【ジョージ・フロイド窒息死事件】アメリカの白人警察官による黒人への暴力行為(2020年5月25日)

アメリカでは度々、白人警察官による黒人への暴力行為が問題になっています。

本記事では、アメリカ在住の日本人ライターが、アメリカの根深い問題である「白人と黒人の差別問題」について、実際の事件を事例に、現地アメリカからレポートします。

日本にとって唯一の同盟国で経済でも密接な関係をもつアメリカの情報、公務員の方も、公務員志望の方も、是非ご参考ください。


はじめに – 黒人への過度な圧力

2020年5月25日、アメリカのミネソタ州ミネアポリスで白人警官による過度な制圧行為によって黒人男性が死亡する事件が起こりました。

白人警官による黒人への行き過ぎた行為はこれが初めてではありません。アメリカでは白人警察官による黒人への暴力行為が度々起きており、黒人が死亡または大けがを負うことは珍しくありません。また、大半は報道されることなく、我々がメディアを通じて知るものはごく一部と言えます。

黒人が死亡するような事件が起きる度にアメリカ国内では大々的に取り上げられますが、残念ながら繰り返されているのが実情です。

そこで今回は、白人警察官による黒人への過度な圧力問題について、過去事例を含めてアメリカで生活する筆者目線で解説したいと思います。

公務員を目指す方は、アメリカの警察官がどのような存在なのかを知り、日本の警察官との違いを理解するのに参考にして頂ければと思います。

ジョージ・フロイド窒息死事件

はじめに、今回起こった事件の詳細をご紹介します。

ジョージ・フロイド窒息死事件の一部始終

2020年5月25日、アメリカ中西部にあるミネソタ州のミネアポリスで、白人警察官が黒人男性の首を膝で5分間抑え続け、黒人男性が窒息死しました。事件の翌日、4名の警察官が懲戒解雇されています。

この事件は、偽の20ドル札を使用しようとしたジョージ・フロイド(46)が詐欺容疑で拘束された際に起こりました。

飲酒状態でなおかつ興奮状態にあった男性は逃走する恐れがあったことから、パトカーの下にもぐりこませるように寝かされ、覆い被さった警察官が自身の膝で首を強く抑え続けました。

当初は声を上げて抵抗していた男性ですが、首を強く圧迫されたため次第に呼吸が出来なくなり、脱力状態になります。抵抗がなくなったことを確認した警察官は、立ち上がってパトカーに乗るように求めましたが反応はなく、病院に運ばれました。

この事件は、周囲にいた人が一部始終を携帯電話で撮影しており、その動画はSNSなどで瞬く間に拡散されました。「息が出来ない」「お願いだから助けて」「ママ」などを連呼していた男性が徐々に意識を失っていく姿が映っています。


周囲から警察官に対して「どれだけ抑え続けるのか?」「もう抵抗していない」などという声がかけられていますが、男性を抑え続けた警察官や、それを見ていた警察官は無視を続けました。

男性は「車(パトカー)に乗れ」という警察官に対して「分かったけど(抑えられているから)動けない」と反応しますが、次の瞬間、警察官の膝が男性の首を再び強く押し付けていることが分かります。

男性が意識を無くしたため、結局、警察が救急車を呼んで病院へ運ばれていく事態になりました。その後すぐに男性は病院で死亡宣告されています。

事件翌日には抗議デモが発生

あまりにも威圧的で、男性の懇願を無視し続けた白人警察官の対応は非難が集中しました。翌日朝には同市の警察署前で抗議デモが発生、警察は催涙ガスやゴム弾を使用するなどして対応し、解散させました。

このデモでは警察署の窓ガラスが割られる、パトカーが傷つけられる、落書きをされるなどの被害が出ています。抗議デモの際には「I can’t breathe.(息が出来ない)」と書いたプラカードを持った人が数百人集まったとされています。

この「I can’t breathe.」という言葉は、後述する2014年のエリック・ガーナー窒息死事件が由来です。この事件以降、白人警察官が黒人に対して乱暴な振る舞いをすることに抗議する人たちのスローガンになっています。

皮肉にも、今回の事件はエリック・ガーナー窒息死事件とまったく同じ結果になってしまいました。

ジョージ・フロイド窒息死事件に対する周囲の反応

事件翌日、ミネアポリス警察トップのメダリア・アラドンドは記者会見で、関与した4名の警察官を「元職員」と表現し、解雇したことを発表しました。

また、ミネアポリス市長のジェイコブ・フレイは「警察の対応は本当にひどい」「懲戒解雇は正しい判断」「黒人であることが死刑になってはいけない」などと残し、謝罪しています。

ミネソタ州選出の上院議員であるエイミー・クロブシャーは「法の正義が実現されなくてはならない」と述べ、亡くなった男性の家族に対してコメントを寄せています。同氏は2020年大統領選に民主党候補として立候補した経歴があり、バイデン候補を支持することを表明しています。また、バイデン候補も同氏を副大統領候補として検討していると言われています。

政治利用されやすい黒人問題

11月の大統領選でトランプ大統領の対立候補となる民主党のジョー・バイデンは、今回の事件を受けて即座にTwitter上で「FBIによる徹底調査をするべき」とコメントしています。

対照的にトランプ大統領は事件から2日経過した時点でTwitter上に「FBIと司法省の調査は順調」ということと、家族に対する哀悼の意を発表しています。バイデン氏が即座にコメントしたことに対して、反応が遅かったことは否めません。

アメリカでは白人警察官の言動によって黒人が差別される事件は大々的に報道される傾向があります。このような問題は、良くも悪くも政治的な影響を生みやすいため、政治家は慎重な対応になりがちです。

