在米日本人レポート

知っておきたい!アメリカの太陽光発電事情や政策、問題点(2022年7月情報)

アメリカでは脱炭素化に向けて太陽光発電の普及が本格的に始まっています。

2021年8月、アメリカのエネルギー省は「2035年までに総発電量の40%を太陽光発電が占める可能性がある」ことを発表しました。つまり、アメリカは太陽光発電を積極的に導入することに本腰を入れるという訳です。

アメリカで注目されている太陽光発電について、政策や現状、そして問題点など、日本人としても知っておきたいことをまとめました。


太陽光発電に関するアメリカの政策

アメリカのバイデン大統領は2020年の大統領選時の公約として「2035年までに電力部門の100%脱炭素化」を挙げています。そして、これを実現するために1兆ドル(約135兆円)規模のインフラ投資計画法(通称:Build Back Better)を成立させました。

この政策は「アメリカのインフラと競争力に対する一世一代の大型投資」と言うほどのもので、アメリカ国内の道路や水道の整備をはじめ、電気自動車(EV)の充電設備普及、電力インフラ整備、クリーンエネルギーの最先端技術開発および導入支援などを含んだ包括的なものです。

なかでも、エネルギー(気候変動対策)については、従来の石炭・石油・天然ガスといった化石燃料から、環境への影響が少なく持続可能なクリーンエネルギーに移行することを目標にしています。同時に、太陽光発電をはじめとするクリーンエネルギー産業の雇用を増やす狙いもあります。

100%脱炭素化という目標を達成するために重要なポイントとされているのが「太陽光発電」です。太陽光発電は2035年までにアメリカの総発電量の40%を超え、2021年時点の構成比3%からおおよそ13倍にまで拡大することが見込まれています。

エネルギー省の報告書によると、2030年までに太陽光発電の開発スピードを3倍から4倍にまで高めなければいけないとあります。つまり、8年以内に太陽光発電を急速に普及させる必要があるということです。

事実、ホワイトハウスは「太陽光発電に対する歴史的な投資が必要」という声明を発表しており、太陽光発電の開発、普及、国際競争などに注力する意気込みです。太陽光発電事業を含む気候変動対策全体には今後10年間で5,500億ドル(約74兆円)が確保されています。

Build Back Better計画は当初、3兆5,000億ドル規模の投資計画があったほど「バイデン大統領の肝いり政策」なのです。

アメリカの太陽光発電の現状は?

アメリカのエネルギー省によると、2021年時点の太陽光発電量は、総発電量全体の3%に相当する80ギガワット(80GW)です。2010年時には約2.5GWだったことから、拡大傾向にあります。

アメリカの住宅に設置される一般的な太陽光発電の平均出力は2.5キロワットから4キロワットとされている(日本も同程度)ので、おおよそ4,000万世帯から8,000万世帯分の電力が太陽光発電で賄われることになります。(アメリカの世帯数は約1億2,200万世帯)

アメリカの中で太陽光発電に最も注力している州がカリフォルニア州です。同州は連邦政府に先行するかたちで太陽光発電の普及に力を入れてきました。

例えば、2006年には「CSI: California Solar Initiative」が成立し、同州内で太陽光発電システムを導入した家庭や企業に補助金を支払う制度があります。この制度では、電力需要が上がるにつれて補助金の額が段階的(10段階制)に下がる仕組みになっています。これにより、限られた予算内で長期的かつ広範囲に補助金が行き渡り、結果的に太陽光発電が普及した画期的な制度です。


また、同州では2020年1月以降に建設される新築住宅には太陽光発電を設置することが義務付けられました。(太陽光発電の義務化は全米初)これにより、年間で15,000の新築住宅に太陽光発電が設置されます。また、既存住宅を含めると年間約150,000の住宅が太陽光発電を設置することになります。(同州の太陽光発電市場は5倍になる試算)

同州はアメリカ国内で最も環境保護対策や気候変動対策に取り組んでいる州として注目されており、近隣のアリゾナ州、ニューメキシコ州、ユタ州、テキサス州といった、日照時間が長い州は太陽光発電の普及に向けた取り組みが進められています。

ちなみに、カリフォルニア州が太陽光発電や蓄電池の普及に注力している理由のひとつが山火事です。カリフォルニア州は乾燥、強風、高気温でなおかつ丘陵地帯が多いことが特徴です。さらに住宅や人口が密集しています。(有名なビバリーヒルズ一帯もこれに該当する)

2018年に同州で起きた史上最悪の山火事「Camp Fire(85名が死亡、約19,000の家屋が焼失)」の原因が送電線だったこともあり、山火事の危険がある際には計画停電を繰り返してきました。このような事態に備えるために、とくに山火事多発エリアでは太陽光発電や蓄電池の普及に取り組んでいます。

カリフォルニア州の山火事に関しては以下の記事もあわせて参考にしてください。

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太陽光発電の問題点

言わば「政府のお墨付き」を得た太陽光発電ですが、問題点があることも指摘されています。

環境破壊や環境汚染

太陽光発電は環境破壊や汚染を引き起こす問題があります。環境問題やエネルギー問題の専門家として知られるアメリカ人のMichael Shellenberger氏のツイートでは「太陽光発電は環境保護になると考えられているが、従来の発電施設の300倍も土地を必要とする」ことを指摘しています。(同ツイート内では太陽光発電パネルに埋め尽くされた山が映し出されている)

