はじめに - アメリカ人にとって特別な日「独立記念日」
毎年7月4日はアメリカの独立記念日です。
1776年7月4日、アメリカ合衆国の前身である「13植民地(13 Colonies)」が、独立戦争を経て、イギリスから正式に独立を宣言した日です。この日は、年間を通して数少ない国民の休日として、そして多くのアメリカ人がアメリカに愛国心を示す特別な日として過ごします。
近年では独立を祝って全米のあらゆる場所で花火が打ち上げられることから、多くのアメリカ人にとって「夏の到来を知らせる特別なイベント」という位置づけにもなっています。愛国心の有無にかかわらず、アメリカ人にとって独立記念日はとても特別な一日と言えるでしょう。
しかし、2020年に関しては新型コロナウイルス感染拡大が影響して、多くの都市で花火大会は中止になり、家族や友人とのパーティーも自粛する事態になりました。(直前になってキャンセルが相次いだ)
残念ながら、アメリカ人が楽しみにしていた独立記念日は何ともつまらない休日になってしまったことは否めません。そんな中、トランプ大統領はワシントンD.C.での記念式典を強硬開催し、意気消沈気味のアメリカ人に向けて国威発揚を図りました。
今回は、アメリカ人そして世界中の国が注目したアメリカの独立記念日に、トランプ大統領が何を語ったのかご紹介します。
公務員や公務員志望の方は、最新の国際情勢を理解するのに参考にして下さい。
トランプ大統領が独立記念日に合わせてしたこと
トランプ大統領は多くのアメリカ人にとって重要な意味を持つ独立記念日に合わせて、国民の士気を高めるために様々なことに取り組みました。
トランプ大統領のラシュモア山訪問
独立記念日の前日(7月3日)、トランプ大統領はサウスダコタ州にあるラシュモア山を訪れました。
ラシュモア山とは、ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、セオドア・ルーズベルト、エイブラハム・リンカーンの歴代大統領4名の顔が岩山に彫刻されている巨大なモニュメントです。
ラシュモア山は、建国から150年の間、アメリカ史に名を残した重要な大統領をモチーフにしており、愛国心が強いアメリカ人からすれば「アメリカのプライド」を象徴する非常に重要な建造物です。
トランプ大統領が独立記念日に合わせて、わざわざこの地を訪れた理由は、ジョージフロイド窒息死事件に端を発する、左派による歴史的彫像の破壊行為に対する批判の意味があるとされています。
ラシュモア山の肖像はとても硬質な岩石に彫刻されており、理論上は先10,000年は劣化しないことから、彫像を破壊する人たちに向けて「アメリカのプライドは破壊できない」ことをアピールする狙いがあると見られます。
そして、トランプ大統領は独立記念日に合わせて、あえてこの場所を選び、保守層に該当するアメリカ人の結束を図ろうとした思惑があります。
トランプ大統領はラシュモア山で演説をおこない、いまもなお全米で歴史的な彫像が破壊されていることを批判したうえで「攻撃をすぐに止めさせる」と強硬姿勢を見せました。
同時に、アメリカの英雄とされる人物を彫像にして飾る公園(National Garden of American Heroes)を建設する計画に署名したことを明らかにし、破壊行為とは真逆の姿勢を取ることで、対立構造がより鮮明になりました。
アメリカのプライドや歴史を破壊しようとする人たちを批判し、自らの支持基盤である保守層にアピールしたことは成功したと言えますが、この一件でより一層の分断を招いたことは否定できません。
また、11月の大統領選に向けて、下がる一方の支持率を回復するのために、独立記念日を巧みに利用したことがよく分かります。裏を返せば、トランプ陣営の焦りと言えるでしょう。
トランプ大統領、ホワイトハウスでの記念式典
独立記念日の当日、トランプ大統領はワシントンD.C.にあるホワイトハウスで記念式典に参加しました。
ワシントンD.C.のムリエル・バウザー市長は、全米で新型コロナウイルスの感染拡大が続いていることを理由に、式典の開催には消極的でしたが、トランプ大統領はそれを振り切った形になりました。
前日のラシュモア山に集まった人もそうであったように、トランプ大統領を支持する多くの参加者がソーシャルディスタンスを守らず、マスクも着用していない状態で開催されました。
トランプ大統領は式典の演説のなかで「アメリカの自由」と「新型コロナウイルス」のふたつに焦点をあてたコメント残しています。
