住民と行政を繋ぐ、地域を見守る大切な仕事「民生委員」とは?

「民生委員」という言葉を聞いたことがある方は意外と少ないかもしれません。私たちが普通に生活している中で、実は知らない内に「民生委員」のお世話になっている事がある場合もあります。今回は、「民生委員」のお仕事について解説します。


日本の市町村の区域に配置されている民間の奉仕者である「民生委員」。「非常勤の特別職の地方公務員」(都道府県)として定義される立派な公務員です。

給料は支給されません。(※交通費などの活動費は支給される場合があります。)

それでは、無給で働く公務員「民生委員」について、仕事内容やなる方法について解説していきます。

民生委員は今年で100周年

始まりは大正6年から

民生委員制度が誕生したのは、大正6年に岡山県で初めて創設された「済世顧問制度」が初めてと言われています。当事の岡山県だった知事笠井信一氏が、岡山県内の貧困者の現状を見て、地域の貧困者の相談に乗れる防貧制度として創立しました。この時の、貧困者の相談員が民生委員の先駆けと言われています。

大正6年のこの制度から、今年で民生委員は100周年を迎えます。

住民を見守る、民生委員のお仕事を見てみよう

住民の生活状況を把握しておく

民生委員は、市町村の区域内で自分の担当を持ち、職務に当たります。また、活動内容は民生委員法にのっとって行われています。

民生委員の主な仕事が、担当する区域内に住む住民の生活状況を把握しておく事です。特に、一人暮らしの高齢者のいる家庭や、小さい子供のいる家庭、シングルマザーの家庭や介護が必要な方のいる家庭など、何らかのサポートが必要になる可能性のある世帯については、必要に応じて世帯員の状況を把握しておきます。

困っている高齢者や障碍者のサポートをする

担当の区域内で、サポートを必要としている高齢者や障碍者がいれば、それを行います。

生活の中で、困っている事がある場合には色々な相談機関がありますが、主に福祉に関する事で困っている事がある場合には、民生委員に相談する事ができます。そして、民生委員は、住民から受けた相談を踏まえて、行政や専門機関との調整を行うなど、住民が福祉サービスを受けられるためのサポートも行います。

例えば一人暮らしの高齢者の方が、足腰が弱い為に買い物ができない場合には、買い物タクシーなどの福祉事業の紹介をする、買い物タクシーの事業主と連絡を取って利用に向けて調整を行う、介護保険について相談の電話があり、直接訪問して相談を受け、地域包括支援センターに相談内容を連絡するなどです。障碍者の方からは、外出で困ってる為、外出支援をしている団体などはあるかの相談を受け、地域のボランティアグループを紹介する、などです。

主に、困っている高齢者や障害者の方が、自分の持っている力で自立した生活を送る為に、福祉的なお手伝いをしているのが民生委員です。特に困っている事はない時でも、一人暮らしの高齢者や障害者の方の世帯には、こまめな見回りや声かけも行っています。これにより、困窮した状況になる事や孤独死なども防ぐ事ができます。


生活に困窮している世帯へのサポート

生活に困窮している世帯からの相談に乗る、場合によっては行政に連絡し、生活保護などの必要な手段がある事を紹介し、調整を行うのも民生委員の仕事です。

逆に、生活保護の不正受給をしている世帯がないかなども見守っています。生活保護の不正受給をしていると思しき世帯がある時の、住民からの通報先にも民生委員はなります。

女性の駆け込み先としての役割も

特に女性の民生委員が行う役割の一つに、婦人相談所や婦人相談員と協力する職務があります。

婦人相談所とは、働き先で売春を強要されている、レイプ被害にあったなどの性被害にあった女性の相談所としての機能を持っています。他にも、配偶者やパートナーからのDVに悩んでいる女性からの相談も受け付けています。

女性のデリケートな悩みは、被害者が声を上げなければ表に出にくくなっています。民生委員はこのような女性のデリケートな悩みでも安心して相談できる場所としても機能しています。そして、問題解決のために婦人相談所・婦人相談員と協力する事もあります。

