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アメリカの大学2割が閉校の危機!コロナが大学に与えた影響

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はじめに – 教育機関への支援は十分でない

アメリカでは新型コロナウイルスによって3,600万人以上の失業が出ました。経済が再開しても再び職に就けない人が失業者の50%を占める異常な状態です。

日本のメディアはアメリカの失業率が上昇していることを伝えていますが、他にもあまり知られていない深刻な事態があります。それが「大学の閉校危機」です。

アメリカでは多くの企業が一時休業を迫られるなどしていますが、政府による迅速で手厚い支援によって救済されています。一方で、全米で5,000ほどある大学などの教育機関に対する支援は手薄です。

感染拡大によって閉鎖を余儀なくされた大学はどのような事態に直面しているのでしょうか?コロナ騒動後にアメリカの大学は生き残れるのでしょうか?今回は、日本ではあまり知られていないアメリカの大学が直面している問題に迫ります。

アメリカの大学が直面している問題とは?

はじめに、新型コロナウイルスによってアメリカの大学がどのような事態を迎えているのか見てみましょう。

アメリカの大学が直面している問題1:キャンパス閉鎖

2020年3月13日、トランプ大統領が国家非常事態宣言を発令しました。これに先立ち、多くの州では小学校から大学まで、すべての教育機関を春学期が終了(5月中旬)するまで閉鎖しました。

閉鎖から1-2週間の間で授業はすべてオンライン化され、多くの学生は春学期の後半は自宅から授業を受ける事態になりました。アメリカにある大学のほとんどキャンパスは無人になり、実質的に機能していない状態になったのです。

アメリカの大学が直面している問題2:職員の解雇

キャンパスが閉鎖されたことで教員や職員すべてが在宅業務に切り替わり、一部の職員の解雇が始まりました。とくに図書館員、カウンセラー、事務員、学生スポーツのコーチやスタッフなどが真っ先に解雇されています。

解雇に至らずとも全職員が減給対象になり、新規雇用の凍結も実施され、人件費の大幅削減までに時間はかかりませんでした。実際に、アリゾナ大学では全職員の報酬を給与額に応じて20-40%程度カットする措置が取られています。

解雇や人件費の削減は大学運営の根幹を揺るがす問題になります。本格的に授業が再開される予定の秋学期(8月末)から、大学本来の運営がままならない懸念があります。

アメリカの大学が直面している問題3:授業料収入の減少

多くの大学にとって最も深刻な影響と言えるのが授業料収入の減少でしょう。キャンパスの閉鎖やオンライン化の流れを受けて、夏学期(6月-8月)以降の入学希望者が減っているのです。ニューヨーク大学は夏学期だけで150億円規模の損失が生じるとしています。


また、予算が少ない大学では新型コロナウイルス対策に充てる予算がなく、学生や職員の安全性を保証できないため、新入生を受け入れられない事態にもなっています。

事実、カリフォルニア州で3番目に歴史がある私立カトリック大学のNotre Dame de Namur University(ナミュールノートルダム大学)は新入生の募集を停止しています。

アメリカの大学が直面している問題4:留学生の減少

大学にとって授業料収入の減少に関連して留学生の減少も大きな問題です。奨学金を受け取っていない一般の留学生は、アメリカ人学生よりも割高な授業料や手数料を払う必要があります。つまり、大学からしてみれば留学生は大きな収入源でもあります。

留学生を受け入れることで必然的に生じる寮費などの収入も減少するため、大学にとっては痛手なのです。また、世界中から集まる留学生を通じて得られる大学の「宣伝広告効果」も減るため、長期的な損失に繋がります。

アメリカに留学する学生は年間100万人ほどで、私立大学の平均的な年間学費が約350万円、寮費や生活費を含めると最低500万円ほどかかる計算なので、年間5兆円規模の損失です。

アメリカの大学が直面している問題5:慢性的な赤字経営

アメリカの大学の授業料は法外的に高いことで知られていますが、実はおおよそ30%が赤字経営とされています。債券格付け会社のMoody’s Investors Servicesの発表では、学生数が減少傾向にある公立大学では30%以上が赤字、私立でも30%弱が赤字とされています。

赤字が常態化している大学にとって新型コロナウイルスの襲来は大打撃です。また、金融市場が混乱することで、大学の資産運用がうまく回らなくなることも事態を悪化させる要因とされています。

残念ながら、160年以上の歴史があるイリノイ州のMacMurray College(マクマリーカレッジ)は、経営難を理由に2020年5月で閉校を決定しました。

アメリカ政府による教育機関への支援は?

