出初式の華!消防のはしご乗りの「歴史」と「これから」について

毎年一月に各自治体で開かれる消防の出初式。出初式の催し物の中でも目を惹き、すっかり演目の目玉として定着しているのがはしご乗りです。本日は、はしご乗りの由来や歴史、現在のはしご乗りについて解説しています。


はしご乗りの発祥について

はしご乗りの始まりには諸説ある

消防の出初式に行われるはしご乗りは、日本の伝統芸能のひとつです。消防と深く関わりのある曲芸であると一般的にはイメージされますが、はしご乗りの発祥には諸説あります。

▼加賀藩前田家の「加賀鳶」が出初めで披露したのが発祥の説
消防出初式の元祖といわれる、上野東照宮前の出初めで披露されたのが始まりといわれている説があります。江戸時代は元々町人による火消しの町火消や、武士による大名火消によって火消しが行われていましたが、これに加えて多発する江戸の火災に対応するために、江戸幕府直轄の消防組織である定火消も発足しました。

定火消は、江戸幕府から選ばれた旗本4名の武士が、火消屋敷と呼ばれる屋敷に居住して消火活動を行う、今の消防組織の原型にもなっています。定火消の発足した翌年の翌万治2年1月4日には、上野東照宮前で定火消4名が集まり、気勢をあげる「出初め」が行われました。この出初めは現在の出初式の原型ともいわれ、定火消だけでなく大名火消や町火消にも広がり、儀式化していきましたが、大名火消の中でも加賀藩前田家が構えていた「加賀鳶」は派手な衣装と勇ましい活躍で知られ、加賀鳶がはしご乗りを出初めで披露したところ注目を集め、定火消や町火消の出初めでもはしご乗りを披露するようになった、という説があります。

▼町火消の鳶職人たちから由来している説
出初めが儀式化されて広がる前から、はしご乗りは消防と関わりが深かったという説です。町火消を担うのは、元々町人の中でも身体能力がたかく身軽な鳶職人が選ばれる事が多くなっていました。そして、江戸の街で火事が起きると、鳶職人たちはどの方角から火事が起きているのかを見定めるために、高いはしごに登って方角を見定めていました。

また、実際の火事の方向を見定める方法としてだけでなく、鳶職人たちが仕事を始める前の準備運動として行っていたり、訓練に活用していたりしたとも言われています。

総じると、はしご乗りの発祥は出初めで披露された事で定着した説、江戸の火消しや鳶職の技術だった説があります。

はしご乗りの決まりや型について

はしご乗りはどうやって行われるか

はしご乗りに使用されるはしごは三間三尺(約6メートル)の青竹製、14段の小骨と呼ばれるはしごの桟が付いています。このはしごを12本の鳶口が支えながら行われる曲芸で、日本の伝統芸能のひとつでもあります。

纏の振込み、木遣りと三位一体で行われる

はしご乗りは、纏の振込み、木遣りと共に行われるルールがあります。

▼纏について
纏(まとい)とは、江戸時代の町火消の各組が持っていた旗本のことです。上の部分に町火消の組を表す頭、下の部分に馬簾(ばれん)と呼ばれる細長い垂れ下がった飾りでできていて、回したり上下に振ると、馬簾が踊るようになっています。元々は、火災が起きると江戸幕府直轄の火消である定火消の指揮をとるために旗本が出動していましたが、その時に馬印を用いていたのが、纏の始まりと言われています。

享保5年には大岡越前守によって、士気の高揚のために定火消や大名火消だけでなく、町火消にも纏を持たせたと言われています。いろは48本に本所と深川の16本を合わせて64本の纏が町火消のそれぞれの組に与えられ、火災出場区域や火災現場心得も書かれていました。

纏を扱うのは、纏持ちの役割です。町火消の中でも威勢が良くて体力のある者が纏持ちに任命され、火事が起きると火事が起きている建物の風下にある建物の屋根の上に上がり、纏をふるって火消したちを鼓舞したり、火災現場の目印と知らせたりしていました。また、鎮火が遅れてしまうと纏を持った纏持ちのいる建物も焼けてしまうので、纏と纏持ちを焼かないためにも、町火消たちが必死に活動したと言われています。


また、明治5年に町火消が消防組に改称されてからは全ての纏の馬簾に黒線が入るようになりました。現在、出初式ではしご乗りを披露する時にはどの組織に属しているのかを表すために纏の持ち込みも行います。また、纏の演技披露もはしご乗りと一緒に行われる事も多いです。

▼木遣りについて
木遣り(きやり)とは木遣歌とも言われ、江戸時代中期の鳶職人たちの間で良く歌われていた歌です。元々は、大阪城の築城の時に、大きな木を運び出す時の掛け声や作業の音頭を取るための歌が自然と職人たちの間で始まり、木遣りになったと言われています。または、建設労働をスムーズに行うために歌わせた労働歌であったという説もあります。

町火消の中心になって活躍したのが鳶職人たちだったので、自然と木遣りもはしご乗りと共に火消しの文化として今日に残っています。現在も、はしご乗りを披露する時に歌われる他、祭礼や建前などの儀礼の前にも歌われるおめでたい歌として伝わっています。

木遣りは音頭をとる木遣師と、受声をだす木遣師が交互に歌います。総数110から120曲の木遣りがあると言われ、東京都の無形文化財にも指定されています。

はしご乗りの型について

はしごの先端は「はいふき」と呼ばれています。はいふきや小骨を使って色々な姿勢を取るのがはしご乗りですが、これには色々な型が決まっています。現在残っているはしご乗りの型は以下の通りです。

