ルース・ギンズバーグ最高裁判事とはどんな人物だったのか?今後の影響は?

2020年9月18日、アメリカ連邦最高裁判所の女性判事Ruth Bader Ginsburg(ルース・ベイダー・ギンズバーグ)が亡くなりました。

今回は、ルース・ギンズバーグ最高裁判事の人柄や、亡くなったことによる今後の影響について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。

はじめに - リベラル派の象徴であったルース・ギンズバーグ最高裁判事、逝去

2020年9月18日、アメリカ連邦最高裁判所の女性判事Ruth Bader Ginsburg(ルース・ベイダー・ギンズバーグ)が、膵臓癌による合併症が原因で亡くなりました。87歳でした。

ギンズバーグ氏は、9名で構成されている最高裁判事のひとりで「リベラル派」の人物として知られています。現役判事のなかで最も高齢であったことや、闘病生活が続いていたにもかかわらず、1日も休むことなく最後まで職務を全うした姿は多くの人から尊敬されていました。

ギンズバーグ氏はアメリカでは非常によく知られた人物で「リベラル派の象徴」や「アメリカ人女性のアイコン」「アメリカで最も尊敬される女性」とされるほどでした。Ruth Bader Ginsburgの頭文字をとって「RBG」とも呼ばれ、彼女を象徴する愛称です。

全米に訃報が流れた時には多くのアメリカ人セレブ達が追悼の言葉を発表し、その中にはジュリア・ロバーツ、ジェニファー・ロペス、シャロン・ストーンらのトップセレブも多く含まれています。

今回はそんなギンズバーグ氏について、どのような人物であったのかや、彼女の死がどのような影響を与えるのかなど解説します。

ルース・ギンズバーグ氏の生い立ち

1933年3月15日、ギンズバーグはニューヨークのブルックリンでユダヤ系の両親の元に生まれました。1954年、名門コーネル大学を首席で卒業した後、クラスメイトだったマーティン・ギンズバーグと結婚します。翌年には長女が生まれ、さらに次の年にはマーティンが通っていたハーバード大学ロースクールに自身も入学しました。

幼子を抱えながら女性が法律を勉強するなど、当時のアメリカでは考えられないことでした。事実、当時のハーバード大学ロースクール学生500名のうち、女性はわずか9名だけで、大学幹部からは「なぜ男性がいるべき場所にあなたがいるのか?」と言われたと、ギンズバーグは当時を振り返っています。

マーティンがハーバード大学ロースクールを卒業して就職を決めたことから、一家はボストンからニューヨークへ移動します。課程途中だったギンズバーグは、コロンビア大学ロースクールへ編入し、首席で卒業して法学位を取得しました。

当時、ハーバード大学ロースクールやコロンビア大学ロースクールを卒業すれば(首席卒業ならなおさら)連邦高等裁判所や、大都市圏の大手法律事務所に就職することは決して難しいことではありませんでした。しかし、それは男性に限ったことだったのです。

まだ小さな子供を育てている最中だったギンズバーグは、女性ということもあり条件が良い仕事には就けず、ことごとく不採用になりました。結果、彼女の成績や実績にはとても釣り合わない地区裁判所判事の事務役として働き始めたのです。

1963年、ラトガース大学ロースクールで教員免許を取得します。この頃に「ACLU(American Civil Liberties Union/アメリカ自由人権協会)」でも活動を始め、男性優位の社会や性差別の問題を解決する必要性を感じたとされています。

1972年にはコロンビア大学ロースクールで初の女性常勤教員になりました。この頃には、各地で人権を巡る法廷闘争を手がけ「性差別と戦う女性」として全国的な名声を手にいれるようになります。

1980年、カーター大統領(民主党)からコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判事に任命、そして1993年にクリントン大統領(民主党)から連邦最高裁判事に指名されて就任しました。アメリカ史上二人目の女性最高裁判事でした。(初の女性最高裁判事は1981年から2006年まで活躍したサンドラ・デイ・オコナー)

