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今さら聞けない「アメリカ大統領選」の仕組みと問題点

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はじめに

2020年3月時点でアメリカは新型コロナウイルス問題に揺れていますが、この混乱の裏では11月の大統領選に向けて着々と準備が進められています。すでに各州で予備選挙や党員集会が始まっており、日本国内でも大統領選に関する報道が増えてきました。

アメリカの大統領選の時には「スーパーチューズデー」や「予備選挙」、「選挙人」などといった言葉をよく耳にすると思いますが、これらの意味を正しく理解できている人は決して多くないようです。その原因は「アメリカ大統領選の複雑さ」にあります。

今回は「アメリカ大統領ってどうやって選ばれるの?」「誰が大統領を選ぶの?」「どうして選挙期間が1年も続くの?」など、いまさら誰にも聞けないアメリカ大統領選の仕組みについてわかりやすく解説します。

アメリカ大統領選の仕組みを理解することは、公務員志望者に限らず一生役に立つ知識ですので、ぜひ参考にしてみて下さい。

アメリカ大統領選の一般投票と選挙人投票の違い

アメリカの大統領選はアメリカ国民が大統領になってほしい人を選ぶ直接選挙ではなく、大統領候補を支持する「選挙人(electors)」を選ぶ間接選挙です。アメリカの大統領選ではこの「選挙人」が鍵を握っていると言えるでしょう。

選挙人は「代議員」や「大統領選挙人」と呼ばれることもあり、アメリカ国民はこの選挙人を選ぶことで間接的に大統領を選ぶ仕組みになっています。選挙人はアメリカ全体で538名なので、過半数の270名を獲得した時点で決着がつきます。

選挙人はあらかじめどの大統領候補を支持するかを公表(誓約)しているため、アメリカ国民は大統領になってほしい人を支持している選挙人に投票することになります。これが「一般投票(Popular Vote)」です。(11月の第1月曜の次の火曜日に実施)

そして、一般投票の1ヶ月後(12月第2水曜日の翌週の月曜日)、選ばれた538人の選挙人が候補者に投票する「選挙人投票(Electoral Vote)」が実施されます。つまり、アメリカ大統領は正式には「選挙人投票」で選出される訳です。選挙人投票は形式的なもので、一般投票で出た結果が覆ることはありません。

まずは、アメリカの大統領選には「一般投票」と「選挙人投票」のふたつがあり、有権者が関与できるのは一般投票、最終的に大統領が選出されるのは538人の選挙人によって実施される選挙人投票であることを覚えておきましょう。

アメリカ大統領選は4つのパートに分かれている

アメリカの大統領選は、大統領選が開催される年の2月から11月にかけて長期間にわたって実施されます。

大統領選は「予備選挙」「全国党大会」「一般投票」「選挙人投票」の4つの大きな流れで構成されています。この4つの流れを覚えておくと理解しやすくなります。


1. 予備選挙(Primary Elections)

予備選挙は各政党公認の候補者を選ぶための選挙のことで、2月から6月にかけて各州で実施されます。ごく簡単に言うと「各党の代表者選び」です。この期間は大統領選の「予備選挙期間」と呼ばれます。

2020年の大統領選を例にすると、現職のトランプ大統領(共和党)に対抗する「民主党の候補者選び」ということになります。2020年の予備選挙では、民主党内で複数の候補者が名乗りを上げていますが、早い段階からジョー・バイデンかバーニー・サンダースの2名に絞り込まれています。

有権者は予備選挙で「党大会」に参加する代議員を間接的に選びます。2020年の大統領選で例えると、ジョー・バイデンを民主党候補にしたい場合は、ジョー・バイデンを支持している代議員に投票することになります。最終的に選ばれた3,979人の民主党代議員は7月の党大会で政党を代表する候補者を投票によって選びます。

予備選挙の開催日時は州によって異なりますが、2月下旬から3月上旬の火曜日に多くの州で同時に開催されることが通例です。これにより事実上の候補者が絞り込まれて大局が判明することから「スーパーチューズデー」と呼ばれています。

アメリカ大統領選の際によく聞くスーパーチューズデーとは、各政党の大統領候補者が誰になるかが大方で判明する重要な日という意味なのです。

2. 全国党大会(National Convention)

予備選挙の次に大きなポイントになるのが「全国党大会」です。党ごとに7月か8月に4日間にわたって開催します。共和党大会はRNC(Republican National Convention)、民主党大会はDNC(Democratic National Convention)と呼ばれます。

ここで予備選挙によって選出されたそれぞれの党の代議員たちが選出した、政党を代表する大統領候補者が決まります。選出された大統領候補者は、党大会期間中に副大統領候補を指名して、本選挙に挑むことになります。

全国党大会は、各政党で最終的な大統領候補者が決まり、副大統領候補も判明することから非常に大きな意味を持つポイントです。党大会では初日に基調演説、2日目に政策綱領の採択、3日目に大統領候補が指名され、最終日に大統領候補者と副大統領候補者の指名受諾演説が行われます。それぞれの党大会が終了した時点で、正式に各党の大統領候補が出揃い、一騎打ちになります。

ちなみに、2004年の民主党大会で、当時ほとんど無名だったバラク・オバマが基調演説を行い「黒人も白人もラテン系のアメリカもアジア系のアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国のみ」という演説をして全米に強烈な印象を与えたことは有名で、これをきっかけにして「民主党にオバマあり」と知れ渡りました。対照的に、2016年の共和党大会でトランプは過去40年で最長となる75分にも及ぶ演説をしています。

3. 一般投票(General Election)

