【尾張の国の救助隊】愛知県の高度救助隊とハイパーレスキューNAGOYA

日本の中央部に位置する中京地方は、愛知県を中心に日本の経済や運送の中核を担う重要な地域です。ここでは愛知県にある3つの高度救助隊と、県庁所在地の名古屋市に配備されている特別高度救助隊「ハイパーレスキューNAGOYA」について解説します。


目次

愛知県にある高度救助隊と特別高度救助隊について

愛知県には、各自治体の消防所に一般救助隊と特別救助隊が配置されていますが、これに加えて中核市である豊橋市、岡崎市、豊田市それぞれに高度救助隊が、県庁所在地であり政令指定都市でもある名古屋市には特別高度救助隊、通称「ハイパーレスキューNAGOYA」が配備されています。

高度救助隊及び特別高度救助隊は、中核市及びそれに準ずる都市、政令指定都市の規模と人口の大きい都市に配備されることが法令で定められている、一般救助隊と特別救助隊よりも高い技術と知識をもつ隊員で編成された、特殊な救助資機材を持つ救助隊です。

また、日本にある特別高度救助隊には全て通称がついていますが、高度救助隊については通称の有無はまちまちです。ところが、愛知県の高度救助隊は3隊全て特別高度救助隊と同じく通称が付いています。

豊橋市消防本部 高度救助隊について

通称「アドバンスド・レスキュー・トヨハシ」

中核市である愛知県豊橋市消防本部には、中消防署に高度救助隊である「アドバンスド・レスキュー・トヨハシ」を配備しています。

アドバンスド・レスキュー・トヨハシは1隊5名の3部制、計15名の隊員で構成されています。また、1隊あたり1~2名の潜水士有資格者がいます。

アドバンスド・レスキュー・トヨハシの持つ車両と装備について

車両は平成25年3月に配備されたばかりの最新鋭の救助工作車Ⅲ型が配備されています。クレーンと照明装置、フロントウィンチいずれも兼用ラジコン1つのみで操作でき、照明装置の投光器は左右独立型で起伏操作も可能で、シャッター部分には丸形で「ADVANCED RESCUE」の文字がデザインされています。

高度救助用資機材として、画像探査機、地中音響装置、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、救助用支柱器具が配備されています。また、NBC災害や水害案件にも対応できるように、陽圧式化学防護服や化学防護服、スーパーバックPPV、空気式救助マット、アリゾナボーテックスも所持しています。

岡崎市消防本部 高度救助隊について

通称「岡崎スーパーレスキュー」

中核市である愛知県岡崎市消防本部には、中消防署本署に高度救助隊通称「岡崎スーパーレスキュー」を配備しています。

岡崎スーパーレスキューは1隊5名の2部制、計14名の隊員から構成されています。このうち救命救急士1名、潜水士10名が所属しています。

岡崎スーパーレスキューの実績について

高度救助隊化する前の平成16年、当時特別救助隊でしたが緊急消防援助隊として福井集中豪雨災害へ2日間出動しました。その後高度救助隊となってから平成23年の東日本大震災へ45日間出動しています。

岡崎スーパーレスキューの持つ装備と車両

シャッター部分に「Super Rescue AICHI-OKAZAKI」のロゴの入った救助工作車Ⅲ型の他、平成25年3月より総務省消防庁より全地形対応車の無償貸与を受けています。全地形対応車とは、車両がホイールタイヤではなくキャタピラ型になっており、悪路への侵入も可能な特殊救助車両です。


高度救助用資機材として、画像探査機が2台、地中音響装置、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、救助用支柱器具が配備されています。

豊橋市消防本部 高度救助隊について

通称「スーパーレスキュー豊田(SRT)」

中核市である愛知県豊田市消防本部には、中消防署消防1課と2課に高度救助隊、通称「スーパーレスキュー豊田(Super Rescue Toyodaの略でSRTと呼ばれる事も)」が配備されています。

スーパーレスキュー豊田は1隊6名の2部制、計12名の隊員から構成されており、内救急救命士が2名、潜水士が8名所属しています。

スーパーレスキュー豊田(SRT)の実績について

スーパーレスキュー豊田は、緊急消防援助隊・愛知県隊として平成23年東日本大震災へ45日間出動しています。

スーパーレスキュー豊田(SRT)の持つ装備と車両

バス型キャブの救助工作車Ⅲ型が配備されており、助手席である隊長席からそのまま後部座席への移動も可能です。車両側面に黒い線が入っており「豊田市消防本部 高度救助隊」の文字が刻まれています。

高度救助用資機材として画像探査機、地中音響装置、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、地震警報器、二酸化炭素探査装置、放射線測定器などの探査活動用資機材の他、コンクリートチェーンソーやパワーカッター、レスキューサポートシステム、電動油圧レスキューツールなどの重機類、車両固定LED照明装置や超音波風向き風速計などの最新鋭の資機材も導入しています。

