ウクライナ侵攻を巡るアメリカの対応を振り返る(2022年4月)

2022年2月24日、ロシアはウクライナに対して武力侵攻を始めましたが、1か月以上が経過したいまも停戦の様相を見せていません。

アメリカはロシアに対していち早く経済制裁を加えましたが、ロシアの行動抑止には繋がっておらず、世界に対してアメリカの立場が弱まっている印象を与えています。

ウクライナ侵攻が始まってから1か月、アメリカが何をして、アメリカ国内ではどのような影響が起きているかをまとめました。


厳しい経済制裁を連発

アメリカはロシアに対して以下のような厳しい経済制裁を発動しています。

  • 国際的な決済ネットワークSWIFTからロシアの銀行を除外
  • ロシア中央銀行の資産凍結
  • ドル建て取引の禁止
  • 半導体などのハイテク製品の輸出禁止
  • 原油、天然ガス、石炭などのエネルギー関連の輸入禁止
  • 最恵国待遇の取り消し発表(関税の優遇を停止)
  • 親プーチン派のロシア人富裕層の資産凍結、高級品の輸出禁止など

このように、アメリカはロシアに対して前例のない厳しい経済制裁を課しており、同盟国である日本も追随する形で経済制裁を発動しています。

また、アメリカ資本の民間企業も自発的な経済制裁に加わっており、クレジットカードの利用、暗号通貨取引の停止、ロシア国内の飲食料品店撤退などが続いていることから、アメリカが主体になって厳しい経済制裁に出たと言えるでしょう。

なかでも「ロシア中央銀行の資産凍結」は非常に厳しい措置となっており、ロシア中央銀行が米ドルやユーロを売ってルーブルを買う「外貨売り」を制限しているため、ロシアは急遽、政策金利を9.5%から20%に引き上げる事態になりました。これにより、ロシアのインフレが加速し、ルーブル危機が起こる可能性があります。

プーチン大統領は、大統領に就任した2000年以降、ロシアのインフレ抑制に成功しているだけに、今回の経済制裁を受けて、インフレを抑えられるかが問われています。インフレはロシア国民の生活に直結する問題なので、プーチン大統領の支持率にも関わる問題です。

そして、経済制裁の中でも大きな一手とされているのが「最恵国待遇の取り消し」です。最恵国待遇とは、世界貿易機関(WTO)の基本原則のひとつで、関税などで最も有利な待遇を他の加盟国にも適用させるというルールです。

実行するためには議会での承認が必要ですが、仮に承認された場合、アメリカはロシアに対して高い関税をかけたり、一方的な制裁関税をかけることも可能になります。ロシアとの貿易は北朝鮮やキューバといった国と同様の扱いになり、30%を超えるような高い関税を払う必要が生じるかもしれません。

さらに、アメリカ議会ではロシアをWTO自体から排除すべきという声もあがっていることから、アメリカが主体になってロシアを国際社会から孤立させる動きが進んでいます。

全米のガソリン代が高騰中

一方、経済制裁の跳ね返りとも言える影響も出始めています。

アメリカは日本や欧米諸国と比べてエネルギー資源自給率が高いため、ロシアから原油や天然ガスといったエネルギー資源を輸入しなくとも支障が少ないとされていますが、ウクライナ侵攻が始まって以降、アメリカ全土で急激なガソリン価格高騰が続いています。(多くのエリアで昨年比の倍になった)

アメリカのエネルギー関連の情報を取りまとめているEIA(Energy Information Administration)によると、アメリカ全体のガソリン代平均価格が、2022年2月時点で3.611ドルだったものが1か月後に4.322ドルにまで跳ね上がっていることが分かります。


アメリカの中で物価が高いことで知られているカリフォルニア州では1ガロンあたり6ドル近くまで高騰しています。また、ガソリン代高騰の影響を受けて、食料品などの物価も上がっており、日々の生活で影響を実感するようになりました。

主体的かつ迅速な経済制裁発動を評価される一方で、ロシア問題への関与に否定的なアメリカ国民に影響が及んでいることから、バイデン大統領は苦しい立場にあることは違いありません。

自身の発言を釈明

3月27日、ポーランドの首都ワルシャワを訪れていたバイデン大統領は、現地での演説の中で「この男(プーチン大統領)が権力の座にいてはならない」と発言しました。この発言はロシアに対して体制転換を求めるようなものとして問題視され、バイデン大統領をはじめホワイトハウスは火消しに追われる事態になっています。

そもそも体制変換を求めるような発言は、強権主義の政権を批判かつ刺激するものとして捉えられてしまうため、アメリカとロシアの関係性をより悪くしかねません。また、演説の原稿になかった「アドリブ」であったことから、バイデン大統領の失言として世界中で問題になってしまいました。

フランスのマクロン大統領はこの発言に対し「言動をエスカレートさせるべきでない」と苦言を呈し、ロシアの大統領補佐官は「権力の座にいるかどうかはバイデン氏が決めることではない」と反論されています。

アメリカ国内ではこの発言を巡って火消しが続いていますが、バイデン大統領は記者からの質問に対して「体制変換を求めたのではない」と回答し、ブリンケン国務長官も「プーチン大統領が戦争や侵略を仕掛ける権利はないと主張しただけ」と釈明しました。

バイデン大統領は、副大統領時代の2014年2月にウクライナで起きた「マイダン革命(親ロシア派と親欧米派が衝突した後、親欧米政権が誕生した)」を巡り、水面下で親欧米派と接触していたため、このことがプーチン大統領の怒りを買ったとされています。プーチン大統領からしてみれば、バイデン大統領の言動は長年にわたって「気に障る」ものなのです。

バイデン大統領の失言癖はよく知られていますが、緊迫する状況の中で水を差すようなものだったことから落胆するアメリカ人は多かったようです。

対中関係の軟化

3月24日、アメリカは中国に対してかけていた制裁関税の一部を撤廃しました。

これは、トランプ政権時代に実施された中国からの輸入品にかけられていた関税を除外するもので、アメリカと中国の緊張状態を和らげることにつながるとされています。今回の緩和では、中国からアメリカに輸入されている家電製品や魚介類といった、日常生活に身近な物352品目が選ばれました。

アメリカとしてはウクライナ侵攻を受けてロシアと中国の結束が強まることは避けたい思惑があります。そのためには、ロシアに対する態度を明確にしていない中国に歩み寄ることで、ロシアと中国が結束しないようにしていると見られています。

一方で、中国政府関係者による新疆ウイグル自治区弾圧に関して、政策担当者や当局者のビザ発給を制限する措置をとっており、中国と緊張状態が続いていることも事実です。アメリカとしては、ロシアと中国の関係に睨みを利かせつつ、長く関心を集めている新疆ウイグル自治区問題への対応に迫られています。

アメリカでは2022年11月に中間選挙が控えています。バイデン大統領としては下落一方の支持率を何とか回復させて民主党政権を安定させたいところでしょう。コロナ騒動が落ち着き始めた矢先に起きたロシア問題は、バイデン政権にとって最大の試練になると見られています。

まとめ

アメリカはロシアに対して厳しい経済制裁を主体的な立場で実行しています。一方で、肝心な場面で大統領の失言癖が出てしまったり、インフレ加速といった国内への影響が生じていることから、バイデン大統領は苦しい状態が続くと見られます。

アメリカによるさらなる経済制裁、対中関係を巡る動向、そしてロシアとNATO加盟国の関係に注目しておきましょう。


本記事は、2022年4月11日時点調査または公開された情報です。
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