「アメリカの自由」については、独立宣言以降のアメリカは常に自由のために戦ってきたと強調したうえで、第二次世界大戦では自由を守るためにナチス・ドイツと戦い、そこでの勝利があったからこそ現在のアメリカが存在し、アメリカ人は恩恵を受けていると主張しました。
合わせて、自由のために戦ってきた人たちの彫像を破壊する人たちこそが、アメリカの自由を脅かしているとし「マルクス主義者」や「無政府主義者」という言葉を用いて批判しました。
一方で「新型コロナウイルス」については中国を名指しで批判し「秘密主義」や「偽り」などといった言葉を使っています。そして、この問題については「中国に責任を負わせる」と強調し、アメリカ国内に根強く残る「反中国派」に対するアピールをしました。
式典では愛国心が強いアメリカ人が好みそうな軍隊を使った演出も実施されました。
ホワイトハウス上空を飛ぶ飛行機からパラシュート部隊が国旗を持って落下してくるのに合わせた国歌の演奏や、エアフォースワンやステルス戦闘機F35、オスプレイなどのデモンストレーションも実施されています。
新型コロナウイルス感染拡大の恐怖に置かれているなかでも、このような演説や派手なパフォーマンスを実施したことは、少しでも「強いアメリカ」を強調したい狙いがあると見られます。
また、多くのアメリカ人にとって特別な独立記念日に行うことで、弱るアメリカに国威発揚を狙ったと思われます。
トランプ大統領は、パフォーマンスを強めれば強めるほど「焦り」と解釈されるほどに不利な状況に置かれていることは否めません。余裕な表情の裏には、11月の大統領選での再選に向けた必死の形相が透けて見えます。
事実、トランプ陣営の身内であるはずの共和党系政治コンサルタントのダグラス・ヘイ氏は「分断をあおる言動は控えるべき」と忠告しており、共和党内でも足並みが揃っていないことが分かります。
アメリカの中小企業支援策を延長
トランプ大統領は新型コロナウイルスによって営業停止をやむなくされた中小企業に対する支援策「給与保護プログラム(PPP)」を、8月上旬まで延長することを決定しました。
給与保護プログラム(PPP)とは、営業停止中でも従業員の雇用を維持すれば、政府がその間の給与を肩代わりする制度で、名目上は融資ながら、実質的には返済不要の補助金としての意味合いが強いことが特徴です。
とくに、営業停止による打撃が大きい小規模レストラン、バー、理髪店などは、この制度によって経営破綻せずに済んでいるとされています。
全米で5月に経済が再開されて以降、少しずつ日常を取り戻しつつありましたが、6月末頃から大半の州で過去最高の感染者数を記録する事態になったことからやむを得ない措置と言えます。
なかでも感染者数が著しく多い、カリフォルニア州やテキサス州、アリゾナ州などでは、バーやジム、一部レストランなどで再び営業停止の命令が出されました。
営業できなくなったお店は政府による支援策に頼る他なく、今回のトランプ大統領の決定は大いに歓迎されています。
トランプ大統領はこの制度を巡っては、4月には迅速な決定を下したことで評価され、7月には延長決定で再び評価されていることから、支持率低下に歯止めをかけるための格好の好材料と言えるでしょう。
ただし、失業保険金の上乗せ(毎週600ドル)は7月末に期限を迎え、PPPは8月上旬に期限が切れるため、再び決断が迫られることになります。
新型コロナウイルスの感染状況や、全米でいまだに2,000万人近くいる失業者が復職への道筋が立つのかなど、状況によっては再び延期を決断することになると見られます。しかしそれは民主党に財政赤字の責任追及という攻撃材料を与えることになります。
まとめ
以上、「アメリカの独立記念日に見えたトランプ大統領の焦り」でした。
7月4日の独立記念日はアメリカ人にとって非常に特別な意味を持つ1日です。とくにトランプ大統領を支持している保守層と呼ばれる人たちからすれば、とくに重要な日と言えます。そんな日にトランプ大統領は支持者に訴えかける行動に出た訳です。
新型コロナウイルス、人種差別問題や警察組織改革に対する抗議デモ、歴史的肖像の破壊行為など、アメリカは様々な困難に直面しています。そして、これらすべての問題が「分断」を生んでいることも確かです。
トランプ大統領は11月の大統領選に向けて、独立記念日をアメリカ人の統制を図る良いチャンスと捉えた模様です。しかし、多くのアメリカ人にとってその姿は、支持を得ようと焦っているように映ったようです。今後のトランプ大統領の動向、ひいては11月の大統領選にぜひ注目してみてください。
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