【老朽化から管理、再整備まで】日本のインフラを巡る問題点を再考

道路や上下水道、通信網に至るまで、社会生活を送る上で欠かせない存在がインフラ整備です。ところが、私たちが日ごろ当たり前に使っているインフラに今危機が訪れています。ここでは、今日本が抱えるインフラの諸問題と、対策について解説しています。


インフラの概要と種類について

インフラとは社会基盤のこと

当たり前に耳にするようになった「インフラ」という言葉は英語の“infrastructure”(インフラストラクチャー)から来ていて、元々は「基盤」や「下層構造」などの意味があります。日本では、「社会生活を支えている基盤」という意味を持ち、私たちの社会生活で欠かせない道路や湾岸、河川、鉄道などの公共交通網から電気、ガス、上下水道、通信などの公共設備、火力・水力・原子力発電所などの動力やエネルギー施設、学校や病院、公園などの公共施設などを指します。

また、インフラは種類に応じて「生活インフラ」「通信インフラ」などと呼ばれます。例えば、電気やガスは生活に欠かせない設備のため「生活インフラ」、インターネット回線や携帯電話の通信網などは「通信インフラ」に分類されます。

「ライフライン」=「生活インフラ」

また、インフラと似た言葉に「ライフライン」があります。ライフラインとは「生命線」や「命綱」という意味がありますが、これが転じて市民生活を支えている「生命線」である、電気やガス、水道、通信網など欠けてしまうと都市生活が成り立たなくなる設備やシステムを指します。電気やガスなどの生活インフラや通信インフラの総称として「ライフライン」が使われることがあります。

日本のインフラが抱える問題について

老朽化

現在私たちが使用しているほとんどのインフラは、戦後の高度成長期である1960年代に整備されたものがほとんどです。50~60年ほど連続使用されているため、老朽化が顕著な設備やシステムも数多くあります。本来なら、老朽化されたインフラは修繕や補修をしなければいけませんが、以下の問題点によって、老朽化されたインフラがそのままになっているケースがあります。

▼国の予算不足
戦後の高度成長期には、国の予算の中でも多く社会インフラや公共事業の整備に回されてきました。その後、ある程度の社会インフラや公共事業が整備されると、予算を回す必要がないため、国の予算はほかの事に使われます。現在では、少子高齢化に伴って医療費や年金などの社会保障の分野へ使う予算が多いため、どうしてもインフラの補修や修繕のための予算は後回しになってしまい、補修や修繕が進まない現状があります。そのため、特に予算の少ない地方都市だと、補修や修繕ができずに使えなくなってしまった橋や道路などのインフラ設備がそのまま放置され、立ち入り禁止となっている箇所も少なくありません。

▼労働力の不足
少子高齢化の影響は、労働力の不足にも影響しています。インフラを安心・安全に使用するには老朽化への修繕や補修はもちろん、定期的な点検も必要になります。ところが、労働力の不足からインフラ設備の点検や修繕、補修を行う建築や土木関連の人材不足が生じ、日常的な点検回数の減少にも繋がっています。定期的な点検やメンテナンスの機会が減ると、当然インフラ設備の故障や崩落に繋がり、大変危険です。

▼データの紛失
高度経済成長期の早期に建設や整備されたインフラ設備の場合、設計図や図面、建設や設置担当者などのインフラ設備に関するデータが紛失されていたり、不足していたりします。そのため、具体的にいつごろ作られたインフラ設備なのかが分からなかったり、具体的に修繕や補修、点検を行おうと思っても参考となるデータがないためできなかったりするので、老朽化するインフラの対応ができないままになっている場合も少なくありません。なお、早い段階で作られたインフラ設備全体の約87%が、何らかのデータが不足していると言われています。

老朽化したままのインフラ設備が引き起こした大事故が、「笹子トンネル天井板崩落事故」です。トンネルの老朽化に加えて、トンネルが開通した1977年からトンネルの天井のボルトや金具の交換や点検が行われていなかったことや、トンネル内の異常を発見するための打音検査を2000年から実施していなかったなど管理のずさんさ、東日本大震災の地震によるトンネルへの負荷などの外的要因も加わり、日本の高速道路上で最大の被害を出す事故となってしまいました。

