はじめに – アメリカで問題となっている「若者の投票率」の低さ
今や有権者総数の31%を占めるミレニアルやジェネレーションZ世代の若者達。彼らの票は、これからのアメリカ社会を、大きく変える事ができるほどの影響力を持っています。しかし若者の投票率は常に低く、一般的には若者が政治にそれほど関心がないためだとされています。しかし理由は本当にそれだけなのでしょうか。
日本なら投票所に足を運びさえすれば、たとえ初めて投票する人でも、比較的簡単に投票することができます。
しかしアメリカは日本と違ってだいぶ面倒で、たくさんの手順を踏まないと投票することはできません。ひとつひとつは些細なことでも、初めて投票する人にとっては、複雑で骨が折れる作業なので、途中で諦めてしまうのも頷けます。
今回は、アメリカの選挙の方法について、詳しく解説します。
選挙人名簿への登録は各自でしなければならない
投票の際にはまず、選挙人名簿に登録されている必要があります。住民票に基づいて選挙人名簿に自動的に登録される日本とは違い、アメリカでは有権者が事前に、そして自発的に有権者登録をしなければ、投票できないようになっています。
なぜそうなったかと言うと、過去に政党が移民や未亡人などの貧困者票を不当動員して、選挙の公平性が失われたため、本当に投票の意思のある有権者のみが、投票をできるように始められました。その名残りが今でも存続していて、18歳になって選挙権が得られても、有権者登録を個人が済ませない限り、たとえ投票したくても、投票することはできません。
有権者登録の手続き自体はそれほど複雑ではありません。登録は郵送、もしくはオンラインでできますし、不在者投票の葉書の申請もこの時にできます。しかし問題は、有権者登録が連邦政府ではなく、州ごとで独自に登録管理されている点にあります。
手続きの方法や受付締め切り日など、州ごとで決められているため、選挙の数ヶ月前に登録を済ませなければならない州もあれば、免許証の更新時に有権者登録のできる州、また選挙当日でも有権者登録を認めている州など、手続き方法がバラバラです。州をまたいで住所が変わるごとに再登録が必要で、毎回変わる手続き方法や期限を調べ、登録手続きを繰り返すのは、非常に面倒です。
不在者投票の場合も同じで、用紙の申請をしても、指定の住所に送られてくるまでに最低2週間かかる州もあり、手続きが遅れれば、返送する前に選挙が終わってしまう可能性もあります。海外留学などで、不在者投票用紙を自分で印刷して郵送しなければならない場合、まず特殊印刷をしてくれる専門業者を探すところから始めなければならない場合もあります。
アメリカの選挙権年齢について
アメリカの選挙権年齢は1971年に21歳から18歳以上に引き下げられました。理由はベトナム戦争の徴兵制度で、18歳から徴兵されるのに、選挙権がないのは不当とされたためです。
アメリカの18歳は、完全な社会構成員です。特にミレニアル世代は2001年アメリカで起きた911同時多発テロ事件、2011年に日本を襲った東日本大震災、リーマンショックやハラスメント、今回のコロナで浮き彫りにされた、人種差別や格差や貧困など、数多くの社会問題を目の当たりにしてきた世代です。そのためか若くても、しっかりとした意見を持っている人がたくさんいます。
しかしいくら社会問題に強い関心を持っていても、18歳になったからと言っていきなり、『自分が住んでいる州の有権者登録の期限はいついつまでで、必要書類はこれとこれ…』とテキパキ行動できる若者ばかりではありません。
特にデジタルネイティブのこの世代は、デジタルツールを活用した情報収集能力が高く、ネットで調べれば、必要なことは全て簡単に手に入ると思っています。また必要な時に調べればいいと思っている所があり、しっかり覚えておく習慣もないので、今年3月3日に行われた大統領選挙の予備選であるスーパーチューズディにも、油断して登録の締め切りをうっかり過ぎてしまい、投票したくてもできなかった若者がきっと沢山いたはずです。
今の有権者登録の仕組みは、そこまで積極的に投票したいわけではない若者や、普段生活するだけでも手一杯の、教育水準や所得や社会的地位の低い、マイノリティの投票率を低下させる原因だとも言われてもいます。
