はじめに -「Stimulus Check」を給付されたアメリカ国民
2020年5月25日現在、アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって仕事を休まざるを得なくなった人は5人にひとりと言われています。また、州によっては厳しい外出規制を継続しているところもあり、働きたくても働けないアメリカ人はたくさんいます。
多くのお店では営業出来ないために従業員を解雇せざるを得ず、非常事態宣言が発令された3月中旬からアメリカ全体で3,600万人が失業保険申請をしています。アメリカの労働人口はおおよそ1億6,000万人ですから、たった1ヶ月程度で20%の人が職を失った計算です。
これに対してアメリカ政府は、大人ひとり1,200ドル(約13万円)、子どもひとり500ドル(約5万5千円)を支給する「Stimulus Check」を4月9日から全国民に対して発行しました。
「Stimulus Check」は5月上旬には配布を完了しており、現在では多くのアメリカ人が現金あるいは小切手を手にしています。
アメリカ人たちは「Stimulus Check」をどのようなことに使用したのか?どれくらい役に立ったのか?アリゾナ州で生活している筆者のまわりの人たちにインタビューしてみました。
アメリカ政府による経済支援策「Stimulus Check」とは?
はじめに「Stimulus Check」とは何なのか詳しくご紹介します。
「Stimulus Check」とは、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済的な打撃を受けたアメリカ国民を支援するための景気刺激政策のひとつです。日本で言うところの国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」に該当すると考えて良いでしょう。
「Stimulus Check」の支給額は?
支給される金額は前年の年収が基準です。年収75,000ドル以下は1,200ドル、年収80,000ドルまでは950ドル、年収85,000ドルまでは700ドル、年収90,000ドルは450ドル、年収95,000ドルは200ドル、年収99,000ドル以上は受け取れません。
子どもは16歳以下までが対象で、一律500ドル(各家庭最大2名分まで)支給されます。
「Stimulus Check」の財源は?
「Stimulus Check」の財源は、非常事態宣言からわずか2週間で可決された2兆ドル(約220兆円)を超える緊急経済支援策、通称「CARES Act(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)です。このうちのおおよそ26兆円分が「Stimulus Check」に配分されています。
「Stimulus Check」の受け取り方法は?
2018年と2019年に納税申告書を提出した人、メディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)や年金を受け取っている高齢者や退職者には自動的に銀行口座へ振り込まれます。
上記条件の対象外の人には、アメリカ政府が発行する「小切手」が郵送され、金融機関に行って現金化することで受け取れる仕組みです。ちなみに、小切手の差出人にはトランプ大統領の名前が記載されています。
2020年4月9日から順次配布され、予定より遅れたものの5月上旬には支給が完了しています。手続き上、自動的に振り込みまたは送付されなかった人には、日本の国税庁に該当するIRS(Internal Revenue Service)のウェブサイトに専用の問い合わせフォームがあり、銀行口座を指定することで速やかに振り込まれる仕組みになっています。
アメリカ政府による経済支援策「Stimulus Check」を何に使った?
