アメリカの社会状況2023

アメリカのチップ文化はコントロール不能?米国民も戸惑うチップフレーション(2023年11月情報)



世界中どこへ行っても物価の高騰が見られるなか、ここ最近のアメリカでは物価の高騰以外にチップの額も大幅に跳ね上がり「チップフレーション」の状態に陥っています。そこで今回はなぜ至る所でチップが求められ、チップの額も高騰しているのかを考察したいと思います。

アメリカのチップ文化の始まり

アメリカのチップ文化は、奴隷制度廃止後も黒人労働者を安く使い続けたい白人雇用主が、客からのチップで賃金を賄おうとしたのが始まりと言われています。19世紀の後半、鉄道車両の製造と寝台車の運行業務を行っていたプルマン社が、解放奴隷の黒人男性を豪華旅客列車のポーターとして大量に雇用し、その列車が全米を行き来したことで、チップの習慣が全米各地の色々な業種に広がっていきました。

その後鉄道関係労働者は労働組合を結成し待遇改善が図られましたが、女性が多い飲食店業界は現在も最低賃金規則の対象から除外され続けています。

生活の至る場面で求められるようになったチップ

そんな奴隷制の名残?でもあるアメリカのチップ文化ですが、チップ額の高騰をめぐって新たな論争が起きています。

人種差別がまだあからさまだった1950年代のアメリカでは、合計金額の10%をチップとして渡すのが一般的でした。それが1970から80年代にかけて15%になり、今ではチップの相場が15%から25%くらいにまで跳ね上がりました。

チップの相場が値上がりした以外にも、今までチップを請求されなかったファーストフード店やカフェテリア、中には持ち帰るだけのドライブスルーを利用した時でさえ、チップを求められるようになりました。

至る所でチップが求められるこのような現状をアメリカ国内では、チップの値上がり(インフレーション)をもじってチップフレーションと揶揄しています。

アメリカのチップフレーションの要因

その1:パンデミック

このチップフレーションの一番大きな要因は、やはりパンデミックです。コロナ禍でロックダウン中、経済的に苦しいサービス産業従事者を支援するため、多くの人々がより気前よくチップを渡すようになりました。

例えばパンデミック中に感染防止対策として多くのスーパーマーケットで行われるようになった、スマホアプリで注文した商品を指定された駐車スペースで受け取る「Click & Collect(クリック アンド コレクト)」の利用者は、荷物を車まで運んでくれたスーパーの店員にチップを払っていました。

現在このサービスを利用すると料金がかかるので、さすがに今でもチップを渡す人はあまりいないかもしれません。しかしパンデミックが去った後も、一度値上がりしたチップ相場は元には戻らず、特にレストランなどではチップを多めに渡す傾向がそのまま続いているのが現状です。

その2:テクノロジーの発達による決済方法の変化

コロナの感染対策と人手不足の解消のため、セルフレジやタブレット式のタッチパネルを使ったデジタル決済が多くの店で導入され、今ではレストラン、商店、スーパーマーケット、カフェ、空港など、どこへ行ってもタッチパネルを操作するたびに、ディスプレイに表示される15%、20%、25%のチップを促す画面を見るのが日常風景となりました。


目の前に人がいない場合、例えばスマホで事前にオーダーして、クレジットカードで決済する際にもチップの表示は現れます。しかし店で商品を受け取るだけのテイクアウトオーダーの場合、約60%の人はチップを払っておらず、もし払ったとしても5〜10%程度しか払わないようです。

ただ一つ注意しなければならないのが、UberやLyftなどの配車サービスを利用する場合です。UberやLyftは、アプリ上で運転手と乗客、両方が評価し合う仕組みをとっているので、あまりにも低いチップで利用し続ける乗客は、運転手側から低評価をつけられ、肝心なときに車が捕まらない可能性もあるので要注意です。

その3:チップがなければ生活できない労働市場

アメリカ人の多くが、支払いの際、毎回目にするチップの要求画面を煩わしいと感じるわりに、毎回気前よくチップを払います。その理由は、サービス業に従事する人々の多くが、最低賃金以下で働いていることをよく知っているからです。

CNNの調査によると、米国のチップ労働者は推定500万人以上、そして飲食業界に従事する労働者の貧困の可能性は他業種に比べ3倍、フードスタンプ(低所得者向けの公的食料補助)を受給する確率が2倍にもなるそうです。

チップはやめるべき習慣?

多くのアメリカ人は、サービス産業に従事する人達の経済状況をよくわかっているので、たとえサービスが劣悪であっても、顧客は請求額の15%から20%程度のチップを払う義務があると感じています。

またチップをもらう側は、提供するサービスの質にかかわらず、より高額のチップを期待するようになっています。企業にとってもインフレが続く今、メニューの価格を上げることは客離れにつながり、賃金が上がらなければ労働者が辞めてしまい人手不足につながるなかで、特に利益率の低い企業にとって人件費を削減できるメリットがあるチップ制度は、魅力的なシステムになっています。

アメリカ社会にすっかり定着しているチップ文化ですが、チップの習慣はもうやめるべきではないか、と思っている人達もたくさんいます。チップ否定派の人たちは、生活に支障がない賃金を雇用主が払うべきであって、顧客に賃金の不足分の負担を強いるべきではないと言っています。そしてその人達の約60%は、もしチップを払わなくて済むのなら、多少の値上げは受け入れるとも考えています。

》参考URL:Bankrate (https://www.bankrate.com/personal-finance/tipping-survey/

しかしもしチップ制度を完全に撤廃し、賃金の不足分をメニューの値上げで補った場合、一体どれくらいの顧客がチップを払わなくても良いことを理由に、その店を訪れるのかは疑問です。チップ制度が完全に撤廃されなかったとしても、将来チップ労働者の最低賃金が引き上げられれば、顧客からのチップは格段に減るはず、そうなると今度はチップ労働者の収入に深刻な影響が出る恐れもあります。

まとめ

インフレの影響で全てが値上がりしているので、必然的にチップの額は今後も上昇していくと考えられます。経済的不安や雇用不安の原因にもなるアメリカのチップ文化の問題に取り組むには、労働法、最低賃金、すべての労働者に対する公正な報酬など、より広範囲な議論が必要です。

参考資料サイト

》Tipflation : Americans think tipping culture is ‘out of control” and workers should be paid more
https://www.forbes.com/sites/jackkelly/2023/08/01/tipflation-americans-think-tipping-culture-is-out-of-control-and-employees-should-be-paid-more/?sh=53087f3a3ae4

》Tipping in the united states has gotten out of control, experts say. Here’s why. (12分のビデオ付き)
https://www.cnbc.com/2023/04/01/how-tipping-in-the-united-states-got-out-of-control.html?qsearchterm=tipping%20in%20the%20united%20states%20has%20gotten%20

本記事は、2024年2月9日時点調査または公開された情報です。
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