日本の消防組織を支える、高い救助技術を持つ救助隊員
救助に特化した活動を行うチームが救助隊
日本の消防組織は、総務省消防庁以下、自治体ごとに消防局本部を持っています。そして、自治体にある各消防署には消防職員が配備され、日々の任務にあたっています。
消防職員の中でも、主に救出・救助活動に特化しているチームが救助隊です。どこにいても分かりやすい、国際色であるオレンジ色の活動服を着た隊員たちです。そして、救助隊員たちは、日々の鍛錬を欠かさない為に、毎日厳しい訓練を行っています。
隊員たちは、どこで訓練を行っている?
救助隊員たちの救助活動の為の訓練は、主にロープやカラビナ、はしごなどの資機材を使用したものとなっています。また、様々なシーンに応じた救出活動を行わなければいけませんので、訓練内容の救助シーンに合わせた設備が必要になります。
救助訓練を行う施設は、ほとんど消防署内に訓練設備として備え付けられています。ですが、都市型の消防署の場合高度な訓練を行う為の設備がない場合があります。この場合は、近隣にある大きな訓練施設を備えている消防署に出向き、訓練を行います。
自治体によっては、訓練のための専用施設や訓練場を設けている事も多いです。
基礎的な訓練 救助錬成訓練とは?
消防救助操法の基準が決まっている
救助隊が災害現場などで行っている救助活動は、総務書消防庁が定めている「消防救助操法」を基準として行われています。消防救助操法には、高所・低所など様々な救助シーンごとに、使用資機材や隊員の動きが明示されており、あらかじめ適切な救助方法が確立されたものになっています。
救助隊員はこの消防救助操法の基準にのっとり、場合によっては若干のアレンジを加えた上で、実際の災害時には迅速・適確な活動ができるように毎日の訓練を行っています。
消防救助操法は「基本編」と「応用編」からなる
消防救助操法は、基本編である基本操法と応用編である応用操法からなります。
基本操法では、空気呼吸器や大型油圧救助器具などの、救助活動において基本的な資機材の取扱い方法が、「消防救助基本操法の基準」として書き記されています。いずれの資機材についての使用方法が単純に紹介されているだけでなく、準備や撤収の方法までが一連の動きとして定められているのが、消防救助操法の特徴です。
一連の動きを操法として習得すると、各種の資機材の取扱いについて熟知する事に繋がります。これによって、一定の救出シーンだけでなくほとんどの救助活動の状況に対応できるようになるのが狙いです。
色々な救助パターンが盛り込まれた、消防救助基本操法
7パターンからなる高所救助操法
高い所から要救助者の救出救助を行う「高所救助操法」は、救出する状況や環境に応じた救助ができるように、7パターンが操法として網羅されています。
例えば、はしご水平救助操法には第1法と2法があります。第1法は担架を三連はしご先端部に結着し、架梯してある三連はしごを地面側に倒すように寝かせ、担架に収容された要救助者を地上へ救出する操法です。第2法ははしご先端を上部支点にして担架を吊り下げ地上へ降ろして救出する操法で、密集した住宅街など、はしごを寝かせるスペースがなく第1法が使用できない時に使用します。
「はしご車基本操法」も記されている
「はしご車基本操法」には、隊員の役割分担などの内容や、状況に応じたはしご車の使い方が記述されています。
消防署内では、総務省消防庁の定めた「編成、装備及び配置の基準を定める省令」にのっとり、消火隊ならポンプ車、救急隊なら救急車、救助隊なら救助工作車、と部隊に応じて運用している車両が定められています。そして全国の消防署を見ると、はしご車の運用を行っている部隊は救助隊がほとんど、という傾向があります。
「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」では、救助隊がはしご車を運用する事については定めていません。けれども、「はしご車基本操法」として、消防救助操法の中に盛り込まれているため、救助隊が日ごろの訓練と合わせて必然的にはしご車に対して熟知する事になり、はしご車を運用するケースが多くなっているのです。
低い位置から地上への救出を行う、低所救助