▼頂上技
膝八艘、爪八艘、一本八艘、一本遠見、二本遠見、一本邯鄲、二本邯鄲、枕邯鄲、二本鯱、膝立鯱、一本鯱、唐傘

▼返り技
肝漬、背亀、腹亀、二本腹亀、大返り、藤下り、外返り、鯱落ち、館返し、逆大の字、花散らし、一本花散らし

▼途中技
膝掛、谷覗き、鼠返し、腕溜め、吹流し、横大の字、飛込、花散らし、足絡み、爪掛、途中鯱、駒落し

▼わっぱ技
吹流し、横大の字、邯鄲、谷覗、逆大の字、象鼻、野猿返し、横大の字、子亀つるし、足釣り、谷覗、釣亀

参考:
東京消防庁 木遣とはしご乗り
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/libr/qa/qa_26.htm

現在のはしご乗りについて

はしご乗りは誰が行っているか?

現在、各自治体の消防の出初式で行われているはしご乗りは、消防職員や消防団員が行っています。

東京消防庁の出初式では、「江戸消防記念会」がはしご乗りを披露しています。江戸消防記念会員には組頭を筆頭に、副組頭、小頭、筒先、道具持ち(纏持ち、はしご持ち、刺又持ち)および平人の序列が決まっていて、はしご乗りを行うのは道具持ちと決まっています。

仙台市の階子(はしご)乗りについて

はしご乗りは、日本の伝統芸能のひとつでもあるので、各市町村の無形民俗文化財に指定されていることも多いです。仙台市のはしご乗りは「仙台消防階子乗り」として平成29年11月30年に仙台市の無形民俗文化財に指定され、翌年平成30年1月6日の仙台消防出初式にて、無形民俗文化財指定後初めて公の場で披露されました。仙台消防階子乗りは、現在仙台市内の各消防団に在籍する7つの階子乗り隊から構成され、出初式だけでなく、青葉祭りや七夕祭りなど、仙台市内の大きなイベントの中でも披露され、会場を沸かせています。

仙台消防階子乗りは、組頭、小頭、纏振り、提灯持ち、乗り手、支え手によって演じられます。使用するはしごの高さは7.2メートルにも及びます。なお、明治17年1月の新聞記事に「階子乗りの式」と出初式が紹介された事に由来し、仙台消防「階子」乗りの字をあてています。

参考:
仙台消防階子乗り民俗文化財調査報告書
http://www.city.sendai.jp/sebikatsuyo/news/documents/462hasigonori.pdf


はしご乗りを巡る現在の課題について

死亡事故や怪我に繋がることがある

はしご乗りは、高さ6メートルから7メートルのはしごの上で、乗り手が命綱をつけないで色々な演技を披露します。そのスリリングな演技も出初式の華と言われ、多くの歓声が上がりますが、時には乗り手が手や足を滑らせて地面に落下、死亡してしまったり重傷を負ってしまったりする事故に繋がる危険性もあります。また、本番中だけでなく練習中に落下事故に合い、その年のはしご乗りの披露が中止になったケースもあります。

現在では、伝統よりも安全性を考えて多くの対策が行われています。本番でも命綱を着用して演技をする、縁起披露前に、乗り手の体調チェックや使用する器具の点検を怠らないようにする、などです。

参考:
福井新聞 つるが鳶、勇壮はしご乗り復活 事故踏まえ安全対策徹底して演技
http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/279646

はしご乗りの成り手がいない 後継者問題

はしご乗り自体が存続の危機になっている自治体も少なくありません。現在のはしご乗りを支えているのは、ほとんどが各市町村の消防団員たちです。消防団員とは、普段は会社員や自営業者など他の仕事をしている、もしくは主婦や学生であり、火災の時には消火活動を行ったり、地域の防災活動を行ったりする非常勤の公務員職です。

地域に住んでいる18歳以上の住民なら、誰でも地域の消防団に入って消防団員として活動ができます。ところが、少子高齢化や核家族化によって地域住民同士の付き合いが希薄になったことに影響され、消防団員への入団希望者が減少傾向にあります。

消防団員自体が減少していることに加えて、はしご乗りを担ってきた消防団員たちも、高齢化が進んでいます。そろそろ自分ははしごを降りて、乗り手の後継者を育てたいと思っている消防団員は多くなっていますが、次世代の乗り手の成り手自体がいないのです。はしご乗りの乗り手が減少したことを受けて、出初式でははしご乗り自体が行われなくなった自治体も少なくありません。

各自治体では、まず消防団員の入団希望者を増やすために様々な取り組みを行っています。消防団に入るとこんな待遇を受けられる、といった消防団の魅力を紹介したり、特に18歳からの若年層にも消防団が身近な存在であると感じてもらえるようなアピールをしたりしています。

とはいえ、入団希望者が増えて消防団員の人数自体が増えたとしても、命の危険が伴う可能性のあるはしご乗りの成り手自体がなかなかいない、という問題もあります。

まとめ

消防出初式の華でもあり、日本の伝統芸能でもあるはしご乗り。実は深刻な後継者不足に悩まされていることが分かりました。はしご乗りを含めて、日本の伝統芸能は後継者不足によって貴重な技術が失われてしまう危機に直面しているものも沢山あります。今後、伝統芸能をどのように守っていくのかも私たちに課された課題なのかもしれません。

貴重なはしご乗りの演技は、各自治体の消防出初式で見ることができます。ぜひ出初式会場に足を運んでみてはいかがでしょうか?

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年2月18日時点調査または公開された情報です。
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