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アメリカの社会状況2022

アメリカ、最低賃金の値上げによって起こる負の影響(2022年9月情報)

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目次

最低時給15ドルへの引き上げを目指すFight for $15運動

アメリカでは、最低賃金引き上げをめぐる動きが活発になっています。

この流れを作り出すきっかけを作ったのは、2012年にニューヨークのマクドナルド店員が起こしたストライキで、そこから市民運動『Fight for $15』に発展しました。今ではファーストフードだけでなく、さまざまな職種の人達や、その人たちを支援する人達によって、貧困ラインを上回る最低源の収入を得るための運動が、全米各地で開催されています。

アメリカには公正労働基準法によって定められる連邦最低賃金と、各州によって定められている州の最低賃金の2種類があります。

連邦最低賃金は7ドル25セントですが、州の最低賃金が連邦最低賃金より高い場合は、州の最低賃金が適用されます。

州として最低賃金引き上げの行動をいち早く起こしたのは、カルフォルニア州とニューヨーク州で、段階的に時給を15ドルまで引き上げることを決定しました。またアリゾナ州でも2019年から段階的な最低賃金の引き上げが行われていて、現在の段階で時給12ドル80セントまで引き上げられました。

法的な賃金値上げ以外にも、コロナ禍で人手不足が特に深刻な、サービス業やレストランチェーン店などを中心に、企業が独自に賃金引き上げを行うことも多くなってきています。例えば、大手小売業のウォルマートやターゲットでは、自社の最低賃金を一律15ドルにすると約束し、ハンバーガーチェーンのIn-N-Out Burger(インアンドアウトバーガー)では、未経験者の初任給が時給16ドル、経験者は19.50ドルと、大きく求人募集の広告が出ていました。

物価の上昇に追いつかない賃金

物価の上昇に伴い最低賃金が引き上げられれば、低賃金労働者とその家族を貧困から救い出す可能性があり、労働者の生活の質も上がっていたかも知れません。しかし現実は人件費の高騰によって、大幅な物価上昇が起こってしまい、低賃金労働者の生活が、さらに厳しいものになってしまいました。

2022年、アメリカで起こっている記録的なインフレの原因は、原材料費や燃料費の高騰、輸送費や人件費の値上がりなど、雇用側がさまざまなコストの増加を価格に転嫁していることが挙げられます。

そのため労働者の収入が上がれば上がるほど、物の値段が上がり、どんなに一生懸命働いて生活を切り詰めても、最低賃金レベルで働く労働者の収入が物価の上昇に追いつく事はありません。

また時間給で働くと収入が安定しないこともあり、住宅ローンを組むことも難しく、もしローンが組めたとしても、借りられる金額が制限され、金利も他より高く設定されてしまいます。そのため低賃金労働者は賃貸住宅に住んでいる場合が多く、それも生活を圧迫する原因になっています。

アメリカの賃貸住宅で支障なく住らしていくには、家賃と光熱費込みの支払いが、収入の30%以下であることが重要と言われています。住宅情報サイトZumperによると、アリゾナ州フェニックスの2ベッドルームのアパートの平均家賃は、2022年9月1日時点で1700ドルだそうで、もしこの家賃のアパートを借りて暮らしていくには、なんと年間8万ドル($1=125円換算で1千万円)以上稼ぐ必要があります。


アメリカでは住宅価格の高騰が未だ続いていて、ここ数年はアパートの更新ごとに10%くらいずつ家賃が値上がりするのが普通になっています。もしこのまま家賃が上がりし続ければ、一番被害に遭うのは、最低賃金で働きながら家族を養う黒人やスパニッシュ系のシングルペアレント達です。

2021年のフェニックスに暮らす4人家族の世帯年収の中央値は46881ドル(約586万円)ですが、アリゾナ州の最低賃金労働者の年収は、毎日8時間働いたとしても$26624(約333万円)にしかなりません。もしこの収入の30%を家賃に充てるとなると、月にかけられる家賃は665ドルしかありません。

ワンルームの家賃ですら1225ドルもするフェニックスで、665ドルでアパートを探すこと自体、至難の業です。安全な地域や希望する部屋数の部屋を借りたければ、家賃の比率を上げるしかありません。しかし家賃比率が収入の40%を超えた場合、例えば交通事故やコロナに罹って仕事を休まなければならないなど、予期せぬ大きな事件が一つでも発生すれば、たちまち収入は激減し、家賃や食費が払えなくなり、運が悪ければ立ち退きにあって住むところを失い、ホームレスにもなりかねません。

まとめ - どうなるアメリカ?2022年の最低賃金の値上げとインフレ(物価上昇)

今から5年前の2017年、アリゾナ州の最低賃金は時給10ドルでした。

そこから計算すると、最低値賃金レベルで働く労働者の中には、収入が2倍近くになった人もいるはずです。

しかし雇用側がコストの増加分を価格に転嫁している今のアメリカでは、日常生活に関する全ての物が値上がりして、低賃金労働者だけではなく、アメリカに暮らす一般市民の生活の質は、賃金値上げ以前より確実に一歩後退しているように思われます。

参考資料サイト

アリゾナ州フェニックスの家賃

Living Wage Calculato

本記事は、2022年9月22日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

2021年に公務員総合研究所に入所した新人研究員。

好きな言葉は、「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」

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