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イギリスの社会状況2022

イギリスの不法移民ルワンダ移送に対して欧州人権裁判所停止命令(2022年6月情報)

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目次

はじめに

2022年4月、イギリス政府とルワンダ政府間で、欧州から英仏海峡(ドーバー海峡)を小型船舶などに乗ってイギリスに入国してきた不法移民・難民の一部をルワンダに移送する取り決めを締結しました。

第一便がイギリスを離陸しようとした2022年6月14日直前に、欧州人権裁判所によって移送計画を差し止めるべきという判断が下され、イギリス政府は、移送計画を急遽延期せざる負えませんでした。

ルワンダ移送計画とは

2021年4月14日、イギリスのプリティ・パテル内相とルワンダのビンセント・ビルタ外務・国際協力相との間で、試験期間5年間の『イギリスおよびルワンダ間における移民・経済開発パートナーシップ』を締結しました。その内容はドーバー海峡を小型船舶などに乗り、イギリスに不法に入国してきた人たちの一部をルワンダに移送し、ルワンダで難民申請を行うというものです。問題なく履行されれば、パートナーシップは5年後も継続される計画です。

主な内容とは

・イギリスは不法移民のルワンダ移送に関して、ルワンダ政府に経済援助金として1億2000万ポンド(約200億円 1ポンド=167円)を先払いする。

・小型船や貨物自動車などの危険および違法手段により、イギリスとフランス間の海峡を渡って、イギリスに不法入国を試みる移民や難民をイギリスの責任においてルワンダに空輸移送する。移送された不法移民および難民はルワンダで難民申請の処理が行われる。移送人数に対する人数制限はなし。

・移送された人たちはルワンダにおいて、人権尊重の下、人道的に取り扱われることを条件とする。

1.いつでも自由に出入りが出来る宿泊施設が提供されること。

2.ルワンダで、難民申請が許可された場合は、ルワンダでの居住権が与えられ、居住に必要な支援や医療を受けることが出来る。

3.難民申請が許可されなかった場合でも、移送された人が本国に帰国することで不利益が生じるような場合は、ルワンダに居住するための許可申請を行う事が出来る。ルワンダは本人がルワンダを離れるまで、住居のサポート、医療、安全の確保を提供する。

4.移送された本人が難民でもなく、保護も必要でない場合は本人の居住権のある国に帰還させるか、ルワンダにおいて移民として残留することを考慮する。

5.正当性のある理由によりイギリスに再移送を行う必要があると判断された場合、ルワンダは国際人権基準に従い措置を講じる。

パートナーシップ締結の背景

イギリスとフランスを隔てるドーバー海峡を通じて多くの不法移民や難民がイギリスに入国をする現状に、イギリス政府は常に頭を悩ませていました。イギリスが彼らを難民として受け入れるか否かの判定を出すまでの長期間、彼らの衣食住、医療などはすべてイギリス国民からの税金で賄われているためです。

イギリスは不法移民・難民対策に対して、年間1億5000万ポンド(約250億円 1ポンド=167円)の予算を組んでいます。それ以外にもホームレスを含む不法移民・難民の居住地の確保のために、毎日4700万ポンド(7億8500万円)が拠出されているのです。

イギリスのボリス・ジョンソン首相は「国民に金額を空白にした小切手を切れと言い続ける事は出来ない」と言っているように、その負担額は重く、日に日に不法移民の数は増加する傾向にあります。

また、ドーバー海峡から小型船舶に乗ってイギリスに渡ってくる人たちの中には、ゴムボートのような粗末なものもあり、イギリスに到着する前に水難事故で命を落とす人の数も少なくありません。今回のパートナーシップの締結により、少しでもそのような不法移民の入国に歯止めがかかるのではないかと期待しています。

ドーバー海峡から小型船舶による不法入国者数

2018年:299人 (水難事故による死亡者数:1人)
2019年:1,843人(5人)
2020年:8,466人(9人)
2021年:28,526人(37人)

主な国(2021年)

  1. イラン 28%
  2. イラク 20%
  3. エリトリア 10%
  4. シリア  8%
  5. ベトナム 5%
  6. アフガニスタン 4.6%
  7. スーダン 3.7%
  8. アルバニア 2.7%
  9. エチオピア 1.9%
  10. クウェート 1.8%

