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【地震からゴジラまで】国内における自衛隊の災害派遣活動について

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目次

自衛隊の派遣について

自衛隊法に基づき、国内・海外への派遣が行われる

自衛隊に関する法律である自衛隊法に基づき、自衛隊は要請に応じて国内・海外へ派遣され現地で活動を行います。国内の場合は、主に災害派遣(通常災害派遣と原子力災害派遣)、自主派遣、近傍派遣、地震防災派遣の4種類の自衛隊派遣があります。

今までの派遣実績

国内における自衛隊の災害派遣実績は、自衛隊ではなく保安隊であった1953年の西日本水害から始まります。その後、阪神淡路大震災や東日本大震災などの大地震を始め、台風、火山噴火、豪雨などの災害、福知山線脱線事故を始めトンネル崩落事故や航空機墜落事故などの事故現場、口蹄疫の流行や鳥インフルエンザなど疫病流行、糸魚川市大規模火災などの大規模火災などに派遣された実績があります。

自衛隊の国内災害派遣の種類について

都道府県知事もしくは市町村からの要請を受けて派遣される「通常災害派遣」

国内で災害が発生した時、被災地の市町村長は都道府県知事を通じて自衛隊派遣を防衛大臣に要請できます。被災状況や消防、警察などの他の組織の災害に対する活動状況を把握しているのは都道府県知事ですので、基本的には都道府県知事が市町村からの要請に対して自衛隊の災害派遣の必要があるのかを判断し、要請を出します。ただし、何らかの事情で都道府県知事から防衛大臣への要請が出せない場合に限り、市町村長から防衛大臣(もしくは他の指定者)へ直接要請を出す事もできます。

被災地からの要請がない場合に派遣される「自主派遣」「近傍派遣」

▼自主派遣について
大規模災害が発生した時には、通信手段が遮断されていたり、現場が混乱していたりするので、都道府県知事や市町村長が防衛大臣への自衛隊派遣要請がすぐにできない時があります。この場合でも、防衛大臣が緊急を要すると判断した場合には、例外的な自衛隊派遣である自主派遣が行われます。なお、災害発生当時は要請ができずに自主派遣されたとしても、後日正式な要請を都道府県知事などが改めて行う事が多いので、完全な自主派遣による自衛隊災害派遣はあまり行われていません。

また、大規模災害時にも即時に対応できるように、自衛隊には常に初動対処部隊「ファスト・フォース」が待機しています。ファスト・フォースが自衛隊への派遣要請が出る前に、被災地の情報収集のために現地に派遣されますが、これも自主派遣にあたります。

災害への対応が目的ではなく自主派遣もあります。各国要人の集まる首脳会議などが日本で開かれる場合、テロへの警戒目的で自衛隊が現場周辺に派遣されますが、これも自主派遣にあたります。

▼近傍派遣について
自衛隊の施設や部隊が活動している近隣で災害が発生した時には、防衛大臣ではなくその場の自衛隊部隊長などが判断を行い、災害対策を行う「近傍派遣」が行われます。

地震対策本部長(内閣総理大臣)からの要請を受けて派遣される「地震防災派遣」

日本国内で大規模な地震災害が発生する可能性がある場合、大規模地震対策特別措置法に基づいて警戒宣言が出され、同時に政府に地震対策本部が設置されます。地震対策本部長(内閣総理大臣)が要請すれば、地震が発生する前防災のために自衛隊を派遣することができますが、現在地震防災目的での派遣実績はありません。

原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の要請により派遣される「原子力災害派遣」

原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言が出された時には、政府に原子力災害対策本部が設置されます。原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の要請によって、原子力災害現地に自衛隊の部隊が派遣されるのが、原子力災害派遣です。

災害派遣における自衛隊の活動内容について

自衛隊の長所を生かした活動を行っている

災害が発生すると、自衛隊以外の警察、消防、医療機関でも要請を受けて緊急消防援助隊及び警察災害派遣隊、DMATなどが結成、現地に派遣されて災害活動を行います。

災害派遣において、自衛隊は警察・消防の他の部隊から支援を受けなくても自力で活動ができるという長所を生かして幅広い活動を行っています。警察や消防が災害に対する活動を行う時には、初動のために準備や時間がかかりますが、自衛隊は迅速な初動対応も可能です。


また、一定の時間が経過して警察や消防の災害活動が進んでいる場合は、物資の輸送やインフラなどを含めた復旧工事、生活支援などの後方支援活動に回ります。特に、自衛隊は航空機やヘリコプターなどの空輸能力が警察や消防と比べて飛躍的に高いので、これを生かした支援物資の輸送や、高所からの人命救助活動などを主に行います。

