雇用形態、転勤族、住んでいる自治体…色々な観点から見た「待機児童問題」

公務員採用試験の時事問題シリーズ:テーマは待機児童問題です。共働き世帯が増加したことによって、保育所の需要が高まっています。それに伴って、各自治体共に悩まされているのが待機児童問題です。働く女性、フリーランス、転勤族など色々な観点から見た待機児童問題についてまとめました。


待機児童問題の裏にある、「潜在待機児童」

待機児童とは

テレビやインターネットなどの各メディアで名前を目にする「待機児童」は、具体的にどのような状態なのかを見てみましょう。待機児童とは、保育所に入所申請を行っているのにも関わらず、入所できない状態になっている児童の事を指します。なお、待機児童は広義では学童保育所に入所できない児童も含めますが、ここでは保育所に入所できない児童のみを指します。

潜在待機児童も見逃せない

ところが、待機児童は「第一希望の保育所に入所する為に待機している児童」及び「小規模園や無認可園に入所している状態で、希望の保育所に入所する為に待機している児童」の数は含まれていません。家からも勤務先からも遠い保育所や、兄弟で違う保育所になってしまう為に育休を延長して待機している状態や、高い料金を支払っていわゆる認可外保育所に入園させている状態です。これらの児童数は、「潜在待機児童」と呼ばれています。その為、実際に自治体が発表している待機児童数よりも、本来の待機児童数は多いとされています。

例えば、2013年横浜市は「待機児童0」を達成した事が話題になりました。ところが、横浜市では保育所に入所できずに育休を延長した児童の事を「待機児童」には含めず、「保留児童」という名称で呼んでいます。潜在待機児童を保留児童という名前にして差別化を図る事により、表面上は待機児童が0になっている、という事です。この、潜在待機児童を外側から見えない状態にしているのも、正確な待機児童数を把握できない事に繋がりますので、根本的な待機児童問題の解消の妨げとなっています。

保育所の入所基準とは?

保育所は福祉施設

保育所は、幼稚園などの教育機関と異なり、厚生労働省の管轄による福祉施設に当たります。何かの理由によって保護者が養育できない児童を代わりに養育する施設です。その為、保育所に入所する為には理由が必要です。

主な保育所の入所の理由
・保護者の就労
・産後で兄弟児の保育が困難な為
・保護者の病気
・家庭内の親族の介護
・震災などによる復旧や生活困難
・求職中
など。

保育所に入所する為には、自治体独自で点数制度となっていて、点数が上の人から順番に保育所に入所できるシステムとなっています。単純に言えば正社員でフルタイム勤務の場合と、週に2日数時間のパート勤務の場合では、前者の方が加点される点数が高くなっています。この点数制度は自治体によってシステムが異なりますので、職業によっては入りやすい自治体と入りにくい自治体が存在します。それと同時に、待機児童自体がいない為、求職中でもすぐに保育所に入所できる自治体も存在しています。

生まれる前からの保活が当たり前に

東京都世田谷区のケース

日本全国の待機児童数ワーストの自治体が、東京都世田谷区です。世田谷区に住んでいる人は、妊娠が分かったと同時に保育所探しや見学などの「保活」を始める事になります。それでも、世田谷区で第一子を保育所に入れる事は難しくなっています。

待機児童の多い地域の保活スケジュールは以下の通りです。
妊娠中…各保育所の見学や情報収集
出産後…育休を切り上げて0歳児入所で中途入所申し込みをする、同時に来年4月入所申し込みもする
毎年11月~12月…来年度4月入所申し込みスタート、最初から無認可に決める場合も
毎年2月…来年度4月入所の結果通知および二次募集スタート。入所決定の場合はそのまま、入所できなかった場合には二次募集への申し込みや無認可保育所探し
4月…保育園入所もしくは育休延長など