筆者のまわりのアメリカ人が「Stimulus Check」をどのようなことに使用したのか、あるいは使用する予定なのかを聞いてみました。
ご紹介するのは筆者の知人の一部ですので、あくまでも参考程度にして頂ければ幸いです。
30代男性・マークさんの場合 「貯金」
アリゾナ州で音楽業界のエンジニアとして活躍しているマークは、8月末に結婚を控えているため「貯金」に回したとのことです。
普段から自宅の部屋で仕事をしているマークは「オーディオブック」の制作も手がけています。外出規制によって時間が出来た人たちがオーディオブックを利用する機会が増えたことから仕事が増えたようです。
本業の収入が増えたため、「Stimulus Check」をそっくりそのまま貯金に回せたようです。普段は貯金をしない性格だからこそ貯金をしたと言います。
40代男性・パトリックさんの場合 「旅費」
日本人の奥さんと2人の娘を持つパトリックは「日本へ行く時の飛行機代」に充てるとのことです。パトリックの家族は現在日本にいるため、コロナ騒動が終息したら日本へ行くそうです。「Stimulus Check」は、その時の飛行機代にちょうどいいと喜んでいました。
パトリックはアメリカの大手スーパーで働いており、他の人よりも感染リスクが高いのがストレスだとのことです。夏休みに日本へ行きたいようですが、今後の状況次第では家族と離れる時間が長くなるかもと心配していました。
50代男性・ヒロさんの場合 「小切手を飾る」
アリゾナ州で日本食レストランを経営するヒロさんは「飾る」とのことです。ヒロさんは日本人ですが、グリーンカード(永住権)を保有しているので「Stimulus Check」を受け取る資格があります。
仕事が忙しく、特に使う予定はないそうです。将来的に価値が出るかもしれないので、小切手を額に入れて保存しておくと冗談めかして言っていました。数年後に「コロナウイルスで大騒ぎした頃が懐かしい」などと言いながら「Stimulus Check」を眺める時を待っているようです。
70代男性・ロジャーさんの場合 「株式投資の損失補填」
元海軍、現役弁護士のロジャーは「株式投資の損失補填」に消えたとのことです。合計すると数千万円級の株式投資をしているロジャーは、3月の株価暴落によって大損をしてしまいました。株価は戻ってきているため少しずつ損失は解消されているものの、毎月の配当が減少したため「Stimulus Check」で補填したそうです。
ロジャーは年収75,000ドル以上なので「Stimulus Check」は1,200ドルよりも少ないとのことですが、ガソリン代や光熱費の補填にはなると余裕の表情でした。
20代女性・エイミーさんの場合 「ソフトウェア購入」
カリフォルニア州で研修医として働いているエイミーは「ソフトウェア」の購入資金として使ったとのことです。
彼女が購入したのは医師が使用する薬の専門的なソフトウェアで、勉強のためにいつか買おうと思っていたものだそうです。定価では2,000ドル(約22万円)ほどするソフトウェアですが、学生向けライセンスを利用出来るらしく1,500ドルで購入出来たようです。
「一生もの」のソフトウェアなので、医師として活躍する限り、生涯にわたって使えると喜んでいました。
20代女性・ダニエラさんの場合 「仕送りと生活費」
エイミーの職場の同僚である医師のダニエラは600ドルを「年金生活の両親へ」そして残り半分の600ドルは自分の生活費に充てたとのことです。カリフォルニア州は物価が高く生活費がかかるため、600ドルは半月程度で消費してしまったようです。
年金生活中のダニエラの両親はそれぞれ1,200ドルを受け取っていますが、医療費などに出費がかさむらしく、娘からのカンパというかたちになりました。
20代女性・サンドラさんの場合 「買い物と投資」
カリフォルニア州の医学学校に通うサンドラは、エクササイズ用の「自転車」と「ビットコインへの投資」に使ったようです。4年間の学費が200,000ドル(約2,200万円)以上かかる医学学校に通うサンドラは、学費のみならず生活費のすべてを学生ローンで暮らしています。
月額500ドル程度を30年間かけて返済するようで、少しでも資金を増やせるようにと一部を投資に使ったそうです。自転車を購入した理由は、外出規制によってストレスを感じてしまい、エクササイズが必要だと感じたことや、ハードスケジュールの医学生ゆえに健康管理をすべきと感じたためだと言います。
30代女性・エリカさんの場合 「生活費」
