イギリスの社会状況2022

イギリスの人材確保のための新規ビザ(HPI)発給開始(2022年6月情報)

イギリス在住の日本人による、イギリスや日本に関する記事レポートです。今回は「イギリスが新たに発行した新規ビザ(HPI)」についてまとめました。


はじめに

2022年5月30日からイギリスで高学歴の人を対象とした、新規のビザ「High Potential Individual (HPI) visa route」 の受付が始まりました。将来的に潜在能力のある人にイギリス滞在許可を与えましょうというものです。詳しくその内容をご説明します。

High Potential Individual (HPI) routeとは

これまでイギリスで単純に就業ビザを取得するためには、イギリス国内に既に受け入れ企業があり、かつ特殊・高度技能や能力などを有することを証明する必要がありました。

しかし今回発表された新規のHPIビザは、申請する時点において、イギリスでの受け入れ企業がなくてもいいのです。『イギリスに行ってから職を探します!』という理由が受け入れられるわけです。また、ビザ有効期間内であれば、何度転職しても問題はありませんし、働かないでただ海外生活を体験したいということも可能なのです。能力があればイギリスで起業をすることも出来ます。また家族およびパートナーを付帯することもでき、かつ付帯家族にも就労が許可されています。

但し条件となるのは、イギリス政府が規定する下記3つの世界大学ランキング表のうち2つのランク表において、50位以内に入っていなければならないことと、卒業から5年以内であることが条件です。現在日本の大学では東京大学と京都大学がこの条件を満たしています。ランキングは卒業年度時のランキングが適用となります。

  • Times Higher Education World University Rankings
  • Quacquarelli Symonds World University Rankings
  • The Academic Ranking of World Universities

発行されるビザは2年~3年となっていますが、それは卒業学位(学士号、修士号、博士号または同等)によって異なります。学士号、修士号ですと通常2年、博士号ですと3年という具合です。

また、英語での教育を受けていない場合、Common European Framework of Reference for Languages に規定されているB1レベル同等の英語能力があることを証明しなければなりません。

申請に必要な諸費用 (1ポンド=162円)

申請者本人

  • 申請料 715ポンド (115,830円)
  • 国民健康保険 624ポンド/年(101,088円)
  • 生活費として預金残高が最低1270ポンドあること (205,740円)

付帯家族およびパートナー

16歳未満の子供および2年以上同居している関係にあるパートナー(16歳以上の未婚の子供の場合は英国で一緒に居住することが条件となります。)

  • 配偶者およびパートナー:285ポンド/人(46,170円)
  • 子供:315ポンド(51,030円)
  • 2人目以降:200ポンド/人(32,400円)

例えば…

配偶者1人、子供2人でビザを申請するために必要な申請費用

申請料:715ポンド
健康保険:624ポンド
配偶者:285ポンド
子供2人:515ポンド

=合計2,139ポンド(346,518円)

申請した時点において、預金残高が最低1270ポンドあること (205,740円)を証明しなければなりせん。


※実際イギリスでの生活費は日本よりも高いと考えた方がよいので、その程度の預金ではすぐに底をついてしまいます。

イギリス改革戦略(UK Innovation Strategy)

今回のHPIビザの発給は、2021年7月22日にイギリス政府より発表された『イギリス改革戦略』の一環として考えられています。

これまでは、地球温暖化、気候変更、高齢者社会など、予測が可能な課題に取り組んできました。しかし、今回のコロナのような予測不可能な危機によって引き起こされる世界的パンディミックにどう対応するのか、またコロナによって受けた経済の大打撃から一早く回復するためにどうしたらいいのかを解決するための策として打ち出されました。

『イギリス改革戦略』では2035年までにイギリスを世界の改革のハブにすることを宣言しています。そのためにも優秀な人材の確保は必然的な要素なのです。

改革の4つの主軸 (※投資金額に関わる項目を重点に抜粋しました。)

1.ビジネスの解放―ビジネス改革を促進するための資金援助を積極的に行う。

  • 研究費として過去最高となる220億ポンド(約3兆564円)の年間公共投資を行う。
  • ブリティッシュ・ビジネス・バンク(英国経済開発銀行)の生命科学の投資プログラムを通じて、2億ポンド(約324億円)を投資し、イギリスの生命科学企業が直面している成長段階の資金調達を支援する。

2.人材―改革能力有能者にとって、イギリスが一番魅力的な場所となるようにする。

  • 新規ビザの発行により、高い潜在能力を持ち得ている者、スケールアップを目指す者など、より良い人材の確保に努める。

3.機関および場所の提供―イギリス国内で必要な研究、開発および改革機関を提供する。

  • 1億2700万ポンド(約206億円)をイギリス国内の地域成長企業の研究開発費用として割り当てる。
  • コネクティング・ケイパビリティ・ファンドに2,500万ポンド(約40.5億)の資金を投資し、大学とビジネスの改革を通じて経済成長を促進する。

4.ミッションとテクノロジーーイギリスや世界が直面する主要な課題に対し、改革の後押しをし、主要テクノロジー分野での主導的立場をとる。

  • 企業、大学、政府から5900万ポンド(約95.6億)の投資を行い、新しく発展性のあるパートナーシップを立ち上げ、革新的な新技術の開発のためのビジネス主導型研究プロジェクトを立ち上げる。

諸外国の人材確保策

オランダ

下記ランキング表内の内、同一発行社でないランキング表2つで200位以内にランキングされている大学を卒業から3年以内でビザ申請が可能となります。

  • Times Higher Education World University Rankings
  • Times Higher Education World University Rankings by subject
  • QS World University Rankings
  • QS World University Rankings by subject
  • Academic Ranking of World Universities
  • Shanghai Ranking’s Global Ranking of Academic Subjects

中国

千人計画 (2002年に制定されたハイレベル人材招致計画)

明確な判断基準は示されていませんが、年齢制限や中国国務院の判断により、中国側に興味のある科学研究、技術革新、起業家精神をもとに選定されているようです。

まとめ

イギリスがEU離脱をしたことで、これまでEU諸国の学生はイギリス人同等の条件でイギリスの大学に入学することができましたが、離脱後は外国人として扱われるために学費が2倍以上にも跳ね上がりました。そのため、EU諸国の学生はイギリスの大学へ進学することを選択肢から排除した学生も少なくありません。

EU離脱「ブレグジット」 British(英国) + Exit(出口)によって、イギリスはヨーロッパの出口に立ったところで、コロナのパンディミック到来。世界中がコロナ禍で苦戦している状況の中、今回発表された革新的戦略方針には多くの企業が賛同し、協力を申し出ています。イギリスが世界に向けてその存在意義を大きく示してゆくものとなりそうです。

参考資料サイト

Residence permit for orientation year | IND

UK Innovation Strategy: leading the future by creating it (accessible webpage) – GOV.UK (www.gov.uk)


本記事は、2022年10月14日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

気に入ったら是非フォローお願いします!
NO IMAGE

第一回 公務員川柳 2019

公務員総研が主催の、日本で働く「公務員」をテーマにした「川柳」を募集し、世に発信する企画です。

CTR IMG