アメリカの宗教法人は課税されているの?
結論をお伝えすると「課税されていない」と言えます。また、アメリカにおける宗教法人の課税事情は「日本とほとんど一緒」だと解釈して良いでしょう。
この解釈にあたり気を付けたい点としては、アメリカでは「州によって税制度が変わる」ことです。税制については各州が主権を持っているため、各州の裁量で決まっています。宗教法人に対する課税についても同様のことが言え、課税するかしないか、あるいは一部を課税対象にするなどの細かな点については州ごとにばらばらです。
このように、州ごとの税制が異なるため、細かな点まで含めて解釈することは大変です。まずは、大きな枠として「宗教法人の課税事情は、アメリカも日本と同じ」と解釈すると良いでしょう。
アメリカの宗教法人は非課税組織
アメリカでは課税対象にならない非課税組織(Tax Exempt OrganizationまたはExempt Organization)という枠組みがあります。宗教法人もこの枠組みのひとつで、他にも慈善団体、教育機関、科学研究機関など、公共の利益に貢献する団体が対象です。
非課税組織については連邦税法の「501(c) organization」において合計29種類の非営利団体が規定されています。宗教団体は501条C項3条の「宗教、慈善、科学、公共の安全、文学、教育、アマチュアスポーツ振興、児童または動物虐待防止の目的をもった団体」に該当します。アメリカでは「501C3」または「501」という単語が通用するほどです。
これはアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS:Internal Revenue Service)が管理しており、申請と厳しい審査をクリアすることで認められます。また、その資格を維持するために財務情報などをまとめた年次報告書の提出が義務付けられています。
非課税の内容については各州によって異なりますが、一般的に非課税組織は法人税や所得税、地方税などが免除されます。また、消費税や固定資産税も免除される州もあります。
例えば、ニューヨーク州の非課税組織は、州の法人税、市の消費税、市の固定資産税が免除されます。カリフォルニア州では、法人税と所得税が免除されますが、消費税は免除されません。仮に、同じ宗教団体であっても、州によって非課税の範囲が異なります。
筆者の知人が30年超所属しているドイツ系のある宗教法人は、アメリカ全土に展開していて、筆者が暮らすアリゾナ州にも下部組織があります。公式に非課税組織として認められた宗教法人なので多くの州では非課税ですが、アリゾナ州の一部では非課税の対象ではありません。
アメリカに怪しい宗教団体はあるの?
アメリカにもお金目当てなどと悪評が付いている宗教法人はあります。ただし、その多くは法的に非課税組織として認められており、なおかつその資格を維持するための義務もこなしているため、違法と判断されるケースはほとんどありません。この点においても日本と同様と言えるでしょう。
インターネットが普及する前(2000年以前)は、テレビでtelevangelist(テレビで布教活動をする伝道師)が数多く見られました。また、その中には豪勢な生活を公にしている人もいたため、アメリカでも「宗教団体は非課税だからお金がある」という噂が定着しました。
アメリカでは、ある宗教団体が間接的な企業買収を繰り返し、大手ニュースメディアや食品卸会社を実質的な配下に置いていることはよく知られています。メディアを支配することは政治に影響力を及ぼし、食品を支配することで安定的な収益を確保できます。アメリカでも、政治やビジネスを意識した活動をしている宗教団体はあるのです。
ちなみに、アメリカでは信仰する宗教団体に対する個人の寄付は「収入の10%」がひとつの基準になっています。あくまでも基準であり、これよりも少ない人もいれば、多い人もいます。この基準は「tithing, tithe(十分の一税)」と呼ばれ、キリスト教やユダヤ教などで古くから続いてきた習慣または文化のようなものです。
アメリカの政治と宗教団体の関係
アメリカの政治と宗教は非常に密接な関係があります。
アメリカでは「教会と国家の分離(日本で言う政教分離の原則)」が、Bill of Rights(権利章典:アメリカ国民に保証する権利をまとめたもの)に掲げられています。また、近代アメリカにおいては、政教分離の原則に基づいた中立的な報道がメディアの基本方針とされてきました。
しかし、実際には大統領選などで「宗教票」と呼ばれる、特定の宗教信者らによる票を意識した政治活動が行われています。例えば、立候補者が特定の宗教団体の活動拠点で演説をおこなって、演壇の後ろに宗教関係者を立たせることなどがあります。(宗教団体の有力者がテレビに映る可能性があり、全国の信者にアピールできる仕組み)
非課税組織である宗教法人は、あらゆる選挙活動中の賛成運動および反対運動を制限されていますが、支持者を応援すること自体は制限されていないため、問題視されることはありません。
選挙時におけるこのような一連の取組みは、各陣営の「選挙コンサルタント会社」が請け負っています。それは政治活動と言うより、もはやビジネスであり、実質的には政教分離の概念はありません。
2016年の大統領選時(トランプ対ヒラリー)、トランプ陣営の選挙コンサルタントだった「ケンブリッジ・アナリティカ社(2018年に廃業)」は、Facebookのユーザーデータ(政治思想や宗教など)を収集し、ターゲティング広告によって効率的な露出活動をしました。つまり、個人の宗教観と政治を結びつけた政治活動をしていた訳です。(事実、トランプ氏はキリスト教福音主義者からの支持が厚い)
このような風潮はメディアも同様です。ニュースメディアは特定の宗教を意識した報道を繰り返す傾向があります。具体的には、中絶規制問題を巡って、敬虔なカトリック教徒の視聴者が多いとされる保守系メディアのFOXニュースは、中絶規制を支持する内容や、保守系政治家の声を繰り返し報道することで保守系政党の共和党を推しています。
対照的に、リベラル派メディアの筆頭格であるCNNは、中絶規制に批判する内容を報道し続けることで、リベラル系政党である民主党を推しています。
つまり、メディアも政教分離の原則をうたっていながら、実質的にはまったく分離できておらず、むしろ政治と宗教は非常に密接な関係にあると言えます。この点については、日本よりもアメリカの方があからさまな印象を受けます。
ちなみに、アメリカでは政治家として活動していくために「改宗」する議員もいます。共和党議員のマルコ・ルビオ氏はカトリックからプロテスタントに改宗しています。また、大のトランプ嫌いから熱烈な支持者に変わったことで知られるテッド・クルーズ氏もカトリックからプロテスタントに改宗しました。
議員の政治思想の変化や、支持者を意識して改宗する議員もいるほどに、アメリカの政治と宗教は密接な関係にあると言えるでしょう。
中絶規制問題に関しては、以下の記事を合わせてご参照ください。
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まとめ
アメリカの宗教法人に対する課税事情については日本とほとんど同じです。また、国民の中には「宗教法人はぼろ儲け」という考えを持っている人も少なくありません。この点も日本とアメリカは同じと言えるでしょう。
そして、アメリカでは宗教法人がビジネスだけでなく政治にも影響力を及ぼしており、政教分離の原則は形骸化しています。日本とアメリカの事情はよく似ているものの、アメリカの方が宗教法人の影響力が強いと言えるかもしれません。
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