【刑務官のヒヨコ】新米の刑務官の素朴な疑問とベテランの回答とは?

戦後は多くの退役軍人の再雇用先となっていた刑務官のポストですが、その方々の退職とともに、新米の刑務官が大勢採用された時期があったそうです。ベテランには思いもよらないところに疑問を持つ新人たちのために、筆者たちは“ハウツー本”のような冊子を作ってあげたとか。今回はその内容の一部が垣間見えるコラムです。

新米の“ヒヨコ刑務官”が増えた理由

どのような企業や組織体も職員の育成には力を入れていると思いますが、刑務所も例外ではありません。特に刑務所は、戦後多くの退役軍人を雇用した経緯があるため、それらの人が一斉に退職していく時期は大変でした。軍人として鍛えられた人というだけで相当アドバンテージがある刑務官ですし、それに長年の経験を積み重ねてきた人が次々に辞めていく。そしてその替わりに入ってくるのは去年まで学生だった社会人1年生。その落差は目を覆いたくなるほどです。

こうして大量に抱えることになった刑務官のヒヨコを前に、刑務所は危機感を持ちました。例えば私が勤務していた刑務所では、夜勤者の7割が採用5年未満のヒヨコで占められるに至りました。

夜勤中は受刑者が居室内にいるからまだいいのですが(それでもいろんな失敗をやらかします)、彼らは夜間の勤務だけではなく日勤もします。つまり、夜勤をやると翌日は非番で休みとなりますが、3日目と4日目は日勤勤務となるといった具合なのです。日勤になるとほかの刑務官と全く同じ。受刑者への対応もそれなりにしてもらわなければなりません。

ヒヨコ刑務官向けのハウツー冊子の内容

そんな彼らに早く一人前になってもらうために、彼らが抱く様々な疑問を集め、夜勤班長などのベテラン刑務官に答えてもらった冊子を作り、これをヒヨコたちに配ったことがありました。彼らがよく抱く疑問を速やかに解消し、いろんなミスをできるだけ少なくするのが狙いです。

その冊子に掲載された様々な疑問を眺めていると、「なるほどなあ」と納得できる疑問が数多くあるのですが、中には「なんだこれ!?」という疑問もあって思わず笑ってしまうようなものもありました。そんな彼らの疑問とそれに対するベテラン刑務官の反応や答えについて、覚えている幾つかを紹介しましょう。

疑問その1:朝の職員点検はなんのため?

「朝の職員点検は何のためにするのですか?」

この質問に接したベテラン刑務官は思わず笑ってしまったそうです。あまりにも当然のことになぜ疑問を持つのか、といった気持ちだったのでしょう。しかし、採用されて間もない若い刑務官にとっては自然に出てくる疑問なのかもしれません。

職員点検は、毎朝職員が勤務に就く前に行われます。そこでは人数が確認されるほか、服装はしっかりしているか、刑務官手帳や呼子笛(よびこぶえ)などの携帯品を持っているかなどについて確認を受けるのです。二日酔いで息にアルコール臭が残っているような職員は受刑者処遇の勤務に就かせられません。職員全員への伝達事項があれば、この機会に行われます。

疑問その2:刑務官が制服着用時に傘をさせないのはなぜ?

「制服を着ているときは、なぜ傘をさしていけないのですか?」

確かに刑務官は、制服着用時には傘をさしてはいけないとされています。これは、たとえ勤務時間外だとしても(例えば登退庁時)、非常通報が鳴ったりした場合にはすぐ勤務に服さなければいけません。

その際、急行するのに傘は邪魔になりますし、仮に受刑者の乱闘騒ぎに傘を持ったまま駆けつけた場合にそれを奪われると凶器にすらなります。そのようなことから、このような不文律ができているのだと考えられています。

疑問その3:逃走犯を追えるのが48時間以内なのはどうして?

「逃走された場合、なぜ48時間以内でしか身柄確保ができないのですか?」

これはあまり知られていないかもしれませんが、受刑者が刑務所から逃走した場合、警察だけでなく刑務所もその捜索に従事できます。刑務所から逃げた者の身柄を早急に確保して連れ戻すために逮捕状の交付を待つというのは現実的でないという考え方が背景にあり、法律にも明記されています。

実際問題として、逃げた受刑者の顔などを熟知しているのは刑務官ですから、身柄の確保も迅速に行える可能性があります。ただし、これはあくまでも例外的な取扱いですから、いつまでも無制限に行えるとするのは適当でないために、48時間以内という期限が設けられているわけです。

疑問その4:走ってはいけないのはなぜ?

「非常のとき以外は走っていけないそうですが、なぜですか?」

実際、採用間もない刑務官が刑務所内を走ってしまい古参の刑務官に叱られることがよくあります。これは、刑務所内で走るのは何か非常事態があったときに限るというルールを敷いておくことによって、誰か走っているのを目撃したら仲間が受刑者から襲われるなどの事態が発生したと理解してすぐその後を追うことができるようにしているからです。

同じようなことは口笛の禁止というルールもあります。これは、非常事態が発生した際に鳴らす呼子笛の音と紛らわしいからです。非常事態が発生した場合には、通常なら近くにある非常ベルを押して保安本部(刑務官の詰め所)に知らせますが、グラウンドでの運動中など近くに非常ベルがないときは呼子笛を吹いてそれを知らせます。

だから、誰か何気なく口笛を吹こうものなら近くの刑務官はビクっとして立ち上がり、口笛だと分かるとカミナリが落ちるということになるのです。

(小柴龍太郎)

本記事は、2017年12月20日時点調査または公開された情報です。
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