【陸上自衛隊の教育訓練】「技能検定」と「特技検定」について

国家公務員である陸上自衛隊の隊員の訓練である「教育訓練」の2つ『基本教育』と『練成訓練』があります。また、その教育訓練を実施した『部隊の成果を評価・判定』するを評価する『訓練検閲』や『技能検定』というものがあります。今回は、その教育訓練の概要と、訓練検閲や技能検定について解説します。


陸上自衛隊の訓練の概要

陸上自衛隊の訓練を総称して『教育訓練』と呼びます。教育訓練は隊員及び部隊の練度を向上させ『より精強な部隊を作る』ことを目的として行います。

教育訓練には『基本教育』と『練成訓練』があります。基本教育は職務遂行の基礎となる『知識及び技能』を習得させることを目的として行われるものです。

練成訓練は、基本教育で習得した技能に習熟して訓練練度を向上させる為に行うものです。わかりやすく言い変えれば、基本教育で知識と技能を習得し練成訓練で習得した技能を磨くというわけです。

そして、これら教育訓練の成果を評価・判定するものに『訓練検閲』や『技能検定』があります。今回は、教育訓練のあらましと技能検定・特技検定について解りやすくご紹介します。

部隊の練度を評価・判定する『訓練検閲』

教育訓練を実施した『部隊の成果を評価・判定』するものに『訓練検閲』があります。『訓練検閲』は教育訓練の成果を『実動訓練』を通じて確認するとともに、その練度を評価・判定して、じ後の訓練の資とする為に定期的に行うもので、実施する場合は『訓練検閲基準』に基づいて行われます。

訓練検閲の回数は検閲の対象となる部隊の規模によって異なります。たとえば、ある部隊の場合は一年間で1回以上、あるいは別の部隊では二年間に1回以上という具合に、実施する部隊の規模によって訓練検閲を実施する回数が定められています。

訓練検閲の日数についても、検閲を受ける部隊の規模を含む演習の規模によって日数が異なります。師団・旅団・連隊などのように所属人員の多い大きな部隊の検閲は、演習の規模も大きくなる為に日数が長くなります。

また、中隊・小隊・分隊ように小規模の部隊の場合は日数が短くなります。普通科中隊の1個小隊の編制(へんだて)は38名です。部隊の事情によっては、実際に編成(へんせい)される実員は、多少は増えたり減ったりします。

この小隊の場合『第〇小隊訓練検閲』と言って通常は、中隊長が検閲官となります。小隊規模の検閲は、通常、数時間~1日程度の日程で行われます。

小隊の訓練検閲を、試験に例えると統裁官は『試験官』であり、検閲を受ける小隊長と小隊の隊員が『受験者』になります。さらに連隊長が『視察官』と言う事になります。さらに検閲官を補佐する隊員は、試験助手の役割を果たすことになり、訓練検閲では『補助官』と呼ばれます。

統裁官と検閲官

統裁官は、検閲を受ける部隊を含む各支援部隊を統合した『訓練検閲実行組織』を統括する部隊長のことです。検閲官とは訓練検閲を受ける部隊を評価・判定する部隊長の事で検閲官と統裁官は同じである事が多いです。以下『統裁官』と言う表現で統一します。


訓練検閲の編成

訓練検閲を受ける部隊を『受閲部隊(じゅえつぶたい)』と言います。そして、上級部隊の指定された部隊長(統裁官)が、評価・判定がします。その統裁官を指揮官として訓練検閲を実行する為の演習編成が編成されます。

(なお、数時間で終了する小規模な検閲の場合、駐屯地のグラウンド等で実施される場合もあります。)

検閲を企画運営する統括する部隊を『統裁部』と言います。統裁部はスポーツの大会で言えば『大会本部』に当たります。さらに補助官で編成する部隊は『補助官部』で、スポーツ大会で言うと『審判部』に当たります。そして実行部隊は『受閲部隊』であり『選手』に当たります。

また、訓練検閲は『実際の戦闘を想定して行う実動訓練』なので敵が必要となります。その為、訓練検閲では『演習対抗部隊』という『仮想の敵部隊』が編成されます。この仮設敵部隊の役割も訓練成果の出来、不出来を大きく左右するので、その任務と責任は重要です。