名古屋市消防本部 特別高度救助隊について

愛称は「市民から親しみのある部隊にする」願いが込められている

愛知県の県庁所在地であり、政令指定都市である名古屋市消防本部には総務省消防庁の定める「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」に従い、特別高度救助隊である「ハイパーレスキューNAGOYA」が配置されています。

ハイパーレスキューNAGOYAの母体は、昭和24年に発足した名古屋市消防局本部直轄救助部隊です。その後、平成13年4月に市内各消防署に特別救助隊を配置すると同時に、本部直轄救助部隊は「特別消防隊」に名称を改め、主に地下街や超高層建造物など消火活動が困難な場所で発生した火災やNBC災害など特殊な災害に対応する為、高度な知識と技術、特殊装備資機材を有した特別な消防隊という位置付けになりました。

平成18年3月には総務省消防庁の特別高度救助隊に関する省令改正に伴い、特別消火隊を名古屋市消防局の特別高度救助隊に指定、同時に「市民から親しみのある部隊にする」という願いを込めて愛称を「ハイパーレスキューNAGOYA」にし、新たに特別高度救助隊として発足しました。

異なる災害対応と特定任務ごとで5隊に分かれた特別高度救助隊

ハイパーレスキューNAGOYAの活動範囲は名古屋市内全域で、軽微な災害を除いた全ての災害に最低1隊が出動し、現場の救助活動における重要な局面での指揮統制を行います。また、市外での大規模災害時には緊急消防援助隊として出動し、救助の広域応援活動の中核も担っています。

ハイパーレスキューNAGOYAは、第一方面隊から第五方面隊の5つの部隊からなる特別高度救助隊ですが、各部隊が異なる災害対応をする他、それぞれに定められた災害への技術と装備の研究をする特定任務が与えられています。名古屋市は市内全域が都市部ですので、今後発生が懸念されている東海地震や東南海、南海地震などの大規模な自然災害及びテロが発生した時には、迅速かつ的確な災害対応がハイパーレスキューNAGOYAに求められる為、災害対応の他技術研究も特定任務として与えられているのです。

ハイパーレスキューNAGOYAは、本部直轄部隊として各方面隊本部に1隊5~6名が2部制で配置され、全5方面5部隊と書房部特別隊長1名、管理担当6名の合計98名から構成されています。この内第二方面隊中11名が救急救命士、全方面隊中60名が潜水士です。

ハイパーレスキューNAGOYAの実績について

国際消防援助隊として、平成2年のフィリピン地震、平成5年のマレーシアビル倒壊災害、平成9年のインドネシア森林災害、平成20年の中国四川省地震災害へ、緊急消防援助隊として平成8年の蒲原沢土石流災害、平成15年の三重県ごみ固形燃料発電所火災、平成16年の福井豪雨、同年の台風23号兵庫県豊岡市水害、平成19年の三重県中部を震源とする地震、平成21年の駿河湾を震源とする地震、平成23年の東日本大震災へ出動実績があります。

平成18年の省令改正による特別高度救助隊化の前にも、名古屋市消防局の特別消防隊として、日本全国の災害現場への広域応援活動を行ってきました。

ハイパーレスキューNAGOYAの持つ装備について

高度救助用資機材として画像探査機、地中音響装置、熱画像直視装置、夜間用暗視装置、電磁波探査装置、水中探査装置、地震警報器、二酸化炭素探査装置、検知型遠隔操作装置、救助用支柱器具を持つ他、特殊災害にも対応可能な陽圧式化学防護服、携帯用生物剤検知器、有毒ガス検知器などのNBCテロ対策資機材を保有しています。


ハイパーレスキューNAGOYAの持つ車両について

ハイパーレスキューNAGOYAは、各方面隊で持つ特定任務ごとに運用する救助車両も異なります。ここでは、特定任務と合わせて各方面隊の救助車両を紹介します。また、いずれの救助車両ともに車両側面に「名古屋市消防局 ハイパーレスキュー隊」と特別消防隊の略称である「特消」の文字と、ハイパーレスキューNAGOYAのエンブレムマークがデザインされています。

▼第一方面隊
中川区に配備されている第一方面隊の特定任務は、地震災害技術、救助技術(特に水難救助)の研究です。運用する車両は救助車Ⅲ型、災害救助車、水槽付きポンプ車、指揮車です。

▼第二方面隊
西区に配備されている第二方面隊の特定任務は、地下災害、都市型救助技術の研究です。運用する車両は救助車Ⅲ型、水槽付きポンプ車、科学車の他、救命救急士が唯一配備されている方面隊のため高規格救急車も運用しています。