ほとんどがアフリカから移動してきている移民ですが、ベトナム人の数もすくなくありません。2019年10月には、冷蔵トラックのコンテナに隠れ、ドーバー海峡を渡り、イギリスに不法に入国しようとしたベトナム人38人全員がトラック荷台のコンテナの中で命を落としました。その後の調査の結果、ベトナム、イギリス間の人身売買のシンジケートがある可能性が明らかになったのです。

男女年齢別(2021年)

  • 18歳未満(12%) 男性:2523人 女性:735人 不明:65人
  • 18歳~24歳(33%) 男性:8924人 女性:454人 不明:21人
  • 25歳~39歳(42%) 男性:10839人 女性:1049人 不明:20人
  • 40歳以上(6%) 男性:1369人 女性:249人 不明:12人
  • 未登録:(8%)

2021年7月、イギリス政府はフランス政府に対し、2021〜2022年のフランス側のドーバー海峡近辺の警備費用として5700万ポンド(約95億円 1ポンド=167円)の拠出を約束しました。しかしながらフランス側のドーバー海峡から小型船舶で押し寄せる不法移民の数は減るばかりか増える一方です。

ルワンダ移送計画は不法移民の入国阻止に有益なのか

イギリス政府のウェブサイトでは、毎週ドーバー海峡に到着する不法移民の人数と船の数が公表されます。2022年4月に移送計画の取り決めが発表されて以来、ドーバー海峡を渡ってくる不法入国者の数は以下の通りです。

2022年4月14日~6月12日

不法入国者数: 4263人 小型船舶数:150艘

季節が暖かくなってくる5月~9月に特に集中して、ドーバー海峡を渡ってくる船の数と不法入国者数が増加します。2022年の4月~5月の記録を前年度の同時期に比べてみると、その数ははるかに大きく上回っていることがわかります。

残念ながら、イギリスからルワンダへの移送計画は、決して、イギリスへ危険を冒してでも入国しようとする彼らの気持ちを抑える一手とはなっていないようです。

しかしながら、イギリス政府は今回の欧州人権裁判所の判決により、移送の延期をおこなったものの、決して計画自身を破棄したわけではないと発表しています。継続して審議を行い、速やかに移送計画を実行すべく準備を行っているということです。

まとめ

今回のルワンダ移送計画が発表された後、異例にもチャールズ皇太子は不愉快さを表したと言われています。人権保護団体による抗議や圧力も強まっています。

ドーバー海峡からの不法入国のみならず、イギリスは今回のロシア・ウクライナの戦争によって犠牲を強いられている多くのウクライナ難民の受け入れも積極的に行っています。イギリス政府すなわち納税者であるイギリス国民に負担が重くのしかかっていることも無視できません。主に移送するのは独身の男性を中心とすることから、ルワンダにとっても働き手が増え、両国にとって利益のある取り決めであったことが伺えます。

参考資料サイト

UK Plan to Ship Asylum Seekers to Rwanda is Cruelty Itself | Human Rights Watch (hrw.org)

Memorandum of Understanding between the government of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and the government of the Republic of Rwanda for the provision of an asylum partnership arrangement – GOV.UK (www.gov.uk)

uk sending refugees to rwanda agreement – Search (bing.com)

英政府、難民申請者のルワンダ移送計画を発表(ルワンダ、英国、アフリカ) | ビジネス短信 – ジェトロ (jetro.go.jp)

Why are asylum seekers being sent to Rwanda and how many could go? – BBC News

イギリス不法移民ルワンダ移送BBC – Search (bing.com)

Asylum support: What you’ll get – GOV.UK (www.gov.uk)

Irregular migration to the UK, year ending December 2021 – GOV.UK (www.gov.uk)

Migrants detected crossing the English Channel in small boats – weekly data – GOV.UK (www.gov.uk)


本記事は、2022年10月16日時点調査または公開された情報です。
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この記事を書いた人

2021年に公務員総合研究所に入所した新人研究員。

好きな言葉は、「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」

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