わかる政治経済シリーズ 第15回

自由権(精神の自由)

人間の尊厳を支える精神の自由とは、どのようなものでしょうか?

本ページでは自由権における「精神の自由」について解説します。


目次

自由権における「精神の自由」とは?

精神の自由とは、人間らしさを保つために必要不可欠な権利です。

人間は、心の中で自由に考え、学び、判断し、それを表現します。このような精神面の働きが、国家権力をはじめ何ものによっても妨げられないとき、人間は初めて人間らしさを保つことができます。

日本国憲法では、人間の存在の根幹にかかわる精神の自由として、思想および良心の自由、表現の自由、信教の自由、学問の自由を保障しています。

憲法19条「思想および良心の自由」とは?

「思想および良心の自由」は、人間の精神面の働きのうち、もっとも内面的なものです。これが侵害されると人間らしさが失われてしまうため、心の自由は絶対的に憲法で保障されています。

思想および良心の自由の判例:1973年三菱樹脂事件

三菱樹脂事件とは、思想および良心の自由について争われた民事訴訟事件です。原告は、三菱樹脂に入社試験で、身上書に学生運動歴を秘匿していたことから、使用期間終了直前に本採用を拒否されたことで訴訟を起こしました。

三菱樹脂事件の争点

学生運動経験があることを理由とした企業の本採用拒否は、憲法19条における思想および良心の自由に対する侵害にあたるか、私人間においても適用されるかどうかが争点となりました。

三菱樹脂事件の判決

最高裁では、解雇は合憲であると判決されました。憲法19条は、会社と従業員という私人間に直接的には適用されません。特定の思想、信条ゆえの採用拒否は違法にならず、企業側にも雇用の自由があります。

憲法21条「表現の自由・検閲の禁止」とは?

表現の自由とは、人が考えたことや知った事実を発表する自由です。憲法第21条により、集会・結社・言論・出版の自由をはじめ、その他いっさいの「表現の自由」が保障されています。

これにより、考えたことや知った事実を自由に発表することができますが、この自由権の行使は、思想および良心の自由と異なり、名誉やプライバシーを侵害した場合には、他人の権利と衝突することになります。そこで、表現の自由と他人の権利との調整をどうすべきかが問題となっています。

表現の自由を制限する場合は、十分な根拠に基づいて行う必要があり、公権力が外部に発表されるべき思想の内容をあらかじめ審査し、必要があるときにはその発表を禁止する「検閲」という手段で制限することは特に禁じられています。

表現の自由の判例その1:1960年東京都公安条例事件

東京都の許可条件に違反する集会・デモ行進を指導したとして、主催者が東京都公安条例違反で起訴された事件です。


東京都公安条例事件の争点

デモ行進を許可制とする東京都公安条例は、憲法21条の集会・結社・表現の自由に対する侵害ではないかが争点となりました。

東京都公安条例事件の判決

東京都公安条例は、デモを暴徒化させず、公共の福祉を守るための必要最小限の制限であるとして合憲と判決されました。デモは「許可」を義務づけられているものの、実質的には「届出」と同じと考えられます。

表現の自由の判例その2:1957年チャタレイ事件

作家であるローレンスの小説『チャタレイ夫人の恋人』の翻訳が刑法第175条のわいせつ物頒布罪として問われた事件です。

チャタレイ事件の争点

刑法175条わいせつ文書頒布罪が、憲法21条の表現の自由を侵害しないかどうかが争点となりました。

チャタレイ事件の判決

最小限の性道徳維持は公共の福祉であると考えられるため、刑法175条わいせつ文書頒布罪は合憲であると判決されました。

検閲の禁止の判例:1970年~1997年教科書検定訴訟

高等学校の歴史教科書を執筆した原告は、自著が教科書検定で不合格となったり、訂正すべき点が指摘されたりしたことを不服として、何度か訴訟を起こしました。

教科書検定訴訟の争点

高校の教科書検定制度は、検閲に該当しないかどうかが争点となりました。

教科書検定訴訟の判決

検定制度は教育内容の統一を図るための必要な措置であり、教科書の検定は合憲であると判決されました。教科書の検定で合格しなくても、一般図書として発売することができるので、表現の自由は保障されています。

改正組織犯罪処罰法は表現の自由を侵害する?

2017年に組織犯罪処罰法が改正され、「共謀罪」の構成要件を改める「テロ等準備罪」が新設されました。これにより、組織的な犯罪集団が重大な犯罪を実行するため、物品の手配や下見などの準備をした場合に、実行前でも処罰することが可能となりました。

ただし、共謀罪が適用される範囲があいまいであり、組織的犯罪集団かどうかの調査という名目で自由が奪われることが問題とされています。

憲法20条「信教の自由」と「政教分離」の原則とは?