▼第三方面隊
北区に配備されている第三方面隊の特定任務は、航空連携活動と高所災害、河川救助の研究です。運用する車両は航空隊との連携活動の為救助車はⅢ型ではなく航空機への格納も可能な救助車Ⅳ型が採用されています。他に、水槽付きポンプ車と大型ブロワー者を運用しています。

▼第四方面隊
瑞穂区に配備されている第四方面隊の特定任務は、鉄道事故などの交通機関災害、重量物排除の研究です。運用する車両は救助車Ⅳ型、水槽付きポンプ車の他、引火爆発の危険も高い現場活動も多い交通機関災害を担うため、水と砂の力で火花を出さずに金属が切断できるウォーターカッター車、重量物の牽引の為のクレーン車も運用しています。

▼第五方面隊
港区に配備されている第五方面隊の特定任務は、NBC災害要領、舟艇活動の研究です。運用する車両は水槽付きポンプ車の他NBCを始めとした特殊災害を担う部隊の為、除染機能や分析室も備えた特殊災害対応車、大型化学高所放水車、原液搬送車も運用しています。

愛知県の高度救助隊、特別高度救助隊になるには?

高度救助隊や特別高度救助隊の配置されている自治体の採用試験を受ける

愛知県の高度救助隊や名古屋市の特別高度救助隊のハイパーレスキューNAGOYAの隊員になる場合には、まず高度救助隊の配備されている豊橋市、岡崎市、豊田市または特別高度救助隊の配備されている名古屋市いずれかの地方公務員試験である消防官採用試験を受けて合格する必要があります。

採用試験は大卒、短大卒、高卒程度に分かれており、各自治体によって応募期間や受験日が異なりますので、受験日が異なれば複数の自治体を受験することもできますが、応募方法や募集年齢などの条件は自治体ごとに異なりますので注意が必要です。

名古屋市の平成30年度採用試験の募集要項・試験内容・倍率について

名古屋市の平成30年度採用試験の募集は、第1類(大学卒業程度)は受験資格が昭和62年4月2日~平成8年4月1日に生まれた人、もしくは平成8年4月2日以降生まれで平成30年までに大学卒業見込みの人でした。試験日程は平成29年4月25日に案内配布開始、27日~5月14日にインターネットでの応募受付開始、第一次試験の教養試験が6月25日、第一次試験の合格発表が7月5日、第二次試験の論文試験が6月25日、口述試験が7月13日~18日、最終口述試験が8月5日~10日、体力検査が8月4日、最終合格発表が8月23日でした。

第2類(高校卒業程度)は受験資格が平成30年までに大学卒業見込み者を除く平成8年4月2日~平成12年4月1日に生まれた人です。試験日程は平成29年7月4日に案内配布開始、11日~8月6日にインターネットでの応募受付開始、第一次試験の教養試験が9月24日、第一次試験の合格発表が10月3日、第二次試験の作文試験が9月24日、口述試験が10月中旬~下旬、身体検査が10月20日、体力検査が10月20日、最終合格発表が11月16日でした。

第1類(大学卒業程度)の受験者数が428名、内最終合格者数が48名で倍率は8.9倍、第2類(高校卒業程度)の受験者数が353名、内最終合格者数が45名で倍率は7.8倍でした。

合格後、消防学校、最低一年の現場経験後にチャンスが

各自治体の採用試験合格後は消防学校で半年間、消防官としての基礎を学ぶ初任教育を受けます。無事に消防学校を卒業すると各自治体の消防署に配属され、最初の一年は消火隊入りになるのがほとんどです。

消化隊として現場に出ながら、消防職員としての基本実績を積み、初めて救助隊への希望を出せます。最低でも消火隊として1年経験を積んだ後に希望が通ればやっと救助隊員として第一歩を踏みますが、高度救助隊やハイパーレスキューNAGOYAに入るためには、更に高度な救助技術や知識、経験を積まなければいけません。また、技術や知識だけでなく、高度救助隊として強いハートも必要です。これらを得て、上司から高度救助隊やハイパーレスキューNAGOYAの隊員としてふさわしいと推薦を受け、特殊な救助技術研修や試験を受け合格したのちに高度救助隊やハイパーレスキューNAGOYAに初めて入る事ができます。

まとめ

中京地方は日本における物流や交通の要としての機能を担っていますので、自動車や交通事故発生件数も多くなっています。一方近年発生が懸念されている東海沖地震や南海沖地震の震源地近くでもあります。中京地方の経済の中心地である名古屋市を中心とした都市部も災害発生時には甚大な被害が予想されますので幅広い特殊災害に対応できる知識と技術を身に付けられる特定任務ごとに分けられているハイパーレスキューNAGOYAを始め、中核市にも心強い高度救助隊が配備されています。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年2月10日時点調査または公開された情報です。
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