アメリカ政府は教育機関に対してどのような支援を実施したか見てみましょう。

高等教育救済資金

アメリカ政府は、大学をはじめとする教育機関への経済支援策として140億ドル(約1兆5,000億円)を拠出しています。このうち大学向けの予算は125億ドルです。

125億ドルは学生数や大学の規模を考慮したうえで172校に配分されました。例えば、コロンビア大学は12.8万ドル(約14億円)、ハーバード大学は8.6万ドル(約9.5億円)、イェール大学は6.8万ドル(7.5億円)を受け取っています。

支援金を受け取った大学は支援金の半分を「学生の援助」に使用することが義務づけられています。学生の援助とは、新型コロナウイルスの影響で生活が困窮した学生の寮費、食費、教科書代などの補助が対象です。

ちなみに「アイビーリーグ」と呼ばれるこれらの名門大学は、数兆円に及ぶ大学の基金や寄付によって財政的な余裕があることから、政府の支援金を受け取ったことを批判されました。批判を受けて、ハーバード大学、イェール大学、プリンストン大学、ペンシルベニア大学は政府へ支援金を返還しています。

足りない支援金

アメリカにはおおよそ5,000の大学(カレッジを含む)があります。そのうち、政府による140億ドルの財政支援はわずか0.02%の大学に集中しています。政府の支援以外にも州ごとの支援も見込まれていますが、すべての大学をカバーできる訳ではありません。

支援が特定の大学に偏っている状況を受けて、アメリカの大学で構成されるAmerican Council on Education(米国教育協議会)は議会に対して一層の財政支援を訴えています。


アメリカの大学に通う学生への影響

多くの大学で深刻な影響が出ていますが、肝心の学生たちにはどのような問題が生じているのでしょうか?

アメリカの大学生への影響1:単位取得の問題

どの学生にも直結する問題が単位取得の問題です。3月以降、どの大学も授業がオンライン授業に切り替わりました。この結果、安全性が確保された反面で、ディスカッションやプレゼンテーションなど、双方向参加型の授業が難しくなりました。

学生の評価付けは課題やテスト、論文でするしかなく、肝心の「理解力」や「積極性」を評価し辛くなったのです。また、学生が堂々とカンニング出来ることも問題でしょう。

アメリカの大学生への影響2:大学に通う意味の再定義

感染拡大が収まりつつある州では秋学期から対面授業に戻る計画です。実際にアリゾナ大学は9月から通常授業に戻すことを公表しています。

一方で、カリフォルニア州立大学は秋学期以降もオンライン授業を継続することを決定しており、州または大学ごとに対応が分かれています。

仮に、秋学期以降もオンライン授業を継続する大学が多くなると、大学に通う意義、学費を収める価値など「大学の存在意義そのもの」が覆る可能性もあります。とくに留学生にとっては留学する意味がなくなることが問題です。

実際に、コロナ騒動下で高額な学費を収めて大学へ通うことに疑問を感じているニューヨーク大学やTisch School(NYCの芸術学部)の学生たちが、授業料や施設使用料などの返還を求めて訴訟や抗議活動を始めています。

高額な授業料を学生に負担させなければ経営が成り立たない大学側の意向と、コロナによって制限された大学生活でも高額な授業料を収めなければいけない学生の意向が噛み合ない事態は、大学の存在意義を再定義することになるでしょう。

今後アメリカの大学はどうなるの?

米国教育協議会は「今後2割の大学が深刻な経営難を迎える」としています。また、教育コンサルタント会社Simpson Scarboroughは、新学期となる2020年9月に入学を希望する高校生の約2割が入学を辞退する可能性があると予想しています。

加えて、多くの国でアメリカのビザ発給業務が一時停止されていることから、短期留学を除く新規留学生の受け入れも実質的な停止状態です。先述したように、このまま規制が続くと年間100万人規模の留学生がアメリカに行けない事態になってしまいます。

学生が集まらないということは、大学は収入源を失ったと同じです。コロナ騒動前から赤字経営だった30%程度の大学は、政府による支援を待たずして行き詰まる可能性があります。

コロンビア大学学長のChristina Paxson(クリスティン・パクソン)は、2020年の秋学期にキャンパスを再開できなければ授業料収入の半分を失うと述べています。資金力がない大学から閉校に追い込まれていることは必須です。

まとめ

新型コロナウイルスの影響はアメリカの大学にも大きな影響を与えています。政府による救済支援策は企業に対するものとは異なり、決して十分とは言えません。

大学が生き残りをかけて学生に負担を強いるようなことが起これば、アメリカの大学の授業料は途方もない金額になるでしょう。

日本としてもアメリカで学ぶ優秀な人材が減ってしまうことや、国際的な人材育成も滞ることになります。アメリカの大学崩壊は日本にとって対岸の火事とは言えないのです。

今後も、公務員として、ぜひこの問題に注視してみてください。

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本記事は、2020年6月1日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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