信教の自由は、人がどのような宗教を信じてもよいとする自由です。また、宗教を信じないことも含めた自由でもあります。

憲法には国家の政治と宗教が結びつくことを禁じる「政教分離の原則」があり、国およびその機関は、宗教教育やその他のいかなる宗教活動もしてはいけません。ただし、宗教団体が運営する私立学校に補助金を交付することは合憲です。

政教分離に反するかどうかは、行為の目的に宗教意義が含まれているか、支出の効果が特定宗教への援助にあたるか、という基準があります。

政教分離の判例その1:津地鎮祭訴訟

津地鎮祭訴訟は、市立体育館建設の際に行われた地鎮祭が、政教分離に反するか争われた行政訴訟です。1965年、三重県津市が市立の体育館の起工式を神式の儀式(地鎮祭)で行い、その費用を公金で支出したため、住民がこの支出は違法として訴訟を起こしました。

津地鎮祭訴訟の争点

公金で神道の地鎮祭を行ったことが、政教分離の原則に違反するかどうかが争点となりました。


津地鎮祭訴訟の判決

地鎮祭は世俗的行事となっており、地方公共団体がそれをおこなっても禁じる宗教活動にあたらないと判断して、合憲と判決されました。

政教分離の判例その2:愛媛玉ぐし料訴訟

愛媛玉ぐし料訴訟とは、愛媛県知事が戦没者の遺族の援護行政のために靖国神社などに対して玉串料を公金から支出したことに対し、市民団体が違法として訴訟を起こしました。

愛媛玉ぐし料訴訟の争点

玉串料を公金から支出したことが、政教分離の原則に違反するかどうかが争点となりました。

愛媛玉ぐし料訴訟の判決

最高裁は、玉ぐし料の宗教的意義は明白で、政教分離に反するとして違憲判決を出しています。

政教分離の判例その3:砂川空知太神社訴訟

北海道の砂川市が市有地を空知太神社の建物、鳥居などの敷地として無償で使用させていたことで、住民らが政教分離に反するとして訴訟を起こしました。

北海道砂川市が市有地を、空知太(そらちぶと)神社の氏子集団を中心に構成された町内会に、神社の建物、鳥居などの敷地として無償で使用させていたことに対して、住民らが「市が敷地の使用貸借契約を解除し同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないこと」が違法に財産管理を怠るものであることの確認を求めて訴訟を起こした。

砂川空知太神社訴訟の争点

市が市有地を神社等の宗教施設として無償貸与し、土地の管理を怠っていることが憲法の政教分離の原則に違反するのかが争点となりました。

砂川空知太神社訴訟の判決

最高裁は市有地の無償提供は、砂川氏が特定の宗教団体に対して特別の便宜を提供し、援助していると評価されてもやむを得ないとして違憲と判決されました。

憲法23条「学問の自由」とは?

学問の自由は、大学や高等研究機関における研究や学説の自由、研究成果を発表する自由、研究成果を教授する自由を指します。

この自由には、大学の管理運営を自主的に行う「大学の自治」も含まれています。

大学の自治の判例:1963年東大ポポロ劇団事件

1952年、東京大学の学生団体ポポロ劇団が演劇発表会を行った際、学生が会場にいた私服警官を暴行した事件です。

東大ポポロ劇団事件の争点

学生がとった行動が、憲法第23条が保障する「学問の自由」と大学の自治を守るためのものであるか、大学に無許可で警察が学内に立ち入ることは学問の自由を侵すかどうかが争点となりました。

東大ポポロ劇団事件の判決

本件の集会は大学の学問の自由と自治を共有するものでないため、警察官の立入りは大学の学問の自由と自治を侵すものではないと考えられたため、警察官の立ち入りは合憲であると判決されました。

戦前の思想・学問の自由の弾圧

第二次世界大戦以前は、国家にとって不都合となる学説には圧力がかけられ、学問や思想の自由が奪われることがありました。

1993年滝川事件

京都帝国大学の滝川幸辰教授の自由主義的刑法学説を左翼思想として、文部大臣が滝川教授を休職処分とした事件です。

1935年天皇機関説問題

東大享受の憲法学者で貴族院議員でもあった美濃部達吉が主張する「統治権は国家にあり、天皇もその一機関である」とする学説が、貴族院で問題とされ、その著書が政府によって発売禁止処分となった事件です。

政府は統治権の主体が天皇にあることを明示する国体明徴声明をだし、天皇機関説を教えることを禁じました。

まとめ

以上、自由権における「精神の自由」について解説させていただきました。

本記事は、2022年7月1日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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