刑務官の女子力 – 元・国家公務員のコラムシリーズ 06

刑務官など矯正職員歴37年、現在里山で晴耕雨読を享受している元・国家公務員の小柴龍太郎さんのコラム「刑務官の女子力」(平成29年4月25日)です。刑務所の所長時代、女子刑務所で働く女性の刑務官たちについてのコラムです。


女性の社会進出がとかく話題となる昨今ですが、塀の中では昔から女性が活躍していました。

女子刑務所で働く女性の刑務官たちです。なんせ受刑者が女性なので刑務官も女性とならざるを得ません。トイレやお風呂のことなどもあって、男性刑務官だと受刑者が困るのです。たとえ男性刑務官が「別にかまわないよ」と言ってもそうはいきません。

「銭湯の番台には男が乗ることもあろうが!」などと声を荒げても、無理です。

女子刑務所で、男性刑務官の役割

もっとも、事務を担当する職員などの中には一部男性もいます。女子の受刑者の処遇に直接タッチしないので男性でもかまわないからです。それに、家庭でも男手が必要となるように、女子刑務所でも男の出番が必要なときがあります。女子受刑者が手のほどこしようもないほど大暴れしたような場合です。

そのようなときには処遇現場からお呼びが掛かり、おもむろに出向いていって、

「こらっ! 何やっとるかあ!!」

などと大声を出すのです。

たいていの場合、この一喝で静かになります。女子刑務官いわく、「やっぱり女は男に弱いんですね」。

女子刑務所で所長をしていました。

ところで実は、私はその数少ない女の園の男性職員として勤務した経験があります。

しかも所長としてでです。

実情を知らない友達などからは、「え~、女の刑務所? ヒヒヒ、いいなあ。ハーレムの中でのお仕事かよ」などとひやかされます。


でも刑務官仲間からは、「いやあ、ご苦労さん。気ぃ付けてな。ハハハ」などと言われます。男の刑務所と違っていろいろと気を遣うことが多くて気苦労が絶えないため、どちらかというと男性には敬遠される職場なのです。

「処遇困難者」の事案で、刑務官の女子力をみた!

その所長時代の話。とても感心することが少なからずありました。その最たるものが「処遇困難者」の処遇。

処遇困難者というのは、いろんな事情で手間暇のかかる受刑者のことです。瞬間湯沸かし器みたいにすぐ興奮して暴れたり、あることないこと(ほとんどないこと)を訴訟に持ち出す人、精神を病んだ人などです。私が女子刑務所長時代の最大の処遇困難者はこの精神を病んだ受刑者でした。

とにかく1日24時間、騒いだり自殺しようとしたりして大変でした。ある時は自分の靴下を飲み込んで喉に詰まりほとんど死にかけたこともありました。本来、このような人は医療刑務所に移送して専門的な治療を受けさせるのですが、その時は医療刑務所が満杯で受入れの順番待ちが続いていました。

私がそれまで経験した男子刑務所でこのようなことが起きると、保護室に入れて落ち着くのを待って、静かになったら元の部屋に戻すといったことが基本でした。しかし、この女子刑務所ではできるだけそのようなことを避けて、徹底して言葉掛けする方法をとっていました。励ましたり、なだめたり、諭したり。それを延々と繰り返していたのです。とにかく根気強い。言ってみれば「お話療法」です。

私は所長ですから、「そんなに手間暇をかけてもおそらく無駄だし、アンタたちの方が参ってしまうからやめなさい」と言ってもよかったのですが、その時はしばらくそのままにしておきました。そうしたら、少しずつ少しずつ、その受刑者の問題行動が少なくなっていったのです。表情も穏やかになり、やがては普通の生活が送れるようになりました。

「何なんだ、これは!」

正直私はびっくりしました。精神科医並みのこと、いやひょっとしたら精神科医以上のことを刑務官がやってしまった。ただ話すだけで。そんなことがあるのだろうか。

最後に

このエピソードを後日精神科医に話したことがあったのですが、先生いわく、そのようなことは実際にあり得ることなのだそうです。患者に対する触手診断などの「手当て」が内科診療で有効なように、人間が相手と話すことで病気の改善に役立つことがあるとのこと。いわば心への「手当て」でしょうか。そしてそれは女性ならではの根気とおしゃべり能力(?)のたまものだろうと思います。少なくとも私には無理です。

(文:小柴龍太郎)

本記事は、2017年4月26日時点調査または公開された情報です。
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