低い位置から吊り上げ救助を行う「はしごクレーン救助操法」や「重量物吊り上げ救助操法」は、汎用性も高く現場で用いられている救助方法です。低所救助はこの他にも、マンホールなど狭小立て杭からの救助を行う「立て杭救助操法」や、地下や下水道などの横抗から救出する為の「横抗救助操法」などがあります。
火災や震災、消防活動の基本救助操法
救助隊含め、消防組織の根本にある指名は火災救助です。この火災救助の実施の為の操法が「濃煙中救助操法」です。濃煙の立ち込める火災現場は、空気呼吸器を着装した上で、視界の悪い中進む消防の救助活動の中でも特に危険を伴う活動です。ですので、濃煙中救助操法では、目印や合図の伝達の為の活用するロープの使用方法、要救助者発見時の救出方法などの詳細な活動手順が網羅されています。
「座屈・倒壊建物救助操法」は、削岩機などで進入する為の開口部を作り、要救助者を担架に収容した上で救助する座屈耐火建物救助操法、チェーンソーなどで開口部を作って内部進入を行った上で救助活動をする倒壊建物救助操法の2つの操法からなっています。いずれも震災を想定した救助操法となっていて、消防局の防災訓練や出初式の訓練披露などでも見かける技術となっています。
なお、実際の震災時における救出救助活動では、上記の開口部からの侵入と要救助者の収容と救出の前に、高度救助用資機材などを駆使して、要救助者の位置特定を行うなどの動きが加わります。高度救助用資機材の駆使は、基本操法ではなく応用操法にあたりますので、実際の活動時には、基本操法と応用操法を組み合わせた上で、迅速かつ最適な救出救助活動が可能となっているのです。
消防救助操法の基本より3つの救助錬成訓練を見てみよう
はしご水平救出第2法
はしご水平救出第2法とは、建物の上階や屋根の上などの高所から、傷病者(負傷している要救助者)を安静な状態のまま迅速に救出する為の方法です。
要救助者を担架にしっかりロープで縛って固定した状態で、三連はしごを支持点として高所から地上へ、担架を吊り降ろして救助します。救出の為の準備や作業の量が多い事と、その大半の作業を高所で行わなければいけないという特徴があります。
ビルなどの高所に負傷した要救助者有、の状況で訓練がスタートします。訓練開始後、まずは傷病者の所まで届く三連はしごを架けます。隊員1名が使用資機材を吊り下げる為のロープを携行した上で、はしごで高所に侵入します。同時に、地上では一箇所吊り担架の作成を実施します。半分に折りあげた小網2本を用意し、吊り降ろしたときに傷病者の頭部が下がらない様に、担架の頭部側が足側よりもやや高くなるように調節しておきます。
はしごで高所にたどり着いた隊員1名は、持ってきたロープを地上に投下します。地上の隊員は投下されたロープに、高所でフレームとして使用する為のとび口(先端が鳥のくちばしのような形をした資機材。火元の確認や進入を阻むがれきの破壊などに使用)を結着します。とび口を結着後、高所の隊員がロープを引き上げます。
高所では、引き上げたとび口を使用してフレームを作成します。同時に地上で救助に使うロープを広い場所に展開し、延長した時に絡まないようにしておきます。その後、救助ロープの端をカラビナなどで着装した隊員4名が三連はしごで高所に向かいます。同時に、地上に残った隊員1名は準備ができた一箇所吊り担架も吊り下げ様ロープで高所へ引き上げます。
高所で引き上げられた一箇所吊り担架に要救助者を収納後、しっかり固定する為に縛着します。その後、救助用ロープを担架に接続します。これと並行して、救助用ロープを持った隊員1名が三連はしごの上部で作業姿勢を取り、担架の吊り下げ点の作成と、フレームのはしごへの結着を行います。
地上に残った隊員は、肩確保で救助ロープを保持しておきます。高所でフレームからはしごを建物から離して、担架を高所から出します。地上の隊員が、確保しているロープを緩める事によって、担架に乗せられた要救助者を確認しながら地上に降ろす事ができます。
低所からの担架水平救出
技術力の進化により、救助隊の持つ資機材もより便利な物が多くなりました。その中のひとつがバーティカルストレッチャーです。バーティカルストレッチャーは従来の平担架ように二人一組で傷病者を運ぶ平坦運搬の役割だけでなく、色々な場所から要救助者を救う為にも使用される新しいタイプの担架です。
