アメリカで新学期スタート!教育現場の現状や問題について解説

日本では新学期の始まりは4月ですが、アメリカを始めとする多くの国では、8月から9月を起点にして新学期が始まります。

今年2020年も、アメリカ全域で8月上旬から新学期がスタートしました。今回は、コロナ禍の中で新学期が始まったアメリカ教育現場の現状について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに - コロナ禍の中ではじまった新学期

アメリカ全域で8月上旬から新学期がスタートしました。

アメリカは毎年8月から9月を起点にして1年間の「スクールイヤー」が始まりますが、2020年は新型コロナウイルスの影響によって大幅な変更を余儀なくされており、各地で混乱が生じています。

連邦政府、州政府、学校、そして保護者を巻き込んだ教育を巡る問題は、それぞれの立場で主張が異なり、解決策がないまま新学期を迎える事態になりました。

このような複雑な状況下にあるアメリカの教育現場はいったいどのような状況なのか、アリゾナ州在住の筆者が取材した内容をもとにご紹介します。

アメリカの新学期からの授業形式

アメリカでは大きく分けて3つの授業形式が採用されています。多くの教育機関が、感染状況を考慮しつつ、3つの授業形式を使い分けて授業を進行する手法をとっています。

対面式授業(In-person)

学生が教室で授業を受ける最も典型的な授業形式です。州や地域によって異なるものの、多くの小中学校で対面式授業が実施されています。なかには、クラスを2、3分割して少人数制で対面式授業をするケースもあります。

対面式授業では、教育の質は確保されるものの、小中学校の場合は密集状態になりやすいスクールバス送迎によって感染リスクが高まることが懸念されています。

オンライン授業(OnlineまたはVirtual)

対面式授業の次に主流なのがオンライン授業です。学生は決められた時間にインターネットでアクセスして授業を受けます。感染リスクがなく、教員も保護者も安心できる方法ですが、授業の質が低下しやすいことや、貧困層の家庭は参加できないといった課題があります。

また、子どもが幼いほど親の在宅が必要になるため、親が働きにくくなることも課題になっています。子どもの教育のために収入を犠牲にせざるを得ない家庭もあります。

ハイブリッド式授業(Hybrid)

教育現場から最も期待を集めているのがハイブリッド式授業です。対面式とオンライン式の授業の組み合わせで、クラスを対面式授業のグループとオンライン式授業のグループに分割して、日によって交互に入れ替える方法です。

教育の質と感染リスク抑制を両立できる手法であるものの、管理が大変であることや教員たちの負担が大きいことが課題とされています。


学校再開の問題点

学校再開を巡って様々な問題が起きています。

連邦政府の意見

トランプ大統領はかねてから州政府に対して学校再開を強く要求してきました。

例えば、大学を対象にした「留学生へのビザ停止措置」や「州政府に対する教育予算の削減」などがあります。出来るだけ早く経済を再開させたい思惑があるトランプ大統領としては、学校を再開することで、親や学校関係者を経済活動に参加させたいのです。

しかし、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州などでは感染者数が増え続けていることから、連邦政府と州政府の間に大きな溝が生じており、足並みが揃わないという問題が起きています。

州政府の意見

州政府は連邦政府と教育現場の板挟みという問題に直面しています。

アメリカでは教育機関に関連する統制は州政府の権限が強く、州政府による主導が求められます。しかし、感染者数が増えている現状下で学校再開の決断を下すことは、訴訟問題に発展する恐れもあることから慎重にならざるを得ません。

一方で、連邦政府からは再開への圧力をかけられており、印象を悪くすると教育予算削減の懸念もあります。圧力と責任を抱えているのが州政府の悩みと言えます。

教育現場の意見

教育現場では、手探りの対策を強いられていることが問題です。

早いところでは7月末から新学期がスタートしていますが、感染防止対策や閉鎖を巡っては連邦政府や州政府による明確な基準や法律がないため「現場判断」になっています。

十分な人的リソースがある学校は対応できますが、手一杯の学校も多く、思うように対策できていないところが大半です。なおかつ、保護者からは対面式授業を望む声や、徹底した感染防止対策を要求されるなど、苦しい立場に置かれています。

保護者の意見

保護者は学校が再開されない限り働けない問題を抱えています。

とくに低学年の子どもを持つ家庭にとっては深刻な問題で、オンライン授業やハイブリッド式授業が続く限り、親の行動が制限されてしまいます。低所得者層ほど在宅勤務の仕事ができないことから死活問題でもあります。

