はじめに
ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏は、アメリカの感染者数全体の40%を占めているニューヨークの危機管理対策のリーダーとして注目されています。
2020年3月30日にシエナ大学研究所が発表した調査結果では87%の人がクオモ州知事の対応を評価し、2月時点で44%だった支持率が3月には71%にまで急上昇しています。ニューヨーカーが認めた優れた人材であることは間違いなさそうです。
世界中から頼れるリーダーとして注目されているアンドリュー・クオモ州知事とはいったいどのような人物なのでしょうか?新型コロナウイルス対策ではどのようなことをしてきたのか、世論の反応なども含めてご紹介します。
公務員志望の方はこれからの将来覚えておいて損はないアメリカ人ですので、ぜひ参考にしてみて下さい。
アンドリュー・クオモとはどんな人?生まれやキャリアについて
アンドリュー・クオモ(62歳/民主党)は1957年にニューヨークのクイーンズ区で生まれました。イタリア系アメリカ人の家系で、父親は1983年から1995年までニューヨーク州知事を務めたマリオ・クオモです。弟のクリストファー(クリス)はCNNのキャスターで、同局の冠番組「Cuomo Prime Time」の司会者としても知られています。
ちなみに、アンドリュー・クオモの前妻はジョン・F・ケネディ元大統領の姪にあたるケリー・ケネディです。2005年に離婚していますが、二人の間に3人の子どもをもうけています。
アンドリュー・クオモは、生まれも育ちもニューヨークという生粋のニューヨーカーで、これまでに弁護士、州司法長官、住宅都市開発長官(内閣の一員)などを務めた経歴があり、2011年から同州の州知事を務めています。(2期目)
父親が州知事を務めていた時代から継続してニューヨークのホームレスを支援するための活動に注力しており、これまでに住宅供給事業をおこなうNPO団体(Housing Enterprise for the Less Privileged)の設立や、ニューヨークのホームレスコミッションの議長も務めています。
2011年にニューヨーク州知事に就任してからは、同性結婚を認める法案を成立させたり、環境破壊につながるレジ袋の禁止、天然ガス発掘のフラッキング(水圧破砕法)を禁止するなど、リベラルな政策を貫く人物として活動してきました。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからは「情報の透明性」や「リーダーシップ」がある人物として高く評価され、ニューヨーカーだけでなく世界中からその指導力に注目が集まっています。
新型コロナウイルス対策でアンドリュー・クオモがしたこと
では、アンドリュー・クオモが実際に新型コロナウイルス問題に対してどのようなことをしてきたのか時系列で見てみましょう。
03月02日:ビル・デブラジオ・ニューヨーク市長と共同会見
この会見でニューヨーク州で初の新型コロナウイルス感染者の確認を発表し、1,000名/日のペースで検査を実施することを決定しました。
03月03日:4,000万ドル(約44億円)の緊急対策歳出を可決、成立
ニューヨーク議会にて緊急の医療体制構築やコロナウイルス検査にかかる費用などを速やかに手配しました。
03月04日:海外留学生と研究生に対する帰国命令
感染が急速に拡大していた中国、日本、韓国、イタリア、イランにいるニューヨーク州からの留学生と研究生に帰国要請し、帰国後は2週間の自己隔離を実施しました。
03月05日:州都Albany(オールバニー)に緊急作戦センターを設置
この時点で感染が確認されたのは22名。ニューヨーク市で初めて3名の陽性が確認された日でした。
03月07日:州の非常事態宣言【感染者数76名】
州内の感染者数が76名に増加しました。アメリカで8番目の非常事態宣言をした州になりました。注目すべきは、州内で感染者が確認されてからわずか5日目で非常事態宣言をしたスピードです。
03月09日:教育期間や公共機関へ消毒液の配布を決定【感染者数142名】
消毒液(ハンドサニタイザー)を1週間で10万ガロン(約38万リットル)増産し、感染が多いエリアや教育機関、公共交通機関などに配布しました。
03月15日:連邦政府へ支援要請および自宅勤務命令【感染者数729名】
トランプ大統領に連邦政府による対策を要請しました。また、ニューヨーク市を中心とする5地域に対して2週間の自宅勤務命令を実施しました。
03月20日:実質的な外出禁止令を決定【感染者数7,102名】
絶対不可欠ではない事業の閉鎖、出勤、外出を禁止し、自宅待機を4月1日まで実施することを決定しました。合わせて、個人および事業主からの家賃未払いによる立ち退きを90日間免除することを通達しました。
03月22日:外出禁止令を実行【感染者数15,168名】
Federal Emergency Management Agency(米連邦緊急事態管理局)により、州内の大規模展示場など4ヶ所に緊急病院の設置が決まりました(3月27日に1,000床分を確保)。
03月25日:州内のホテルや学校寮を病床に利用することを決定【感染者数約30,000名】
03月29日:外出禁止令を4月15日まで延長決定【感染者数59,513名】
03月30日:米海軍病院船「コンフォート」がニューヨークに到着
アメリカ軍が保有する2隻の病院船のうち1隻であるコンフォートによって、医療スタッフ1,200名、最大1,000床を確保可能になりました(必要病床は60,000万床)。
03月31日:定例記者会見で弟(CNNキャスター)が感染したことを発表【感染者数約75,000名】
自身の弟が新型コロナウイルスに感染したことを発表し、州民に対して危機感を持って対応するように改めて呼びかけました。なお弟の症状は軽く、自宅から放送に参加していました。
04月02日:人工呼吸器が6日以内に不足する見込みであることを公表【感染者数約92,000名】
州内の人工呼吸器が6日以内に底を付く計算であることや、1台の人工呼吸器を2人で使用している状況を公表し、世界中に協力を求めました。
04月04日:ニューヨーク州の医療学生を派遣する行政命令【感染者数113,704名】
この春に卒業を控えたニューヨーク州内の医学生を医療現場に派遣する行政命令を発令。また、不足が懸念されていた人工呼吸器を中国から1,000台分受け取りました。
このようにクオモ州知事は次々に具体的な対策を決定、実行してきました。しかしながら、感染拡大のスピードの方が早く、医療現場では混乱が生じています。
連邦政府による支援、各国からの支援も必要な状況にある中、取り乱さず冷静に指揮を取り続けるクオモ州知事は高く評価されています。
なぜアンドリュー・クオモ州知事が人気なの?