11月第1月曜日の翌日に全州で一斉に一般投票が実施されます。有権者は選挙人に投票する間接投票によって支持する政党つまり大統領を選びます。一般投票ではそれぞれの政党が各州で多くの票を集めて、選挙人を一人でも多く獲得することがポイントです。

一般投票では各州で得票数が最も多かった政党が、州ごとに割り当てられた選挙人をすべて獲得できます。これを「勝者総取り方式」と呼びます。選挙人は各州の人口の数に比例配分されており、最も人口が多いカリフォルニア州では55名、最も人口が少ないモンタナ州では3名です。

仮に、カリフォルニア州で勝利した政党は、例え一票差であったとしても勝者総取り方式に基づいて55名の選挙人すべてを獲得可能になります。アメリカ大統領選の一般投票において重要なことは、選挙人が多いカリフォルニア州(55名)、テキサス州(38名)、ニューヨーク州(29名)、フロリダ州(29名)などで勝利することとされています。

ちなみに、一般投票に使用される投票用紙には選挙人の名前が書いてあると思いがちですが、実際には大統領候補と副大統領候補のペアの名前が書いてあるだけです。

有権者はチェックを入れて投票しますが、その票はあくまでも選挙人への投票として扱われます。一般投票は法律上は間接投票ですが、直接投票をしているような感覚になります。アメリカ人の中には自ら直接投票で大統領を選んだと勘違いする人がいるほどです。

4. 選挙人投票(Electoral College)

一般投票が終わった次の月には、選挙人による選挙人投票が州ごとに実施され、正式に大統領が選ばれます。


選挙人投票は形式的な意味合いが強く、一般投票の結果が覆ることはありません。なぜなら、選挙人はあらかじめ誰を支持するかを誓約しているためです。選挙人はそれぞれが支持する候補者に投票することを前提に選ばれているので結果が覆るようなことはないのです。

1948年から2016年の間に誓約と異なる票を投じた選挙人は16名のみで、大統領選の結果に影響を与えたことはありません。連邦法では選挙人は誓約に反しても罪にはなりませんが、州によっては誓約違反に対して罰則を設けている場合もあります。また、誓約に反して投じられた票を無効にする州もあり対応はバラバラです。

大統領就任式

アメリカ大統領選は予備選挙、全国党大会、一般投票、そして選挙人投票を経て大統領を選出します。大統領選の翌年1月20日にワシントンD.C.の国会議事堂前で宣誓が行われ、正式に新しい大統領が就任します。

アメリカ大統領選が複雑な理由

アメリカの大統領選が複雑に感じる理由はふたつあります。ひとつめは「選挙人制度」、そしてふたつめが「勝者総取り方式」です。

選挙人制度(選挙人団)

アメリカの大統領選は建国時から続いている選挙人制度を現在でも採用し続けています。アメリカで選挙人制度が採用された理由は、建国当時のアメリカは物理的に一斉選挙が出来なかった、政治に疎い人がほとんどで専門的なことは博識な人に委ねる方が賢明だった、識字率が低く国民が政策を理解出来なかったことがあります。

つまり、直接投票だと感情的な投票や、偏りが発生して選挙が成立しない可能性があったため、政治をよく分かっている選挙人を介する間接投票になったのです。そのスタイルが現在でも続いています。

選挙人制度はアメリカ憲法に規定されていることや、共和党と民主党の2大政党制を維持するために両党ともに変更しようとしないことなどから修正は難しいと言われています。

苦肉の策ながら、直接投票のように見える仕組みとして、選挙用紙には大統領候補名と副大統領候補名、政党名だけが書かれているのです。

勝者総取り方式(Winner-take-all)

勝者総取り方式は現代のアメリカ大統領選では曰く付きの制度と言われています。その理由が、一票でも多く獲得した政党がその州の選挙人をすべて獲得する仕組みにあります。(メイン州とネブラスカ州を除く)

大袈裟に例えるならば、カリフォルニア州やテキサス州のような選挙人が多い州だけを制して270名に達すれば、残りの大半の州で全敗しても勝利できるのです。つまり、大多数からは支持されていないにもかかわらず、選挙人を多く獲得しさえすれば勝てる現象が起きてしまいます。

事実、2016年の大統領選でヒラリー・クリントンは一般投票でトランプに255万票差をつけて勝利していますが、選挙人投票でトランプに過半数の270を獲得されたため敗北しました。トランプ大統領は「負けたのに勝った」ということになります。このような矛盾が起こる原因が勝者総取り方式なのです。

得票数で勝っているにもかかわらず獲得選挙人で劣ったため敗北してしまうケースの背景には、1804年に制定された憲法修正12条があります。憲法上、一般投票の得票数は選挙結果に全く影響しないと定められているため、得票数よりも獲得選挙人の方が重要なのです。

アメリカ大統領選ではいかに「選挙人」を獲得するかがポイントということが分かると思います。実際に、どちらの陣営も選挙人獲得を最大の目標に選挙活動を展開しており、優先する州とそうでない州を区分しているのも事実です。

アメリカでは大統領選の度に、得票数と獲得選挙人の「矛盾」が生じるような仕組みは現代の大統領選にふさわしくないという声が上がっています。

まとめ

アメリカの大統領選を理解するには「予備選」「全国党大会」「一般投票」「選挙人投票」の4つの仕組みを理解し、大統領の選出を決定付けるのは「選挙人(選挙人団)」であることを覚えておくと良いでしょう。

また、選挙人制度や勝者総取り方式が選挙結果に矛盾を与えることも覚えておくと選挙結果を理解しやすくなります。

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本記事は、2020年4月7日時点調査または公開された情報です。
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公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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