イギリスの社会状況2022

イギリスのインフレが止まらない(2022年6月情報)

イギリス在住の日本人による、イギリスや日本に関する記事レポートです。今回は「イギリスのインフレが急速に上昇したことにより市民の暮らしを直撃している」件についてまとめました。


 はじめに

イギリスのインフレ率が1年で9.1%まで上昇しました。このような急速な上昇は、1982年にフォークランド紛争(*1)が勃発した1982年以来、40年ぶりで、イギリス人の生活に大打撃を与えています。

(*1)フォークランド紛争:1982年3月からイギリスとアルゼンチンの間でイギリス領のサウスジョージア島の領土問題を巡り、3ヶ月間に渡って軍事行動が行われた紛争のこと。

急上昇するインフレ率 1年間で約9%の上昇率

2021年4月から2022年5月までの1年間で9.1%のインフレ上昇率を記録しました。銀行筋では今年中には11%まで上昇するのではないかと予測されています。

燃料やエネルギーの上昇が牽引していると言われていたものの、市民に直結する食品の値上がりが、インフレ率を押し上げているという見方が強くなっています。

インフレ率に対応して、賃金率が上昇すれば、値上げ負担を吸収することが出来ますが、今年の賃金上昇率は2%~3%と上げとどまっており、インフレ率を大きく下回ったことで、生活がひっ迫すると大きな問題になっています。

鉄道・海運・運輸労働者組合は、従業員の削減および、7%の賃上げ要求に対して、3%の賃上げ率に不満を示し、2022年6月22日ストライキに突入しました。60%の交通機関の運転が停止され、交通機関を利用している多くの人々の足に影響が出たことは言うまでもありません。政府は今後このような大規模なストライキを阻止するために、交通機関のストライキに関しては法律規制を設けるべきだという議論にも発展しました。

教育現場でも、コロナによって負担が増した教職員組合は、3%の賃上げ以外に教師の数を増員するべきだという交渉を提案していますが、これも暗礁に乗り上げています。

各食料品の値上げ率のご紹介

  • パスタ/クスクス:16.1%
  • バター:13.1%
  • 卵:12.6%
  • ピザ/キッシュ:12.3%
  • 肉:9.9%
  • ポテトチップス:8.6%
  • パン:8.6%
  • 魚:6.9%
  • ジャガイモ:5.1%
  • チーズ:5%
  • 米:3.9%
  • チョコレート:3.9%

食料品全体の上昇率は8.5%ですが、年内には15%まで上昇すると予測されています。

ロシア・ウクライナ戦争の影響

2022年2月24日のロシア・ウクライナ戦争による影響も大きく響いています。ウクライナは『ヨーロッパのパンかご』と呼ばれる程、ヨーロッパのウクライナ産小麦の依存度は高く、イギリスもそれに漏れません。そのため戦争による供給の停止により、小麦製品および飼料の値上がりがインフレ率に大きく起因したと言われています。

また、昨年の4月からガス料金は53.5%、電気料金は95.5%値上がりしています。ガソリンにいたっては、昨年5月に1.60ポンド/リットル(約267円 1ポンド=167円)が今年6月には1.87ポンド/リットル(約312円)と1年間で1.31ポンド/リットル値上がりしました。値上がり幅は過去最高となりました。ちなみに、イギリスは、2030年までにガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止する法律を可決しています。

イギリスは島国のため、多くの輸入商品の空路変更による燃料およびガソリンの値段の上昇にともなうコストの増加は、インフレ率底上げの原因になっていると言えます。


今後冬にかけて、ロシアはヨーロッパに提供をしている天然ガスのパイプラインを停止するかもしれないと表明していることから、今後更なる値上がり、または、ガスが停止されるかもしれないという問題が、イギリス国民に更なる不安を与えています。

コロナ禍とEU離脱による労働力不足

コロナによるパンディミックとEU離脱による出稼ぎ労働者の締め出しにより、賃金の値上げによる労働者確保も大きなコスト拡大を招くことになりました。最低賃金料金も4月1日から6.6%上昇し、時間当たり9.50ポンド(約1587円)まで押し上げられました。

2022年6月18日には労働者不足により飛行機に荷物が積み込めず、10%の飛行機欠航を要請するような事態が発生したのです。

イギリス政府の対策

急上昇するインフレ率を抑制するためにイギリス銀行は利子率を1%から1.25%に上げました。これはコロナ禍において生産が追い付いていない産業において、需要と供給のバランスが不均衡となり価格上昇を招いていることへの対策です。

住宅もコロナ禍で在宅勤務の増加により、多くの人達が、より良い環境を求めて住宅の買い替えや購入が増加したことに伴い、住宅価格も12%上昇しました。住宅ローンの利子率も上昇するため、ローン種別にもよりますが、月々の返済が73ポンド(約1220円)~115ポンド(約19205円)上昇することになります。

この政策により、住宅価格の上昇に歯止めをかけられるかが今後の課題です。イギリス政府は状況を見ながら、利子率の更なる上昇も検討しています。

まとめ

インフレ率の急速な上昇、僅かなベースアップ率、特に生活の基本である光熱費や食品への影響は家庭を直撃しています。住宅ローンを組んでいる人は更なる窮地に立たされている状況に、国民の不満や不安はどんどん高まる一方です。イギリス政府はイギリス国民以外にも日々不法入国してくる移民・難民に対する拠出も少なくありません。今後どのような打開策で出口を見つけてゆくのか、イギリス政府のかじ取りは困難を極めています。

参考資料サイト

Interest rates: What are they and how high could they go? – BBC News

Consumer price inflation, UK – Office for National Statistics

Heathrow Terminal 2 baggage piles up after malfunction – BBC News

UK inflation rises at fastest rate for 40 years as food costs jump – BBC News

What is the UK’s inflation rate and why is the cost of living going up? – BBC News

英国、ガソリン車を30年に禁止 EVの普及加速も: 日本経済新聞 (nikkei.com)

本記事は、2022年10月20日時点調査または公開された情報です。
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