【映画で世界史を学ぶ(1)】歴史映画「ダンケルク」

世界史を学ぼうとすると、教科書や用語集などで、年号やカタカナの人物名・地名を覚えたりと、苦手意識を持っている人も多いのではないでしょうか。

今回は、これを観たら、そんな世界史が好きになるかもしれない「歴史映画」をご紹介します。


「歴史映画で世界史を学ぶ」シリーズ第一回は、映画「ダンケルク」です。昨年公開の映画で、今年のアカデミー賞作品賞・監督賞にノミネートされました。

『インセプション』、『バットマン・ダークナイト』、『インターステラ』など、複雑で難解な映像表現で定評のあるノーラン監督による、初めての戦争映画です。

あまり一般には知られていない、ダンケルク救出作戦の事実と背景、それを支えたイギリス国民の勇気などが、CGを使わず、1,500人のエキストラでリアルに描かれています。

偶然ですが、同じ第二次世界大戦時代のイギリスを描いた映画で、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」も、この3月より封切りになります。こちらは、チャーチル首相就任からダンケルクの戦いまでの4週間を描いています。

ヒトラーとの和平交渉か、本土での徹底抗戦か、の選択を迫られる中での苦悩を、性格俳優のゲイリー・オールドマンが、日本人メイクアップアーティスト辻一弘の特殊メイクで熱演し、2018年アカデミー賞で主演男優賞を受賞しています。

チャーチル首相とダンケルクは、世界史を学ぶ今年のキーワードですよ!

映画「ダンケルク」について

第二次世界大戦初期の1940年、ドーバー海峡を望むフランスの港町ダンケルク海岸では、英仏連合軍約40万人の兵士が、ドイツ軍に包囲されて、海岸に取り残されてしまいました。当時のイギリス首相のチャーチルは、彼らを、史上最大の作戦ダンケルク大撤退(コードネーム:ダイナモ作戦 Operation Dynamo)で救出しようと考えます。

その、とんでもない作戦とは、なんと「船を持っている者はみんな、ダンケルクまで兵士の救出に行ってください!お願いします!」とイギリス国民に訴えるという、単純なものでした。

しかし、当時船を持っている国民といえば、ほとんどが地元の漁師たちだけです。その漁師たちが、全くためらわず当然のように、武器も持たずにドーバー海峡の荒波をわたり、兵士を救出に向かおうとします。ドーバー海峡にいる全船舶(軍艦の他に、民間の漁船や遊覧船、貨物線、ヨット、あらゆる船舶)総勢900隻が自らの命も顧みず、一斉にダンケルクへと向かう中、ドイツ軍による陸・海・空からの猛烈な攻撃が始まります。

約1週間の短い救出作戦の間に、イギリス軍19万人、フランス軍14万人もの兵士を、ダンケルク海岸から救出した “ダンケルクの小さな船たち”(Little Ships of Dunkirk)は、“小さな船たちの奇跡”として、イギリス国民の士気を高揚することになりました。

歴史ポイント

ダンケルクからの撤退作戦の大成功と、その後の、チャーチルの名演説が功を奏し、イギリス国民は、「ダンケルク・スピリットを忘れるな」と一致団結します。そして、ドイツとのイギリス本土決戦を防衛してピンチを切り抜けます。


撤退した兵士たちの中には、戦いを放棄して退却してしまった自分たちが情けないと、後悔してしまう者も多いのですが、たくさんの兵士を撤退させて兵力を温存できたおかげで、イギリス軍はドイツ軍に対して、大反撃に出ることができたのです。

実際に、これが、第二次世界大戦の転換点になった、とも言われています。

チャーチルは、ダンケルク救出作戦の後も、強硬路線を曲げず、バトル・オブ・ブリテンと呼ばれるイギリス本土上空での激闘で、イギリス空軍は最後まで、ドイツ空軍に制空権を渡しませんでした。

「ダンケルク・スピリット」は、イギリス国民にとって、困難や逆境を一致団結して乗り越える時に、よく使われるスローガンとして、非常に有名なフレーズとなりました。最近でも、EUからイギリスが離脱する際の国民投票では、EU離脱推進派の議員達が「ダンケルク・スピリットで行動しよう!」と演説したそうです。

