変化の岐路に立つ「ふるさと納税制度」-モノからコトへ

「ふるさと納税」とは、現在住んでいる自治体ではなく、自分が生まれた故郷や応援したい自治体に寄附ができる制度です。

「地方創造」に繋がる素晴らしい制度ですが、近年では返礼品における問題も発生しています。どのような問題が起きているのか、詳しく解説します。


はじめに

一般にも浸透しているふるさと納税ですが、返礼品を巡る問題によって泉佐野市が総務省と訴訟を行うなどトラブルも発生しています。ふるさと納税が浸透していくにつれて、ふるさと納税の制度にも変革が求められています。

本記事では泉佐野市と総務省の間に発生したトラブルについて説明し、ふるさと納税の今後について考察します。

ふるさと納税で寄附金を集めるには「返礼品」が重要だ

まずは「ふるさと納税」制度について概説して、なぜ返礼品が寄附金獲得において重要なのかについて説明します。

ふるさと納税制度とは?

ふるさと納税とは、地方自治体に寄附することによって、その分だけ住民税や所得税から控除を受けられる制度のことを指します。制度上は寄附からの控除となりますが、イメージとしては自分が住んでいる自治体以外に納税ができる制度と言っても差し支えは無いでしょう。

寄附金の控除は本来ならば確定申告をしなければなりませんが、ワンストップ特例制度という制度を利用すれば1年間に5自治体以内であれば確定申告は不要です。

当初は都市圏で働いている納税者が自分の生まれ育った町に寄附する際の制度として構想されましたが、制度上は自分が住んでいる自治体以外にも寄附できます。

よって、ふるさと納税制度を利用して、どこの自治体に寄附をするのかは納税者の任意ですが、納税者の意思決定に大きな影響を与えるのが返礼品です。

返礼品で競争する自治体

自治体はふるさと納税の寄付に対して返礼品を送ることができます。2019年6月からは返礼品に対して規制が掛けられていますが、それまでは返礼品に関して制限がありませんでした。

規制前は40%~50%を超えるような高還元率やAmazonギフト券のような地場の産業とかかわりが無さそうな返礼品を使ってでも寄附金を集める自治体がいくつか存在しました。

もちろん、納税者はお得な返礼品を贈ってくれる自治体に寄附をしたいので、返礼品の中身や還元率を巡って競争は激化します。

その結果、高還元率、換金性の高い返礼品に人気が集中、これらの返礼品を扱っている自治体は巨額の寄付金を集めました。


ふるさと納税を巡る問題

ふるさと納税が行われるということは、寄付先の税収は増えるかも知れませんが、元の自治体の税収は減ってしまいます。さらに、住民税の総額は変わらないので、その予算内から返礼品を贈るということは、トータルの行政に使用できる金額は減少してしまいます。よって、ふるさと納税の競争を激化させることはかえって、自治体の疲弊にもつながりかねません。

よって、ふるさと納税制度を管轄している総務省はふるさと納税への規制を強化、返礼品を巡って自治体と訴訟も行っています。

2019年6月ふるさと納税に関する規制強化

2019年6月から地方税法が改正されて、ふるさと納税の返礼品についてルールが定められました。これにより返礼品額の比率を規制金額の30%まで、その自治体の地場産品に限定するなど返礼品に関する規制が行われました。

まだ規制による影響については報告されていませんが、約36%の自治体は寄附金が減少する、約25%は増加する、約38%は影響しないと考えています。

規制によってこれまで地場産品以外、高還元率の返礼品によって寄附を集めていた自治体は寄付金額が減少、ふるさと納税の寄附金収集合戦はふりだしに戻ったとも言えます。

▼詳細:ふるさと納税「返礼品」規制で36%の自治体が「寄付減る」
https://www.j-cast.com/kaisha/2019/06/17360245.html?p=all

泉佐野市との新制度除外を巡っての訴訟

ちなみに、この新制度を巡って総務省と争っているのが泉佐野市です。泉佐野市はAmazonギフト券を使った高還元率の返礼品でふるさと納税を集めており、2018年度には全国1位の497億円を集めていました。

ただし、この手法を巡り総務省と抗争を繰り広げており、ふるさと納税を巡る大臣通知に従わない自治体として実名公表されたり、2018年度の特別交付税を減額されたりされていました。

そして、総務省は2019年5月に新制度からの泉佐野市の除外を公表、泉佐野市はAmazonギフト券最大40%を返礼品として贈る300億円限定キャンペーンを開催して、以降泉佐野市はふるさと納税による寄付金集めができなくなりました。

2019年6月以降、泉佐野市は総務省の第三者機関である「国地方係争処理委員会」に審査を申し出て、9月に委員会は除外根拠が不十分だとして総務省に再検討を勧告しました。

しかし、総務省は再検討の結果、引き続け泉佐野市を制度から除外、泉佐野市は高裁に提訴しようとしています。

▼詳細:泉佐野市の除外を継続 ふるさと納税で総務省
https://www.sankei.com/politics/news/191003/plt1910030015-n1.html

ふるさと納税は今後どのようになるのか?

