ついにアメリカも成功!競争が激化する小惑星探査

2020年10月20日、アメリカ航空宇宙局(通称:NASA)は20日、小惑星探査機「オシリス・レックス」が、小惑星「ベンヌ」での岩石採取のための着陸に成功したことを発表しました。

本記事では、アメリカの「小惑星探査」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに - アメリカの偉業に、日本はうかうかしていられない?

アメリカでは大統領選やGoogleの訴訟問題、最高裁判事選出を巡る大きなニュースが続いていますが、実はその影でアメリカが成し遂げたある偉業が注目されています。

その偉業は日本にも大きな影響を与えると予想されており、日本からすれば決して賞賛ばかりしている訳にはいかないようなことです。

その偉業とは「小惑星から石やちりなどのサンプルを採取する」ということです。

日本では「はやぶさ」や「はやぶさ2」が知られていますが、ついにアメリカもサンプル採取に成功したことで、小惑星探査の国際的な競争が本格化したことを意味します。

今回は、アメリカが成功させた小惑星探査のサンプル採取がどのような意味を持つのか、そして日本にはどのような影響があるのかについてご紹介します。

アメリカのニューフロンティア計画とは?

今回の小惑星探査プロジェクトは、アメリカ航空宇宙局(NASA)による「ニューフロンティア計画」の一環です。

このプロジェクトは、準惑星の冥王星を含んだ太陽系の惑星調査を目的としており、宇宙開発でも世界のトップを狙うアメリカの威信がかかったものです。

ニューフロンティア計画で現在進行中のミッションは大きく3つあり、それぞれのミッションのために、探査機が宇宙へ打ち上げられています。

1つ目が、冥王星調査を行う無人探査機「New Horizons(ニュー・ホライズンズ)」、2つ目が木星調査のための探査機「Juno(ジュノー)」、そして3つ目が、小惑星からサンプルを採取し帰還する小惑星探査機「OSIRIS REx(オシリス・レックス)」です。

2015年にはニュー・ホライズンズが冥王星の観測を成功させ、2016年にはジュノーが木星に到着、そして2020年にはオシリス・レックスがサンプル採取を成功させました。オシリス・レックスが地球へ帰還するのは2023年9月の予定ですが、ニューフロンティア計画は概ね順調に成果を挙げていると言えます。

小惑星無人探査機「オシリス・レックス」について

今回のプロジェクトの主役となるのが、小惑星無人探査機「OSIRIS REx(オシリス・レックス)」です。「アメリカ版はやぶさ」とも呼ばれ、小惑星からのサンプル採取で先行する日本のライバルのような存在と言えます。


オシリス・レックスは、地球からおおよそ3億3,000キロメートル(地球から太陽の約2倍の距離)離れたところにある小惑星「Bennu(ベンヌ)」の地表からサンプルを採取して、地球まで持ち帰ることがミッションです。

オシリス・レックスは2016年9月に打ち上げられ、2018年12月3日にベンヌから19キロメートルのところに到着しました。同月中にベンヌの地表から2キロメートルまで接近し、直径約560メートルの惑星を1年以上かけて観測し始めました。

入念な観測を経てサンプル採取の着陸場所を決定し、ついに2020年10月20日、はやぶさ2と同様に表面に接してすぐに離陸する「タッチ・アンド・ゴー(TAG-SAM)」方式でサンプル採取に成功しました。

NASAの発表によると、アームの先端にある円盤状の採取装置を機体のカメラで撮影したところ、多くの岩石が含まれていることが確認できたとされ、プロジェクトの目標だった「60グラム以上」の採取は確実と見られます。

「0.1グラム以上」が目標だったはやぶさ2の採取量を大幅に上回ることはほぼ確実で、今回の成功を受けて太陽系の成り立ちや、生命の起源解明が大きく前進するとされています。

サンプル採取に、小惑星ベンヌが選ばれた理由

今回のプロジェクトで小惑星ベンヌが選ばれた理由は、ベンヌ自体が非常に原始的な種類の惑星であることが挙げられます。

ベンヌには、おおよそ45億年以上前に太陽系の惑星を形成したとされる化学物質が含まれている可能性が高く、これを地球に持ち帰ることが出来れば、太陽系誕生の仕組みが一気に分かるかもしれないという訳です。

これまで、小惑星からサンプルを地球へ持ち帰ることで世界をリードしてきた日本ですが、オシリス・レックスが地球へ帰還すれば、アメリカがサンプル採取技術や太陽系の成り立ちを分析するノウハウなどで大幅なリードを取ることになります。

