【刑務所で動物を飼う?】事件の証拠はコウモリだった

長い刑務所生活の中で、受刑者が小動物の世話をすることがあります。生き物を可愛がるという事は本来とても素晴らしい事ですが、場所が刑務所であればそうは言っていられません。今回は摘発されても後を絶たない動物を可愛がる受刑者についてのコラムです。


動物の世話を焼く受刑者

ある日、受刑者が部屋でコウモリを飼っていたということで、規律違反行為として摘発されたことがありました。部屋の床の板をはがして、床下に集まるコウモリをかわいがっていたというのです。

コウモリを飼うこと自体が規律違反行為に当たるかどうかの議論はありましたが、床の板をはがす(壊す)ことは間違いなく規律違反だということで、懲罰に付すべく審査事務を進めることになりました。そこまではいいのですが、その証拠となるコウモリ自身をどうするかで議論が紛糾しました。相手は生き物ですし、審査には相当の日数を要するので、そのままにしたら死んでしまうかもしれません。刑務官がエサを与えようとしても食べません。

結局、写真を撮ってそれを証拠にすればいいだろうという意見が採用され、無事コウモリは釈放(?)されましたが、実は同じようなことをする受刑者が跡を絶ちません。例えばスズメやハトに対する餌付けです。食べ残しておいたご飯粒やパンの耳などを部屋の窓辺に置いてスズメたちを誘うのです。

許容できない理由

このようなことは一般社会でも行われていることですし、小動物をかわいがる気持ちはむしろ好ましいという見方もあるでしょう。しかし、刑務所ではこれをそう簡単に許すことはできません。一人の受刑者の行為を容認すれば、全員の行為を許さざるを得ません。その結果どういうことになるか。受刑者の部屋の窓辺には常にご飯粒などが置かれ、スズメやハトが居つくようになり、フンで窓や壁が汚れてしまうでしょう。そこから細菌などが部屋に入り込み受刑者の健康に害を及ぼすかもしれません。野鳥から人間に移る鳥インフルエンザが問題になっている昨今、とてもそういった行為を認めるわけにはいかない。そう刑務所では考えるわけです。

スズメを愛でる昭和の脱獄王、白鳥由栄

話は飛びますが、その昔、4つの刑務所から逃走して脱獄王と言われた白鳥由栄という人がいました。壁を垂直に登ったり、鉄格子に味噌汁を毎日少しずつかけて腐食させ、これを折り取って逃げたりと、刑務所の考えが及ばないような方法で逃げるものですから、英雄視されるようになった人です。当然刑務所の威信はガタ落ちしましたので、これではいかんと日本で一番警備力が強いとされていた東京の府中刑務所に彼を移送しました。

府中刑務所ではもちろん彼を個室に入れて厳重に警備しました。誰もがそのまま厳重警備を続けると思っていたのですが、ある日の刑務官の視察が事情を一変させました。白鳥が窓際にご飯粒を置き、スズメが寄ってくるのを楽しんでいたというのです。

そして、そのことが所長の耳に入ると、所長は「彼には人間の心がある」と言って個室から出し、ほかの受刑者と一緒に働かせるようにしたのです。周囲は猛反対でしたが、刑務所では所長の声が鶴の声。結局その決断は実行されました。その結果、所長の思いが彼に伝わったのか、その後の彼は模範囚として残りの刑を務め、無事に府中刑務所を出所するに至ったのです。

このエピソードは、私が若い頃に府中刑務所の職員から直接聞いたことなので本当のことだと思うのですが、同じスズメへのエサやりも見方が違えばこういうことにもなるのだということです。その時彼を懲罰にかけていたら果たしてどうなっていたかとも思いますし、もしコウモリだったら別の展開になっていたような気もします。

(小柴龍太郎)

本記事は、2017年10月22日時点調査または公開された情報です。
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