バーティカルストレッチャーは、強度や耐久性の高く、燃えにくい素材を使用しているので、要救助者を収容したままで垂直吊り上げ、水平吊り上げも可能になります。救助隊員の手による救助ロープでの吊り上げ、吊り下げはもちろん、ヘリコプターからの吊り上げ救助も可能になります。普段は丸めてコンパクトに収容できるので、色々な所に携行する事も可能です。救助隊員がバーティカルストレッチャーを携行して、より狭い場所や低所への救出へ向かうのも可能です。ハンドルが既にバーティカルストレッチャーに付属しているので、傷病者を収容した後にそのまま縛着も簡単にできます。利便性の高さ、そして使用できる救出救助の状況が飛躍的に広がるので、全国の消防署への配備が進められている資機材のひとつとなっています。
担架水平救出とは、低所に墜落した要救助者をバーティカルストレッチャーに収容、応用技術として頭部側と足部側の二か所に設定した救助ロープで吊り上げて救出する訓練となっています。
低所への墜落事故が発生し、要救助者が負傷している状況を想定して訓練がスタートします。事故を想定した訓練の場合、隊員は感染防止の為に感染防衣を着用して訓練を行います。まず、隊長と1番隊員が空気呼吸器を着装の上、要救助者のいる低所空間の環境を確認する為に先行して現場に接近します。単はしごを使って低所空間に進入します。
要救助者を発見すると、ガス探知機などの資機材を使用して環境状況を確認します。酸欠や有毒ガスなどの危険がない事が確認されると、先行した2人は空気呼吸器を離脱します。残りの隊員も、救助に使用する資機材を携行して現場に接近します。
現場に進入後、直ちに要救助者への接触と観察を実施します。その結果、要救助者の意識状態が悪く自力歩行が困難と判断し、吊り下げての救助が必要となりました。吊り下げ救助の為に、バーティカルストレッチャーを携行した隊員が続けて現場に進入します。
低所での救出活動と並行して、地上に残った隊員が救助ロープの準備を行います。準備ができたら、救助ロープを携行して低所に進入します。低所で隊員が連携して要救助者をバーティカルストレッチャーに収容し、ベルトによりしっかりと縛着します。縛着後、頭部・足部にそれぞれ異なる色の救助ロープを結着します。
救助ロープの結着後、低所から地上への救出を開始します。狭い空間および低所の為誘導ロープの活用が困難と判断され、進入した隊員2人が資機材を使わず自分の手だけで誘導を行います。地上側の2人の隊員が連携してロープを引き上げ、救出が完了します。
マンホール救助器具取扱訓練
救出救助活動の状況に応じて様々な資機材を使いこなす技術力も、救助隊には必要になります。資機材の取扱い方を熟知する為の訓練として、マンホール救助器具取扱訓練を紹介します。
マンホール救出器具は、マンホールなどの低所から要救助者を救出するための資機材です。色々なタイプがありますが、今回はシンプルな三脚に三つ打ちロープや滑車を組み合わせたタイプを使用します。
マンホールに要救助者が墜落した状況で訓練が開始します。救助工作車に積載されているマンホール救助器具を取り出し、器具の組み立てを行います。マンホール救助器具は三連はしごが収容されている救助工作車後方のスペースに一緒に積載されている事が多いです。
三脚を組み合わせて開き防止チェーンを設定後、吊り上げの為の救助ロープや滑車を設定します。要救助者を吊り上げた状態の救助ロープがまた下に墜落するのを防止する為に、ブレーキの役目を果たす小綱を縛るなどの工夫も行います。
マンホール救助器具の設定が完了したら、マンホールの真上に器具を移動させて救出を開始します。要救助者を動滑車で吊り上げて、救助隊員は一気にロープを引くのではなく、引いて確保、引いて確保、を繰り返して地上に要救助者を救出します。
まとめ
救助技術を向上させるためには、基本的な訓練が重要となります。そして、基本的な訓練を繰り返すことによって、現場での適切な救助活動が可能となっているのです。
全国の消防署では、今日も救助隊員たちが訓練を行っています。
(文:千谷 麻理子)
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