)で構成されています。

2012年12月の法務省保護局の報告によると、プログラム受講者は非受講者と比較して、すべての犯罪の推定再犯率が低く、性犯罪の推定再犯率も低いことが分かっています。また、強制わいせつについては統計的に有意に低いとしています。

一方で、プログラム指導者不足などの問題から受講者は性犯罪者の1割程度しかいない課題が残っています。

▼参考URL:http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_3_2_2.html

強制性交等罪

2017年7月には、これまでの強姦罪が「強制性交等罪」に罪名が変わり、懲役3年だったものが5年に厳罰化されました。

また、精神的な苦痛を伴うことが多いとされてきた被害者の刑事告訴がなくても、警察が事件の捜査を始められるようになりました。

日本も性犯罪に対して徐々に厳しい姿勢をとるようになったと言えます。

起訴されない場合は野放し

法制審議会の刑法部会幹事だった弁護士の加藤久雄氏は、現代ビジネスの取材に対して「日本の刑事政策では、性犯罪者に対して刑期を与えるだけ。起訴に至らなかった容疑者は事実上野放しになっているのが現状です」と答えています。

つまり、日本における性犯罪者は起訴されない限り、社会的な制裁を受けることなく社会復帰が可能になるということです。

分かりやすい例えとしては、生徒に対して性犯罪を犯した教員が、教員として再就職可能ということがあります。2017年、過去に児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で逮捕された教員(大田智広)が、改名したうえで教員として復職し、再び児童に対するわいせつ行為で逮捕されています。

法務省の「性犯罪に関する総合的研究(2016年発表)」では、2008年7月から2009年6月までに有罪が確定した性犯罪者1,484人を対象にした調査で、5年以内に207人が性犯罪で再犯したとしています。

さらにその内訳を見ると、単独強姦=63.0%、強制わいせつ=44.0%、13歳未満の小児に対するわいせつ=84.6%、痴漢=100%となっています。このことから、小児に対する性犯罪や痴漢の再犯率は極めて高いことが分かります。

このように、性犯罪は再犯率が高いことが証明されているものの、日本では起訴されない限り、実質的には野放しという先進国にあるまじき状況になっているという訳です。

このような状況下にある日本で悲惨な性犯罪が相次いでいることから、冒頭でご紹介したGPS装置による監視などを含む「性犯罪や性暴力対策を強化する法案」の本格的な着手に至ったのです。

▼参考URL:
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56402?page=4
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00084.html

性犯罪に対する日本とアメリカの決定的な違い

日本とアメリカでは「性犯罪に遭った人が声を上げやすい」という点が決定的に違います。

例えば、アメリカでは2017年に「#Me Too」運動が起こりました。ニューヨークタイムズ紙によるセクハラ告発に端を発するこの運動は、映画界のセレブや著名人を巻き込んで世界中に広がりました。

対照的に、日本ではジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBSワシントン支局長の山口敬之(やまぐちのりゆき)氏に性的暴行を受けたとして訴訟した事件を巡って、性的被害を受けたはずの伊藤さんがSNSなどのインターネット上で誹謗中傷を受けるといった「セカンドレイプ」の被害に遭っています。

ふたつの事象に象徴されるように、性犯罪に対して声を上げた人が支援を受けやすいアメリカと、声を上げた人が攻撃される日本では、考え方が正反対と言わざるを得ません。

つまり、日本では性犯罪の被害者が、未発達の法整備や社会的反響を考慮して「泣き寝入りした方が良い」という環境になってしまっている訳です。

この点においてアメリカは、そもそも性犯罪に厳しい法律が整っており、弱者をサポートする風潮が強いことから、日本よりも声を上げやすい環境が出来ているのです。

奇しくも、インターネット上の誹謗中傷を厳罰化するための法整備が検討されていることから、これを機会にして日本も性犯罪に対する意識が変わるかもしれません。

まとめ

ご紹介したように、アメリカは性犯罪に対する厳しい姿勢が法律によって保たれています。一方で、日本は性犯罪者に対する刑罰が甘く、アメリカと比較すると法整備の面においても対策が進んでいないと言わざるを得ません。

日本は再犯の確率が高い性犯罪に対して法整備、被害者のサポート体制、国民の意識などを包括的に変える時を迎えているのかもしれません。

日本は性犯罪についてはアメリカを見習うべき点が多そうです。

本記事は、2020年6月19日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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