潜在待機児童で埋まっている入所枠

世田谷区で保育所の入所基準となる最高点は50点です。(両親ともに居住外労働・週5日以上・週40時間以上勤務の場合)もしも同一点だった場合には調整加点が付きます。(生活保護世帯なら+10点など)調整加点の中には、前年度に希望の保育所に入所できず潜在待機児童になり、無認可保育園やベビーシッターを使っていた人(預ける児童の年齢によって+5もしくは+6点)や兄妹別々の保育所に預けていた人が転園希望を出す(+3点)などもあります。その為、前年度からの潜在待機児童状態だった人の加点がある為に、第一子1歳での入所は更に難しいとされています。

保育所入所の為に育休の切り上げや引っ越しする人も…

第一子1歳での入所は難しい為、育休を短縮して0歳で入所させる方法を取る人もいます。けれども、児童が早生まれの場合には0歳児入所は難しくなります。その為、世田谷区の保育所に入所させる事は諦め、子供を保育所に入れる為に近隣の杉並区や大田区、神奈川県川崎市に引っ越しをする人もいるのです。

自治体間の格差…転勤族を巡る待機児童問題を見てみよう

自治体によって待機児童数が違う

妊娠が分かり、職場にも産休や育休の申請をし、保育所の見学も終えて、保活もバッチリ、あとは来年度の申請日を待つのみ…という時に、配偶者が転勤になる場合があります。配偶者の転勤に伴って引っ越しをする場合には、引っ越し先の自治体で求職活動と共に保活をまたやり直すことになります。とは言え、妊娠中の方を雇う所も見つからず、かつ保活もやり直す気力もありませんので、やむなく仕事を辞めて、専業主婦となる人も多いです。


既に保育所に通っている児童がいて、自分自身も転勤になって働く場所もある時には、引っ越し先で保活を行う事になります。けれども、待機児童の少ない自治体から多い自治体に引っ越してきた場合には、途中入所も難しい為やむなく無認可保育所やベビーシッターを利用し、潜在待機児童となるケースが多くなっています。

本人の置かれた状況に応じた入所が必要

自治体によって保育所の入りやすさ・入りにくさがバラバラである事は、不公平さもあります。

例えばAさんの場合には、両親と同居をしていても保育所に入りやすい自治谷住んでいる為、すぐに保育所に入れ、保育所の送り迎えも両親に、自分もフルタイムで復帰する事ができます。一方でBさんの場合は、両親を含めて頼れる人は誰もいない、配偶者も激務で頼れません。そして待機児童ワーストに入る自治体に住んでいます。Aさんよりも保育に欠ける事項が多いにも関わらず、保育所に入れる事ができずに潜在待機児童になるorやむなく退職する、といった選択肢となります。保育所に入所希望の女性の状況ではなく、住んでいる場所によって保育所に入れるか、入れないかが決まってしまうのです。

自治体によっての保育所格差をなくし、不公平さがない入所状況を設ける事が、待機児童問題解消に繋がるのではないかと考えます。

女性の働き方の多様化に応じた入所基準整備を!

雇用形態によって加点基準が変わる事がある

転勤族のCさんは、フリーランスとして働いています。ところが、この雇用形態が保育所入所に影響する事があるのです。Cさんの様に居住内労働の場合、居住外労働よりも加点が低くなってしまう自治体があります。例として、前述の東京都世田谷区の加点評価では、居住外労働・居住外労働共に区分は分かれていますが、加点される点数は同じです。一方で宮城県仙台市では被雇用者は満点で+10点、自営業は満点で+9点となっています。つまり、フリーランスの在宅勤務の場合は加点が下がってしまうのです。保育園入所は点数が高い方が優先されますので、Cさんが宮城県仙台市に住んでいる場合には、この1点差で入所できない事になります。

宮城県仙台市の加点評価
保護者が被雇用者で月64時間以上労働、週5日以上就労、一日の就労時間が7時間以上…+10点
保護者が自営業者(事業主)で月64時間以上労働、週5日以上就労、一日の就労時間が7時間以上…+9点

転勤族でも、いつでもどこでも仕事ができるようにフリーランスになったのに、そのせいで保育所に入れない…という事にもなります。この背景には「在宅仕事なら子供見ながら仕事できるでしょ?」と言った考えが根本にあると言わざるを得ません。今後、女性の働き方も多様化し、在宅勤務も増えていく事が予想されますので、雇用形態によって不平が出ない保育所の入所基準を整える必要があると考えられます。

自治体などが行っている待機児童対策とは?