また、ロサンゼルスタイムズ紙の記事を引用するかたちで「使用済みの太陽光発電パネルは埋め立て地に廃棄され、鉛、セレン、カドミウムなどの有毒な重金属が地下水を汚染する可能性がある」とも指摘しています。

ニューヨークタイムズの記事では、使用済の太陽光発電パネルはアフリカ諸国に廃棄されており、再利用するよりも新しい物を購入する方が低コストになる問題点も指摘しています。(設置だけでなく廃棄でも場所を取る問題もある)

中国との関係悪化

太陽光発電は中国との関係を悪化させる可能性があります。

アメリカは太陽光発電をはじめとする脱炭素関連技術やインフラで国際シェアを広げたい狙いがあります。一方で、アメリカは太陽光発電パネルなどの部品供給で70%のシェアを占める中国に大きく水をあけられている状態です。(アメリカは3%、日本は1%)

アメリカとしては成長分野の太陽光発電において、中国が世界のリーダーになることは面白くありません。そのため、バイデン大統領は、太陽光発電パネルの原材料を製造する中国系企業5社をエンティティリスト(Entity List:外交政策上で懸念がある企業のリスト)に追加し、事実上の制裁を加えました。

バイデン大統領は、中国企業に制裁を加えた理由に「新疆ウイグル自治区での強制労働問題」を結びつけました。中国の太陽光発電パネルの製造(原材料ポリシリコンの製造)において、新疆ウイグル自治区で強制労働が行われているとしたのです。

また、この理屈をG7の共通認識にすることで、太陽光発電における中国の存在感を低めようとしました。つまり、アメリカは「人権問題」を理由にして、太陽光発電分野から中国を締め出そうとした訳です。


アメリカ以外の主要国としては「人権問題」となると、それを無視して中国と取引を続けるのは難しくなります。この点においてもアメリカはしたたかでした。

これを受けて中国の習近平国家主席は2021年に開催された共産党創立100年の演説の中で「外部勢力によるいじめや圧力を決して許さない。故意に圧力が続くなら、14億人の中国人民の血肉で築かれた「鋼鉄の長城」の前に打ちのめされることになるだろう」と述べています。

太陽光発電に力を入れるアメリカは「人権問題」を理由に、同盟国と協力することで中国を出し抜こうとしていますが、中国はアメリカのやり方には納得できないでしょう。太陽光発電においても、アメリカと中国の間で軋轢が起きていることは問題です。

新たな既得権益の温床になる

Shellenberger氏は、廃棄された太陽光発電パネルが環境汚染を引き起こしていることについて執筆したところ、太陽光発電業界の団体代表者から個人的に圧力がかかったことを公表しています。

政府資金や利権を狙う業界団体や企業と、太陽光発電の問題点を訴える人達の間で争いが起きていることも事実です。利益を狙う企業としては「太陽光発電は政府の方針」という大義名分があるので、反対勢力を黙らせてでも普及を進めると見られます。

アメリカではこれまでに5G回線(5Gタワー建設)や、スマートメーター(電力メーター)の設置をめぐり、業界団体や企業が個人に圧力をかける問題が起きています。莫大な予算が確保されている太陽光発電についても例外ないでしょう。

アメリカ政府が本腰を入れて予算を確保したということは、それを狙う業界団体や企業が増えるということです。今後10年以上にわたって太陽光発電は政府お墨付きの事業になるため、新たな既得権益構造の温床になる可能性があります。

日本の太陽光発電事情は?

最後に日本の太陽光発電事情を見ておきましょう。

環境エネルギー政策研究所がまとめた結果によると、2021年の総発電量のうち、9.3%が太陽光発電だったとあります。(石炭とLNGで全体の58.2%を占める)そして、太陽光発電出力量は5GW程度(アメリカは80GW)で、太陽光発電の導入については住宅用、事業用いずれも低迷としています。(一般社団法人太陽光発電協会

具体的な導入数を見ると、2012年から2013年にかけては27.2万件でしたが、2017年から2020年は年平均14.3万件で推移し、近年で半減していることが分かります。事業者の声として「導入コスト高」や「採算性が合わない」、「事業リスクに見合わない」ことも紹介されています。

2021年10月22日、日本政府は新たなエネルギー基本計画として「再生可能エネルギーを最優先に最大限導入する」ことを閣議決定しました。この計画では、2030年までに太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの割合を倍増させる内容になっています。

具体的な数値目標として、2030年に再生可能エネルギーの比率を18%から36-38%に引き上げ、そのうち太陽光発電は14-16%に設定しています。数値の違いはありますが、日本政府の方針はアメリカ政府の方針と似たようなものであることが分かります。

日本も2030年に向けて太陽光発電の普及が加速することは間違いないと見られます。

まとめ

アメリカではバイデン大統領の公約である脱炭素化に向けて、2035年までに太陽光発電の普及が急速に進むと見られています。アメリカ政府の肝いりだけに、環境破壊や環境汚染が軽視されて普及だけが進むかもしれません。また、業界団体や企業の利益追求ばかりが優先される懸念もあります。

太陽光発電は普及を急ぐあまり、国民の意思を無視したり、中国をはじめとする外交問題の引き金になる可能性を秘めています。アメリカと同じ方針の日本も同様のことが起こる可能性があります。

本記事は、2022年7月26日時点調査または公開された情報です。
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