地域の消防組織の中心である「消防本部」とその仕事について

地方公務員だる「消防職員」は、火災や救助、救急現場に消防署から駆け付ける隊員だけではありません。各地方自治体に配置された消防組織の要を担っている「消防本部」なくして消防は成り立ちません。

今回は、その消防本部や仕事内容について、消防本部に勤務する方法について解説します。


消防本部とは?

総務省消防庁以下、各自治体に配置されている消防組織の本部

日本の消防組織全てを統括する、いわゆる国の消防組織が「総務省消防庁」です。総務省消防庁以下、東京23区を統括した「東京消防庁」、そして各市町村自治体単位で配置された「消防局」や「消防本部」を名乗る自治体消防本部から、日本の消防組織は成り立っています。

▼東京消防庁
通常、消防組織は各市町村単位で配置されますが、東京のみ23区全てを統括する「東京消防庁」が消防本部です。日本全国の中で一番の規模を誇る消防組織であること、また警察の組織であり同じく東京都を管轄する「警視庁」と同等であるという考えから、東京消防「庁」の名前が付けられています。

▼消防局、消防本部
市町村単位で配置されている消防組織の名前は、その地域の市町村名が使われることが多いです。政令指定都市や中核市なら「横浜市消防局」「川崎市消防局」「藤沢市消防局」などです。一方で、「○○市消防局」ではなく「○○市消防本部」と名乗る消防組織もありますが、「消防局」の方が「消防本部」よりも規模の大きい自治体である傾向があります。例えば、同じ神奈川県内でも政令指定都市である横浜市なら「横浜市消防局」ですが、小田原市は「小田原市消防本部」を名乗っています。

市町村には「常備消防」と「非常備消防」がある

市町村自治体で配置されている消防組織の消防本部、そして消防署は「常備消防」とも呼ばれています。常に消防本部や消防署内で勤務する消防職員を指し、常勤の地方公務員でもあります。

もうひとつ、市町村の消防組織には「非常備消防」があります。これは、普段は会社員や主婦、学生や自営業など他の仕事や立場でありながら、災害時には消防活動を行う「消防団」を指します。消防団員は非常勤特別職の地方公務員という立場です。都市部には消防署も配置されていることが多いですが、消防署の配置のない山間部や地方での災害活動を担っているのが消防団です。

消防本部自体は減り続けている

かつて日本全国で900ほどの消防本部が存在していましたが、今は消防本部自体が減り続けています。実際に、2001年から2006年までの5年間の間で93の消防本部が消滅していますが、消防本部減少の背景には2つの理由があります。

▼市町村統合による自治体そのものの消滅
日本の消防組織は各市町村自治体にひとつずつ設置することになっていましたが、「平成の大合併」を始めとする市町村合併によって、多くの市町村が消滅しました。市町村自体が消滅すればその市町村に合った消防本部自体も消滅しますので、分母である市町村の減少によって消防本部の総数も減ったのです。

▼国による消防組織の再編
各市町村自治体にひとつずつ消防本部を設置する。実はこの消防組織体制はあまり効率の良いシステムではありませんでした。市町村自治体はその地域によって規模も異なり、消防組織に使用できる予算も異なってきます。規模が小さくあまり予算がない自治体でも、消防本部を設置するには消防職員の採用から車両、装備の配置までそれなりの予算を割かなければいけません。特に小さい自治体では、消防に関する予算が財政を圧迫する可能性も高いのです。

このことから、2006年に「30万人のエリアにつき消防本部を1つ設置する」と消防組織法が改正、国が小規模の消防本部の統合と消防本部の広域化を推進するようになりました。2016年までの消防組織における全システムのデジタル化による予算不足も伴い、多くの小規模消防本部が統合し、新しい消防本部が誕生しました。

既存の消防本部同士の合併で誕生した消防本部には、新潟県燕市と弥彦村の消防本部が合併した「燕・弥彦総合事務組合消防本部」や鳥取県倉吉市、湯梨浜町、三朝町、北栄町、琴浦町の消防本部が合併した「鳥取中部ふるさと広域連合消防局」などがあります。

消防本部の仕事内容を見てみよう

一般企業で言えば「本社」の立場

市町村、もしくは30万人のエリアにつき1つ設置されている消防本部は、管轄する消防署を取りまとめる役割を担っています。一般企業に例えると、災害や救急事案に対して直接出場し活動を行う消防職員のいる消防署が「店舗」にあたり、消防署を取りまとめる立場の消防本部は「本社」にあたります。


次に、自治体消防本部の担う業務内容を、セクション別に見てみましょう。

本部直轄部隊(救助隊、指揮隊など)

消防本部によっては、消防署ではなく消防本部直轄の部隊を持っていることも少なくありません。例えば、東京消防庁の特別高度救助隊である「消防救助機動部隊(通称ハイパーレスキュー)」は、各方面の消防本部に部隊が配置され、所属も東京消防庁の管轄内消防方面本部の直轄部隊です。横浜市の特別高度救助隊である「スーパーレンジャー(SR)」も、横浜市消防局の警棒部警防課訓練救助係に所属する、本部直轄部隊です。救助隊だけでなく、災害現場において活動拠点となる各部隊の指揮統制を行う指揮隊にも、本部直轄部隊はあります。

通信指令室

119番通報を受けて通報者から情報を得て、現場に駆け付ける各消防署の部隊の選別や出場要請を行うのが通信指令室です。通信指令室も消防本部に設置されているセクションです。

参考:公務員総研
通信指令係員の記事がアップされたら、ここにURLを張ってください!!