働きたい親は学校再開を歓迎していますが、子どものケアに余裕がある家庭はオンライン授業を支持しており、保護者間でも意見は割れています。

実際の教育現場の様子

次に、アメリカの教育現場はどのような状況になっているのか見てみましょう。

教員たちによる抗議活動

一部では教員や学校関係者による抗議活動が起きています。


6月以降、最悪のペースで感染者数が増えているフロリダ州では、教職員組合による抗議デモが起きており、教職員の安全や過度な労働量の是正を求めています。また、イリノイ州では教職員組合が学校再開を中止することを求めて、ストライキの実施を計画しています。

インディアナポリスでは、教職員4,500人規模のストライキが予定されており、マスクやクリーニング製品の準備、感染許容レベル基準の設定などの対策をとるよう要求しています。各地の動きを見ると、学校再開を望む政府と教育現場には大きな溝があるようです。

新学期開始直後に学校閉鎖

新学期初日に生徒の陽性が発覚し学校が閉鎖されたケースもあります。

インディアナ州にあるGreenfield Central Junior High Schoolでは、新学期初日に生徒が陽性反応を示したことから急遽、隔離される事態になりました。また、同州のElwood Junior Senior High Schoolでは、新学期2日目に生徒の陽性反応が発覚し、対面式授業を見合わせる事態になっています。

ジョージア州では新学期2日目に教員270名の陽性が発覚し、それぞれ出勤停止措置が取られており、授業が回らない事態に陥っています。

校内の状況をSNSにアップして停学になった生徒

ジョージア州ダラスにあるNorth Paulding High Schoolでは、生徒のひとりが校内の様子をSNSにアップしたことで停学処分を受ける事態になりました。

この生徒が投稿した画像には、校内の狭い廊下をマスクをしていない生徒たちが、すし詰め状態で移動している様子が映っていました。ソーシャルディスタンスを守らず、大半がマスクを着用していなかったことから、学校側の危機管理責任が問われる事態に発展しています。

学校側は「校則違反」を理由に生徒を停学処分にしましたが「隠したい現状」を暴露されたことによる学校側の報復行為と世間は見ています。

一方で、教員機関の感染対策は義務化されていないことから、このような事態が起きたことも事実であり、学校再開を急ぐあまり、現場での対策が追いついていないことが露呈しました。

感染対策、軍隊並みに厳しい規則も

感染対策を徹底している学校もあります。

ミシシッピ州ニュートン郡にある小学校では、マスク着用義務化、座席は割り当てられたものだけを使用、カフェテリア使用禁止、移動時は片腕を伸ばした状態で歩くなど、非常に厳しい規則を用いています。

さらに、校庭の遊び場は分割されて入場制限が設けられており、建物に入る際は体温検査を受けなければいけません。これらの取り組みは保護者からの評判は上々で、感染を過度に心配せずに、学校で交流を図る方が健康的と捉えられています。

対策や基準はまちまち

教育現場に指示を出す政府の対応はまちまちです。

筆者が暮らすアリゾナ州では州政府によって「Benchmarks(ベンチマーク)」と呼ばれる明確な基準が設けられました。この基準により、学校の感染防止対策および閉鎖の目安が定められています。

ベンチマークの内容は、州全体を対象にした感染者数を「Minimal(10万人に対して10人以下)」「Moderate(10万人に対して10人から100人以下)」「Substantial(10万人に対して100人以上)」の3つに分けており、それぞれで授業形式や実施すべき校内の感染防止対策が変わります。他にも「感染率(7%未満)」や「疑わしい症状の発生率(10%未満)」も基準になっています。

例えば、ベンチマークが「Moderate」だとした場合、ハイブリッド式授業になり、体温検査やソーシャルディスタンス、マスク着用が義務化されます。もし「Substantial」になった場合は、オンライン授業に切り替わって、実質的な閉鎖状態になります。「Minimal」は対面式授業のままで、手洗いや換気、欠勤に気をつける程度で、概ね通常時と同じです。

明確な基準があることで現場が動きやすいと見られる一方で、ベンチマークが発表されたのは8月6日であり、一部の学校は始まった後だったということから、政府側も混乱していることが分かります。

このような政府側の遅い対応によって、統一された見解で義務化できず、新学期を迎えた現場では混乱が生じている訳です。

まとめ

以上、「アメリカで新学期スタート!教育現場の現状や問題について解説」でした。


アメリカではトランプ大統領をはじめとする連邦政府は学校再開に意欲的ですが、州政府は消極的なところが多く、温度差があることは否めません。また、常に感染リスクの中にある状態で授業をする教職員の負担は大きく、教育の質への影響が懸念されます。

新型コロナウイルスは第一波では高齢者が感染し、6月以降は20代から40代が感染しました。そして、新学期を迎えたいま、次は子どもたちが感染するのではないかとされています。

子どもは親と同居していることから、ひとたび感染すると親世代も連鎖的に感染する可能性が高まります。前途多難な新学期を迎えたアメリカでは恐怖と混乱がしばらく続きそうです。

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本記事は、2020年8月19日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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