利用者の減少による利用料金の高騰と利用機会の減少

インフラの日頃の運用にかかる経費は、システムや設備を利用する人から利用料や公共料金として徴収され、賄われています。ところが、少子高齢化が進んだことを受け、インフラ設備の利用者数が減少し、徴収できる利用料も減少したため、利用料の高騰が起きる可能性があります。例えば、過疎化が進んだ地方都市で車の運転をする人が少なくなったため、高速道路の利用者数が減少し、高速道路の運営のための利用料を値上げする…などです。

利用料金の高騰は利用者に大きな負担がかかるだけでなく、インフラ設備の利用機会の減少を加速させる原因にもなるため、悪循環になることが懸念されています。

東京オリンピックの開催

2020年、日本のオリンピック招致が決まり東京オリンピックが開催されます。当然、東京オリンピックには参加選手や関係者だけでなく、観戦のために世界中から多くの人が東京へ集まりますので、オリンピック開催やその周辺の期間は、東京のインフラ整備に多くの利用が集中します。その際に、インフラ整備が老朽化したままだったり、点検が行われていなかったりすると、故障や崩落の原因になります。特に多くの人が集まるオリンピック開催期間中に東京のインフラ整備の故障や崩落が起きると、大事故に繋がる危険性があるため、2020年までの東京のインフラ再整備は急務であると言えます。


国によるインフラへの対策とは

インフラ長寿命化計画

日本政府および地方公共団体を含めた、日本のインフラ全体の今後を取り決めた「インフラ長寿命化計画」が2013年11月より施行されています。インフラ長寿命化計画の基本計画内では、各インフラの責任者や管理者が、インフラを長寿命化させるための行動計画の策定が規定されています。

例えば、国土交通省は国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)として、インフラの基準類に基づく適時・適切な点検・診断、基準類の整備、情報基盤の整備と活用、個別施設計画の策定、新技術の開発・導入、予算管理、体制の構築、法令等の整備の8分野での方向性の決定と対策の実施を2014年から2020年度目標に定めています。

地方公共団体への支援

老朽化するインフラを持続的に整備や管理、補修するには地方公共団体の取り組みが不可欠です。政府は地方公共団体のインフラ再整備のために様々な支援を提供しています。

▼包括的民間委託
地方公共団体におけるインフラの整備は、民間業者へ委託しているケースが多いです。民間業者が持っている技術力やノウハウを生かして、単一的なインフラ管理や整備を担うのではなく、複数のインフラ管理や整備を行う「包括的民間委託」を推奨しています。例えば、下水道の管理のみを行っていた民間業者が、上水道と農業排水の管理も請け負う、または運転管理の身を請け負っていた民間業者が保全管理も請け負う、などのケースがあります。

単一の民間業者が複数のインフラ整備や管理を担うことで、労働力の不足や地方公共団体の予算不足解消が見込めます。

▼共同処理の推進
インフラ整備や管理をひとつの地方公共団体ではなく、隣接する地方公共団体で共同整備・管理する「共同処理」を推進しています。今までの事例では、宇部市と山口市が公共下水道に関する事務を共同で行う「宇部・阿知須公共下水道組合」の設立、坂戸市と鶴ヶ島市が公共下水道事業 ・地域し尿処理施設事業を共同で行う「坂戸、鶴ヶ島下水道組合」の設立および運用があります。

また、共同でインフラ整備や管理を行うだけでなく、隣接している地方公共団体にインフラに関する事務の一部を委託する「事務の委託」方式も取られています。これは、君津市と富津市が共同で運用する「君津富津広域下水道組合事務」が、上下水道の処理に関する事務の内、「君津市かずさ小糸の区域(62ヘクタール)から排除される汚水及び雨水並びにこれに伴い発生する汚泥の処理に関する事務」のみを木更津市に委託している事例があります。

▼技術者派遣
市町村自治体で、新しくインフラ整備や管理を行う職員の採用かつ育成が予算や時間面で困難な場合、民間企業等で活躍する維持管理に精通した技術者を活用するシステムが「技術者派遣」です。技術者派遣はまだインフラ再整備の対策案のひとつとして挙がっている状態のため、今後民間技術者を派遣するための仕組み作りが行われる予定です。

