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わかる政治経済シリーズ 第24回

「社会権」の中でも最も根本的で、基本となる条文「生存権」とは?

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目次

生存権とは?

「生存権」とは国民が国家に対して、生存または生活のために必要な諸条件の確保を要求する権利を言います。

日本国憲法は第25条で次のように定めています。

憲法25条

第1項     すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

第2項  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

憲法第25条では、国民は誰でも「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利があること、また、「国民が健康で文化的な最低限度」の生活を営むために、国は「社会福祉」、「社会保障」、「公衆衛生の向上および増進」に努める責任があることが定められています。

これを受けて現行法では「生活保護法」「児童福祉法」などの各種「社会福祉」がなされ、「国民保健法」「雇用保険法」などの「社会保障制度」が用意されています。また、「食品衛生法」「環境基本法」などによって公衆衛生の整備がされています。

「生存権」は「社会権」の中でも最も根本的な基本となる条文です。

今回は、以下に、「生存権」について理解するうえで重要な2つの訴訟について説明します。

訴訟その1:朝日訴訟 – 1957年 肺結核患者の例

「朝日訴訟」とは、1957年、国立岡山療養所に入院する肺結核患者であった朝日茂さんが、日用品費の生活保護基準が低く抑えられすぎており、憲法第25条や生活保護法に違反しているとして起こした訴訟を言います。

この裁判は、人間らしい生活とは何か?を問い直すという意味で「人間裁判」とも呼ばれ、「社会保障」の拡充を憲法25条の実現というかたちで求めた最初の事例として重要であると考えられています。

朝日訴訟の争点は?

この「朝日訴訟」の争点は、「生活保護」の支給額があまりに低すぎ、「生存権」が規定する「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するにはほど遠く、違憲なのではないか?というポイントです。

朝日茂さんは肺結核のため十数年間入院しており、「生活保護法」による医療扶助と生活扶助(月600円の日用品費)を受けていました。

しかしこの月600円という生活保護費はあまりに低水準であり、生活に必要なものが十分に購入できるとは言えませんでした。


当時、国が想定していた日用品費600円の内訳は、2年間で肌着が1枚、1年間でパンツが1枚などで、これでは人間らしい、最低限度の生活を営むには満たないとして国を相手取って裁判を起こしました。

朝日訴訟の判決は?

それでは「朝日訴訟」の判決はどうなったのでしょうか?結論から言えば朝日さんの主張は認められず、違憲ではないと判断されました。

その理由として、「生存権」の規定はあくまで国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるように努力する政治的・道義的義務を国に課しているに過ぎず、法的義務を課しているわけではないので、この規定を根拠に訴訟を起こすことはできないからであると説明されています。

「健康で文化的な最低限度の生活」という規定はあくまで努力目標であって、スローガンのようなものであるということです。このような考え方を「プログラム規定説」といいます。

「生存権」の具体的な実現には予算が必要であり、予算の配分は国家財政の問題です。そのため、どこまでこの規定を実現すべきかは行政と立法の裁量に任されているとするのがその論拠になります。

そのため、月に600円の日用品費はすこぶる低額ではあるが違憲とまでは断定できないというのが裁判所の判断です。

原告である朝日茂さんは二審の後の上告後まもなく病死し、主張は認められないまま裁判は終了となりました。

この裁判をきっかけとして、国民の「生活保護」に対する関心が高まり、一審判決の後で日用品費は前年よりも47パーセントと大幅に引き上げられ、「社会保障制度」を前進させるという結果になりました。

訴訟その2:堀木訴訟 – 全盲の視覚障碍者の例

次に、「堀木訴訟」について説明します。

「堀木訴訟」とは、全盲の視覚障碍者であるため障害福祉年金を受給していた堀木フミ子さんが、夫と離別して次男を独力で養育しなければならなくなったため児童扶養手当を請求したところ、障害年金と児童扶養手当は併給できないとして却下されたことについて、請求却下の取り消しを求めて起こした訴訟を言います。

堀木訴訟の争点は?

「児童扶養手当法」には、母または養育者が公的年金を受けているときには支給できないという条項があり、堀木さんは全盲で障害福祉年金をもらっていたため、手当を受給することができませんでした。

そこでこの「児童福祉手当法」の併給禁止規定は憲法25条の「生存権」に違反しているのではないか?というのが「堀木訴訟」の争点になります。

堀木訴訟の判決は?

「堀木訴訟」は最終的には堀木さんの敗訴に終わりました。「朝日訴訟」の場合と同じように、「生存権」はあくまで国に対する努力目標であるという考え(プログラム規定説)に基づき、具体的な立法措置については立法の裁量にゆだねられているというのが結論です。

「健康で文化的な最低限度の生活」というのは極めて抽象的・相対的な概念であるため、著しく合理性を欠き明らかに裁量の濫用であると思われる場合を除いては違憲と判断することはないということです。

まとめ

以上、社会権シリーズ第二回「生存権」について説明しました。


本記事は、2023年2月17日時点調査または公開された情報です。
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この記事を書いた人

2021年に公務員総合研究所に入所した新人研究員。

好きな言葉は、「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」

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