6月の制度変更により、ふるさと納税のあり方も変わろうとしています。今後ふるさと納税はどのように活用されるのか4つのポイントからふるさと納税の未来について予想します。

返礼品の質の差が激しくなる

まず、考えられるのが返礼品の質の差が激しくなることです。新制度では返礼品は地場産品に限定されているので、魅力的な商品を持っている自治体は魅力的な返礼品を使ってふるさと納税の募集ができますが、そうではない自治体は寄附を集めるのが困難になると考えられます。

よって、地元の産業によって寄附金を集められる自治体と集められない自治体が二極化すると考えられます。小規模な自治体の中にはそもそも産業が無いから税収の確保が困難な自治体も多いので、貧しい自治体はより貧しく、豊かな自治体はより豊かになるかもしれません。


ちなみに、小規模な自治体でも地元の農産物などをブランド化して返礼品にする方法もあります。ただし、あまりメジャーではないブランドの場合、自治体は品質管理には注意しなければなりません。

例えば、2019年10月には宮崎県美郷町のふるさと納税の返礼品の品質に対して、批難が殺到、町が謝罪し返礼品を停止する事態になりました。これは美郷町が返礼品に設定していた「宮崎県産黒毛和牛薄切り800g」が見本の写真と異なり、脂身だらけであることをTwitterに納税から投稿されて、バズった結果の出来事でした。

地元の中小事業者の商品を返礼品として利用するのなら、その返礼品のクオリティーコントロールは地元業者の検品体制や倫理観に依存することになります。行政のチェックが働かないのならば、魔がさしてB級品を贈る業者がいないとは限りません。

▼詳細:「詐欺レベル」ふるさと納税返礼品に“ほぼ脂身の肉”で批判殺到 宮崎県美郷町が謝罪し返礼品停止を発表
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1910/07/news057.html

被災地に対する寄附方法として利用できる

ふるさと納税は被災地などに対する寄附にも活用されます。たとえばふるさと納税サイトの「ふるさとチョイス」では、返礼品なしで被災地などに寄附をできる「ふるさとチョイス災害支援」というサービスを運営しています。

例えば、令和元年の台風19号・21号による被災については11月10日までに5億円、15号の被災については3.7億円以上の寄付が集まっています。

通常の寄附制度を利用した場合でも、寄附控除を申請して税金を安くすることができますが、手続きは少し複雑です。ふるさと納税の場合はワンストップ特例制度があるので、寄附をしながら面倒な手続きなしで所得税や住民税から控除を受けられるので、納税者にとってはハードルが低いです。

今後も被災などの際に自治体支援のための手法としてふるさと納税が利用されることも増えるのではないかと考えられます。

ちなみに、通常のふるさと納税では返礼品が貰えるタイプが選択されやすい傾向がありますが、災害支援タイプのふるさと納税では返礼品不要で寄附をしているケースも多いです。

モノからコトへ返礼品の比重を変える

体験型のふるさと納税を返礼品として用意している自治体も増加しています。例えば、地域の文化を体験したり、自然と触れ合えるアクティビティに参加したりと返礼品をモノではなくコトにしたタイプのふるさと納税も近年誕生しています。

▼詳細:ふるさと納税で思い出作り! とびきりの体験特集
https://www.satofull.jp/static/special/experience.php

上はふるさと納税サイト「さとふる」のふるさと納税に対する体験型の返礼品ですが、さまざまなプランがあることが分かります。ふるさと納税で地場産品を返礼品として贈る目的は、行政のための資金を得るだけではなく、ふるさと納税の返礼品を通じて地域への経済波及効果も狙っています。

体験型の返礼品は実際に納税者がその地域に来てくれるということで、地元での宿泊やお土産の購入、食事などさまざまな経済波及効果が期待できます。

現在主流なのはあくまでもモノの返礼品ですが、地域への経済波及効果を狙って体験型の返礼品を充実させる自治体が現れるかもしれません。

ガバメントクラウドファンディングと組み合わせて活用する

地元に魅力的なサービスや産品が無い自治体は、返礼品が無いので後手に回りやすい傾向があります。このような自治体が資金調達を行う手段として注目を集めているのがガバメントクラウドファンディングという手法です。

ガバメントクラウドファンディングとはふるさと納税とクラウドファンディングを組み合わせた手法で、地方自治体が設定したさまざまな目標に対して寄附を募り、納税者は自治体への寄附に対する寄付金控除が受けられるサービスです。

目標には産業の振興からイベントの開催、社会問題の解決などさまざまなテーマがありますが返礼品で比較されにくいので、返礼品競争で不利な自治体でも資金調達できる可能性があります。

》地方自治体の資金調達手法「ガバメントクラウドファンディング」について

ふるさと納税とクラウドファンディングを組み合わせたサービスを「ガバメントクラウドファンディング」といいます。 このサービスは今までの地方自治体の資金調達とは全く性質の異なる手法です。 本記事では「ガバメントファンディング」とはどのような資金調達方法なのかについて説明します。


まとめ

2019年6月の新ふるさと納税制度発足によって、これまで寄附金集めの勝ちパターンとされていた、高還元、換金性の高い返礼品を使った手法ができなくなりました。これにより自治体のふるさと納税集め競争は振り出しに戻ったとも言えます。

新ふるさと納税制度によって寄附金や返礼品がどのように変化していくかは今後の政府発表などに注目する必要がありますが、少なくとも本記事で説明した4つのポイントには注目するべきではないかと考えられます。

これまでのふるさと納税制度は返礼品によって競っていましたが、返礼品が地場産品に限定され、還元率も30%程度までに規制されたので、今後は返礼品による競争が行いにくくなると考えられます。

それよりも、被災地救済策、体験型返礼品、ガバメントクラウドファンディングのようにコト消費にふるさと納税が使われるのではないかと考えられます。

本記事は、2020年2月24日時点調査または公開された情報です。
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