ギンズバーグは、1993年から2020年までの27年間にわたって、リベラル派の最高裁判事として活躍し、男子のみ入学を許可していた軍事学校を違憲とする判決を下したり、LGBTの権利容認、人工中絶支持、フェミニスト、リベラル判事として多くの人から支持されてきました。

2010年にマーティンが亡くなった後も、2度にわたる自身の癌手術の後も、最高裁の仕事を1日も休む事なくこなしていましたが、病には勝てずこの世を去りました。

ルース・ギンズバーグ氏の死が与える影響

ギンズバーグが亡くなったことで、連邦最高裁判所の勢力図が変わります。

連邦最高裁判所は9名の判事によって構成されています。いずれの判事も時の大統領が直接指名し、議会で承認が得られれば確定する仕組みです。

また、アメリカの最高裁判事に任期はなく、自ら辞任するか、死亡するかのふたつが起きるまでその立場は継続します。ギンズバーグの場合は、死亡したことから、9つある判事の席がひとつ空いた状態になっています。

9つの判事の席は「保守派」と「リベラル派」という、見えないふたつの派閥に分かれています。ギンズバーグが在籍していた時は「5対4」で保守派が多かったものの、ギンズバーグのようなカリスマ的な存在がいたことで、少数のリベラル派であっても影響力を保持できていました。

しかし、そのカリスマが不在になったことで、より一層保守派の色が濃くなると見られているのです。さらに、空席になったギンズバーグの席には、時の大統領であるトランプ氏が指名する判事が就く公算が高く、ほぼ間違いなく「保守派」が就くことになるでしょう。

この結果、9つある最高判事の席は「6対3」で「保守派」が占めることになります。このことは、最高裁で争われる裁判の判決が「保守的な判決」になる可能性が高いことを意味しています。

「保守的な判決」による影響

今後、保守派が優勢となる最高裁では、当然ながら保守的な判決が生まれます。

例えば、長年にわたってアメリカを分断している代表的な問題の「銃規制」については、実現はさらに遠のくでしょう。アメリカでは「保守派=共和党」です。つまり、保守派が多数を占める最高裁は、銃規制に反対している共和党寄りの判決になる訳です。

先述したように、最高裁判事の任期はありません。このことは、最高裁判事の勢力図は現実的に長期間にわたり変化しないことを意味します。つまり、銃規制の問題は勢力図が変わらない限り、進展は見られないということでもあるのです。(あくまでも理屈上の話)

他の例では、妊娠中絶も同様です。妊娠中絶に反対する共和党と、妊娠中絶を認めるべきだと主張する民主党が、妊娠中絶を最高裁で争った場合、最高裁は保守派の判事が多いので、保守的な判決を下すでしょう。つまり、法律上妊娠中絶は許されるべきではないということになるのです。

このように、最高裁で争われるあらゆる問題が保守的な判決、言い換えれば、共和党寄りの判決になる可能性があります。最高裁の判決は州政府や市政府への影響もあることから、結果的にアメリカ国民の生活にも響いてくるでしょう。

アメリカでは最高裁が持つ力は非常に強く、大統領の権限すら制限可能です。銃規制や妊娠中絶をはじめ、同性婚、死刑、宗教、表現の自由、移民、環境規制など、人権や生命に関することの判断を下す存在です。だからこそ、最高裁判事の勢力図は重要な意味を持っています。

とくに「アメリカを分断するような問題」に対する最高裁の判決は、分断をより拡大させる可能性が大きく、アメリカ人は「ギンズバーグの後任選び」に注目しています。

事実、64%のアメリカ人が2020年の大統領選では経済対策と医療問題に次いで「最高裁判事の指名」が重要な要素として回答しています。(Pew Research Center調べ)

絶好のチャンスを得たトランプ大統領

ギンズバーグの死は、トランプ大統領にとって絶好のチャンスです。

ギンズバーグが亡くなる前、トランプ大統領は最高裁判事の候補者リストを作成していました。候補者に挙がっているのは当然ながら保守派が中心で、仮に最高裁判事に欠員が出た場合でも、速やかに保守派の判事を指名する考えを持っていました。(皮肉なことに実際にそうなってしまった)

