避難者から刑務官への感謝状
東日本大震災で被災した宮城県の石巻での出来事。避難先の小学校に刑務官への感謝状が掲示されたことがありました。そこで支援活動をしていた刑務官に対して避難している方たちが感謝の気持ちを表したものです。
刑務官が被災地支援活動をしたことはほとんど知られていません。もとより警察官や自衛隊の活動とは比較にならないくらい小規模のものだったので当然といえば当然です。しかし、そこでの支援は住民たちの心に深い感動をもたらしたようです。
支援チームの指揮官の言葉
その支援チームを指揮していた刑務官はこう述懐しています。
「人の気持ちが分かり、何をすべきか自ら考え、問題に対処する能力は、刑務官がたけていると思います」(矯正協会発行「刑政」2018年1月号18ページ)
なるほど、と私は思いました。被災者の支援に当たっていて、そこに刑務官ならではの特徴をこの指揮官は看破していたと思ったからです。
確かに刑務官は人の気持ちを推し量る能力にたけていると思います。常に受刑者が何を考え、どんな気持ちでいるのかをキャッチしようとしていることから身につけた力でしょう。ほんのささいな言葉や表情からその心情を汲み取る。汲み取りに失敗すれば大きな事故の発生を防ぐことができませんし、場合によっては自分の身が危うくなる。
だから文字どおり必死でやります。ここまでやる職業人はそう多くはないでしょう。だから人の気持ちが分かるようになる。そしてそれが被災者の気持ちの理解となって現れたのだと思います。
刑務官として研ぎ澄まされてきた能力が活かされた
刑務官はまた、時に修羅場のような現場の第一線に立ち、現状を把握しながら今自分が何をすべきなのか、何がベストなのかを常に考えて行動します。その現場では様々な問題が発生します。その一つ一つについてどうすべきかを考えます。一人でできること、仲間の協力を得てやるべきこと、それを考え、直ちに実行します。それを日々繰り返す工場担当などを経験した刑務官はこの能力が研ぎ澄まされていきます。
これもまた、想像を絶する被災地の真っただ中にあって、今何をすべきか、それを自らの頭で考え、時に指揮者に意見具申しながらも次々にやっていく。そのような刑務官の集団は被災者にとって本当に頼りになる存在だったでしょう。その手際よさとかチームプレーに驚いたかもしれません。だからこそ、被災した方々が感動し、感謝状を掲示するに至ったのではないかと想像するのです。
刑務官たちと少女との別れ
この石巻ではもう一つのエピソードがあります。ある一人の少女が刑務官を感動させてくれたお話です。
被災者の一人であるその少女は避難所での支援活動を続ける刑務官たちと仲良くなっていったのですが、ある日
「敬礼って、どうやるの?」
と訊いてきたのだそうです。刑務官は実演し、少女に挙手の敬礼の仕方を教えました。それはその時だけで済んだのですが、支援予定期間が満了して刑務官たちがその避難所から引き揚げるとき、その少女が玄関先に現れ、刑務官たちを乗せたマイクロバスに向かって黙って敬礼をしたのだそうです。そして、バスから避難所が見えなくなるまでそれを続けたのだそうです。きっと少女は泣いていたのだと思います。屈強の刑務官たちも涙が止まらなかったということです。
(小柴龍太郎)
コメント
コメント一覧 (1件)
東日本大震災で刑務官が支援活動にあたっていたという事実を恥ずかしながら知りませんでした。それが知れただけでもよかったですし、最後の少女とのエピソードは少し泣いてしまいました。自分の知らないところであらゆる人たちが動いている、という当然の事実を改めて実感できてよかったです。