統裁部の編成は、訓練検閲の規模により異なりますが、師団クラスの検閲になると統裁部だけでも大部隊になります。師団演習規模となると『管理班』あるいは『各種の支援組織』も増強されて大掛かりな実施部隊が編成されます。

仮設敵の戦況現示(せんきょうげんじ)

仮設敵部隊はリアルな戦闘状態を演出する為に、実際の戦闘に出来る限り近い各種の戦闘行動をします。受閲部隊に見えるように演出することを現示と言います。

また仮設敵部隊の各隊員が、車両や装備等を駆使して数々の戦闘状態をリアルに演出することを『戦況現示』と言います。戦況現示は、状況によっては目に見えない音だけの場合もあります。

部隊の行動能力を最大限に発揮して、実際に起こりうる複雑な戦闘状態を現出させます。たとえば敵のヘリによる偵察や急襲の現示。地雷や地雷原の構成であるとか、ゲリラによるかく乱など、訓練検閲の『目的』に応じた各種の戦況現示を行います。

また毒ガスの攻撃なども実施して、受閲部隊の化学兵器の対応能力を判定したりもします。一般的には防護マスク(防毒マスク)の装着要領であるとか、防護服の正確な装着が出来ているかどうかなどです。状況により化学科部隊の除染能力も判定します。

仮設部隊の戦況現示は毒ガスや実弾を使用するわけには行きません。その為、実弾の代用は空砲で行い。毒ガスの場合は警笛や識別旗などの標記で行います。また、車両なども標旗が使われる事があります。

その都度『演習教令』によって定められます。

演習教令とは

演習教令とは、その訓練検閲の為に作られた特別なルールの事です。簡単な例をあげれば、『検閲実施中に空を飛ぶものは特に指示の無い場合は敵の航空機とみなす。』あるいは『実際の機関銃に加えて、黄色と青の旗は、敵部隊の機関銃とみなす』と言う具合に定めたルールです。演習教令は、その時のみのルールで検閲の度に設定されます。

教令で重要なのは、『彼我の状況』(敵と味方の状況)で、これは訓練開始前に、敵部隊のいる場所と味方部隊のいる場所をあらかじめ想定します。さらに具体的な戦力や主要な武器あるいは車両・補給能力・支援を受けている航空部隊の存在、偵察部隊など、実に細かいところまで想定された状況で検閲を行います。

シュミレーションの開始は『状況開始』

自衛隊の訓練において共通して使用する言葉に『状況開始』という言葉があります。これは『状況開始』が発令された時点で想定された戦闘状態であると仮定して行動をすると言う意味です。

従ってリアルシュミレーションの訓練は、『状況開始』から『状況終了』までという事になります。勿論、『状況開始』が無く敵を想定しない通常の戦闘訓練もあります。


個人の技能を評価する技能検定

訓練検閲が部隊の練度を評価・判定するのに対して、技能検定は『個人の技能を評価・判定』します。この技能検定は、部隊等の長が『技能検定基準』に基づき実施します。

技能検定も多種多様な検定がありますが、全ての自衛官が年に1回以上、必ず実施しなければいけない検定があります。その代表的なものが『体力検定』と『射撃検定』『格闘検定』です。

体力検定と射撃検定・格闘検定

体力検定は全隊員が一年に1回実施します。また各種の課程教育を受ける為に自衛隊の各種学校に入校する前や、レンジャー集合訓練に参加する場合、など必要に応じて体力検定を実施する場合もあります。

実施する種目は次のとおりです。

・腕立て伏せ
・腹筋
・3000m走
・懸垂
・走り幅跳び

それぞれの種目は得点で定められた等級があり、等級は1級から7級まであります。体力検定で級を判定される場合は、点数の低い種目があれば他の種目の得点がいくら高くても、一番低い等級になります。

体力検定は検定実施基準で定められた『一定の時間内』に終わらなければ正式に実施したとはみなされません。また7級の以下の種目がある場合は級外となります。

級外の場合は原則として自衛官の資格を失いますが実用上は補備試験などで補います。

自衛官には重要な射撃検定

また射撃検定と格闘検定も全自衛官が一年に1回受検しなければならない必須の検定です。実弾を撃つ『射撃検定』は、自衛官が有事の際に携行する武器を使用する場合の練度を判定する検定なので特に重要視されています。

