【刑務所はもはや「監獄」ではない】新法律によって変化した刑務所の在り方

平成18年に施行された「刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律」は100年ぶりに新しく施行された刑務所に関する法律です。その新しい法律によって、刑務所の在り方が大きく変化したそうです。今までは「監獄」だった刑務所はある別の施設のように変貌を遂げたのだとか。今回はその様子がよくわかるコラムです。

刑務所に関する法律が新しくなったのは100年ぶり!

平成18年に刑務所は歴史的な変貌を遂げました。およそ100年ぶりに刑務所に関する基本法が変わったからです。

それまでは「監獄法」というおどろおどろしい名前の法律でしたが、それが廃止されて「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」という長たらしい法律が作られ、施行されました。

あんまり長いので、普段は「刑事収容施設法」と言ったり、単に「新法」と呼んだりしています。

「新法」で何が変わったか

何が変わったのかというと、最大のものは「刑務所の使命が変わった」ということだと思います。それまでは受刑者を収容し、刑務所の中の規律・秩序を平穏に保つというのが最大の使命でしたが、新法ではそれに再犯防止の使命が加わったのです。

以前もそれなりに再犯防止のための教育などをしていたのですが、どこかアリバイづくり的なところがあったように思います。例えば「矯正教育」という働きかけをしていたのですが、それは受刑者の希望があればやる、希望しなければやらないといった程度のものでした。

それが新法では受刑者の義務とされ、強制され、受けなければ懲罰に付されることになりました。「俺はそんなもの受けたくない!」といってもダメなのです。格段に強力になり、ネーミングも「矯正処遇」と変わりました。

「矯正処遇」が受刑者の義務となったことによる影響

矯正処遇を受けることが受刑者の義務となったことに対し、一般の方は、

「はあ、そりゃ良かったね。頑張って」

といった程度の受け止め方かもしれませんが、刑務所にとってはこれが相当大変なことなのです。

刑務所は受刑者の「再犯防止」の責任も負うことに

つまり、受刑者の義務となったということは、刑務所はその再犯防止の働きかけを実施する義務が生じたということになるからです。そして、国としてやる以上は結果を出さなければいけません。再犯防止が本当に達成できたのか、後でそれが検証された時、全く効果がなかったということでは刑務所が責められことになります。

もちろん、監獄法時代からの使命である収容の確保と刑務所内の規律・秩序の維持は最優先事項ですからそれをおろそかにすることはできません。それに加えて再犯防止の使命を果たすわけですから、刑務所とすれば、これはとてもしんどいことなのです。

「再犯防止」の具体例

再犯防止に関する具体的な例はいろいろあるのですが、例えば性犯罪の再犯防止です。この犯罪は再犯率が高いと言われ、また世間から忌み嫌われる犯罪ですから、新法ではこれを「特別改善指導」として特に力を入れることにしました。

ちなみに特別改善指導にはこのほか薬物依存離脱指導や暴力団離脱指導などがあります。

「特別改善指導」の内容

指導の内容は本省で認知行動療法という技法を基に開発し、各刑務所でこれを実践します。

まずは性犯罪で入ってきた受刑者を数人集め、グループワークという手法を使ってやるのです。職員(教育又は心理学の専門家など)がリーダー役を務めますが、そのリーダーは受刑者に何かを教えるということはしません。よく行われるような講義形式ではないのです。そうではなく、テーマを与えて受刑者たちに自由に発言させるという方式で行います。

それを続けるうちに発生してくる受刑者間の相互作用的な力を利用しつつ、受刑者たちの性犯罪にまつわる考え方、感じ方、行動を変容させていこうという手法なのです。

「グループワーク」手法の難しさ

このような方式は今まで経験したことがなかったので、リーダーたちもなかなかうまくできませんし、受刑者の方も困惑します。だいたい受刑者は職員の前で自由に話すことはほとんどありません。ですから、「さあ、どうぞ」と言われても、そうそう話が弾むものではありません。初めの頃はほとんどお葬式のような雰囲気になってしまいます。

それに、そもそもそのような性犯罪の受刑者を集め、彼らにやる気を起こさせること自体が難しいのです。その一番の理由は、彼ら自身が性犯罪者だということをほかの受刑者に知られることが嫌だということがあります。それが知られるとほかの受刑者にバカにされて、刑務所内での居心地が悪くなってしまうからです。

犯罪の「格」のようなものの存在

変な話ですが、刑務所では犯罪の格のようなものが存在します。

殺人は横綱クラスで、強盗とか暴行・傷害がそれに続きます。窃盗はほとんど最下位クラスなのですが、一番下は性犯罪。彼らは「マメ泥棒」などと言われ、軽蔑されます。

そんな事情があるものですから、性犯罪防止のための指導を受けることがバレると、「ああ、そうか。アイツはマメ泥棒なんだ」と分かってしまうわけです。

受刑者に配慮した指導を進めるために

こういう事情があるものですから、性犯罪者であることがバレないように刑務所でも知恵を絞ります。

私の勤務していた刑務所では、彼らを「転業」の名目で工場から引き揚げ、個室で暮らすようにした上で指導を受けさせました。

「転業」とは?

「転業」とは工場を変えるという意味で、結構な頻度で行われるものですから、ほかの受刑者に疑問を持たれることはありません。

工場で働きながら指導を受けさせる方法もありますが、それだと「おまえ何の指導を受けてんだ?」などと訊かれ、性犯罪者であることがバレてしまうおそれがあるので、このような作戦を採ったのです。

指導を重ねた受刑者たちの成長

こうして環境を整えて、指導も進んでいくと、受刑者間で言い争いになるようなことが増えていきます。もちろんそのようなときはリーダーの職員が介入して収めるのですが、こじれた人間関係はそう簡単には修復しません。指導も計画どおり進まなくなります。こうなるとリーダーは困るわけですが、このグループワークの真骨頂はこの辺にあるとも言えます。とても重要な局面なのです。

つまり、雰囲気がおかしくなった彼らの人間関係を彼ら自身で乗り越えさせていくのです。ある受刑者が和解案を出し、それを支持する受刑者が現れたり、修正案が出たりして何とかしようとする流れになります。

そのうち、言い争いをした当事者がそれぞれ謝罪して問題が円満解決したりします。こういう経験をすると、そのグループは一段と良い雰囲気で発言し合うようになります。指導の段階もアップします。

刑務所はもはや「監獄」ではない

このような紆余曲折を経て数か月。ようやく指導の全カリキュラムを終えるわけです。リーダー役の職員はヘトヘトになりますが、息つく暇もなく次のグループワークの準備に入ります。

こういうわけで、刑務所は新法になってから様々な再犯防止指導を展開するようになりました。もはやその光景は「監獄」というより学校か病院のようです。「監獄よサヨナラ」です。

(小柴龍太郎)

本記事は、2017年12月8日時点調査または公開された情報です。
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