災害派遣における活動範囲と自衛隊の立場

自衛隊は災害派遣において、活動範囲の制限を受けていません。全国の基地や駐屯地から派遣されるので、管轄地域外でも活動を行います。

災害派遣時に自衛隊が与えられる権限は、その時によって変化するのが特徴です。例えば、災害派遣活動を円滑に行うためなど正当な理由がある場合、かつ現場に警察官や消防職員、自治体の職員などがいない場合には、近傍派遣を除いて自衛隊の災害派遣部隊の指揮官が住民の避難誘導や工作物の除去など、他の機関の持つ権限の一部執行による行動も可能です。

通常時には、同一の現場で災害活動にあたる各機関と並列・対等な立場であり、災害対策本部から調整を受けて、役割を分担して行います。警察や消防と同等の救助活動や遺体の搬送、収容などの活動を行う自衛隊員もいれば、ボランティアと共同で活動を行う自衛隊員もいます。

人命救助に関する活動

災害活動の中で人命救助に関する活動は、緊急消防援助隊を始めとした消防組織が専門としているので基本的には自衛隊は人命救助活動を行いません。ですが、消防組織の初動に時間がかかり緊急を有する場合や、消防組織だけでは人手が足りない場合、高所など救助のためにヘリコプターなどの使用が必要な場合には、人命救助活動も行います。

また、消防が担う行方不明者(主に生存者)の捜索や、警察が担う死亡者の捜索、遺体の搬送や収用も行います。

負傷者の治療に関する活動

災害発生時には、48時間以内の救急救命医療の提供のためにDMATが結成、編成されて被災地に向かい医療活動を提供します。その後も、救護所などが避難所に設置され、医療活動にあたります。

負傷者の治療などは、医師や看護師などの医療従事者が主に行いますが、こちらも人手が足りない時には自衛隊も医療活動をサポートします。

消火活動

火災が発生した時にも、当該自治体の消防組織や消防団が基本的に消火活動を行いますが、山火事など広範囲に及ぶなど、都道府県知事が必要と判断した場合には災害派遣要請を行い、自衛隊がヘリコプターや航空機を使用した空中消火を行います。また、自衛隊の近隣施設での火災や、訓練中の施設や地域での火災対応など、近傍派遣の一環としての消火活動も行われています。

人員や物資の輸送活動

ヘリコプターや航空機などの自衛隊の持つ高い空輸能力を利用した活動は自衛隊の災害活動の中でも頻度が高くなっており、特に多く行われているのは、離島や僻地などに住む患者に、適切な医療行為を提供するための急患空輸です。日本の本土から遠く離れているので、他の航空機では現場に行きつけない場合の船舶からの急患空輸や、医療設備を搭載した機動衛生ユニットを用いたC-130輸送機による重急患輸送も行います。

平成24年度の自衛隊災害派遣総数の内、急患輸送は410件となっています。自衛隊法では「天災地変その他の災害に際して」と定義されていますが、上記のように直接災害が原因ではない患者の急患空輸も行っています。

とはいえ、災害が原因ではない急患空輸は自衛隊の活動範囲を超えてしまうものと見なされるので、地方自治体などの公の機関が提供するべき医療機関や輸送手段が欠如している場合のみ、「社会的欠陥の是正を公(地方自治体)の要請を受けて行う」という観点で行っています。離島や僻地などの急患空輸の他、ドクターヘリが出動できない夜間も自衛隊が災害派遣として急患輸送を行います。

他にも本来の自衛隊の災害派遣活動である、災害発生時に被災地に派遣する人員や、救援物資を含めた必要な物資の輸送も行います。

道路などの応急復旧や障害物の排除

災害によって道路が寸断されると、陸路から被災地への侵入と退去が難しくなり、いわゆる「陸の孤島」となります。被災地への救援人員や物資の輸送や避難をスムーズに行うために、自衛隊が道路などの応急復旧工事や障害物の排除を行います。

特殊災害への活動

化学兵器を使用したテロや原子力発電所の事故が発生した時には、特殊災害への活動を行います。当該施設の封鎖や化学防護、被爆者の除染などを行います。


害獣、害虫の捕獲・殺処分またはその支援

動物園から獰猛な動物が逃げた時、スズメバチなどが大量発生した時など、当該自治体の住民に危険性のある害獣や害虫が発生した場合も、災害派遣として要請があれば、自衛隊が害獣や害虫の捕獲、殺処分や、警察や消防など他の組織のサポートを行います。

ちなみに、映画「ゴジラ」ではゴジラに対して自衛隊に派遣要請が行われ、ゴジラに自衛隊の航空機が攻撃するシーンがありますが、これは「ゴジラは害獣であるので、害獣駆除のための災害派遣活動」とする見解と、「国の防衛のための活動」とする見解があります。

自衛隊は軍隊ではないので、火器使用は認められませんがゴジラに対して火器を使用して攻撃しています。これは、自衛隊の災害派遣において「他に手段がなくやむを得ない場合」に限り、火器の使用が認められているからです。実際に雲仙普賢岳の噴火や東日本大震災における福島第一原子力発電所事故では、実際に使用される事はありませんでしたが、災害対応の手段として74式戦車が待機していました。

