はじめに
2019年10月から消費税が10%になろうとしています。消費税が増税されると景気に対する悪影響は容易に予想されており、政府も現在対策を検討しています。
本記事では消費税とはそもそもどのような性質の税金なのか、なぜ増税するのか、どのような対策が検討されているのかなどについて説明します。
「直接税」と「間接税」 – 消費税は「間接税」
まずは、消費税とはそもそもどのような税金なのか、その性質について説明します。税金は直接税と間接税という2種類の税金に分類することができます。
直接税とは所得税や法人税のように各個人や企業から直接徴収する税金のことを指します。間接税とは消費税やガソリン税のように消費者からは直接受け取らずに、価格などに上乗せして、事業者などから間接的に受け取る税金のことを指します。
「間接税」と「逆進性」 低所得者に厳しい消費税
直接税は、比較的自由に税率を決定することができます。例えば、日本の所得税の制度は累進課税制を採用しています。すなわち、所得が低い人の税率は低く、所得が高い人の税率は低くすることによって、所得が少ない人の負担を軽減できるようにしているのです。
一方で、間接税の場合、相手によって柔軟に税率を変えることはできません。1万円の商品は、年収1,000万円の人が買っても、年収300万円の人が買っても消費税率8%ならば800円の税金がかかります。このように消費に対して税金が課税されるので、相対的に低所得者には厳しい税金です。この間接税が増えるほど、低所得者の生活を圧迫する性質のことを逆進性と呼びます。
「間接税」と「税収の安定」
上記のことを見ると、間接税は税制として直接税よりも劣っているのではないかと思われるかもしれませんが、もちろん直接税にはない間接税のメリットがあります。それが税収の安定性です。
所得税や法人税は景気に大きく影響を受けます。なぜなら、所得税や法人税の課税対象となる個人や企業の所得は景気によって大きく上下するので、税収としては不安定なのです。一方で間接税は安定財源となります。消費税が高くなったからといって、ぜいたく品の購入には慎重になるかもしれませんが、食品などの生活必需品を買わなくなることはありません。よって、間接税の方が財源として安定しやすい性質があります。
「直接税」と「間接税」の割合は直間比率と呼ばれていて、財務行政における重要な論点の1つになっています。
「消費税」の歴史
以上のように直接税と間接税という対比から消費税の性質について説明してきましたが、次に日本における消費税の歴史について説明します。
「消費税」が導入されるまで
日本ではじめて消費税の導入が議論されたのは1979年大平内閣のときです。当時の日本はオイルショックとニクソンショックという2つの要因によって経済が停滞していました。その最中に大平内閣は「一般消費税」を導入して財政再建を図ろうとしました。その後、一般消費税の導入を公約にした1979年10月に総選挙で選挙の風向きを見て導入を撤回しましたが大幅に議席を減らし結局消費税の導入議論は無くなってしまいました。ちなみに1987年中曽根内閣の時代にも「売上税」法案が国会に提出されましたが、反対により廃案となりました。
ようやく消費税が導入されたのは1988年竹下内閣の時代で、消費税法が成立して、1989年から税率3%でスタートしました。
「消費税」の増税の歴史
その後、1994年村山内閣で消費税が5%になるように法改正が行われ、19997年橋本内閣の時代から消費税は5%に引き上げられました。そして2014年4月、民主党から政権交代した安倍内閣の時代に消費税は8%に引き上げられました。
ちなみに消費税が増税されるのは安倍内閣の1つ前の野田内閣から決定しました。2012年野田内閣時代に2014年に消費税8%、2015年に消費税10%にする法案が可決しています。
野田内閣時代に成立した法律によると消費税を10%まで増税するのは2015年の予定でしたが、実際には2018年現在未だに消費税は8%のままです。これは2回に渡って消費増税を延期したからです。1回目のタイミングは2014年11月で2015年10月に10%に引き上げる予定だったのを2017年4月に延期しました。2回目のタイミングは2016年6月で増税のタイミングを2017年4月から2019年10月に延期しました。
そして2018年12月現在10%への消費税増税に向けて準備が進んでいます。
「消費税」の増税に向けて
では、消費税増税に向けて2018年現在準備がどのように進められているのかについて説明します。
そもそもなぜ増税するのか?