▼体系的な技術的アドバイス
老朽化の進むインフラ再整備に対して、市町村単位での対応が困難な場合「社会的に重要かつ一の都道府県に蓄積される技術力では現に対応が困難なもの」は 国等が対応すべき、それ以外は都道府県で対応すべきという考えの元、国または都道府県が市町村へ体系的な技術的アドバイスを行う仕組み作りが行われています。技術的アドバイスを行うための専門的な機関や施設の創設や、国や都道府県が市町村のインフラ再整備を対応する場合の手順などのルール化が急がれています。

▼国等による代行制度の構築
地方公共団体では対応が難しい、高度な技術力が必要なインフラの修繕や補修工事の際、地方公共団体に代わって国土交通大臣が実施できる制度が「国等による代行制度」です。現在、道路法第十七条6では、「高度の技術を要するもの又は高度の機械力を使用して実施することが適当であると認められるもの」に限り都道府県か市町村から要請があった場合、国土交通大臣は改築や修繕、工事が代行できることを定めた「道路法に基づく、修繕等の代行制度」が規定されています。現在、国等による代行制度は道路に関するインフラの範囲にとどまっていますが、今後インフラの範囲を拡大した国等による代行制度の構築を進めています。

▼維持管理に関する資格制度
インフラの整備や改築、工事のためには一定の国家資格が必要な場合があります。ところが、現状では国家資格を取得している技術者を含めて人手不足のためにインフラの再整備も進みません。これを受けて、国土交通省が国家資格ではなく民間の発行した資格や免許でも、一定水準の技術力を有していれば「国土交通省登録資格」として登録し、国や地方公共団体の業務への活用を認める制度が「維持管理に関する資格制度」です。資格取得や人材育成にかかる時間や費用などのコストがカットでき、現状の一定水準の技術力を持つ技術者も有効に活用できるため、インフラの再整備が進むと期待されています。

▼研修の充実・強化
インフラの維持管理に関する研修の充実や教化を、国土交通省が支援しています。現在まで、国土交通省の各地方整備局の技術事務所を利用した道路、河川分野の研修や国土技術政策総合研究所における、全国の国及び港湾管理者の職員を対象とした港湾分野(海岸保全施設を含む)の研修が実施されました。

地方公共団体でのインフラへの対策とは

コンパクトシティ計画

少子高齢化に伴い、人口の減少が予想される地方都市でインフラ再整備対策として取り上げられているのが「コンパクトシティ計画」です。コンパクトシティとは、福祉などの生活サービス機能と居住地を融合させた、高齢者の方でも安心して生活できるコンパクトな街です。さらに、都市部に人口とインフラ機能を集めることで、インフラの有効活用や稼働率の上昇も期待できます。

日本全国では、青森県が具体的なコンパクトシティ計画を立案しています。生活に必要な都市機能を青森県の中心市街地に集約させ、都心部と郊外部を区分した上でそれぞれの都市機能の役割分担を設定するのが計画の方針です。これにより、利用者が少ないにも関わらず広がっているインフラ設備を分断し、不要なインフラ整備や管理をカットできます。また、青森県の中心市街地の人口増加や民間企業による中心市街地のマンション建設の需要増加、青森駅前の歩行者が約4割増加などの効果が期待でき、効率的なインフラ運営や管理にも繋がります。

インフラマネジメント計画案

東京都府中市では、市内のインフラ設備を長期的に、効率よく維持管理するための「インフラマネジメント計画案」を立案しました。インフラマネジメント計画案では、市内の橋や道路、上下水道設備などあらゆるインフラ設備の老朽化状況を詳しく調べた上で、定期的な修繕など計画的に維持・管理を行うことでインフラ設備の需要を伸ばすことを目的としています。


まとめ

戦後の高度成長期に急速に発達した日本のインフラ設備にも、今限界が来ています。今後も安心・安全な市民生活のためにインフラの再整備は急務であると言えます。同時に、少子高齢化による人口減少を受けて、インフラも適材適所で使用される時代が来たとも言えます。

(文:千谷 麻理子)

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本記事は、2018年6月2日時点調査または公開された情報です。
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