その証拠に昨年の事前調査では、18〜29歳の43%が支持する政党の予備選に投票するつもりだと答えていたのに、蓋を開けてみれば投票したのはなんと、全体の20%以下でした。そのうえ18〜29歳の有権者の約30%は、選挙人名簿に登録すらしていませんでした。
候補者のリサーチも他人に頼れない
選挙運動期間中は、いろいろな情報が錯綜します。候補者の失言やスキャンダルはもちろんの事、候補者同士が名指しで中傷するテレビのC Mや、YouTubeの広告が1日何度も流れます。そのようなネガティブキャンペーンを、色々なメディアで1日何度も見て、投票したいと思っていた政党への関心も薄れ、投票自体を見送ってしまう若い有権者がいても不思議ではありません。
そう言った事態を避けるためにも、候補者の判断力や目指す政策が本当に自分の求めているものと一致しているか、個人で十分にリサーチをする事を勧められます。
現職の政治家が過去にどのような政治的政策を取ったのかなど、政治にあまり詳しくない人が自分で調べるのは大変です。保護者や政治に詳しい友達などから情報を得れば良いのではと思われがちですが、アメリカではそう簡単にはいきません。仲の良い家族や友達同士なら尚更、喧嘩になるのを避けるため、政党や政治的な話は積極的にしません。
そこで政治初心者が判断基準によく使うのが、選挙公約などの将来に向けての約束です。ほとんどの候補者は、自分のビジョンをウェブサイトで共有しているので、その情報を検討して誰に投票するか決めているようです。
州の規則と規制を確認する必要がある
現在35州で投票の際には写真付きの身分証明書を提示する必要があります。そして特に初めて投票する際には、写真付きのI D以外に、登録した名前と住所が記載された郵便物や公共料金やクレジットカードの請求書、銀行からの口座明細書や会社の給与明細などの提示が必要になります。
これは違法登録や不正行為をなくすため、投票所での本人確認の厳格化が進んできているためで、年々厳しくなっているように思います。そしてこのような制度の厳格化が、新生活を始めたばかりで、日々の暮らしに追われ、身分証明書の住所を変更するのを後回しにしてしまう若い有権者や、運転免許証のような写真付きI Dすら持っていない、貧困層の投票を難しくしているのもまた事実です。
自分がいかなければならない投票所の確認が必須
州の選挙事務所は、有権者の住所に基づいて投票所を指定します。指定された以外の投票所に行っても投票することができないので、まず自分がどの投票所に行かなければならないか、きちんと調べる必要があります。
ほとんどの投票所は、有権者が投票するのに十分な時間を考えて、少なくとも12時間は開いています。しかし一般的に、選挙が平日に行われるため、学生や時給制の仕事で生活している貧困層の有権者にとっては、平日に仕事を抜け出して投票所に行くのは、非常に困難です。
そのうえ投票所がいくら12時間開いていたとしても、学生が多く住んでいる地区では、昼休みや授業が終わった後など同じ時間に皆が投票所に殺到するため、締め切り時間前に投票所に到着しても、もうすでに長蛇の列ができていて、結局時間内に投票することができなかったと言うことも起こります。
まとめ
アメリカでは学校の授業の中でも、よくディベートが用いられ、幼い頃から自分の意見主張を表現する訓練がされています。そのため、たとえ未成年であっても、しっかりした政治的意識や意見を持っている若者がたくさんいます。そして多くのミレニアル世代の若者は、もっと政府が医療制度や移民、人種やジェンダーといった問題にもっと介入して、差別や格差がなくなることを期待していて、そのために自分の票を投じたいとも考えています。
そう考えると、若者の投票率が低いのは、ただ単に政治に興味がないだけとはいいきれないのではないでしょうか。若者の意見を政治に反映するためには、難しすぎるアメリカの投票までの仕組みを見直し、若者が投票しやすい選挙制度改革も考える必要があるのかもしれません。
毎回11月3日の2020年大統領選挙では、初めてミレニアル世代の有権者がベービーブーマーを上回ります。果たして若者たちの票が、これからのアメリカを変える事ができるのか、今から楽しみです。
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