後任については、大統領による指名が行われた後に議会での承認を得る必要がありますが、議会の上院100議席のうち53議席は共和党が占めているため、実質的には「指名=就任」と言えます。

このことは、トランプ大統領によって「保守色が強い最高裁判事団」を作り出す絶好のチャンスです。しかも、最高裁判事には任期がないため、中長期にわたって共和党寄りの最高裁を作り出せる訳です。

仮に、このようなことが実現した場合、アメリカの共和党支持者らはトランプ大統領の実績として認めざるを得ず、将来的にも有益な「保守的なアメリカ」の基盤を築いた大統領として、トランプ大統領を高く評価することになるでしょう。

新型コロナウイルスの初動対応ミスの責任を追及されて、劣勢だったトランプ大統領ですが、ここに来て思わぬ「逆転劇への素材」を手に入れたことになります。

事実、トランプ大統領は最高裁判事の後任選びを急いでおり、11月に控えている大統領選までに決着をつけたい構えです。また、後任には若い女性判事を選ぶことを公言しており、出来るだけ速やかに手続きを進ませるため、国民受けしやすい人事にすると見られます。

対照的に、民主党のバイデン氏は「最高裁判事の後任は次の大統領が選ぶべきだ」と主張し、議会承認を遅らせることで、後任人事の確定を先延ばしさせたい思いです。また、自身が大統領になれば、リベラル派の判事を指名することを公表しており、いま以上の支持を取り付けたい姿勢を見せています。

アメリカ史のなかで、大統領選直前に最高裁判事指名が起きることは異例です。トランプ大統領にとってはこれ以上ないチャンスであり、民主党のバイデン氏からすれば思わぬ痛手と言わざるを得ないでしょう。

アメリカ大統領の任期は最大で8年のため、トランプ大統領はどんなに長くてもあと4年しか大統領を務められません。しかし、最高裁判事を共和党寄り(保守派)にすることで、大統領職を退いた後でも「共和党寄りのアメリカ」や「保守的なアメリカ」を構築した人物として名を残すことになります。

ひょっとすると、トランプ陣営からすれば大統領選で勝利することよりも、最高裁判事の指名の方が重要になったかもしれないのです。大統領選まであとわずかという段階で、大きな転機を迎えた両陣営は予想外の対応に追われています。

ルース・ギンズバーグ氏が残した名言

最後に、ルース・ギンズバーグ氏が残した名言についてご紹介します。
(*日本語訳は、公務員総研で和訳しました。)

Real change, enduring change, happens one step at a time.
「『少し耳が聞こえないことはときどき助けになります。』このアドバイスは私の役に立っています。結婚生活だけでなく、同僚たちとの人間関係に関してもです。」

Fight for the things that you care about. But do it in a way that will lead others to join you.
「あなたが重要だと思っているもののために闘いなさい。しかし、他の人達があなたに賛成するように闘いなさい。」

I ask no favor for my sex. All I ask of our brethren is that they take their feet off our necks.
「私は女性に親切にしてくださいと言っているわけではないのです。私がお願いしたいのは、足を私たちの首からどけることです。」

So often in life, things that you regard as an impediment turn out to be great, good fortune.
「人生の中では時々、障害だと思っていたことが素晴らしい幸運に変わります。」

Don’t be distracted by emotions like anger, envy, resentment. These just zap energy and waste time.
「怒りや嫉妬、憤りなどの感情によって混乱してはいけません。それらはエネルギーを消耗し、時間を無駄にするだけです。」

My mother told me to be a lady. And for her, that meant be your own person, be independent.
「母は私に『淑女でいなさい』と言いました。彼女にとってそれは自分らしく、自立した人であることを意味しました。」

If you have a caring life partner, you help the other person when that person needs it. I had a life partner who thought my work was as important as his, and I think that made all the difference for me.
「もしあなたに、思いやりのある人生のパートナーがいるのであれば、その人が助けを必要としている時にあなたは手助けをします。私には、私の仕事を彼自身の仕事と同じくらい重要だと思ってくれていた人生のパートナーがいましたが、それが私にとって違いを生んだのだと思います。」