民生委員の児童委員も兼ねた活動

地域の子育て支援を行う

民生委員は、民生委員法にのっとり、児童委員も兼ねています。その為、児童福祉に関する支援も行っています。

地域で開催している子育てサロンや、イベントなどの企画や運営を行っているのも民生委員です。イベントの為の出し物を他の民生委員やボランティアと調整する、そのための準備、公民館など開催場所の確保も行います。イベントの為の掲示物の作成や掲示も行います。

地域の小学校の入学式や運動会に参加し、担当する地域の子供たちの様子を見る事も多いです。

地域の子供のいる世帯への見守り活動

自分の担当する地域に、小さいお子さんのいる方がいる場合には、その過程の見守りも行います。乳幼児のいる世帯が、新しく担当区域内に引っ越してきた場合には、子育て支援センターや児童館、子育てサロンや育児サークルの紹介をするなどです。

もしも、住んでいる地域で虐待が疑われる過程がある時には、地域の担当課に連絡をするなどします。虐待が疑われる家庭がある時には、児童相談所への通報を行いますが、通報者がばれるのが嫌などの理由で通報ができない時には、民生委員に相談を行う事もできます。

また、子育てを行っている世帯への見守りや声かけも行っています。虐待の早期発見や防止を行う他にも、不登校やいじめを学校で受けているお子さんのいる家庭の相談に乗る、行政の専門機関との連携を取るなどの対応も行っています。

研修会に参加する

民生委員・児童委員の研修会が催される事があります。近隣の他市町村の民生委員と一緒に研修を行い、良い勉強になる他民生委員同士の交流の場ともなり、他の市町村の民生委員の活動内容や取り組みは、良い刺激にもなります。

研修で行われた内容は、今後の民生委員の活動に生かされます。

実は公務員、民生委員になるには?

地域からの推薦を受ける

民生委員のなる為には、市町村からの推薦を受ける必要があります。

日本国籍を有する成人の方で、担当する地域に関する知識が深く、福祉活動やボランティア活動に理解と協力ある方、そして熱意を持って活動を行える方が、市町村に設置された民生委員推薦会からの推薦を受けて、厚生労働大臣から異嘱されます。


公務員は、職務が民生委員の活動内容と重複する事が多いなどの理由から、公務員と民生委員の兼務は適当でないとされています。やむを得ず公務員が民生委員を兼務する時には、民生委員として活動する時間を十分に確保できるかの確認と、任命権者の承諾書の提出が求められます。

実は非常勤の公務員

民生委員(及び児童委員)の任期は三年となっています。改選日は12月1日と定められています。

民生委員法第10条にのっとり、あくまで福祉活動の一環の為、無給つまりボランティアで活動しますが、非常勤の地方公務員という位置づけです。

無給ですが、自治体から民生委員一人当たりに活動費が支給されています。これは、交通費や通信費、活動に必要な経費もこれから出ています。自治体によって支給される活動費は異なりますが、民生委員の仕事内容を見ると、必ずしも活動費で賄えるとは言い難くなっています。その為、民生委員を行う人は、無給という事もあり、ある程度生活に余裕のある方がやらざるを得ない現状があります。

民生委員の組織図を見てみよう

民生委員が組織している「民生委員協議会」があります。担当している区域内の民生委員が属しており、以下の事を行っています。
・担当している区域内での活動を決める
・民生委員同士の連携や連絡を行う
・民生委員の活動に必要な福祉関連の事業所や自治体の福祉関連機関との調整や連絡を行う
・民生委員として必要な技術や知識を習得するために、研修会などを行う
・活動に必要な情報や資料を集める
・民生委員として必要な意見を、関係する各庁に申し出る
…など

