国家公務員も定年延長?-人生100年時代の働き方

「60歳で定年」という時代は、終わりを迎えつつあります。現在でも多くの企業が、60歳で定年した人を再雇用する「再雇用制度」を設けていますし、年金受給開始年齢が65歳になった現在の日本では、定年延長は重要な課題です。

本記事では、国家公務員の定年延長の議論から、人生100年時代の働き方について考察します。


はじめに

2020年の通常国会で公務員の定年を60歳から65歳までに段階的に引き上げる法案が審議されます。

労働力の不足、平均寿命・健康年齢の伸長に伴い国家公務員に限らず多くの職業で定年の延長や再雇用が議論されています。

国家公務員の定年が60歳から65歳に延長される?

2019年末、2020年の通常国会に国家公務員の定年の延長に関する法案が提出されるとの報道がされました。

記事によれば、もともとは2019年に国会で審議して2021年度から定年を段階的に65歳までに引き上げていくように調整していましたが先送り、2020年の通常国会での法案提出を目指し、2022年から段階的に定年を引き上げていくとのことです。

▼参考:公務員の定年延長、22年度から 来年通常国会に法案提出―政府検討
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019121801224&g=pol

2018年人事院が定年引上げに関する意見を提出

今回の国家公務員の定年延長に関する議論は実は2018年からスタートしています。

2018年8月に人事院は公務員の定年に関する意見を国会と内閣に提出しました。同意見には定年の延長と、一部の高度な知識が必要な役職を除いて原則として役職からは退く「役職定年制」や年間給与を60歳前の7割程度など抑えること、介護を理由に時短勤務を行うことも認めることなどがセットで盛り込まれています。

▼参考:定年延長、給与3割減=月給・ボーナス5年連続増へ-人事院
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_gyosei-koumuin20180810j-01-w580

年金が貰えるまでの空白の5年間をどう過ごすか?

国家公務員の定年延長が議論されている背景には、国家公務員の定年は60歳なのに年金の受給開始年齢は原則65歳からとなっている社会制度上の問題があります。つまり、現行制度だと60歳で定年退職してから65歳で年金を支給されるまでの生活費を自力で工面しなければならないことになります。もちろん、これは極めて厳しい要求です。

この社会制度の不備を埋めるために、現行は再任用制度を用いて60歳から65歳の間、役職などはつけずに給料を削減した状態で再雇用されます。今回の意見も制度の不備を再任用制度ではなく、定年の解決によって身分を不安定にさせずに解決すべきであるという意図があると考えられます。

》老後の蓄えは大丈夫?公務員の老後の生活について - 退職金や年金など


老後の生活を豊かに過ごす上で、老後資金について考えるていくことは重要です。それは、民間の企業に勤める人も、公務員も、変わりありません。 本記事では、そんな「公務員の老後資金」についてまとめました。

民間事業者でも発生している同様の問題

ちなみに国家公務員だけではなく民間企業においても同様の問題が発生しています。民間企業も国家公務員の雇用制度にならって、60歳で定年退職、65歳まで再任用制度を利用して役職なし、年収減で雇用されるケースが多いです。

ただし、実際は民間企業の従業員の場合の方が少し大変です。余裕のある大企業はともかく、資金的に厳しい企業であれば再任用しても著しく年収が減ってしまうケースもあります。また、高年齢者雇用安定法により企業には従業員が希望すれば定年後も65歳まで継続雇用しなければならない義務が定められていますが厳密に守られているとは限りません。

よって、民間企業の従業員の方が60歳から65歳までの空白の5年間をどのように過ごすのかがより深刻な問題となりやすい傾向があります。

定年制度を始めとする現行雇用制度のミスマッチ

上記のことが示唆していることは、昭和の時代に作られた現行の雇用制度が平均年齢・健康寿命の伸長あるいは平均年収の減少などにともない、人生とミスマッチしているかもしれないということです。なぜ人生と雇用制度がミスマッチしているのか3つの観点から説明します。

平均年齢・健康寿命の伸長

まず、ミスマッチの一つ目の原因として挙げられるのが、平均年齢・健康寿命の伸長です。次の表は厚生労働がまとめた健康寿命と平均寿命の推移に関する表です。

健康寿命と平均寿命の推移 - グラフ
出典)令和元年版高齢社会白書(概要版):内閣府より抜粋
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/index.html