映画の見どころその1「絶体絶命からの脱出作戦」

ダンケルク海岸は、周りに建物などが全くなく、どこにも隠れる場所がありませんでした。ドイツ軍の攻撃から命からがら逃れてきた、英仏連合軍の兵士たちは、そのような状況のなかで、武器もなく、広いビーチで、ただ海からの救出を、じっと不安そうに待っています。

そこにドイツ空軍が、容赦なく兵士を狙い放題で爆撃してきます。

また、遠浅の海岸のため、大型船は桟橋近くまでは入港できません。可能なことは、残った桟橋を兵士が死守している間、イギリス本土から渡ってきた民間船が、ダンケルク沖の駆逐艦と桟橋の間をピストン輸送することだけです。

民間船では、一度には少しの人数しか運べませんが、あまりに小さい船ばかりのため、かえってドイツ軍も空爆目標を定めきれませんでした。その結果、最終的には、なんと目標5万人を大幅に上回る、約35万人が、この単純な作戦で救出できました。

映画の見どころその2「残虐な戦闘シーンがない」

最近の戦争映画によくあるような、敵のドイツ軍兵士との激しい戦闘や、兵士たちの素性はあまり描かれていないのですが、脱出する兵士の恐怖感や不安がすごく伝わってきます。

敵は、戦車や陸からの歩兵隊などの「目に見える敵」ばかりではなく、空からの爆撃、機銃掃射、潜水艦、機雷・魚雷など、どこから襲ってくるのかわかりません。効果的で機械的なチクタク音が、特に臨場感を盛り上げます。会話やセリフは少ないのですが、脱出劇がドキュメンタリーのように、個々の兵士の気持ちを疑似体験して感じられ、すごく引き込まれます。

映画の見どころその3「自己犠牲の精神」

特に象徴的なのは、名も無き兵士や市民たちが、自分を犠牲にして兵士を救出するシーンがたくさん描かれていることです。自らの小型漁船で40キロメートルもあるドーバー海峡を越え、救出に向かう漁師などの民間人や、燃料切れで基地に戻れないことを知りつつも、仲間を守ろうとして飛行し続けたイギリス空軍の戦闘機のパイロットなど、誰にも知られず、自己犠牲の精神を発揮していった人々の、感動のストーリーです。

例えば、遊覧船の船主は、当時66歳で実際に救出作戦に参加した、退役軍人をモデルにしているそうです。映画同様、息子、若い船員と3人で乗り込み、自ら保有するヨットでなんと130人もの兵士を海から救いました。映画の中のように、ドイツ空軍の機銃掃射も、巧みに舵を操ることで、危機一髪で逃げ切りました。

日本の海岸の漁師が「半島や島の兵士を救いに行ってくれ」と言われたらと思うと、そのすごさがわかりますね。

まとめ

ダンケルク撤退作戦の終了後、チャーチル首相はその成果を“奇跡”と呼び、議会でのスピーチにおいて、力強い演説を行い、国民を鼓舞しました。

「我々は最後まで戦い続ける。フランスで戦い、海で戦い、強くなる自信と力をもって、空で戦うだろう。そしていかなる犠牲を払っても、我々の国土を守り抜くだろう。我々は決して降伏しない。たとえ我々の国土やその大部分が征服され、飢えたとしても、大英帝国は決して戦いを止めない。(Wikipediaより)」


イギリスの報道も、この撤退を「大失敗が大成功になった」と紹介しました。

ダンケルクにおけるイギリス兵の救出は、イギリス国民の士気を精神的に後押しし、まだドイツの侵略に対抗する力が残っているとされ、ドイツとの和平を模索する動きにも終止符がうたれ、徹底抗戦の反撃が始まります。

逆境でも、諦めない決意がすごいですね。

さあ、あなたの「ダンケルク・スピリット」は何でしょう?

本記事は、2018年3月14日時点調査または公開された情報です。
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