今後、民生委員に期待される事とは

高齢者の生活状況の把握

日本全国で、高齢者の所在不明問題が浮き彫りになり、各自治体で調査を行ったところ、所在不明になっている高齢者は数多くいる事が分かりました。

高齢者の所在不明は、該当する本人が独居老人だったため、死亡している所を誰にも発見されずにいた事や、既に死亡している高齢者の死亡届を出さず、遺族が年金の不正受給をしていたなどが問題になっています。

民生委員が地域を繋ぐ活動を行い、担当区域内の独居を含む高齢者の生活状況を正しく把握しておけば、高齢者の所在不明問題を防ぐ事ができます。

地域ぐるみでの子育て支援

核家族化が進み、一人で子育てを行う母親も多くなりました。

少子高齢化社会の裏側には、出生率の低下がありますが、一人で子育てをすることの難しさも、その要因の一つです。子供が泣く声が抑えられず近所から苦情が来る、子育てを一人で行う事によって母親が閉鎖感を感じ、育児ノイローゼや鬱になってしまう、その結果虐待に走ってしまう事も少なくありません。

今は、民生委員を通じ地域皆で子育てをしようと色々な取り組みを行っている自治体も多くなりました。子育てに関する悩みがあれば、一人で抱えずに安心して気軽に話せる場所として、民生委員だけでなく、民生委員が子育てサロンを主催するなど、子育てがしやすい環境づくりが行われています。

子供を地域で育てる事によって、虐待の兆候の発見にも繋がるだけでなく、子供たちが元気で過ごせる地域づくりにも役立ちます。

どんな人が民生委員に向いている?

公正な考え方ができる人

民生委員は、担当区域内の住民と福祉関連の連携を図る事が主な職務です。色々な状況に困っている住民から相談を受けて、問題解決のためのサポートを行います。

その際に、個人的な感情を一方に向けてしまうのは大変危険です。特に、地域住民でもある民生委員は、どうしても個人的な感情で行動を行ってしまいがちですが、民生委員の活動は無給と言えど公務です。困っている住民に対して、自分の感情は抜いた公正な対応をしなければいけません。

人や地域が好きな人、それに対して行動力がある人

地域住民から気軽に相談できる、人当たりの良い人が民生委員に向いています。児童委員も兼ねているので、子供が好きな方も向いています。そして、担当する地域の住民が安心して生活できるように活動する為、その地域に対する知識だけでなく、地域を愛する心も必要となります。

また、相談されるのを受け身で待つのではなく、自ら声かけや見守りを行うなど、行動力の高さも必要になります。

決まり事を守れる人

民生委員は、その活動内容から住民の個人的な事に関する情報も入手しやすくなっています。場合によっては、自治体の役所に、個人情報の開示を求める事もあります。

民生委員には、守秘義務がありますので、個人に関する事は一切口外してはいけません。

民生委員の守秘義務を始めとした決まり事は、もしも破ってしまっても刑事罰にはなりません。けれども、決まり事を守って活動を行える事が求められています。


民生委員のやりがい、そして問題点とは?

人々の笑顔が、何よりのやりがい

民生委員は無給での活動です。その為、報酬面でのやりがいは感じませんが、お金では測れないやりがいもたくさんあります。

困っている住民の問題を解決し、感謝された時には嬉しく、一番のやりがいを感じる民生委員が多くなっています。

また、担当区域内で、子供たちが元気に遊び過ごしている姿を見る事も、やりがいを感じる人が多いです。

民生委員の不足

民生委員は無給であることに加えて、活動すべき仕事の量や時間も多くなっています。その為、普段仕事をしている人や、子育てをしている人は兼務が難しい為、各自治体では民生委員の不足が叫ばれています。

民生委員が不足する事により、地域の隠された困りごとが発見し辛くなる、地域社会の治安が悪化するなどのデメリットがあります。

兼務しやすいような配慮や、高齢者みずからが民生委員となり、定年退職後のやりがいとして活動する、子育てをしながらでも地域社会に参加できる機会として活用するなど、今後民生委員不足を解消するための取り組みが行われる事が望まれています。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2017年7月17日時点調査または公開された情報です。
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