はじめに
2020年4月、新型コロナウイルスによってアメリカが再びふたつに分かれています。感染拡大がまだまだ続いているアメリカでは「経済再開か否か」で国民の意見が真っ二つに分かれており、抗議デモの発生、双方の批判合戦など、事態は少しずつ深刻化してきています。
古くは奴隷制度を巡る対立からはじまり、これまでに銃規制、中絶妊娠、同性婚、中東問題など様々な問題に対して国民感情が明確に二分されてきたアメリカですが、ここにきて新たに新型コロナウイルス問題に対してもアメリカはふたつに分かれそうです。
新型コロナウイルスによってアメリカではどのようなことが起きているのか?どうしてデモが飛び火しているのか?アメリカはなぜいつも二分してしまうのか?などを解説します。
公務員志望の方は、アメリカの内部事情、国民感情、風潮などを知る際の参考にして下さい。
アメリカで何が起きているのか?
2020年4月15日、ミシガン州の州都ランシングで、州政府による自宅待機命令に抗議する州民たちが抗議デモを実施しました。州政府の判断によって働けない状態になっている人や、職を失った人たちが集まり、一刻も早く経済活動を再開させようと抗議したものです。
ミシガン州の抗議デモを皮切りに、経済活動を再開させようとする抗議デモはアメリカ全土に広まりました。18日にはメリーランド州の州都アナポリス、テキサス州のオースティンなどで大規模な抗議デモが発生し、一ヶ所にマスクをしない人たちが大勢密集する異常な事態になりました。
これまでに抗議デモはオハイオ州、ノースカロライナ州、ミネソタ州、ユタ州、ヴァージニア州、ケンタッキー州などでも起きており、仕事が出来ない人や収入源を失った人、規制が解除されないことに不満を抱えている人たちの怒りの矛先が各州政府に向けられています。
アメリカが「経済再開派」と「命が優先派」に二分されている状況の背景
いまのアメリカは、一連の抗議デモによって「経済再開派」と「命が優先派」に二分されています。しかし、この裏にはやはり政治に対する考え方が影響しているようです。
経済再開派は、厳しい外出制限によって仕事が出来ない人や収入に影響が出ている人、そしてトランプ大統領(共和党)の支持者たちによって構成されていると考えられています。もともと自国最優先、そして経済優先の政策をとってきたトランプ大統領なので、経済活動再開を望む人はトランプ政権に期待するのは無理はありません。
対照的に、命が優先派は反トランプを掲げる人が多い傾向があります。協調主義とは縁遠いトランプ政権にうんざりしている人や、経済よりも国民の安全の方が重要と考える人たちはトランプ大統領の強引なやり方に反対して当然です。
つまり、現在のアメリカは経済再開派か命優先派に分かれていると同時に、トランプ支持派か反対派かに分かれているとも言えるのです。
結局のところ、経済再開を望む人たちは反トランプ派を嫌悪し、経済再開よりも命を優先すべきと主張する人たちはトランプ支持派に抵抗している構図なのです。経済や命というよりも、共和党と民主党の衝突が新型コロナウイルスでも浮き彫りになっていると言えるでしょう。
そのため、経済再開を望む抗議デモは実は「政治集会」の意味合いが強いとされており、なかには本来の内容からはズレた主張をする人たちもいます。その典型がトランプ支持派や、政治的暴力を促進する「Proud Boys」と呼ばれる極右団体です。
トランプ大統領の抗議デモの反応
各地で起こる抗議デモを受けてトランプ大統領はどのような反応を見せているのかご紹介します。
州知事を批判
抗議デモを受けてトランプ大統領は経済再開に一層注力する反応を見せています。ミシガン州でデモが起きた後の4月17日には「ウイルスよりも失業の方が怖い」などと発言し、抗議デモが起きた州を激励するようなツイートをしています。
また、抗議デモを受けた州知事たちはうろたえることになる、他人に指図される必要がない人もいるなどとも発言し、州政府による厳しい感染防止措置を批判しました。自身が注力する経済対策をどうしても突き進めたいトランプ大統領にとって、慎重な姿勢の州知事たちは邪魔な存在になっているのです。
ミシガン州のウィットマー州知事や、ワシントン州のインズリー州知事ら(ともに民主党)は、トランプ大統領が国民の命を軽視していると批判しています。とくに、インズリー州知事は大統領が規律違反を奨励しているとし、命を救うための行為を無視させるありえない振る舞いと痛烈に批判しました。
ニューヨーク州知事クオモ氏と直接協議
4月21日、新型コロナウイルス対策について度々批判し合っていたトランプ大統領とニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモがホワイトハウスで協議しました。
主な議題は、連邦政府と感染被害が多いニューヨーク州がどのように協力して検査体制を整えるかといったものだったとされています。クオモ州知事は生産的な協議だったと振り返っており、経済再開を急ぐトランプ大統領と、規制緩和に慎重なクオモ氏の全面衝突は避けられました。
クオモ氏は一連の対策において連邦政府に助けられたことや連邦政府に謝辞を述べています。トランプ大統領もクオモ氏を激励する発言をしており、両者を巡る世間の見方は確実に変わりました。
新型コロナウイルス対策に対する評価で世界中から人気を集めているクオモ氏がトランプ大統領に好意的な発言をしたことから、アメリカ国内ではトランプ大統領に対する評価が見直されています。
4,800億ドル追加経済支援
トランプ大統領としては11月の大統領選前までには経済を復調させておかなければ、新型コロナウイルスの初動対応の遅れや感染拡大を防げなかったこと、WHOや中国に対する批判的な態度、全米で2,400万人を超える失業者を生み出したことなどのネガティブな印象が取りざたされる可能性があります。
トランプ大統領は2.2兆ドル(約220兆円)を超える緊急財政支援を実施しましたが、予想以上に早く企業への支援金が底をついてしまったため、急遽4,800億ドル(約48兆円)の追加支援予算を取り付けました。これまでに3,000万人の雇用維持に成功したと主張し、さらに3,100億ドルを中小企業支援、1,000億ドルを医療体制の整備に投入するとしています。
大統領選前までに自身の失態をかき消すために、なんとかして経済を再開させたい思惑があると言えます。
抗議デモの本当の目的とは?