People ask me sometimes… ‘When will there be enough women on the court?’ And my answer is: ‘When there are nine.
「人々は時々私に尋ねます、『いつになったら裁判所に十分な女性(判事)がいると言えますか。』と。そして、私は答えます、『9人(判事全員)いる時』と。」

Feminism [is the] notion that we should each be free to develop our own talents and not be held back by manmade barriers.
「フェミニズムという概念は、私たちは自由に自分自身の才能を伸ばすべきであり、人が作った障壁によって抑えられるべきではない、というものです。」

Women belong in all places where decisions are being made. It shouldn’t be that women are the exception.
「女性は決定が行われるすべての場所にいるべきです。女性が例外であってはなりません。」

Women will have achieved true equality when men share with them the responsibility of bringing up the next generation.
「女性は、男性と次世代の子どもたちを育てる責任を共有するとき、真の平等を手にするのです。」

I don’t say women’s rights—I say the constitutional principle of the equal citizenship stature of men and women.
「私は『女性の権利』を言っているわけではありません。男性と女性の平等な市民権の達成という憲法の原理のことを言っています。」

I would like to be remembered as someone who used whatever talent she had to do her work to the very best of her ability. And to help repair tears in her society, to make things a little better through the use of whatever ability she has.
「私は、最高の仕事をするために、持っていたあらゆる能力を使って社会のほころびを直すのを手助けし、よりよいものをつくった人として記憶に残りたいです。」

Reading is the key that opens doors to many good things in life. Reading shaped my dreams, and more reading helped me make my dreams come true.
「読書は、人生の中でたくさんの良いものへ続くドアを開ける鍵です。読書は私の夢を形成し、さらなる読書は私が夢をかなえるための手助けとなりました。)

I just try to do the good job that I have to the best of my ability and I really don’t think about whether I’m inspirational. I just do the best I can.
「私はただ、能力を最大限発揮し、いい仕事ができるように挑戦するだけです。誰かの心を揺さぶることができるかどうかなどは考えず、私ができる最善を尽くすだけです。」

Dissents speak to a future age. It’s not simply to say, ‘My colleagues are wrong and I would do it this way.’ But the greatest dissents do become court opinions and gradually over time their views become the dominant view.
「異議は将来に向かって唱えるものです。『私の同僚は間違っていて、私ならこの方法でやる。』と単に言うだけではありません。しかし、最も優れた反対意見は法廷の意見となり、徐々にその見解は支配的な見解になります。」

A constitution, as important as it is, will mean nothing unless the people are yearning for liberty and freedom.
「憲法は重要なものですが、人々が権利や自由を望まなければ意味を失います。」

When contemplated in its extreme, almost any power looks dangerous.
「その極端な形を熟考したとき、ほとんどの権力は危険なように見えます。」

▼参考URL:
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-54218139
https://news.yahoo.co.jp/articles/0787e661820a590c220f6ec412adc4def10f2e06
https://www.cosmopolitan.com/jp/trends/politics/g34135638/ruth-bader-ginsburg-powerful-quotes/?slide=1

まとめ

以上、「ルース・ギンズバーグ最高裁判事とはどんな人物だったのか?今後の影響は?」でした。

ルース・ギンズバーグは、アメリカ史に欠かせない女性として今後も影響力を持ち続けるでしょう。しかし、大統領選を目前にして亡くなったいま、ギンズバーグの抜けた穴は非常に大きく、国政にも影響しそうな気配を見せています。

ギンズバーグの功績や素晴らしい思想よりも、大統領選の新たなネタになってしまわないことを願いたいところです。日本人であっても、アメリカ人女性の地位向上や人権問題、そして平等のために戦ったルース・ギンズバーグの名前は覚えておいて良いでしょう。

参考資料サイト

Pew Research Center
https://www.pewresearch.org/politics/2020/08/13/important-issues-in-the-2020-election/

本記事は、2020年10月4日時点調査または公開された情報です。
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