【鑑識官】警察の鑑識および鑑定を携わる警察官の仕事内容について

テレビドラマを始めとした作品でもおなじみになった、警察の鑑識官。また、科学技術の発達に伴ってより高度な鑑定を行う科学捜査研究所の存在もあります。ここでは、事件や事故の現場から鑑識および鑑定を行う警察官の仕事内容となる方法についてまとめました。


警察の鑑識・鑑定について

証拠を集める「鑑識」を行う鑑識官

事故現場や事件の犯行現場で、指紋やタイヤ痕の採取、現場の写真撮影など、犯人や事故の当事者が残した証拠を集めるのが鑑識官です。

特に、殺人現場では被害者は声を発することができませんので情報を直接聞くことができません。後に刑事たちが捜査を行う時に手がかりにする、重要な証拠を集める行為を「鑑識」と呼びます。犯人の指紋や体液、毛髪など体の一部から、筆跡、動物の体毛や植物、紙切れなどありとあらゆる手がかりを集める鑑識を担うのが鑑識官です。

鑑識官は、刑事警察に分類され鑑識課に所属する警察官です。基本的な鑑識は警察官なら誰でも身に着けている技術ですので、例えば空き巣被害のあった家の指紋採取など比較的簡単な鑑識は鑑識官ではなく刑事や他の警察官が行うことも多いです。(※)殺人現場など、より多くの手がかりを見つけなければいけない時や、証拠の採取が難しく専門的な鑑識技術が必要な時に、鑑識官が活躍します。また、聞き込み捜査などの結果で犯人のモンタージュ作成も行うほか、似顔絵の作成をする鑑識官もいます。

※ 比較的多発しやすい空き巣や物損事故などの鑑識は鑑識官が出てくることは少ない。実際に筆者の自宅が空き巣被害に合った時には、所轄の交番勤務の警察官が駆け付け、指紋採取などの鑑識を行っていた場面を見た経験がある。

ちなみに、特徴を聞いて犯人の似顔絵を作成する「似顔絵捜査官」は、決まった部署に所属しているのではなく、刑事や鑑識官、機動捜査官の刑事警察の他、交通警察官や警察業務職員まで全警察組織の中で、似顔絵を得意としている人なら誰でも該当します。

参考:
「似顔絵」で犯人摘発を…警視庁で技能大会
http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000060114.html

鑑識によって押収したものを分析する「鑑定」

鑑識官などが鑑識によって集めた押収物は、そのままでは証拠物や捜査の手がかりとして生かせません。鑑識したものを分析する「鑑定」が必要になります。警察組織で行われている主な鑑定は以下の通りです。

▼筆跡鑑定
人の書く文字の特徴はひとりひとり異なります。この文字の特徴を捉えて文字を書いた個人を特定する鑑定技術が筆跡鑑定です。

▼印刷物鑑定
偽物の紙幣や公的文書が作られる事は犯罪です。これらの印刷物による犯罪が起きた時に、印刷物のインクや紙に使用されている物質を化学的に分析し手がかりをつかむのが印刷物鑑定です。

▼DNA鑑定
犯行や事故現場に残された体毛や組織など、鑑識官が押収した人の残留物に付着している細胞を採取し、DNAを抽出して解析、残留物の持ち主を特定するのがDNA鑑定です。DNAを構成するデオキシリボース・塩基・リン酸の内、塩基の配列を分析して個人を特定します。

▼交通事故鑑定
交通事故現場に残された自動車の窓ガラスのガラス片、ヘッドライトのプラスチック片、現場に残された車両の塗装痕などを分析するのが交通事故鑑定です。ひき逃げや当て逃げ現場から立ち去った犯人の特定に繋がる鑑定です。また、犯人の特定だけでなく交通事故の原因も特定することにより、後の交通事故の防止にも繋がります。


▼薬物鑑定
麻薬や違法薬物は使用するだけでなく、所持しているだけでも犯罪です。ある人物で違法薬物の所持が疑われる場合、任意同行や職務質問を行い違法薬物所持の有無を警察官が確認します。

