アメリカ司法省とGoogleの対立は何が問題なのか?

2020年10月20日、アメリカ司法省がGoogleを提訴しました。提訴の理由は「反トラスト法(日本で言うところの独占禁止法)」の違反です。

今回は、アメリカ司法省とGoogleの対立とその問題点について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに - Google、「反トラスト法」違反で提訴

2020年10月20日、アメリカ司法省はGoogleを「反トラスト法(日本で言うところの独占禁止法)」の違反で提訴しました。

今日ではインターネットに欠かせない存在になっているGoogleですが、国に訴えられたことで世界中でニュースになっています。日本でも報道されていますが、アメリカ国内では非常に大きな影響を与えることになるとして、大統領選についで連日トップニュース扱いです。

そこで今回は、アメリカ司法省とGoogleの訴訟問題について、具体的にどのようなことが問題視されていて、今後どのような影響が生じるのかなどについて解説します。日本のGoogleユーザーにも影響が及ぶことかもしれませんので、ぜひ参考にしてください。

アメリカ司法省とGoogleの訴訟問題の概要

事の発端は、10月20日に司法省と11州の司法長官らがワシントンD.C.にある連邦地裁に対して「Googleは、検索エンジンやインターネット広告市場において独占的な支配力を使い、競合他社の成長や参入を妨げている」として訴えたことです。

アメリカ司法省が大手IT企業を相手取って訴える大型訴訟は、1998年から2002年まで続いたMicrosoft社の訴訟問題以来初めてで、おおよそ20年ぶりの重大案件として注目されています。

裁判において司法省の訴えが認められれば、Googleは事業分割を迫られる可能性があり、実質的な組織解体にもつながりかねません。また、双方が和解で決着した場合でも、検索機能の修正や広告モデルの見直しなど、ユーザーに対しては「使い勝手」という点において影響が及ぶと見られています。

なかでも、Googleの検索結果に依存しているビジネスや、検索結果に付随するサービス提供者にとっては「Googleありき」の姿が一変する可能性も出てくるため、日本も含めて世界中のインターネット関連事業者が何かしらの影響を受けるかもしれません。

これまでアメリカではインターネット事業全体の成長促進を見据えて、規制を緩くしてきた背景がありますが、ここにきて規制強化へと方向転換する流れになりつつあります。成長著しいアメリカのインターネット市場ですが、この訴訟問題の結果によっては「自由なインターネット市場の終焉」を迎えるかもしれないことから、国民の注目は非常に高まっています。

アメリカ司法省とGoogleの訴訟の背景

今回の訴訟の背景には、2019年6月から始まった大手IT企業への独占禁止法を巡る調査があります。

この調査ではGoogleをはじめ、フェイスブックやアマゾンなど、アメリカを代表する大手IT企業すべてが含まれており、2020年7月には「GAFA」と呼ばれる、Google、Apple、Facebook、AmazonのCEOが司法委員会主催の公聴会に呼ばれ、独占状態にある現状に関する説明を求められていました。

アメリカの独占禁止法である「反トラスト法」は、100年以上前に成立したものが現代でも使われており、大企業に優位な内容です。このことから、時代に沿っていないとして改正が求められています。この一環として、大手IT企業が槍玉に上がっており、まずはGoogleが訴訟対象になったという訳です。


アメリカ司法省とGoogleの訴訟内容の要点

ここではアメリカ司法省がGoogleの何を問題視しているのかを見てみましょう。司法省は今回の訴訟の具体的な指摘を3つ挙げています。

Googleが競合他社の検索サービス初期搭載を禁止した

ひとつめが「Googleはスマホメーカーとの間で、競合他社の検索サービスを初期搭載することを禁止する独占的な契約を結んだ」です。

例えば、ある新しいスマートフォンが開発されて販売段階に漕ぎ着けた時点で、Googleはそのスマホメーカーに対して、インターネット検索についてはGoogleを使うようにし、他社の検索機能は搭載できないように契約したということです。

これにより、多くのユーザーは強制的にGoogleを使わざるを得なくなることから「独占的」と指摘された訳です。

Googleが携帯端末に自社サービス搭載を求めた

ふたつめは「Googleがスマホなどの端末に自社が展開するサービスを初期搭載し、ユーザーの意図で消去できないように設定することを求めた」ということです。

例えば、あるスマートフォンを購入した場合、初期搭載されているインターネットブラウザをGoogleが提供する「Chrome(クローム)」にしたり、地図機能は「Google Map」、動画視聴は「YouTube」にするといったものです。また、これらは標準搭載機能として消去できないようにすることが契約条件とされています。

ごく簡単に言えば、スマホを購入した人が必ずGoogleのサービスを使う仕組みにしているということです。これだと競合他社が入り込む余地がなくなってしまうため「独占的」と判断されました。

GoogleがAppleとインターネットブラウザを巡って長期契約を結んだ

最後が「GoogleはAppleとの間に、自社製のインターネットブラウザを標準搭載する長期契約を結んだ」です。

アメリカでは、AppleのiOSがおおよそ59.71%のシェアを占めています。残りの40%ちかくはGoogleが開発したAndroidであることから、GoogleはAppleの端末で自社サービスを標準搭載できれば、実質的な独占が実現する訳です。

GoogleはAppleに対して年間数十億ドルを支払うことで独占的な立場を得ており、Appleは年間純利益の15-20%をGoogleから得ている計算です。この契約が「独占的」が見なされ、競合他社の締め出しになっているとされています。