警防課

火災や救助事案に対処するための消防活動における戦術や、警棒に関することを統括するセクションです。

救急課

救急救命活動を効率良く、迅速に行うための方法を考えたり、救急隊員の育成を担当したりするセクションです。

予防課

消防組織は、火事や災害、救急事案への対応の他、火災の予防も担っています。火災を未然に防く、または発生してしまってもその被害を最小限に抑えるための業務を行っているのが予防課です。

管轄内の店舗や施設などの防火対象物に対して法律に基づいた消火設備の設置指導や考査のために、監査や訪問を行います。また、一般市民の防火意識や知識を高めるための防災教室の開催やパンフレットの作成、配布なども行います。

他にも、総務部や人事部といった一般企業のようなセクション、消防署と連携して、管轄の市民により消防組織に関する理解を深めてもらうための広報活動を行う「広報課」や、消防庁舎の整備や配備を行う「施設課」、消防車両や資機材、制服の仕様に関わる「装備課」など、各消防本部によって異なるセクションを持っています。

参考:公務員総研 【消防の事務】消防局(消防本部)の「事務職」の仕事内容を徹底解説!
https://koumu.in/articles/376

消防本部で働くには?

消防本部勤務の地方公務員への道は2つある

自治体の消防本部で勤務する職員は、その自治体の採用試験に合格した地方公務員です。ただし、自治体の消防組織に所属する「消防職員」が消防本部勤務をしているパターンと、自治体の事務職員が消防本部に配属になって事務員として勤務するパターンがあります。

▼消防職員として消防本部勤務する場合
近年、消防本務勤務はそのまま消防職員が担うことも多くなりました。現場での経験を持つ消防職員がそのまま消防本部で勤務することによって、今までの経験や知識を本部での任務にも生かせるから、「餅は餅屋」の通り、消防組織の任務は消防職員で賄うべき、という考え方からなど色々な理由があります。

消防職員は、正式名称「消防吏員」の地方公務員です。消防吏員になるには、地方公務員試験である各自治体消防本部の消防職員採用に応募、合格しなければいけません。消防職員採用案内や試験区分、受付期間や条件、資格などは各自治体消防本部によって異なりますので、必ず自分が受けた自治体の消防本部の募集要項をチェックしておきましょう。

例:横浜市消防局平成30年度募集の場合
試験区分は大学卒業程度等(消防、更に一般と専門に分かれる)及び(消防、救急救命士)、高校卒業程度(消防・消防救急救命士)です。

消防一般及び専門の受験資格は大学卒業程度等が昭和62年4月2日から平成8年4月生まれの人、消防救急救命士の受験資格は救急救命士資格を有する、もしくは平成29年度実施の救急救命士国家資格で資格取得見込みの人、高校卒業程度が平成8年4月2日から平成12年4月1日生まれの人です。


平成29年6月に一般教養、一般論文からなる第一次試験(専門区分の場合は専門分野も加わる)、平成29年7月に体力測定、身体測定、面接試験からなる第二次試験が行われました。

最終合格発表が、大学卒程度等が平成29年8月31日、高校卒業程度が平成29年11月24日でした。

消防職員採用試験に合格後は、半年間の消防学校での初任教育を受け、その後配属が決まります。おおよそ1年間は消火隊として消防職の基礎と経験を積み、その後自分の希望を出すことができます。消防本部勤務の希望を出して了承されれば、最短で1年後には本部勤務となります。

ところが、本部勤務となるのは次の消防職員の育成や、消防組織の改善や再編を担うことも多いため、知識と経験が豊富で、隊長なども経験したベテラン隊員が選ばれる事もしばしばあります。また、デスクワークの多さから女性職員の配属先としても多く挙げられます。

▼自治体の事務職として採用され、消防本部に配属される
次に、自治体の募集している一般事務職員の採用試験に合格し、消防本部へ事務員として配属されるパターンです。この場合は、市町村職員の一般事務区分などの採用試験に合格し、市町村職員になるのが第一歩です。こちらも、市町村職員の採用概要や条件などは受験する市町村によって異なります。

参考:函館市職員採用試験情報【一般事務(大学卒以上)】
http://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2015051900092/

ところが、市町村では前述の通り消防本部の事務職も全て消防職員で賄うようになった消防本部も多くなりました。また、あくまで市町村職員のため数年で移動となるので、ずっと消防本部の事務員として働き続けるというのは不可能です。あくまで、市町村職員を目指し「消防本部に配属になることもある」程度の認識にとどめて置いた方が良いでしょう。確実に、消防本部の一員として活躍したいと思うなら、消防職員採用試験の受験がおすすめです。

まとめ

消防組織の活動を見ると、第一線で活躍する消火隊や救助隊、救急隊と所属する消防署がイメージとして上がりますが、その裏で組織を支える消防本部も重要な役割を担っています。まさに縁の下の力持ちと言える消防本部の組織図と、仕事内容について紹介しました。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年3月25日時点調査または公開された情報です。
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