薬物の所持が疑われる場合には、薬物の簡易検査キットを使用して禁止薬物所持の有無を判定する薬物鑑定が行われます。これは、職務質問を行う警察官本人でも行える簡易的な鑑定です。かつて「脱法ハーブ」という名称で販売・使用されていた危険ドラッグなど、簡易検査キットでの判定が難しい場合には、より専門的かつ高度な科学による薬物鑑定が行われます。

科学的な分析を行う、都道府県警察本部にある科学捜査研究所

より高度な科学技術による鑑定を行うのが、「科学捜査研究所」です。科捜研の愛称でも知られ、今ではテレビドラマの題材としても取り上げられるようになりました。

科捜研は法医学分野、心理学分野、文書分野、工学分野、化学分野に分かれ、それぞれの分野の特性を生かした筆跡鑑定やDNA鑑定など、幅広い鑑定が行われています。全国の都道府県警察本部に1か所ずつ配置されています。

警察組織としての鑑定機関である科捜研の他、民間の鑑定研究所があります。親子間のDNA鑑定や、遺言状の筆跡鑑定など、主に事件性のない民事に関して鑑定が必要な場合に利用される機関ですが、科捜研では鑑定が難しい特殊な鑑識結果の場合、民間のより専門的な鑑定を行っている鑑定研究所に警察が鑑定を依頼することもあります。

警察庁直轄で科学鑑定を行う科学警察研究所

科捜研は都道府県警察本部の組織ですが、一方で国の警察組織である警察庁直轄の「科学警察研究所」、通称科警研があります。所在地は千葉県柏市です。

科警研は所轄の科捜研では不可能だった鑑定の依頼を全国の警察から受けるだけでなく、防衛省や国土交通省などの各関係機関からも依頼を受けて科学鑑定を行います。また、科捜研よりも高い科学鑑定の技術を持っているので、日々科学鑑定の技術向上や犯罪防止のための研究も担っています。

科警研の組織は、所長と副所長以下法科学研修所、附属鑑定所、研究調整官、付属鑑定所、研究調整官、総務部、そして科学分析や鑑定の分野によって法科学第一部、第二部、第三部、第四部、犯罪行動科学部、交通科学部のセクションに分かれています。

参考:
警察庁 科学警察研究所リーフレット
https://www.npa.go.jp/nrips/jp/pdf/leaflet.pdf

鑑識官および科捜研、科警研所員になるためには?

鑑識官になるには

▼警視庁もしくは都道府県警察本部の警察官採用試験を受ける
鑑識官は、警視庁及び各都道府県の警察本部の鑑識課に所属する警察官であり、地方公務員です。まずは希望する都道府県警察本部の警察官採用試験に合格しなければいけません。

警察官採用試験の募集期間や条件などは、受験する自治体によって異なります。自分が鑑識官として活躍したい都道府県の採用情報をチェックしておきましょう。

例として、神奈川県警察本部の平成28年度警察官採用の概要を挙げておきます。試験区分は昭和62年4月2日以降に生まれ学校教育法による大学などを卒業した者の警察官A、警察官A以外の警察官Bがあります。試験は教養試験からなる第1次試験、論文試験、適性検査、体格検査、体力検査、人物試験、身体検査からなる第2次試験があります。

採用試験は年に複数回行っている警察本部が多く、神奈川県警察本部の場合は3月~4月募集の第1回試験、7月~8月募集の第2回試験を実施した実績があります。

▼給料について
鑑識官は地方公務員ですので、その地方で定められた地方公務員の給与が支給されます。例として神奈川県警察本部の初任給は、大学卒業で23万7,000円、短大卒業で21万7,000円、高校卒業で19万9,000円です。

参考:
神奈川県警察 平成29年度警察官採用試験
https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesb0001.htm


警察官採用試験合格後、警察学校などで専門的な技術を学び、配属先が決まります。その後、各警察本部の鑑識課へ配属になれば、鑑識官として働けます。

科学捜査研究所所員になるには

▼警視庁もしくは都道府県警察本部の採用試験を受ける
科捜研の所員は、都道府県警察本部で不定期に採用を行っています。鑑識官と同じく地方公務員です。採用人数も1~2名と非常に少なく、化学に関する知識も必要になります。