まず、考えなければならないのはなぜこのタイミングで消費税を増税しなければならないのかということです。財務省のWebサイト内に掲載されている「消費税引き上げの理由」というページを引用すると以下のように記載されています。
「今後、少子高齢化により、現役世代が急なスピードで減っていく一方で、高齢者は増えていきます。社会保険料など、現役世代の負担が既に年々高まりつつある中で、社会保障財源のために所得税や法人税の引上げを行えば、一層現役世代に負担が集中することとなります。特定の者に負担が集中せず、高齢者を含めて国民全体で広く負担する消費税が、高齢化社会における社会保障の財源にふさわしいと考えられます。」(引用:https://www.mof.go.jp/faq/seimu/04.htm)
上の文章によると消費税を増税する目的は以下の2つだと考えられます。
1)現役世代への負担の集中を抑えて高齢者を含めて広く国民全体から税収を確保する。
2)社会保障の財源を確保する。
消費税増税が消費に与える影響
以上のような理由から消費増税は、必要だとされていますが、一方で消費増税は景気にも悪影響を与えます。一般的に、消費税を増税することによって景気は減退すると言われています。
例えば大和総研というシンクタンクが2018年6月に発表した「2019年の消費増税の影響度と今後の課題」(https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20180622_020173.pdf)というレポートで消費増税が景気に与える影響について分析しています。
そのレポートによれば、消費税の増税による個人消費の反動減は軽減税率なしでマイナス2.3兆円、軽減税率を行ってマイナス1.7兆円だと資産されています。
もちろん、増税前には駆け込み需要が発生するので、実際の影響よりも大きく見えます。しかし、景気に対する悪影響が発生するのはこれまでのケースよりほぼ確実だと考えられます。
増税対策をどうするのか
以上のような悪影響を軽減するために、政府は増税対策の手法を検討しています。これまでさまざまな手法が検討されていますが、2018年12月現在発表されている対策は大きく分けて2つです。
1つ目の対策が軽減税率の導入です。軽減税率とは、生活必需品について消費税は8%、ぜいたく品については消費税10%というように、サービスや商品の種類によって税率を制度のことを指します。これにより所得が比較的低めの方たちの生活に対する増税の影響を少なくしようとしています。
もう1つが増税に対するポイント還元です。中小企業やキャッシュレス決済での買い物を対象に増税分の2%をポイントとして還元することによって実質的に増税による影響を無くそうとしています。増税対策とキャッシュレス決済の普及という2つの目的から検討されています。
ちなみに、両方が実現した場合は、軽減税率の対象商品は消費税率8%のままで、なおかつ2%のポイント還元を受けられるケースもあると考えられるので、実質的には6%、8%、10%の消費税のパターンが考えられます。
税制の問題と在り方について
以上のように消費税の増税に関する現在の状況について説明してきましたが、より俯瞰的に税制の在り方について考察します。
ストックかフローどちらに課金すべきか?
冒頭で直接税と間接税という2つの課税制度について説明しましたが、もう1つ税制の分類の仕方があります。フローに対する課金かストックに対する課金かということです。
フローとはお金の流れを指し、1年間の収入や利益のことを指します、もう1つのストックに対する課税とは、固定資産税のような資産に対する税金のことを指します。
増税の理由として、現役世代だけではなく高齢者を含めた広い世代に税金を負担してもらうことが挙げられていましたが、消費税が増税されると結局として所得が低い世帯が影響を受けてしまいます。
所得が低めの人に対する増税の悪影響を緩和するためには、フローに対する課金ではなく資産を貯めている人にどう税金を負担してもらうのかというストックへの課税が論点となります。
複雑な税制をどう管理するべきか
もう1つの問題が複雑な税制をどうコントロールするかという問題です。日本の税制は特別措置法という限定的な法律によって頻繁にルールを改訂したり、通達のように一般の人が調べてもよく分からない官庁が示したルールも影響を与えるので非常に複雑です。
公平性を担保するために税制が複雑になるのかもしれませんが、複雑な税制は意図しない脱税などを発生させますし、管理にもコストがかかります。
この複雑さは増税と共に軽減税率が適用されると更に混乱を発生させると考えられます。スーパーの中にも消費税8%、10%の商品があり、スーパーのレジではきちんと両者を区別して消費税を徴収しなければなりませんし、きちんと軽減税率に対応したシステムに会社のインフラを修正する必要があります。
消費税は10%で足りるのか
消費税を10%にすれば社会保障の財源をきちんと確保できるのかという問題もあります。少子高齢化によって、社会保障費の増大が今後も予想されます。
このように考えると、消費増税は増加する社会保障費に対する抜本的な対策にはなっていません。いずれ、社会保障費の増大に合わせて次の増税が行われるかもしれませんし、消費税を増税しても社会保障費を賄えなくなるかもしれません。
本質的には社会保障制度に対してメスを入れる必要があります。
まとめ
以上のように消費税について説明してきました。2019年の消費税10%に向けての準備が着々と進んでいます。ただし、増税によって日本の財政問題が解決するわけではありません。
消費税だけではなく、日本の税制は色々な問題を抱えており、今後も様々な税制改革を行う必要があります。公務員でも税制に関わるのはごく一部の人ですが、税制の変更は特に地方自治体とそこで働く公務員に大きな影響を与えます。地方公務員を目指す人は、自分の自治体がどのように財源を確保しているのかをきちんと理解できるようにするために、税制についても知っておいた方が良いでしょう。
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