海外在住の日本人による世界情勢コラムです。今回は、イスラエル・ユダヤ人についてテーマにしてみました。
約2000年前に国を滅ぼされて以来、世界中で迫害をうけ続けるユダヤ人。なぜユダヤ人はこんなに長く迫害を受け続けるのか、今回はその理由を3つ紹介したいと思います。
そもそも、ユダヤ人はどんな人達?ユダヤ人の定義
まずここで一つ書き足しておきたいのは、ユダヤ人という定義は他の国の国民とは少し異なるという点です。
現代のユダヤ人はユダヤ教を信じる人々、もしくは先祖や親(特に母親)がユダヤ人の場合に、ユダヤ人やユダヤ系とされることが多いです。また非ユダヤ人として生まれた人も、ユダヤ教のことを深く勉強し、厳しい試験をパスしてユダヤ教徒になることが認められれば、日本に生まれた日本人でもユダヤ人になることができます。
なぜユダヤ人は嫌われ、常に迫害され続けるのか
ヨーロッパにおけるユダヤ人迫害といえば、ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)を思い浮かべる人が多いと思います。しかし「反ユダヤ主義」の始まりは、それよりずっと以前、イエス・キリストの死後まもなく始まりました。
嫌われると考えられている理由その1:ユダヤ人はキリスト殺しの犯人である
ユダヤ人がユダヤ教を信仰しているだけで大変な差別と迫害の歴史を歩むことになってしまった一番の理由は、イエス・キリストが処刑されてしまったことに起因します。
ローマ帝国時代、ユダヤ人として生まれたイエス・キリストがユダヤ教のあり方を批判したにもかかわらず民衆の支持を集め、人々から救世主として崇められるのを見たユダヤの指導者達は、イエスの存在を恐れ、時の支配者であったローマ帝国の総督にイエスを反逆者として訴え、処刑させてしまいました。ここがユダヤ教の大きな分岐点となります。
その後イエスの弟子や信者達によって、キリスト教はヨーロッパ全土に広がってゆき、ヨーロッパに住むほとんどの人がキリスト教を信仰するキリスト教全盛の時代を迎えます。そしてキリスト教の勢力が拡大するのと比例して、ユダヤ人はイエスを殺した犯人の子孫として、差別や迫害に苦しむことになってしまったのです。
嫌われると考えられている理由その2:ユダヤ人は富を持ち過ぎている
キリスト教徒であることが国の一員であるのが前提となっていたこの時代、もともと住んでいたイスラエルの地から追い出され、ヨーロッパ各地で散り散りに暮らすようになります。ユダヤ人は「イエスを救世主と認めない、キリスト教を冒涜する存在」とまわりから異端視され、移住先では土地所有権を法律で禁止され、農業で生計を立てることができませんでしたが、土地がなくてもできる金融業や商業で生計を立てることを考えつきます。
この時代いち早く貿易業をはじめたのもユダヤ人達です。世界に散り散りになったユダヤ人同士の連帯感が、彼らのビジネスに大いに役立ち、貿易業や金融業の需要が増していくにつれ、ユダヤ人達の営むビジネスは巨大なグループへと成長し、移民したそれぞれの土地で富を握るようになります。しかし今度はその豊かな財力のおかげで、さらなる妬みや嫌悪感、嫉妬の対象になっていきました。
嫌われると考えられている理由その3:ユダヤ人の文化や思想の違い
ユダヤ教は神から選ばれたユダヤ人だけが救われる、ユダヤ人しか信仰できない非常に排他的で選民思想的な宗教です。ユダヤ人はユダヤ教徒と神様との間で結ばれた10の約束(十戒)を原点に、自分達が作った宗教を自分達だけで深く信仰し、他の人をユダヤ教に改宗させようという気もありません。宗教に深く関わりを持ちたくない人からすると、布教のため休日にいきなり玄関チャイムを鳴らしてくる宗教熱心な人達よりよっぽどマシに思えます。しかしそれでも私達非ユダヤ教徒が、彼らの行動に偏見を持ってしまうのは、私達があまりにもユダヤ人やユダヤ教のことを知らなさすぎるからなのかもしれません。
世界三代宗教の中で一番古い宗教でありながら、私達がユダヤ教について知っていることはあまりにも少なく、ユダヤ人の行動はとても不思議に思えるものが多々あります。例えば十戒の4番目に書かれているユダヤ教の安息日は金曜日の日没から土曜日の日没までの間毎週行われます。熱心な正統派信者は安息日の間、あらゆる仕事や作業をせず過ごします。安息日に禁止されている作業には、火や電化製品、車の使用も含まれるので、安息日に必要だと思われるガスや電化製品は安息日前の金曜日の夕方くらいからずっとつけっぱなしにされます。
安息日に歩いて出かけるのは大丈夫ですが、乗り物に乗るのも買い物をした荷物を持つのも禁止事項なので、外に出かけるより家でのんびり家族や友人と過ごすのが一般的のようです。インターネットやスマホは使用できませんが、本を読んだり人との会話や議論は推奨されているので、シナゴーグ(ユダヤ教の教会)へ行って勉強会に参加する人も多いようです。シナゴーグはユダヤ教徒でも男性しか入ることが出来ないので、ユダヤ教徒の行動に猜疑心を抱いている人達から見れば、変な格好をした怪しい男達が、毎週夜に集まって何か悪巧みをしていると疑うこともできます。
今年1月に起こったニューヨークのシナゴーグで謎の地下トンネルを掘って警察沙汰になってしまった事件など、(https://www.youtube.com/watch?v=iyVx4RHaA04)ユダヤ人に対する陰謀論を誘発するような事件を起こす人達もいるので、彼らに全く罪がないとは言い切れませんが、ユダヤ人に対する数々の陰謀論は、ユダヤ人の習慣や文化を知らない人達の偏見や猜疑心から生まれてきたものもたくさんあるのではと思います。
まとめ
キリスト教だけでなく、そもそも世界でも無神教とも揶揄されるくらい比較的宗教におおらかな日本においては、ユダヤ人にネガティブなイメージを持つ方は少ないと思います。
何千年もの間、ひどい迫害を受けながらも他民族に取り込まれず、深い絆と高い教育水準を保ち続けているユダヤ人。今後もユダヤ人達がユダヤ教を信仰し続ける限り、どんな苦難にあったとしても、それは自分達が神様から選ばれた証で、自分達が幸せになるために神様から与えられた試練と、たくましく乗り切っていくのではないかと思ってしまうのは、私だけではないはず。
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