2001年から2016年までの15年間だけを見ても、男性の平均寿命は2.91歳、女性は2.21歳伸長しています。また、それに伴って健康寿命も男性で2.74歳、女性は2.14歳伸長しています。

つまり、60歳で定年退職して以降の人生はどんどん長くなっているし、定年退職した後もまだまだ健康な人が増えているということがこのデータからわかります。

定年を60歳に設定した頃の60歳と現代の60歳では余生や体力が大きく異なると考えても良いでしょう。

平均年収の減少と老後資産の問題

定年後の余生はどんどん長くなるのに、現役世代の平均年収は必ずしも増加しているとは言えません。次の表は民間平均給与の推移を時事通信がまとめた表です。

民間平均給与の推移 - グラフ
出典)【図解・経済】民間平均給与の推移:時事通信より抜粋
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_company-heikinkyuyo

平均給与は1997年に467.3万円になって以降リーマンショックが発生直後の2009年まで下落、2012年から2018年までは回復基調にあるものの、それでも2007年頃までしか戻っていません。さらに非正規社員など雇用形態によって極端に年収が減少する事例も存在するので、一部の人によってはさらに経済的に厳しい状態が続いています。

このような時代の中で、安定した老後の資産を残すというのは徐々に困難になっています。年金給付の開始年齢を65歳から70歳に引き上げる検討も行われていますし、仮に65歳に定年を引き上げても年金の受給開始が70歳になるのならまた空白の5年のために再任用制度などを活用しなければなりません。

平均年収の減少と老後の資産確保のために60歳でリタイアするのではなく、60歳以降も強制的に働き続けなければならない人も多いと考えられます。

国家予算を圧迫する社会保障費

3つ目のミスマッチが社会保障費の増大です。次の表は時事通信がまとめた社会保障給付費の推移に関してまとめたものです。

社会保障給付費の推移 - グラフ
出典)【図解・行政】社会保障給付費の推移:時事通信より抜粋
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-syakaihosyo-socialsecuritybenefits

1970年頃までは10兆円に満たなかった社会保障給付費は1970年頃を転換期として一気に右肩上がりに2010年頃には100億円を突破、2017年の社会保障給付費は120兆円2443億円にも上ります。


今後人口ボリュームで大きな割合を占める団塊の世代が後期高齢者の段階に突入していくことによってさらに費用は増大すると考えられます。

社会保障費を抑制し少しでも社会保障給付費の財源を確保するためには、健康な60、70代が働いて健康な状態を保つこと、所得税を納め、社会保険料などを納付することなどが求められます。

ミスマッチを解決するためには定年の延長が必要

これら3つのミスマッチを解決するための方法が定年の延長です。

定年が60歳になったのは1986年に高齢者雇用安定法によって60歳定年が企業の努力義務になったときのことで、それまでは55歳で定年退職とする企業も存在しました。

ただし、平均年齢・健康年齢はそこからさらに伸長、増大する社会保障量の抑制、定年退職者の老後の資金確保などの観点から再び定年の延長が必要となっているのです。

人生100年時代の働き方に公務員が考えるべき3つのトピック

以上のように民間・公務員問わず定年の延長が再び議論になっていますが、これから公務員になる場合は、ただ単に定年が延長されるかもしれないことではなく、働き方自体についても考えなければなりません。人生100年時代の公務員の働き方について注意しなければならない3つのトピックについて紹介します。

現業職は自動化・アウトソーシングされていくかもしれない?