また、東京都の要請で湾岸ゴミ処理場のネズミなどの害獣、ハエ、ゴキブリなどの害虫駆除を行う時にも携帯型の火炎放射器を使用しています。

家畜伝染病に感染した家畜(患畜)に対する必要な処置

鳥インフルエンザや狂牛病など、人間や他の家畜に感染した場合重篤な被害が出る可能性のある疾患が発生した場合、災害派遣要請が出れば、殺処分などの必要な処分を自衛隊が行います。

被災者支援のための活動

主に自衛隊の災害派遣活動としてメディアなどでクローズアップされるのは、上記の災害に対する直接的な活動が多くなっていますが、実は被災者の支援を目的とした活動も行っています。

救援物資の空輸も自衛隊が行いますが、その救援物資を被災者などに分配するのも自衛隊です。

インフラが寸断された地域で給水所や入浴施設の設置を行うのも自衛隊です。また、入浴施設も男女入れ替え制で常に見張りの自衛隊員をつける(男性入浴時間は男性隊員、女性入浴時間は女性隊員)、「〇〇の湯」など被災者の心が少しでも軽くなるように、色々な配慮を行っています。

また、避難所での避難生活はストレスも溜まりやすくなります。被災者の中には、大切な人や物を失った人もいます。これらの被災者を対象とした、音楽隊による慰安演奏なども行っています。

他にも、子供や高齢者には声をかけるなど、メディアの影に隠れたそれぞれの自衛隊員が行っている被災者支援活動もあります。

自衛隊の災害派遣に対する日ごろの備えについて

迅速な初動対応のための「ファスト・フォース」

自衛隊では、災害発生時には迅速な初動対応のために駐屯地や基地に初動対処部隊を常に編成、待機させています。2013年に、国民へより親しみを持ってもらう目的で「ファスト・フォース」という愛称が付けられました。「First 発災時の初動において、Action 迅速に被害収集、人命救助及び、SupporT 自治体等への支援を Force 実施する部隊」の頭文字を取った、”FAST Force”が由来です。

防災演習の実施及び他機関の防災訓練への参加

東日本大震災から受けた多くの教訓を生かして、災害時に迅速な災害派遣計画の策定と災害派遣活動を行うために「自衛隊統合防災演習」を実施しています。また、自衛隊内の訓練だけでなく地方公共団体などが行う防災訓練への積極的な参加も行い、警察や消防、DMATなどの各機関との合同訓練も随時実施しています。

主な訓練への参加としては、政府主催により官邸で行われた「防災の日」政府本部運営訓練(首都直下地震対処訓練)への参加、防衛省災害対策本部運営訓練(首都直下地震対処訓練)の実施、九都県市合同防災訓練と連携した訓練への参加、静岡県総合防災訓練と連携した訓練への参加などの実績があります。

各種対処計画や業務計画の策定など、大規模災害への事前対策

中央防災会議において検討される大規模地震災害に対して、自衛隊では各種大規模地震対処計画を策定しています。近年発生が予測されている首都直下型地震への対策として、「首都直下地震対処計画」が改訂されましたが、自衛隊は首都直下地震が発生した時には、統合任務部隊を組織して、対処する計画をしています。また、「南海トラフ巨大地震対処計画」の策定も進めています。

大規模地震災害だけでなく、火山観測などの災害や二次災害防止のための災害観測も行っています。

地方公共団体との連携

自衛隊が災害派遣活動を迅速、かつスムーズに行うには各組織や地方公共団体との連携も重要です。自衛隊では、日ごろから地方公共団体との連携を強くするために、自衛隊地方協力本部に「国民保護・災害対策連絡調整官」を設置、合同防災訓練の実施や防災訓練への参加の他、防災計画の整合や連絡体制の充実を行っています。

また、各自治体の防災力強化のために地方公共団体から要請があれば、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦なども行っています。東京都の防災担当部局への自衛官の出向、陸自中部方面総監部と兵庫県の間で事務官による相互交流も行われています。

参考:
防衛省・自衛隊 防衛省・自衛隊の『ここが知りたい!』 各種災害への対応について
http://www.mod.go.jp/j/publication/net/shiritai/saigai/index.html

まとめ

災害派遣と一言に言っても、自衛隊の活動範囲は多岐にわたります。また、報道されない地道な活動も行っています。実は自衛隊の災害派遣については肯定的な意見だけでなく、自衛隊本来の役割から外れているなど否定的な意見も少なくありません。ですが、自衛隊の災害派遣活動によって多くの人が助けられている事実を私たちは知っておくべきではないでしょうか。


(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年2月27日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

憧れの職業から時事問題まで、母親と女性の視点から。子供達の成長と被災地復興を見守る「千谷麻理子」さんの執筆する解説記事・エッセイ・コラム記事です。

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