在米日本人レポート

アメリカ2022年中間選挙の注目点や中間選挙の基本をおさらい(2022年6月)

次回のアメリカの中間選挙は2022年11月8日(火曜日)に実施されます。(日本時間9日)

中間選挙は、国民による現政権に対する「信任投票」のような意味合いがあります。中間選挙の結果によっては、バイデン政権の残り2年間や、さらにその先の2024年大統領選挙にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、日本にしてみても非常に関心が高いイベントと言えるでしょう。

今回は、アメリカの中間選挙の仕組みや、2022年中間選挙の注目点などについて、現地の報道の傾向を交えてご紹介します。


アメリカの中間選挙とは?

アメリカの中間選挙とは「上院議員の3分の1(補欠含む37名)、下院議員の全議席(435名)を改選する」ものです。

1845年以降、中間選挙は4年に一度実施し、そのタイミングは大統領選の中間の年と定められています。2022年を例にすると、前回の大統領選は2020年11月で、次回の大統領選は2024年11月ですから、その中間にあたる2022年11月となる訳です。

中間選挙の結果によって大統領や副大統領が変わることはありません。あくまでも、上下両院の議員が大幅に入れ替わるだけです。しかし、入れ替わる内容によっては、大統領は残りの任期における政権運営が大変になる場合もあります。この結果、次回の大統領選に悪影響を及ぼすかもしれません。

バイデン政権を例にしてみると、バイデン政権は上下両院で「民主党が多数派」を占めています。バイデン大統領自身も民主党なので、大統領、上院、下院の3つすべてが民主党で揃う「トリプルブルー」と呼ばれる状態です。(民主党のカラーがブルーのため)

上下両院で民主党が多数派ということは、予算案や法案、人事承認などが円滑に進みやすくなります。つまり、国民に向けて成果をアピールしやすくなり、次回の大統領選で優位になる訳です。

一方で、上院と下院で多数派党が異なる「ねじれ」が生じると、必然的に意見の対立が生まれ、予算案や法案などが可決されにくい事態に陥ります。円滑に進まない政権運営が続くと、次回の大統領選に悪影響を及ぼす可能性があります。

1994年以降に実施された中間選挙の結果を見ると、2002年を除くすべてで「与党が議席を減らす」結果になっています。どの年も「現政権に対する国民の不満」を受ける結果になっていることから、中間選挙は「信任投票」と呼ばれるようになったのです。

ちなみに、11月の中間選挙本番に先駆けて、テキサス州やペンシルベニア州などの複数の州で、候補者を選定するための「予備選挙」がすでにスタートしています。

2020年の大統領選で激戦州として注目されたペンシルベニア州では、トランプ氏が支持するマストリアーノ氏が州知事に当選、ケンタッキー州でもトランプ氏が支持する候補者が上下両院で当選しています。

アメリカでは11月の本番に向けて早くも選挙関連の報道が始まっていますが、民主党政権下にあるアメリカでは、共和党関連の報道(とくにトランプ氏をめぐるもの)は極端に少ないようです。

民主党・共和党それぞれの中間選挙のポイント

バイデン大統領に限らず、上下両院で同じ政党が多数派を占めることは、その時の大統領にとって順風な政権運営に不可欠な状態と言えます。そんな不可欠な状態が継続するか否かが判明するのが中間選挙です。


民主党のバイデン大統領は、中間選挙を民主党優勢のまま終えて、2024年の大統領選に自身が再び立候補する可能性を示唆しています。(2020年の大統領選では1期のみとしていた)したがって、民主党にとって2022年の中間選挙の結果は、上下両院の勢力図だけでなく「バイデン続投の可能性」を占う意味でも非常に重要なポイントと言えるでしょう。

民主党を支持している人からすれば、なんとかして民主党政権が多数派を占め続けてほしいところです。その理由として挙げられる大きな要因は「トランプ氏が返り咲くことを阻止したい」という一点にあります。

事実、民主党寄りのメディアであるCNNの世論調査結果として、45%がバイデン大統領の再出馬を期待するとした一方、「51%がバイデン以外の候補者を望む」と回答したと紹介しています。筆者の周囲でも「トランプ以外なら誰でもいい」という声はよく耳にします。言い換えれば「大統領はバイデンでも誰でもよく、トランプでなければいい」という国民感情の現れと言えるでしょう。

一方で、政権奪取を狙う共和党としては、トランプ氏または別の候補者が2024年の大統領選で勝てるように下準備しておきたいところです。共和党は現在までのところ、有力な大統領候補者を選定できておらず、カリスマ性を持ったトランプ氏に頼らざるを得ない状況と見られています。

共和党寄りメディア以外でほとんど報じられることはありませんが、トランプ氏は全国各地で集会を実施しており、その都度「中間選挙で勝利し、共和党が政権を奪取しよう」と呼び掛けています。「トランプ頼み」の共和党としては、中間選挙で逆転を狙いたいところですが、党内にも反トランプ派が多く、一枚岩になれていないのも事実です。

このように、民主党としては中間選挙で勝利して盤石な政権運営を続け、2024年以降も政権を握りたい思惑です。共和党としては、中間選挙で多数派になりたいものの、嫌われ者のトランプに頼らざるを得ないジレンマを抱えています。

中間選挙に影響を与える注目点

次に、2022年の中間選挙で注目すべき点を見てみましょう。民主党も共和党も中間選挙での勝利を意識して、以下5点について対策を強めると見られています。また、国民の関心が高いポイントでもあります。

注目点1:民主党が多数派を維持できるか?