新隊員の教育訓練での基本射撃は25メートルで行われますが、部隊に配属された自衛官は200メートルの距離で射撃をします。また、普通科部隊の隊員は300メートルで検定を受けます。

距離が遠くなれば少しの狂いが的中率を下げるので命中精度が悪くなります。また射撃検定には時間制限があって27秒以内に5発とか、20秒以内に5発という具合に一定の時間内に射撃しない場合、打てなかった弾は、点数には加算されません。

これは、過去の戦闘の情報により射撃準備、照準・撃発(引き金を引くこと)に要する時間が基になっています。なお、検定とは別に普通科部隊などでは、部隊対抗による『射撃競技会』なども行われます。

射撃競技会はさらに実戦的になりサスペンダー(釣りバンド)、弾帯、小銃の弾薬、水筒、防毒マスクなどを装着して実戦に極めて近い状態で射撃するなどして実戦能力を高めた競技会が行われます。

射撃検定・格闘検定についても成績優秀者には『射撃き章』『部隊格闘指導官』『上級格闘指導官』などのき章があります。また北方の部隊では『スキー指導官』などの検定き章もあります。

また、技能検定の中には『特技』を取得する為に行う技能検定があり、その場合の検定を特技検定と言います。

陸上自衛隊の特技とは?

陸上自衛隊で言う『特技』とは、特技又は『MOS(モス)』と呼ばれ、自衛官が各種行動をする為に必要となる『免許』及び『資格』のことです。

陸上自衛隊の特技は『特技の名称』あるいは『6ケタの番号』で表示されます。また、特技によってはレンジャー隊員の資格を表す特技『r』のようにアルファベットで表示される特技もあります。

特技とはどういうものか具体的に理解する為に車両の運転免許の例で説明します。陸上自衛隊は各部隊単位で自動車教習所を持っています。自衛官は特例があって、いきなり大型1種免許を取得することができます。

陸上自衛隊の自動車教習所で取得する免許は、民間の自動車学校で取得できる『大型1種免許』と同じものです。ところが、大型1種免許は公安委員会の自動車運転免許ですが自衛隊の特技ではありません。


その為、一般の大型自動車の運転はできますが自衛隊の車両の運転はできないのです。その自衛隊の車両を運転する為の資格が『装輪操縦』という車両特技です。

特技は、運転免許証のように免許証の交付のようなものはありません。特技名及び番号を付与されて人事記録に記載された時点で特技所有者として認定された事になります。

車両を運転する資格『装輪操縦』

陸上自衛隊の隊員が、自衛隊車両を運転する為に『最低限』必要な特技が『初級装輪操縦』で特技番号は『55373』になります。最低限必要な特技と言う意味は、それぞれの特技にはランクがある為です。

たとえば、初級装輪操縦のワンランク上の特技は『中級装輪操縦』(55375)です。ただし初級装輪操縦だけでも自衛隊の大型車両を操縦することができます。

このように特技によって各種のランクがあり、初級、中級、上級あるいは特技によっては、さらに上級の特技が付与されるものがあります。

特技の種類は膨大な数!

陸上自衛隊には16種類の職種があります。それらの職種及び各種技能に特技があります。従って陸上自衛隊で任務を遂行する為に必要な全ての項目について特技があることになります。

たとえば、陸上自衛隊の基礎となる部隊は普通科部隊です。普通科の隊員として、最低限必要な特技が『基本軽火器』です。あるいは『基本迫撃砲』です。迫撃砲の特技が普通科部隊にあるのは、普通科部隊の編成に迫撃砲部隊がある為です。

そして、車両の例で紹介したようにレベルに応じて等級は上がって行きます。
普通科職種で言えば『基本軽火器』→『初級軽火器』→『中級軽火器』→『上級軽火器』→(さらに上級に)と言うぐらいにランクアップして行きます。

また特技は、部隊行動に必要なものだけでなく語学、文書など自衛隊で実務に係る全ての分野に特技があります。この特技を取得する場合は一般的には集合教育あるいは集合訓練において『特技検定』を受検して特技を取得します。

本記事は、2017年10月26日時点調査または公開された情報です。
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