宇宙開発競争という観点で、一歩リードしてきた日本の立場がアメリカに追い抜かれるどころか、大幅にリードを許すことになることから、日本はアメリカの成功を単純に喜ぶばかりではいられないのです。

日本とアメリカの協力体制

日本とアメリカは今回のプロジェクトで協力関係にあります。

2014年11月には二国間で「はやぶさ2」と「オシリス・レックス」それぞれが持ち帰るサンプルを共有するための協定が結ばれました。NASAは、はやぶさ2が持ち帰るサンプルの10%を、JAXAはオサイリス・レックスが持ち帰るうちの0.3グラムを得る内容です。(はやぶさ2は2020年12月6日に帰還予定)

また、JAXAはオサイリス・レックスがベンヌの地表に着地する際の「場所の選定」において、はやぶさ2の経験をNASAに供給しています。この技術は、想定を超えるような凹凸が存在する地表であっても着陸できる場所を見つけ出し、半径3メートル範囲の精度で誘導できるもので、サンプル採取に欠かせないものです。

対照的に、NASAはJAXAに対してディープスペースネットワーク(深宇宙通信情報網)を提供し、はやぶさ2の通信をサポートしています。これにより安定したデータ通信やエラー修正などが可能になっています。

アメリカの目的と日本の課題

今回のオシリス・レックスによるサンプル採取は両国にとって喜ぶべき成功ですが、日本は「協力体制」という名目で、このままアメリカに技術提供だけをしている訳にはいかないようです。

アメリカは小惑星探査を「太陽系誕生の謎を解明するための科学的な研究」や「小惑星が地球に衝突することを未然に防ぐスペースガード」と位置付けているものの、実際のところの目的は「有機物」を含む惑星の開拓と見られています。


なかでも、リチウムイオン電池に欠かせないコバルト、錆びにくくステンレスなどに使われるニッケル、そしてプラチナといった「希少金属(レアメタル)」などの資源確保を目指しているとされています。

直径1キロメートル程度のある惑星内には、3,000万トンのニッケル、150万トンのコバルト、7,500トンのプラチナが存在している可能性が指摘されており、惑星探査でリードできる国はこれらの独占も夢ではありません。(プラチナ7,500トンは約39兆円の価値に相当する)

また、宇宙上に存在する価値が高い小惑星の所有権などを巡っても、今後本格化するであろう国際的な枠組み作りで優位に展開しやすいメリットもあります。

他にも、現在進行中の「アルテミス計画」の成功も忘れてはいけないでしょう。これは、2024年までに「最初の女性と次の男性」を月面に着陸させるアメリカ主体の計画です。この計画では月面に長期滞在も視野に入れていることから、宇宙空間で資源を確保する技術が欠かせないのです。

つまり、宇宙空間で資源を確保するための技術は、今後の宇宙活動や宇宙開発競争における必須事項ということです。さらに言えば、宇宙空間での活動を円滑にするための武器とも言えるでしょう。

アメリカは自国が宇宙開発を有利に進められるように、2019年12月に「宇宙軍」を新たに創設しました。宇宙活動の保護や宇宙における自国利益保護といった、宇宙で行動しやすくするための法環境を整えたのです。

事実、アメリカの宇宙軍は「アメリカによる宇宙へのアクセスの自由を防衛すること」や「宇宙におけるアメリカの利益の防衛」を法律(国防権限法および宇宙軍法)で定めており、宇宙空間でのあらゆる行動を正当化できるお膳立てを済ませています。

そんなアメリカの計画を日本は技術提供というかたちで応援することは、宇宙空間を巡る国際競争において「うまく使われる」ことになりかねません。

日本はアメリカと協力する一方で、はやぶさプロジェクトで培った技術力の優位性を生かして競争に取り残されないようにすることが課題になりそうです。

まとめ

以上、「ついにアメリカも成功!競争が激化する小惑星探査」でした。

アメリカは日本のはやぶさ2の予算(289億円)を3倍以上も上回る約1,000億円の予算をつぎ込んで今回のミッションに取り組んでいます。オシリス・レックスが地球へ帰還するのは2023年ですが、日本は悠々とそれを待っている訳にはいかないでしょう。

宇宙空間を巡る国際競争において、いかに日本の技術力や先見性を生かすかが問われています。今回のオシリス・レックスの成功は、日本の宇宙開発にとって大きな分岐点になるかもしれません。

本記事は、2020年11月13日時点調査または公開された情報です。
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