実は、相次ぐ抗議デモが誰によって始められたのかも問題視されています。ミシガン州で始まった抗議デモは、保守派の州民が管理するFacebookグループ「Operation Gridlock(道路閉鎖作戦)」に賛同した人たちが集まりました。
この「Operation Gridlock」を運営しているのが「Michigan Freedom Fund(ミシガン自由基金)」と「Michigan Conservative Coalition(ミシガン保守連合)」の2団体です。この2団体に対して資金援助をしたとされているのが、ミシガン州を拠点にしている「DeVos family(デヴォス一家)」です。デヴォス一家はもともと政治家、資産家、実業家、大富豪という一家で、Betsy DeVos(ベッツィ・デヴォス)は現役で合衆国教育長官を務めています。
デヴォス一家は500,000ドル(約5千万円)を寄付したと言われています。また、これらの団体は一家の政治顧問で、共和党の政治戦略家でもあるGreg McNeilly(グレッグ・マクニーリー)が設立しています。
一家は伝統的に共和党支持者として知られており、トランプ大統領が大統領選に勝利した2016年の大統領選では、おおよそ4億円の政治資金を寄付しました。言わば、ミシガン州におけるトランプ大統領の大物支持者でもあることから、トランプ政権へ有利に働くこと(デモ活動)に加担したと言われているのです。
ミシガン州の州知事ウィットマー氏は、デヴォス一家が抗議デモを主催したグループに資金提供し、全米で同様の計画を企てていると批判しました。一方で、デヴォス一家は今回の抗議デモとの関係を当然ながら否定しています。
しかし、ミシガン州でのデモのきっかけとされるFacebookページと全く同じ内容が他州でも使用されていたことから、ミシガン自由基金とミシガン保守連合、すなわちデヴォス一家の関与は深いと推測されています。
Michigan Conservative Union(ミシガン保守組合)はミシガン州で起きた抗議デモは「テンプレート化」されており、全米中のトランプ支持者、共和党支持者などを巻き込んだ大規模デモを引き起こそうとしていると警鐘を鳴らしています。
実際に「Operation Gridlock Colorado(コロラド州)」や「Operation Gridlock Los Angeles(カリフォルニア州)」など同様のFacebookページが立ち上がっており、抗議デモの準備は徐々にアメリカ全体に広まりつつあります。また、抗議デモの原点であるミシガン州では「Operation Gridlock 2.0」と称した抗議デモの開催が再び呼びかけられています。
まとめ
アメリカでは新型コロナウイルス問題によって改めて国民が二分されていることが分かりました。経済再開を望む人たち、経済よりも健康や命を優先すべきと考える人たちで、それぞれの言い分がありますが、やはりその根本は共和党支持者と民主党支持者に関係しているようです。
アメリカは日本のように多くの政党がある訳ではなく、実質的には共和党か民主党の2つです。これ故に、どの時代でも意見が真っ二つに分かれてきた歴史があると言えるでしょう。アメリカ全土で次第に拡大しつつある抗議デモに代表されるように、新型コロナウイルス感染拡大という非常事態でも、アメリカがひとつになれない理由はそこにあるのかもしれません。
日本でも当然、「経済活動の再開時期」については様々な意見が出ることが予想されます。アメリカ同様に、政党によって意見が異なることもあるでしょう。
日本やアメリカに限らず、世界の各国が、いつ、どのタイミングで経済活動を再開させるか、注視が必要です。
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