保育所を増やす

待機児童解消に向けて、具体的に各自治体が行っている対応について見てみましょう。一つ目が保育所を増やす事です。これは、園庭が確保できる大規模保育所だけでなく、ビルのテナントやマンションの一室でも保育可能な小規模保育所の設置も進められています。そして、自治体独自の認定基準を設けて、無認可保育所も認可保育所の認定が受けられるシステムを設けている自治体が多くなっています。実質的な認可保育所が増えれば、保育所の全体数は増える事になります。

保育士を増やす

保育所が不足している主な原因が、保育士の人材不足です。この背景には、保育士の雇用待遇が、仕事内容に比べてあまりにも悪い、といった事があります。保育士は、保育所での児童の世話だけでなく、保護者との連携や残業や持ち帰りの仕事も多くなっています。休みも少なく、給料も安い、しかも精神的にも肉体的にも過酷な仕事の為、離職率が高くなっています。保育士の待遇改善こそが、保育士の人材不足を止める事に繋がります。

保育士を呼び戻す

妊娠や出産、結婚などを機に保育士を離職した「潜在保育士」を現場に呼び戻すための取り組みを行っている自治体もあります。自治体や求人サイトなどが提携し、潜在保育士の為の説明会や講習を行う事も多くなりました。また、保育所の加点評価に、「保護者が保育士」の場合に、更に加点を設けている自治体もあります。

自治体独自の人材育成をする

また、保育士免許がなくても、自治体独自の講習や試験を受けて合格すると、自治体独自の保育に関わる資格を発行している自治体もあります。例えば、千葉県松戸市では「子育て支援員」制度があります。千葉県松戸市に在住の人で4つのコースから研修を選択し、研修終了後に子育て支援に関わる事業での就労が可能になる制度です。地域保育コース・一時預かり事業や地域保育コース・小規模保育事業コースもあり、研修が終了すると市内の保育所や一時預かり施設での就労が可能になります。子育てがひと段落した主婦の方が、パートタイマーとして保育所や一時預かり施設で働く事もでき、保育士以外の人員確保にも繋がる取り組みです。

幼稚園やこども園を活用する

保育所の数は足りないのに私立幼稚園は店員割れをしている…という地域も少なくありません。その為、各私立幼稚園が保育園と同じように、働いている保護者が増加したことによって預かり保育を導入するケースが多くなりました。幼稚園の保育時間だけでなく、早朝7時から9時の早朝預かり、保育終了後の14時から18時もしくは19時まで預かり保育を行うシステムです。夏休みや冬休みなどの長期休みにも預かり保育を実施している幼稚園も多いです。幼稚園は文部科学省管轄の教育施設ですので保育所よりも独自の教育カリキュラムが充実している、園庭もない保育所がある一方幼稚園なら広い園庭で遊べる、などのメリットがあります。その為、児童が3歳児クラスに進学するのと同時に保育所を退所し、幼稚園に入園させる保護者も少なくありません。とはいえ、私立幼稚園は保育所よりも月謝がどうしても高額になる、役員など親の出番も多い…など保育所と比べると、働きにくい点もあります。

幼保一体型の施設である認定こども園の数も増加してきました。既存の幼稚園を認定こども園とする場合もあり、定員割れをしている既存の施設をそのまま保育施設として使えるメリットがあります。けれども、認定こども園の場合には幼稚園型・保育園型で隔たりがある、保育所にあるべき施設がない事による問題が生じる、例えば幼稚園が認定こども園になった場合、給食室がないので保育園型でも保護者はお弁当を作ってこなければいけない…などの問題点も多くなっています。

今後預かり保育の充実している幼稚園や認定こども園の運用が増えるにつれて、出てくる問題点を都度解消していけば、働く=保育所に入れる、だけでなく保護者が子供を預ける為に様々な選択肢を得る事ができます。

本記事は、2017年7月16日時点調査または公開された情報です。
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