司法省は、この他にも「Googleは検索市場を独占支配しているため、インターネット広告料は高止まりしている」や「Googleの反競争的な行為に歯止めをかけて、健全な市場環境を回復すべき」としており、Googleに対して厳しい姿勢を見せています。

アメリカ司法省がGoogleを提訴した事に関する周囲の反応

司法省の発表を受けて、GoogleやIT関連企業は様々な反応を見せています。

Google・ケント・ウォーカーの反応

Googleのケント・ウォーカー上級副社長は「消費者は強制されている訳ではなく、代替案がないからGoogleのサービスを使っている訳でもない」とブログを通じて声明を発表しています。

また、Appleとの間で締結した契約については「Appleのティム・クックCEOが(Googleのサービスを)最良と判断して至ったこと」とし、インターネット検索市場の95%を超えるシェアは独占が理由ではなく、サービスの使い勝手を追求した結果によるものとしたうえで、司法省の判断を否定しています。

今回の訴訟を巡っては「Googleは本来有料のOSをスマホメーカーに無償提供しているからこそ販売価格を抑えられている」と主張し、司法省の判断は今後スマホ価格を向上させる要因となり、消費者の利益にならないとして対立しています。


Google元CEO・エリック・シュミットの反応

Googleの元最高経営責任者であるエリック・シュミット氏は「Google側に違法行為はないと確信している」とコメントしました。

2001年から2011年までCEOを務めた同氏は、今回の訴訟に先立って行われたヨーロッパにおける独占禁止法を巡る訴訟問題を担当しており「一線は超えていない」ことを強調しています。また、「同社の規模やシェアを巡って不満が起きているが、競争の排除とは関係ない」と一蹴しています。

加えて、Googleに対する訴訟はトランプ政権で起きたことから、大手IT企業が政権寄りの情報を検閲していると批判しているトランプ政権が企てたことと批判しました。再選を目指すトランプ大統領が、IT企業に批判的な支持者へのアピールのためにやったことと見ています。

IBM・アービンド・クリシュナの反応

IBMのアービンド・クリシュナCEOは今回の訴訟に対して「競争を初期化できることは良いことだと」とコメントし、司法省寄りの姿勢です。また、「厳密な規制は常に良いことだ」ともしており、インターネット市場の転換期ともされる今回の事態を見ています。

IBMは1969年から10年近くにわたって大型コンピューター市場の独占を巡って司法省と闘ってきた歴史があるため、今回の司法省の決定は自然なことと判断しているようです。

アメリカ司法省がGoogleを提訴したことに関する今後の影響

今回の訴訟を巡っては様々な影響が予想されていますが、IT業界への影響はごく僅かと見るものが大半のようです。

そもそも、独占禁止法を巡るアメリカの歴史を振り返ると「企業側に有利な判決」で決着していることがほとんどです。

例えば、1980年代のIBMについては司法省が訴訟を取り下げて決着し、2000年代にはMicrosoftがおおむね勝利する形で決着しています。事業分割や事業解体、規制強化を目指す司法省の目論見には非常に高いハードルがあり、世間に対する混乱も無視できないため、容易ではありません。

ロイター通信の記者Raphael Satter氏の紹介によると、今回の一件はGoogleにとってほとんど影響がないほどに些細なことであり、どの分野のサービスでも地位が揺らぐことはないとあります。

また、同じ記事内で有識者の声として「(司法省がGoogleを)解体しようとする問題がどこにあるのか?全部無料で使えるのに」とも紹介していることから、訴訟自体に懐疑的な声もあります。

このような傾向から、私たちエンドユーザーが実感するような影響は限定的と見られています。一方で、Googleを皮切りにしてアマゾンやフェイスブック、アップルなどを対象にした訴訟が続く懸念もあることから、これらのサービスを通じた影響も拭いきれません。

今回の訴訟は数年から数十年単位の法廷闘争になると見られていますが、仮に司法省有利の流れになると、インターネット検索環境の変化(有料化など)をはじめ、スマホの価格上昇、インターネット広告の品質低下、Googleのサービスに依存する企業の事業転換などの影響が生じる可能性があります。

まとめ

以上、「アメリカ司法省とGoogleの対立は何が問題なのか?」でした。

今回の司法省によるGoogleに対する訴訟は、Googleの解体や分割を視野に入れているものとされていますが、これらの手段は現実的とは言えず、最終的には何かしらの「規制強化」で決着すると見られます。

2000年以降、インターネットの急激な拡大や成長を後押ししてきたアメリカ政府ですが、ついに規制強化に踏み出したことになります。これにより、IT市場への風当たりが強くなって、これまでのようにベンチャー企業や革新的なサービスが生まれにくくなる可能性もあります。

今回の一件は、中長期的な法廷闘争になると見られますが、この動向からは目が離せません。

参考資料サイト

statcounter|Mobile Operating System Market Share in United States Of America – September 2020
https://gs.statcounter.com/os-market-share/mobile/united-states-of-america

REUTERS|Analysis: What monopoly case? DOJ lawsuit unlikely to knock Google from pole position
(https://www.reuters.com/article/us-tech-antitrust-google-consumers-analy/analysis-what-monopoly-case-doj-lawsuit-unlikely-to-knock-google-from-pole-position-idUSKBN27529N)

本記事は、2020年10月27日時点調査または公開された情報です。
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