まず、現業職を中心に公務員の仕事はどんどん減少していくかもしれません。民間企業では人材の非正規化だけではなく昨今RPA(Robotic Process Automation)の導入などによる生産性向上に取り組む企業が増えています。

政府や地方自治体も他人事ではなく、指定管理者制度による現業職のアウトソーシングや事務職への非正規職員の雇用などの取り組みが行われています。

また、業務のデジタル化も推進されており、必要な正規職員の数を減らそうとしています。

民間よりも動きは遅いですが、公務員の仕事についても確実に民間企業のような業務改革が迫りつつあります。もちろん、簡単にはクビにはなりませんが、正規職員に求められる仕事は高度化し、高いスキルが求められる時代がすぐそこまでやってきているかもしれません。

》公務員でも非正規はツラいよ!官製ワーキングプア問題

「官製ワーキングプア」と呼ばれる、公務員における非正規職員は、日本において深刻な問題です。 本記事では「官製ワーキングプア問題」について説明します。 (本稿は事実をもとに筆者の考えをまとめたものであり、本メディアの意見と必ずしも一致するものではありません。)

》公務のアウトソーシング手法「指定管理者制度」とは?

「指定管理者制度」とは、公務のアウトソーシング手法として使用されている制度です。 本記事では、「指定管理者制度」について解説していきます。(本稿は事実をもとに筆者の考えをまとめたものであり、本メディアの意見と必ずしも一致するものではありません。)

地方自治体の統廃合はますます進むかもしれない

現在、地方創生に関して政府は積極的に予算をつけて、地方自治体もさまざまな地方創生策に取り組んでいます。政府が地方創生を推進しているということは、裏返して考えれば、地方自治体の地方交付税交付金ありきの運営体質の変革を求めているということです。

東京への人口の一極集中が批判されて長い年月を経ましたが、いまだに東京への一極集中の傾向は止まっていません。今後人口減少や税収を維持できないことにより地方自治体の統廃合がますます進む、もしくは可能性は低いですが財政破綻する自治体も発生するかもしれません。

公務員として一定の身分保障はされますが、自治体が統合した際に統合先の自治体と同ポジションと待遇が得られるかわかりませんし、財政破たんすれば雇用条件は確実に厳しくなります。

国家公務員になるか、手堅い自治体の公務員になるか、最悪の場合公務員を退職してもお金を稼げるようなスキルを身につけるか、公務員になればそれで終了ではなく長期的なキャリアパスについて考えた方が良いでしょう。

》【地方自治体の未来】今後、地方創生できない「地方自治体」はどうなる?


今後、地方では、少子高齢化と生産年齢人口の都市部への流出によって地方自治の財政が厳しくなることが予想され、公務員の雇用環境も悪化するのではないかとも考えられます。 今回は、地方自治体の未来について、地方創生できない「地方自治体」とそこで働く「公務員」ついて考察します。

民間・公務員との垣根はどんどん無くなるかもしれない

民間の仕事と公務員の仕事の垣根はどんどん無くなっていくと考えた方が良いでしょう。もちろん、公務の中立性を保ち、民業を圧迫しないという観点から公務員が民間企業の従業員のように働くことはありませんが、地方においては公務員に多能工化が徐々に求められるようになるのではないかと考えられます。

例えば、地方議会の5割の議員は兼業だと言われています。これは、地方議員が民間企業との兼務が許されているというのも理由の一つですが、そもそも財政の関係上、地方議員の仕事だけでは十分な給料が保障されていないケースが多いからだと考えられます。

一人の公務員が色々な仕事を兼務したり、自治体主導で第三セクターを作って地域のインフラを維持したりと、地方に行けば行くほど民間・公務員の垣根は曖昧になっていくかもしれません。

》地方議会の5割の議員は兼業? - 地方における「複業化」について

人口は地方から都市部に流入する傾向があり、地方では働き手がいない状態が深刻化しています。このような人手不足の地域では、1人の人が複数の役割を行うことが求められます。これを「複業」と呼びます。 本記事では地方における複業化と公務員はそれにどのように向き合えば良いのかについて考察します。

まとめ

公務員の定年延長法案が提出される予定であるというニュースから公務員の働き方について考察しました。民間・公務員問わず、現行の雇用制度と働く人々の間にはミスマッチが発生しています。このミスマッチを抜本的に解決するためには定年延長が求められます。

また、定年延長によりただ人生の中で働く期間が長くなるだけではなく、公務員の働き方自体も変化するかもしれない点は覚悟しなければなりません。正規職員の求められる仕事はどんどん高度化し、生産性の向上も求められます。

本記事は、2020年2月25日時点調査または公開された情報です。
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