例として、神奈川県警察本部 平成30年度科学捜査研究所職員(化学職)の採用について挙げておきます。選考区分は、科学捜査研究所職員(化学職)、採用予定人員1人程度、必要な知識は一般化学、有機化学等で採用予定年月日は平成30年4月1日です。

受験資格は昭和62年4月2日から平成8年4月1日までに生まれた人、もしくは平成8年4月2日以降に生まれた人で、学校教育法に基づく大学(短期大学を除く。)を卒業又は平成30年3月までに卒業見込みの人(人事委員会が同等の資格があると認める人を含む。)です。

▼採用試験について
科捜研職員は、第1次選考及び第2次選考の採用試験に合格しなければいけません。同じく例として神奈川県警察本部の平成30年度の科捜研職員の採用試験内容について挙げておきます。

第1次選考は大学卒業程度の一般的知識(25問)及び知能(25問)についての筆記考査(択一式、2時間)である教養考査、及び薬物の鑑定、検査及び研究に必要な専門的知識についての筆記考査(記述式10問、2時間)である専門考査の2つからなります。教養考査は法律、政治、経済、社会一般、日本史、世界史、地理、人文、数学、物理、化学、生物、地学の範囲から出題される知識分野、文章理解(英文を含む。)、判断推理(言語、非言語)、数的処理、資料解釈の範囲から出題される知能分野、専門考査は般化学、分析化学、応用化学、有機化学、有機合成化学及びこれらに関連する分野から出題されます。

第2次選考は人柄、性向等についての個別面接考査を行います。

第1次選考の教養考査は100点、専門考査が200点、第2次選考の個別面接考査が300点の合計600点満点です。

▼給料について
神奈川県警察本部採用の例を挙げると、大学卒業と同時に採用された人の給料は地域手当を含む月額で約214,000円です。

参考:
神奈川県警察 採用情報 技術・専門職員等採用選考 科学捜査研究所職員(化学職)
https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesb0063.htm

なお、民間の鑑定研究所は一般企業の採用に応募し、採用されれば研究所所員として働けます。こちらは民間の企業ですので会社員です。

科学警察研究所職員になるには

▼国家公務員試験を受けて合格する
科学警察研究所、通称科警研は警察庁直轄の施設です。ですので、科警研での勤務を希望する場合は、キャリアと呼ばれる国家公務員試験に合格しなければいけません。科警研職員は、国家公務員の中でも「総合職研究員」にあたります。

科警研の各セクションに欠員が出た場合毎年欠員補充として1~2名採用を行う傾向にあります。科警研の総合職研究員は、警察庁の国家公務員採用総合職試験を受験し、合格する必要がありますが大学院卒同等の学力に加え、化学や機械などの専門的な知識も必要になります。

参考:
科学警察研究所 採用案内
https://www.npa.go.jp/nrips/jp/pdf/schedule.pdf

番外編 鑑識官および科捜研、科警研を題材とした作品

臨場 (小説およびテレビドラマ)

警察小説が原作で後にテレビドラマシリーズ化。主人公は「死者の人生を根こそぎ拾ってやる」ことをモットーにした刑事部鑑識課の検視官。

警視庁鑑識班(テレビドラマ)

警視庁の鑑識課を舞台にしたテレビドラマ。

科捜研の女(テレビドラマ)

主人公は京都府警科学捜査研究所でDNA鑑定や画像解析などの科学分析鑑定を行う法医研究員。

他にも、鑑識や科捜研所員は刑事ドラマを始めとして色々な作品に登場しています。

まとめ

現場の手がかりを見逃さずに押収し、捜査に役立てる鑑識を担う鑑識官。鑑識で押収したものを科学技術で分析し、証拠や個人特定に繋げる各種鑑定を行う科捜研と科警研。いずれも、声なき被疑者や被害者の情報を得て、事件や事故解決に繋げる重要な任務を請け負っていますが、事件だけでなく災害などの被災者の特定分野でも役立つ技術となっています。今後もより科学技術が発展するのと同時に、鑑識や鑑定の技術力向上、そして事故や事件の解決だけでなく予防にも役立つと期待しています。


(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年2月26日時点調査または公開された情報です。
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