とくに民主党候補のバイデン氏は、5月22日に黒人に対する差別的な発言をしたばかりです。全米で800万人が聴いているとされる人気ラジオ番組(The Breakfast Club)のインタビュー中に「トランプに投票するかどうか迷っているなら、その人は黒人じゃない」と発言しました。

バイデン氏は後にこの発言を軽率だったと認め、黒人からの支持が当たり前であると考えたことはないと強調しました。


クイニピアック大学の調査では、黒人有権者の81%がバイデン氏を支持しており、トランプ大統領を支持するのはわずか3%です。バイデン陣営にとって黒人票は非常に大きな意味を持つため、なんとしても誤解を晴らしたいタイミングで今回の事件が起こりました。

事件後、即座に反応したバイデン氏は黒人に同情することで失った信頼を回復させたい狙いがあります。残念ながらアメリカでは白人と黒人の問題は政治利用されやすい側面があることを知っておくと良いでしょう。今回の一件も例外ではないようです。

これまでに起きた白人警察官による黒人の差別的事件

アメリカでは白人警察官による黒人の威圧行為がなくなりません。これまでに起きた主な事件を見てみましょう。

エリック・ガーナー窒息死事件

2014年7月17日、ニューヨークのスタテンアイランドで黒人男性のエリック・ガーナー(43)が白人警察官(Daniel Pantaleo/ダニエル・パンタレオ)に拘束された際に窒息死した事件です。この警察官は事件から5年が経過した2019年8月に懲戒解雇になりました。

この事件は不法にタバコを売買していた男性を拘束する際、ニューヨーク警察では禁止されている「チョークスリーパー」を用いて対応したことが原因です。また、黒人男性が11回にわたって息が出来ないことを訴えたにもかかわらず、警察官は首を絞め続けました。

居合わせた一般人(ラムゼイ・オルタ)が一部始終を携帯電話で録画していたため、行き過ぎた暴力行為であることは明らかです。しかし、警察官は懲戒処分を受けるまでの5年間、内勤勤務に移動させられただけで、給与や日々の生活は保証されていました。

この事件は、一般市民から選ばれた陪審員によって起訴かどうかを決める大陪審で決着することになりましたが、結果は不起訴でした。大陪審では、警察官は2時間にわたる証言で自身を正当化し、死因とは無関係であると主張しました。

また、ニューヨーク市当局は事件から3週間後に一部始終を撮影していた一般人のラムゼイ・オルタを別件で逮捕しており、意図的な捜査妨害を疑われるようなことをしています。後に、警察官の同僚や、駆けつけた救急隊員や医師さえも蘇生措置を取らなかったことが判明しています。

大陪審の結果は全米で大きく報道され、各地で黒人によるデモが50以上も発生しました。オバマ大統領(当時)もコメントするなど社会的な影響が大きくなったため、連邦政府司法省が独自調査を実施することになりました。

そして2019年8月、事件にかかわった白人警察官は、禁止されている絞め技を使ったことや、生命が危険な状態であったにもかかわらず蘇生措置を取らなかったことを理由に懲戒解雇されています。

この白人警察官は2013年にも無実の黒人2名を拘束した際に、街中で裸にするなど差別的な行動をしており、行政訴訟の対象になっていました。黒人に対する差別的な感情が根強かったと思われます。

マイケル・ブラウン射殺事件

2014年8月9日、ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人少年マイケル・ブラウンが白人警察官(Darren Wilson/ダレン・ウィルソン)によって射殺されました。この白人警察官は大陪審の末、不起訴になっています。

この事件は、友人と一緒に帰宅途中だった黒人少年と白人警察官が言い合いになった結果、警察官が合計12回発砲し、少年が死亡したものです。(装填されていた銃弾は13発)

言い合い(警察官はもみ合いと証言)になった際、パトカーから2回発砲された少年は現場から逃げたものの、追跡されて追いつかれたため両手を挙げて降伏しました。(警察官は真逆の証言をしている)しかし、さらに発砲され致命的な6弾を受けて、その場に4.5時間放置されたうえ死亡しました。

大陪審では60名の目撃証言がありました。しかし、双方の主張が一致しないことや、決定的な目撃証言や証拠がないことから警察官は不起訴になったのです。この結果を受けて、アメリカに限らず世界178都市でデモが起き、100名を超える逮捕者が出る騒動になりました。

丸腰の黒人少年に対する白人警察官による執拗な発砲、証拠がないことを理由にした警察官寄りの判決は大きな波紋を呼んだのでした。この事件をきっかけにして、アメリカの警察では「ウェアラブルカメラ」が導入されるようになったとされています。

まとめ

ご紹介したようにアメリカでは白人警察官による過度な黒人への圧力は否定できません。さらに、ほとんどの場合で警察官に有利な判決が下されており、見えない差別が存在しているようです。

亡くなったエリック・ガーナーの娘エリカは、アメリカの警察官が強く抱く「功名心」を問題視しています。英雄になりたい、周囲から尊敬を集めたいという、ある種の早る気持ちから白人警察官は父親(ガーナー)を倒したかったのではないかと語っています。

アメリカでは軍隊や警察官を「英雄視」する文化があります。危険と隣り合わせのこれらの職業は英雄視されるべき存在かもしれませんが、ひとたび英雄視の意味や価値を取り間違えると「何か」が犠牲になる可能性があるのです。


今回起きた事件は人種差別や肌色の問題ではなく、アメリカ人の精神の根底にあるのかもしれません。また、一般市民が警察官に対して偏見や批判的な見方をすることも防がねばならず、両者にとって根深い問題と言えます。

今後も、アメリカに厳然と存在するこれらの差別問題に、ぜひ目を向けてください。

本記事は、2020年6月2日時点調査または公開された情報です。
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