アリゾナ州でコミュニティカレッジの職員として働くアフリカ系アメリカ人のエリカは、旦那さんと子ども2人と同居しているため総額3,400ドル支給されました。すべて家賃や食費などの「生活費」に充てるとのことです。
3,400ドルの内訳としては家賃2ヶ月分(1,400ドル×2)、食費1ヶ月分(600ドル)という分配になるそうです。一方で、在宅勤務を強いられているものの、業務は続いているため大学からの給与が保証されています。
子供たちの学校は休校中で、外出規制や多くのお店は休業中ということもあり、お金を使う理由がないとのことです。エリカの家族にとって「Stimulus Check」は大きなボーナスという印象のようです。
40代女性・ブリトニーさんの場合 「ペットの治療費と生活費」
アリゾナ州の日本食レストランでウェイトレスとして15年のキャリアを持つブリトニーは「犬の病気の治療費」と「生活費」に使用するとのことです。ブリトニーが飼っているのは12歳の老犬で1年前に癌と診断されました。
これまでに投薬や放射線治療を受けたそうですが、むしろ具合が悪くなるらしく、自然治療(代替療法)に変えようと思っているそうです。加入しているペット保険ではカバーされないので「Stimulus Check」を使うことにしたようです。
50代女性・ヘレンさんの場合 「健康食品・美容食品の購入」
アリゾナ州のコミュニティカレッジで健康心理学を教えている教授のヘレンは、今後の授業に役立つだろうと「健康食品」や「美容用品」に使ったとのことです。
地元経済を支援したいという思いもあったことから、アリゾナ州に拠点を置いている「Forever Living Products社」の製品を購入したと言います。同社はアロエベラジュースや、自然食品、天然素材の化粧品を扱う世界的有名企業です。一般的な製品よりも少し割高なことから、ヘレンにしてみれば「Stimulus Check」が「渡りに船」だったようです。
ヘレンは授業を通じて学生に対して「地元企業への支援」を呼びかけていました。アリゾナ州は大都市圏ではないため、地元民による地元企業支援が重要とのことです。
50代女性・クリスティさんの場合 「家賃と車の修理費」
筆者の隣人であるメキシカンのクリスティは「家賃」と「車の修理」で使い切ったとのことです。一般的な1ベッドルームに住んでいる彼女は、光熱費を含めて約800ドルが家賃で消費され、残りは愛車(2000年式のトヨタ・カムリ)の修理に充てたようです。
料理が好きなクリスティは、「Stimulus Check」によって浮いたお金でいくつか料理道具も買いたいと言っていました。ちなみに、彼女はメキシカンですがちゃんとアメリカ国籍を保有しています。
60代女性・キャサリンさんの場合 「固定資産税」
アリゾナ州で翻訳などの仕事を手がけているキャサリンは「Property Tax(固定資産税)」にすべて消えてしまうとのことです。
キャサリンは持ち家に住んでいるので、Property Taxを毎年支払う必要があります。彼女の場合、Property Taxは年間2,000ドル以上かかることから、「Stimulus Check」の1,200ドルはそっくりそのまま税金で消えてなくなるようです。税金による支援で税金を払うという訳です。
キャサリンは企業に所属せず、フリーランサーとして自宅で仕事をしており、複数の収入源を持っています。外出規制期間中も一定の収入を確保出来たことから経済的な打撃は最小で済んだようです。
70代女性・バーバラさんの場合 「孫に譲る」
年金生活者のバーバラは「孫に譲る」とのことです。孫が大学生のため何かと物入りだそうで、全額(1,200ドル)を次に会った時に渡すようです。と言っても、孫はニューヨークにいるため次に会えるのはいつか分からないそうで、少し悲しげでした。
ニューヨークはアメリカのなかで感染被害が最もひどいエリアなので、孫のことを不憫に思っての判断のようでした。
まとめ
「Stimulus Check」は多くの人から歓迎されており、迅速な対応も評価されています。わずか2週間で200兆円規模の法律を成立させ、さらにその2週間後には全国民に配布をしたトランプ大統領の早業には脱帽です。
ここでは触れていませんが、失業保険や、条件に沿えば返済不要の中小企業融資など、アメリカ政府による様々な支援政策は目を見張るものがあります。
日本では、国民一人に対して10万円を給付する事が決定しましたが、その決定までには長い議論があり、給付までが早かったとは決して言えません。日本政府は今回のアメリカ政府の対応を見習う必要があるかもしれません。
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