最も注目すべき点が「民主党が多数派を維持できるか?」です。先述したように、中間選挙は「上下両院の議席を改選するもの」です。

民主党が現状通りに多数派を維持できれば、バイデン政権の安定化と、2024年の大統領選勝利が一歩近づくでしょう。多くのアメリカ人が望む「トランプ以外なら誰でもいい」という国民の期待に応えることになります。

対照的に、上下両院で過半数を下回るような結果になった場合、就任以降最低の支持率が続いているバイデン政権の終焉が現実的になります。後述する、インフレやロシア問題といった様々な課題の対応に迫られるなか、円滑な政権運営ができなくなる可能性があるためです。

現状維持、議席減、過半数割れ、ねじれなど、選挙後にどのような構図になるかがポイントです。

注目点2:インフレ対策

2022年の中間選挙で中心的な話題になるとされるのが、40年振りの高水準を記録した「インフレ対策」です。

コロナ騒動によって始まった高インフレにウクライナ情勢が追い打ちかけ、アメリカ国内の物価は急激に上昇しました。多くの国民の生活にとって不可欠なガソリン代は2倍になり、食料品も値上がりまたは品薄状態が続いています。(なかでも離乳食は危機的状況にある)

2022年6月時点、バイデン政権は急激なインフレを抑制するような政策を打ち立てておらず、FRBによる金利政策頼みという状況になっています。FRBは0.5%だった金利を、2022年末までに3.4%まで段階的に引き上げることを決定しましたが、中間選挙直前までに沈静化するかどうかは不透明です。

バイデン大統領はエネルギー価格高騰を受けて大手石油会社を批判したり、対策の必要性を訴えていますが、国民の負担増は変わっていません。この点は共和党から厳しく追及されることは明白です。同時に、共和党の対策案にも注目したいところです。


注目点3:銃規制

2022年の中間選挙では「銃規制」も注目ポイントになりそうです。

2022年5月、テキサス州で発生した小学校銃乱射事件を受けて、再び銃規制の話題が取り上げられました。バイデン大統領は規制を強化すると豪語したものの、殺傷能力が高い銃を規制したり、購入手続きの厳格化に踏み切っただけに終わっています。

2017年10月にラスベガスで起きた銃乱射事件(58名が死亡)後もそうであったように、(誰が大統領であれ)結局は根本的な銃規制には至らず、ごく一部の規制を強化しただけの結果に終わっています。

中間選挙においては、銃規制に積極的なはずのバイデン大統領の「言っていることと、やっていることの違い」をどう評価されるかが見ものです。また、多くのメディアが中間選挙に影響しないようにか、早々と銃規制の話題を報じなくなったことも忘れてはいけません。

注目点4:ウクライナ情勢やロシア問題

ロシアをめぐるアメリカの対応も中間選挙の注目点です。

ロシアがウクライナに侵攻して以来、バイデン大統領は徹底して主体的な関与を避けています。厳しい経済制裁や武器提供、資金援助を続けているものの、軍事介入や代理交渉は避けているようです。

この点について、共和党寄りの人たちからは「弱腰のアメリカ」という印象を持たれており、中国に対しても弱みを見せていると言われています。事実、2022年5月にペンシルベニア州で開催された政治集会において、トランプ元大統領は「(バイデンは)どう対処すればいいか分かっていない。私が在任中なら100%起きなかったことだ」と述べ、自身の対ロ強硬姿勢を強調しました。

国民が、ロシアや中国などに対して「弱いアメリカ」を受け入れるかどうか、中間選挙で一定の判断が下されるでしょう。

注目点5:中絶制限

「中絶制限」は中間選挙前に大きな動きを迎えることから要注目ポイントです。

2022年5月、アメリカ最高裁から「中絶制限を認める」内容が書かれたメモが流出しました。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

あわせて読みたい

【詳細】何が起きた? 事の発端は、2022年5月3日(現地時間2日)に、アメリカの政治専門サイト「Politico」において、最高裁で使用されたと思われる内部文書が紹介されたことに始まります。 その文章の内容は「中絶制限を認め[…]

1973年以降、アメリカでは「中絶は女性の権利」として認められてきました。しかし、この情報流出をきっかけにして「最高裁がこれまでの通例を覆すかもしれない」ことが判明したのです。

最高裁は、最終的な判決を中間選挙目前の2022年夏頃に出すとしていることから、判決の内容次第では、中絶の是非をめぐって国民の対立が激化する可能性があります。

バイデン大統領はこれまで通り中絶は女性の権利として認める考えを示していますが、最高裁の判断によっては悪影響を受けるかもしれません。ましてや、判決は中間選挙目前です。

まとめ

アメリカの中間選挙は「上下両院の改選」が目的である一方、現政権への信任投票のような役割や、次の大統領選の行方を左右する大きなイベントです。

歴史的なインフレ、ロシア問題、さらには国を分断する銃規制や中絶問題など、様々な課題を抱えた状態で迎える中間選挙がどのような結果になるのか注目です。2022年の中間選挙は、アメリカ時間の11月8日(火曜日)です。

本記事は、2022年6月21日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

気に入ったら是非フォローお願いします!
NO IMAGE

第一回 公務員川柳 2019

公務員総研が主催の、日本で働く「公務員」をテーマにした「川柳」を募集し、世に発信する企画です。

CTR IMG