ニューヨークで感染者が確認されてからわずか1ヶ月の間で人気が急上昇したクオモ州知事ですが、どうしてここまで支持を得ることになったのでしょうか?人気の理由を解説します。
人気の理由その1:情報の透明性
クオモ州知事が支持される最も大きな理由のひとつが「情報の透明性」です。毎日生中継される記者会見は、あらゆるデータを丁寧に説明して対策の方針を示すスタイルで、論理的で分かりやすいと評判です。また、比較されやすいトランプ大統領の記者会見よりも感情の起伏がなく切実で緊迫感があるため、危機感を持つ人が増えたとも言われています。
クオモ州知事の会見は感染者数、死亡者数、医療現場の状況、不足している物の情報(マスク、防護服、手袋、人工呼吸器)など、あらゆることを隠さずに公表するため、緊迫した状況が伝わりやすいことも特徴的です。(トランプ大統領は楽観的な発言が多い)正しい情報が手に入るため、いまではニューヨーク州以外でも主要メディアが中継するほどです。
人気の理由その2:自信がある
クオモ州知事が人気の秘密に「自信」があります。過剰な自信や力強さをアピールするためのものではなく、取るべき行動がデータや現場の要望に基づいていることから「絶対に必要」という自信があるのです。ブレない姿勢で自信に溢れていることから好意的に見られている訳です。
3月20日、必要不可欠な事業を除く全労働者に対して自宅勤務を命じた際には「全責任は私が取る。私以外にこの決定に責任を持つ人物はいない。苦情や非難はすべて私にしてほしい。」と訴えたことは印象的でした。
人気の理由その3:人間味
クオモ州知事は人間味があることでも人気です。とくに自身のTwitterには苦悩なども書かれており、州知事としての責務に悩む姿も垣間見えます。なかでも、4月1日には外出禁止令が出た後も外出を続ける人達に向けて切実なメッセージを残しています。
また、弟が感染したことを公表した記者会見では表情を変えることなく淡々と話を続け、その姿がかえって人々の胸を打ちました。Twitterでは時折、ニューヨーカーを鼓舞するような発言もしており、機械的な一面だけではない姿を見せています。
人気の理由その4:トランプ大統領よりもリーダーらしい
クオモ州知事はコロナウイルス対策でトランプ大統領と比較されやすく、その度にトランプ大統領よりもリーダーらしいと言われています。とくに両者が実施している記者会見で比較されることが多く、いつでも冷静沈着に話す姿は好意的に受け入れられています。
例えば、トランプ大統領は経済優先の政策を主張しておきながら、アメリカ経済の中心であるニューヨーク州を隔離しようとした際、クオモ州知事はその矛盾を指摘しています。また、Social Distancingを率先して主張していながら記者会見の際には関係者を自身のまわりに配置し続けているトランプ大統領を批判しています。
トランプ大統領よりもリーダーらしいと評価されていることに対してクオモ州知事は「(大統領と)政治的な敵対をしている場合ではない」と世論を一蹴、その姿も好感があります。実際に、クオモ州知事はコロナウイルス対策で「大統領とパートナーシップを組むことが目標」としています。
アンドリュー・クオモ州知事に対する批判的な意見も
ニューヨーク州をはじめとしてアメリカ各地で支持率が上昇しているクオモ州知事ですが、必ずしも好意的な意見ばかりではありません。
コロナウイルス対応で人々から共感を得ているものの、ニューヨークで早期に感染を防げなかったこと、医療崩壊が現実的になったこと、そして同じ大都市圏であるカリフォルニア州では爆発的感染が起きなかったのにもかかわらずニューヨークでは起きてしまったことなど、事態を悪化させてしまったことはクオモの責任とする声があります。
なかでも疑問視されているのが、3月17日時点でデブラシオニューヨーク市長が48時間以内に外出禁止令を発令する是非を決めたいと発表したことに対して、最終決定権を持つクオモ州知事が反対したことです。
さらに、市長に対して「どんな検疫命令でも州の承認が必要」と牽制する始末でした。17日時点で、速やかに外出禁止令が出ていれば感染を抑えられていたかもしれないのです。
事態の収拾がつくまでは責任追及されないと見られていますが、どんなに対応や支持率が良くてもニューヨーク州で感染が広がり、多くの死者が出た事実は否定出来ません。英雄視されていますが、後にやってくるであろう責任問題は厳しいものになりそうです。
まとめ
ニューヨーク州はアメリカで最も新型コロナウイルスの感染が拡大した場所になってしまいましたが、アンドリュー・クオモ州知事のリーダーシップによって事態の打開に取り組んでいます。クオモ州知事は長い戦いになることを公表しており、今後の動きから目が離せません。
また、ニューヨーク州はTest Case(先例になる事例)であるとし、他州や他国でも同じようなことが起こりうると注意喚起しています。日本政府も緊急対応の例としてクオモ州知事の指導力を見習う必要がありそうです。
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